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開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

大会の焙り焼き

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大会の焙り焼き

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年3月6日


 ここまでのプレビューをお楽しみいただけていれば幸いです。このセットはこれまで皆さんが見てきた中で史上最龍のセットでしょう――これまでのドラゴンのレコードホルダーだった『運命再編』の後でさえもです。

 しかしながら今週のプレビュー・カードはドラゴンではなく他のものです。それはまたレアでも神話レアでもなく――本当に派手なものでもありません。ただし、これはスタンダードに、もしかするとより古いフォーマットにも、興味深い出来事を起こすのに大きな役割を果たす(と私が思う)必需品のカードになるでしょう。

赤い除去の課題

 すぐにそのカードをご覧いただきますが、まずは準備をしたいと思います。開発部の課題の1つはカラー・パイのそれぞれの部分が別々になるようにし続けるようにすることです。例えば赤と黒はすることもやり方も多くが被っており、我々はお互いの区別がつかなくならないよう気をつける必要があります。これは我々が、赤のクリーチャーはパワーを高く、黒のクリーチャーはタフネスを高くしている理由の1つです。こうした色の雰囲気の違いは、マジックで最も大事なことの1つです。

 伝統的に、黒はクリーチャーを殺すことに長けていて、赤はプレイヤーを殺すことに長けています。我々は昔はこの区別にとても満足していましたが、プレインズウォーカーの導入で事態はより複雑になりました。ご存知の通り、赤はプレインズウォーカーを実際に殺せるようになったので、数年間はかなり有利な色だったのです。その一方で、黒は多くの対戦で除去が使われずに手札でくすぶっていました。

 独断的な考えのためにプレイが貧しくなることを誰も許さないので、我々は黒へプレインズウォーカーを対処する能力を与えるため『テーロス』に《英雄の破滅》を入れました。そしてそれは黒をスタンダードで強力な色にすることに大きな役割を果たしました。ええ、多分強すぎです。《群れネズミ》と《生命散らしのゾンビ》のほうが関係があったのかもしれませんが。

 いずれにせよ、黒は新たに見つけたものによって効率よくプレインズウォーカーを殺し、一方で赤は高タフネスのクリーチャーを苦手としているので、プレイヤーは黒を除去の第1色とするようになりました。同時に我々は、プレインズウォーカーの忠誠度をより高く、しかし能力を若干影響の少ないものにする方針へ向かっていました。これは、プレインズウォーカーを出して1ターンそれを生き残らせるだけでゲームが終わってしまうべきではない、という考えに基づくものでした。このことは、プレイヤーに相手のプレインズウォーカーを攻撃せずに対戦相手そのものを倒す選択肢があるときにより興味深いものになります。

 不幸にもmこのことはプレインズウォーカーを黒に対してよりも、赤に対して強くしてしまいました。同時に、我々は自分たちがクリーチャーのタフネスをますます高くして、そのことが赤をすこし厳しすぎる状況に置いていることに気づきました。

 『神々の軍勢』の《宿命的火災》は、赤の除去呪文を黒と異なった雰囲気にしようとした初期の試みの1つでした。

 いろいろな意味で、これは《英雄の破滅》のようですが効率は劣ります。また5が大きい数字だと言っても、我々がますます多く印刷している、本当に大きなものを殺すのには向いていません。スタンダードで《宿命的火災》はある程度プレイされましたが、明らかに《英雄の破滅》ほどではありませんでした。そのうちいくらかの理由は《宿命的火災》のコスト中にある{R}{R}{R}であり、いくらかはスタンダードでの黒と赤の全体的な人気の差でした。最初のプレイテストでの《宿命的火災》はプレイヤーにもダメージを与えられましたが、ダメージが大きすぎ、特に4ターン目に占術2込みで唱えることでさらなる火力を掘り進むことができると分かりました。我々はこのカードがクリーチャーだけを焼けるようにしたいとは思っておらず、プレインズウォーカーを焼けるというのは興味深いバランスの落としどころでした。場合によっては、これは十分な赤らしさを持たないカードを作ってしまうことになりますが、同時に我々は、プレイヤーを焼かない構築レベルの赤い除去を作り出す必要があることも分かっていました。

 しかしながら今回のプレビュー・カードはプレインズウォーカーを焼くことはできません。焼くことができるのはクリーチャーだけです――しかしこれの挙動はフレーバー的な方法であり、そしてこのカードをスタンダードで興味深いものにすると私は信じています。

大会の焙り焼き

 『タルキール龍紀伝』のフューチャー・フューチャー・リーグに取り組んでいたときに、我々は赤いデッキが大きな問題を抱えていることに気がつきました――率直に言うと、主要なクリーチャーの多くは赤が対処するには大きすぎたのです。それは構わないことで、黒が対処できるクリーチャーに対して赤が問題を抱えることは、赤に求められていたことです。それは重要でしたが、我々はそれが極端すぎたかもしれないと感じ、赤に目指すべき場所を与えたいと考えていました。

