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灯を点せ

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灯を点せ

Shawn Main / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年6月23日


オリジン前

 はじめに敵役ありき。

 私のチームは『マジック2016』を手がけていて、売りになるものを探していました。これまでの基本セットはあまりテーマ性がなかったのですが、今回は違いを出そうということで軸になるような派手なものを探していたのです。初期の会議で、誰かが(誰だかは忘れてしまいました)、普通のプレインズウォーカーを使うのをやめて多元宇宙の敵役に焦点を当てようと言い出しました。私たちは沸き立ちました。これは魅力的なテーマで、基本セットにはまさに持って来いであるものに思えたのです。そうすることで複数の次元に渡る物語を語ることができるようになりますし、お互いに関係のない多くの登場人物を少しずつ見せることができるようになります。また、注目するべき敵役によって様々な疑問の可能性が出ますし、斬新な認識をもたらすことにつながります。過去の基本セットは理解しやすい採録メカニズムを使っていました。求められるフレイバーをよりうまく反映した新しいメカニズムを作るというのはどうでしょうか。

 ここで、あることが起こりました。

 すぐに、静かな思考が声高な議論へと変わります。「どうでしょう」から「どうしましょう」に変わったのです。

 私の同僚でグレート・デザイナー・サーチ2の卒業生のイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerからの文章を受け取ったのは、私がジェンコンに出かけているときでした。覚えている限りで言えば、「すべてが変わりつつある」というだけの文章でした。彼のその言葉はそう劇的ではありませんでしたが、その出来事はもちろん劇的なものでした。

 文字通り、すべてが変わりつつある、と感じさせるようなものだったのです。ブロック構造が徹底的に見直され、物語を語る上での焦点も変わり、スタンダードのローテーションまでもが再検討されました。私たちの足下で大地が揺れていたのです。このセットが旧時代と新時代の変わり目として位置づけられることになりました。この瞬間に、基本セットは変質したのです。私たちは完全に新しい環境の、真っ白な1ページ目に立っていたのです。

 ただし、はっきりした任務がありました。素晴らしい物語を語ること、です。

 ただ単に物語というだけではありません。物語を語るということに再び焦点を当てるため、登場人物を再び紹介しなければならなくなったのです。物語の主役は、最も重要なプレインズウォーカーたちにしなければなりません。彼らがいかにしてその灯を見つけたのか、彼らがいかにして今日の姿になったのか、彼らがいかにして旅を始めたのか。『マジック・オリジン』では、5つのまったく関係のない物語を、10個の異なった世界を股にかけ、これまでわずかしか肩たれてこなかった、あるいはまったく語られてこなかった物語を語らなければならなくなったのです。

変身

 簡単な問題はありませんでした。マジックのセットでは、対立のある世界や文明の興亡といった環境の物語を扱うことがありますが、特定の個人に焦点を当てるということはあまりありませんでした。今回は1回ではなく5回に渡ってそれをしなければならないのです。

 これは新人リード・デザイナーと、その率いる熱烈な新人からなるチームにとって困難な仕事でした。私がそれまでにリード・デザイナーを務めたのは『コンスピラシー』だけで、チームにいるベテランのデザイナーはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebただ1人でした。時とともに変化する人物を描くにはどうしたらいいのでしょう? プレインズウォーカーを複数のレアリティで有意義に描くにはどうしたらいいのでしょう? カード自体で語ることができる物語はどれぐらいの分量でしょう? どんなテーマがリミテッドを成立させるでしょう?

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 最初に私たちが決めたのは、プレインズウォーカーでした。最初は他愛ない冗談でした。あまりの大言壮語で、実際に成立するとは思わなかったのです。その後、私たちはテーブルを見回し、そしてそれが素晴らしい発想だと気がつきました。両面カードは物語を語るのに有効で、特に変身を描くにはこの上ないものです。リリアナの物語を描く上で、彼女が戦場に出るたびにその変身を経験する以上にいい方法があるでしょうか?

コモンの問題

 物語上の瞬間に起こる変身はレアや神話レアには完璧だということがわかりました。プレインズウォーカーに加えて、私たちはその人物に対する重要な味方や敵を表す伝説のクリーチャーのサイクルを追加しました。さらに、物語上の重要な瞬間を呪文にしました。しかし、まだセットの他の部分を決めなければなりませんでした。コモンやアンコモンを作る必要があったのです。白の小型飛行クリーチャー、緑の大型クリーチャー、コンバット・トリック。これらのカードをテーマに合うものにするにはどうしたらいいでしょう?

