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翻訳記事その他
時間の問題
時間の問題
Mark Gottlieb / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年3月2日
変化は、いいものです。
6年前、マジック開発部は、マジックをより合理的でわかりやすいものにするため、デザインとデベロップの新しい一連のガイドラインを作りました。その「新世界秩序」と呼ばれるガイドラインのおかげで、マジックはそれまでないレベルで活性化したのです。
今日お話しする新世界秩序は、その新世界秩序ではありません。
タルキールでは、1280年前にサルカンがウギンをニコル・ボーラスとの死闘の末の死から助けました。ウギンは、仮死状態で眠りについてはいますが、生きています。その直接の結果として、タルキールの龍の大嵐は絶えることなく残りました。龍は絶滅することなく存続しました。実際、龍たちは黎明期の氏族やそのカンたちとの支配を賭けた戦いに勝利を収めたのです。
いままで誰も見たことのないタルキールに、おかえりなさい。
面倒くさい準備のなんちゃらかんちゃら
私の名前は、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb。私は『タルキール龍紀伝』のリード・デザイナーですが、同時にマジックのデザイン・チームのマネージャーでもあります。私の職務の1つが、デザイン・チームからデベロップ・チームへの移管を向上させることです。デザイン・チームの仕事が終わったとき、私たちは2つのものをデベロップ・チームに引き渡します。皆さんが信じて下さるかどうかは判りませんが、より重要でないものがカード・ファイルです。私たちが引き渡したカードの多くが、デベロップ・チームの仕事中に変更されることがわかっています。より重要なものは、移管文書です。これはそのセットのデザインの展望を表したもので、デザイン・チームの目標や優先度、選択について詳細に記されています。これのおかげで、デベロップ・チームがカード1枚1枚を変更しても全体の展望が維持されるようになっているのです。
この記事では、この文書からの引用を取り上げながら『タルキール龍紀伝』セットのデザインの展望について掘り下げていきます。このセットは、さまざまな展望が下敷きになっているのです。
新ルール:セット名に「龍」と書かれている以上、セット内にも龍が必要だ
このセットはデザインにとってとても楽しい経験でした。とてもとても楽しかったのです。想像してみてください、1年かけて博士論文を書くとか、構造計画を提出するとか、その他仕事で必要なものを作ることを。ただし、龍がたっぷり登場するのです。いえ、それよりもうちょっと多いです。もう少し。そう、その調子です。申し訳ありませんが、皆さんはまだこのセットに満載された龍の驚くべき数を把握しておられないようです。
『タルキール龍紀伝』は史上最龍の龍で満ちあふれた龍々しい龍なのです。
『タルキール龍紀伝』の移管文書の第1章はこうなっています。
第1章:龍
概要
デザインの展望
これは龍のセットです。他のどのマジックのセットと比べても、ドラゴンの数が多く、ドラゴンの開封比も高くなります。ドラゴンを参照するカードや、ドラゴンを扱うカードも大量に存在します。ドラゴンはどの色にも存在します。これは全てのデッキでドラゴンをプレイできるようにするためです。
ゲームプレイ上、デザインはドラゴンを強烈にしたいと思いますが、リミテッドで「先にドラゴンを出したら勝ち」にしたくはありません(同様に、「後にドラゴンを出したら勝ち」にもならないようにしたいと思いますが、それはあまり起こらないでしょう)。ドラゴンへの対策カードは、除去もその他の防御も存在すべきです。さらに、ドラゴンとドラゴンの戦闘は魅力的なので、それをゲームでも見たいと思います。
これだけの文章の中に、「ドラゴン」「龍」という単語が13回も出てきています。この章では、この後8つの小見出しが出てきます。
分類1:コモンのドラゴン(注:これはデベロップ中にアンコモンに格上げになりました。)
分類2:アンコモンの金色サイクル
分類3:アンコモンの単色サイクル
分類4:レアの金色サイクル
分類5:レアの単色サイクル
分類6:神話レアの伝説の金色サイクル
分類7:アンコモンのマナ石(注:これはドラゴンになるのでしょうか? うーん......)