 《かき立てる炎》は《オレスコスの王、ブリマーズ》、《クルフィックスの狩猟者》、《囁きの森の精霊》に対処できましたが、《包囲サイ》には対処できませんでした。同時に、我々はアブザンがFFL最強のデッキの1つであると気づきました。我々はアブザンのデッキが支配的すぎるようになった場合の優秀な対策があるようにしたいと思いましたが、同時に火力呪文の連打で4ターン目にゲームが終わらないようにしたいとも思いました。結果として、我々は『タルキール龍紀伝』に目を通してアンコモンの除去呪文を1枚取り上げて、我々の求める役割に合わせて微調整を加えました。要するに、龍の好物があるなら、それはサイです。

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 我々が《焙り焼き》に取り組んでいたときの課題は、赤いデッキが殺す必要のあるものは何か、そしてこのカードが与えるダメージは何点が妥当か、でした。5点のダメージは《ニクス毛の雄羊》や《世界を喰らう者、ポルクラノス》、《黄金牙、タシグル》のようなカードを焼くことができ、一方で《焙り焼き》がメタゲーム上強すぎた場合に妥当な対策として、将来タフネス6のクリーチャーを印刷する余地を我々に残しました。これらのようなクリーチャーは依然として赤に対して強力ですが、うまくいけば「相手がサイを出してくるかどうか」でゲームが決まることはなくなります。

 我々にとって重要なのは《焙り焼き》を赤い逆《垂直落下》とは異なる挙動をさせることでした。大きな点数といえど、ダメージを与えていることが重要であるべきです。単純に殺す呪文にはない、ある種の楽しい相互作用があることは《焙り焼き》に取って幸運でした。例えば《火飲みのサテュロス》を焼くことなどです。これは影響を残すでしょう。そして、一瞬だけ、ほんの一瞬だけオアフ島の海岸をサーフィンしているところを思い浮かべてください。それかアルプス山脈をスキーで滑るところを。今度は《魂火の大導師》がいる状態で《焙り焼き》を唱えるところを思い浮かべてください。そうです、これはそんな感じです。私はこのプレイがサイドボード後のゲームでかなりの間見られると思っています。これは《魂火の大導師》の強さを証明するのに大きな役割を果たします。

 《焙り焼き》はスタンダード最強の除去の1つです。我々はゲームのやり取りのために低コストで強すぎる除去を避けていましたが、スタンダードで片方のプレイヤーがマナ・スクリューを起こしてもゲームが一方的に押し切られてしまわないようにするため、十分な数のこのような除去を、かなり抑えたペースで印刷し続けるでしょう。


焙り焼き》 アート:Zoltan Boros

 もちろん《焙り焼き》にも弱点はあります。飛行クリーチャーを焼けないので、多くの対戦でこのカードは死に札か、実質的にプレイできません。例えば、我々の作った青黒デッキは唯一のクリーチャーとしてドラゴンをプレイしていて、《焙り焼き》を満載しているプレイヤーを悲しくさせました――サイドボードのやり方は簡単になりましたが。我々が《焙り焼き》のような強力な除去を印刷するときに十分な弱点を作ることは、それをメイン・デッキに入れるかサイドボードにするかの興味深い決断をもたらすことから重要なのです。

 事実、カードとしての《焙り焼き》がドラゴンに対して効かないのは間違いではありません。それぞれのセットはスタンダードで何かの役割を果たそうとしており、『タルキール龍紀伝』による最大の変化の1つは......そう、ドラゴンをスタンダードで機能させることです。この記事が掲載されるころまでに、皆さんはおそらく、既存のデッキに入れるのに十分な強さのいくつかのドラゴンと、うまくいけば人々をドラゴン・デッキを組むことに駆り立てるいくつかのドラゴンを見てきたでしょう。ドラゴンでないクリーチャーに対して有効な除去を作ることは、この選択肢をメタゲーム上でより興味深いものにする助けとなります。例えばアブザンが環境を牛耳っているために《焙り焼き》がメインに4枚入っているなら、アブザンを倒すために適切に組まれたドラゴン・デッキだけでなく、それを狩ろうとするデッキの突破口も作り出します。

 来週の「Latest Developments」では『タルキール龍紀伝』のカードイメージギャラリーが全て埋まっている予定ですが、デベロップ・チームのメンバーがデザイン・チームにいることがどのようなものかについての見識をお届けしようと思います。

 ではまた来週お会いしましょう。

 サムより (@samstod)

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