 低レアリティのカードを決めるための鍵になるのは、それらがどう感じられるかを把握することです。オリジン・ストーリーとは一体何でしょうか? チャンドラの物語を通して、どんな感情を呼び起こしたいのでしょうか?

 この質問にたどり着いたとき、その答えも同時にわかりました。オリジン・ストーリーというものは、そのほとんどの部分で、人物が成長し、強力になり、試練を経て技術を磨くものです。それはまさにデザインにふさわしいテーマです。

プレビューの時間

 コモンに関してどう決めるかということについて話してきましたが、プレビュー特集なのでクールなものをお見せしたいと思います。皆さんにお見せするのは、高名のメカニズムです。

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 〈名誉ある教主〉は最初はただの1マナ1/1クリーチャーですが、うまくいって対戦相手にダメージを与えたら最強の《極楽鳥》になるのです。

 高名メカニズムは、私がずっと暖めていた発想でした。私が初めてウィザーズに来たとき、イーサン・フライシャーと私は『タルキール覇王譚』ブロック(当時は『Huey』というコードネームでした)がどのようなものになるのかを決めるという仕事が与えられました。私たちは時間旅行という構造を決めるまでに様々な前提を提出しました。私が最初に提出した世界には、私が「老練/Veteran」と呼んでいたメカニズムが入っていました。その世界はうまく行くものではありませんでしたが、老練のことは気に入っていました。そこで、それをいつか使うためポケットに入れておいたのです。

 テーマを決めたところでこのメカニズムをチームに見せたところ、チームの皆はすぐに気に入りました。自分のクリーチャーを強化するための条件は非常にシンプルですが、両プレイヤーにとっての楽しいパズルになることもあります。対戦相手としては攻撃してくるクリーチャーを止めたいですし、攻撃する側も技術を尽くして相手の防御を破ろうとするでしょう。

 高名はこのセットのテーマを表現する上で素晴らしい働きを示しましたが、私たちはそれだけでは満足しませんでした。プレイヤーがマジックにおいて技術が向上していると感じられるようにするにはどうしたらいいでしょうか?

 私たちは様々な方法で経験を記録しようとし、最終的に墓地が歴史を著すものだという解釈を見いだしました。呪文を唱えると、「これを今までにもやりましたか」とゲームが確認するのです。そして、もし既にしていたら、経験を生かしてその呪文はもっと強力になるのです。

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 デザイナーやデベロッパーが、最初からカードをうまく作れるということはあまりありません。通例、繰り返し、実験をして最終的なカードに行き着くのです。〈闇の誓願〉は即座にできあがったという滅多にない例外なので、私の頬も緩みます。

 リリアナが悪魔たちに出会い、力を求めて契約した瞬間です。経験するのにふさわしい瞬間で、そして物語上のこの瞬間を考えると、私は『アルファ版』にあった2枚のカードを思い出しました。《Demonic Tutor》は今日印刷するには強すぎますが、もしこれを魔巧ならありにしたらどうでしょう? それはまさにこの契約でしょう。

 魔巧はこのセットでプレインズウォーカーを描くためのさらなる可能性を開いてくれました。このメカニズムは全ての色に、コモン、アンコモン、レアのサイクルで存在します。ゲームの中でプレイヤーが経験を積むにつれ、プレインズウォーカーが学び、成長することを描いているのです。

新たな物語

 『マジック・オリジン』には物語を示すカードが存在し、これはゲームでフレイバーを表すための過激な試みです。個人的には、これはデザイナーとしてのオリジン・ストーリーのように感じています。サム・ストッダート/Sam Stoddardやアリ・レヴィッチ/Ari Levitchもデベロッパーとして、またストーリーテラーとして同じように感じているそうです。

 毎年多くの世界を旅しているというだけでない、多元宇宙を股にかけての5人のプレインズウォーカーとその物語に焦点を当てているという意味で、これはマジックの新たな始まりです。『マジック・オリジン』は彼らの過去に光を当てました。彼らが来年新しく登場するとき、私たちは、彼らのこと、彼らの来し方、彼らの人となりを知っているのです。

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