分類8:ドラゴンを扱うカード
タルキールを支配している生物は、龍です。『運命再編』で起こりえたのは、3色のカンが勝利し、そして3色の氏族が誕生するという流れでした。しかし実際に起こったのは、2色の伝説の龍たちが勝利し、2色の氏族が誕生するという流れでした。これらの龍は今も生きていますが、千年歳を取りました。これらの龍はこのセットにも登場します。そして、遭遇した哀れな人間を食べようとしているのです。
帝王の前では拝礼ください。今やここは龍の世界、私たちはそこに住まわせていただいているのです。
それは氏族の問題ですよ、兄弟
デザインの展望に最初から最後まで「龍・ドラゴン・ドラゴン・龍・ドラゴン」と書かれていれば、それはかなりのものです。しかし、このセットはタルキール世界を舞台としていて、タルキール世界は氏族の世界です。『タルキール龍紀伝』には3色の氏族が存在しないことは最初から決まっていました。それには、大きく分けて3つの理由がありました。
1つめの理由が、3色のデザイン空間の限界です。『タルキール覇王譚』と『タルキール龍紀伝』の2つのセットを同時にドラフトで使うことはないこともあって、その狭いデザイン空間を2つのセットに分割するより、1つのセット(『タルキール覇王譚』)に集約するほうがいいのは明らかでした。《アブザンの先達》を片方のセットに、《砂草原の城塞》をもう一方のセットに入れるというのは間違った判断です。
2つめの理由は、1つめからの当然の帰結です。このブロックには3つのドラフトが存在します。『タルキール覇王譚』3つ、『運命再編』1つと『タルキール覇王譚』2つ、『タルキール龍紀伝』2つと『運命再編』1つです。核となるのは、『運命再編』を軸として回転する、異なったドラフト経験をもたらすということでした。しかし、『タルキール龍紀伝』も楔のセットとなれば、同じ経験を繰り返すことになります。せっかく時間旅行をしたにもかかわらず、何も変わらなかったことになってしまいます。
3つめの理由は、楔のドラゴンはもう存在しているということです......が、『運命再編』までは、友好色のドラゴンの完全なサイクルは存在していなかったのです!
第2章:氏族
概要
デザインの展望
『タルキール龍紀伝』は『タルキール覇王譚』のもう1つの現在を描いています。対照性を含む類似性が鍵です。『タルキール覇王譚』の5つの氏族は、それぞれが特定の龍の性質に基づいた3色(1色が中心)のもので、氏族のキーワードを持っています。『タルキール龍紀伝』の5つの氏族は、それぞれそれと同じ龍の性質に基づいた、『タルキール覇王譚』の3色のうち2色(同じ1色が中心)のもので、『タルキール覇王譚』のものとは違う氏族のキーワードを持っています。『タルキール覇王譚』の各氏族ごとに、『タルキール龍紀伝』の対応する氏族のカードを構築デッキに入れられるべきです。色は2色重なっていて、キーワードはうまくかみ合うのです。
さあ難問の始まりです! 具体的な例を見ていきましょう。
アブザンは、『タルキール覇王譚』の「忍耐」の氏族です。白黒緑で、「長久」のキーワードと、+1/+1カウンターというテーマを持っています。 | 『タルキール龍紀伝』にも「忍耐」の氏族が存在します。白緑で、「忍耐」を体現する、長久とうまくかみあう新しいキーワードと、+1/+1カウンターというテーマを持ちます。 |
もうおわかりの通り、今言った『タルキール龍紀伝』のキーワードというのは、このセットではなく『運命再編』で初登場となった鼓舞のことです! (奇妙なことに、この一連のキーワードの中で私が自分でデザインした唯一のキーワードが、このブロックで私がデザイン・チームに参加していなかった唯一のセットで初登場したというわけです。)
同様に、疾駆は『タルキール龍紀伝』の「迅速」の氏族のメカニズムで、黒と赤に存在し、強襲能力とシナジーを持ちます。白青で果敢とかみ合う「狡知」のキーワード、青黒で探査とシナジーを持つ「残忍」のキーワード、赤緑で獰猛と同調する「獰猛さ」のキーワードについては触れませんが、目にすればすぐにわかるでしょう。
私は、『運命再編』のリード・デザイナーを務めたケン・ネーグル/Ken Nagleがこのセット間のキーワード構造を乗り越えてくれたことに大絶賛を送りたいと思います。『タルキール龍紀伝』のキーワードは変わり続け、従って『運命再編』のキーワードも変わり続けました。『運命再編』の氏族のキーワード5つのうち、3つが『タルキール覇王譚』のもの(あちらの時間線では勝利した一方こちらの時間線では消滅したもの)で、2つは『タルキール龍紀伝』のもの(その逆)だということは決まっていましたが、どれがどちらかというのは本当にひたすらに変わり続けていたのです。
私は「変化は、いいものです」と言いましたか?
私は「とてもとても楽しかったのです」と言いましたか?
《龍王シルムガル》 アート:Steven Belledin |
この節には「超異」という単語が含まれています
このブロック共通のキーワードを忘れてはいけません! 私が一番好きなキーワード、それが変異です。『タルキール覇王譚』の先行デザイン・チーム(デザイン・チームの作業が正式に始まる前に、無制限でブロックのメカニズム空間を掘り下げるチーム)が、時間旅行の物語を描くことができる変異をこのブロックの根幹を成す要素として選んだのです。『運命再編』の当時は、ウギンの無色の魔法を表す、変異のもとになったもの(予示です)が存在しました。『タルキール覇王譚』の時間線では、予示は私たちのよく知る大好きな変異へと進化しました。『タルキール龍紀伝』の時間線では、予示はそれとは違う何かに進化しています。
第3章:変異
デザインの展望
変異は、変化を通して時間旅行の物語を表現するメカニズム的な流れとして準備された、『タルキール覇王譚』ブロックのメインとなる要素です。『タルキール覇王譚』では、変異は普通の変異でした。『運命再編』では、「変異のもと」のメカニズム(予示)が存在しました。『タルキール龍紀伝』では、理想的には変異カードに現在に、ただし異なった現実である現在に戻ってきたことを示すような変化があるべきです。こちらの変異は、予示から少し違う進化を遂げています。
ここが難しいところで、『タルキール龍紀伝』のデザイン・チームはこれを見付けることができなかったのです。私たちは「オーラ変異」というメカニズムを試しました。「超異」というメカニズムも試しました。本当です。なにがおかしいのですか? 私たちは変異/キッカーを組み合わせたものを試すのにかなりの時間を費やしました。変異カードに2種類の変異コストを持たせ、重い方のコストを払って表向きにしたらボーナスとなる誘発型能力が得られるのです。これは機能はしましたが、ものすごく文章量が増え、ただでさえ複雑なセットにさらに複雑さを加えることになってしまいました。
やがて、私たちは解決策を見付けました。このセットがデベロップに渡されて間もなく、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterとエリック・ラウアー/Erik Lauerがそれぞれ独自に、まったく同じ変異の亜種にたどり着いたのです。実際に印刷されたものですが、それは今日はお見せしません。プレビュー・カードはどちらもその能力を持っていないのです。ですが、間もなく見ることになるでしょう。それは、小さくて大きくて、何よりクールなものです。
砂時計の砂のように
一気に進みましょう。デザインからの移管文書の、この後いくつかの章は、ここまでの3つの章のようなセットの柱というようなあまり重要なものではなく、ただの機能的なもの(カード・ファイルのサイクル一覧とか)であったりデベロップ中に削られたものだったりします。ただし、最後の章は重要です。この最後の章がセットを仕上げるのです。
第7章:交点となるカード
デザインの展望
基本の設定と、その1000年昔の設定と、それから元の設定が異なる歴史によって変わった設定を含む、時間旅行の物語を紡いでいます。物語を1つに繋げるため、これらのセットには交点となるカードを散りばめるのです。交点となるカードとは、この物語を描写する、他のセット(や、他の各セットのカード群)の直接の結果であるカードのことです。これはこの設定を売り込むために重要で、プレイヤー側は期待しているもので、このブロックでの芳醇要素で、楽しいものになる可能性は充分にあると思われます。
時間旅行の映画を見たことがあれば、私の言っていることはおわかりでしょう。時間旅行ものでしか出てこない話で、視覚的にも魅力的で、語るのも楽しく、見付けるのも楽しいものです。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では(30年経っていますがネタバレ注意!)、負け犬だったマーティ・マクフライの父親が、歴史が変わったことによって自信に溢れた成功者になっています。同様に、このブロックでは数枚のカードを使って時間による物語の変化を見せることができるのです。
この後、その例はいくらも見付けることができるでしょうが、既にいくつかの物語はお見せしています。
- 上記の通り、変異のメカニズムそのものがそうです。
- 《名高い武器職人》は《龍火の薬瓶》をどこかに遺したに違いありません......。
- 『タルキール覇王譚』の《星霜の証人》は、『運命再編』の《火の巡礼者》です。さて、その同じゴーレムはこの時間線にも存在しているのでしょうか?
- 本記事最初のプレビュー・カードは、この物語を語っています。若き《漂う死、シルムガル》は年を経て《龍王シルムガル》へと成長しました。
- では、『タルキール覇王譚』のカンたちはどうなったのでしょうか? もちろん、この時間線にはカンはいません。カンになる可能性のあった者の中には困窮している者もいますし、死んでしまった者もいます。まあ、死んだからと言ってカードにならないというわけではありませんが!
ああ、これが墓地を肥やすことによって探査とうまくかみ合う、青黒の「残忍」のキーワードです! この新しい、そしてさらに強烈なシディシは4/6の接死クリーチャー、あるいは5マナの《Demonic Tutor》(そう、自分を濫用することもできます)、あるいは使い捨てにできるクリーチャーを代償にその両方としても使うことができるのです。寒々しい、冷血な――そう、まさに残忍です。
2枚終わって、残り大多数
2枚のプレビュー・カードで、スゥルタイ氏族に起こったことの全体像が掴めたことでしょう。そしてこれは、この新世界秩序が前兆となるものです。残酷な、5体の凶暴な伝説のエルダー・ドラゴンとその眷属であるドラゴンが支配している世界です。空を見上げてください。空を見上げ、そして吠えましょう!
《アンデッドの大臣、シディシ》 アート:Min Yum |
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