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ヴォーソスへのラブレター
ヴォーソスへのラブレター
Ethan Fleischer and Ian Duke / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年10月27日
イーサン:私はイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer、『統率者(2014年版)』のリード・デザイナーです。私はこのC14にとても興奮しているんです! デザインがどう行われたかについて話したいことはいくらでもありますが、この記事は同商品のリード・デベロッパーだったイアン・デューク/Ian Dukeとの共著なので書く場所が無限にあるわけではないんです。イアン、よろしく。
イアン:どうもどうも、皆さん! 僕はマジック開発部の中核デベロッパーの1人で、つまりゲーム・バランスとかすごいデザインがプレイしても楽しいように調整することに専念してるんだ。僕はMagic Onlineの『Vintage Masters』でもリード・デベロッパーを務めたけど、『統率者(2014年版)』は僕がデベロップした初めての紙のカード・セットだよ。僕はマジックを18年以上もプレイしているけど、皆さんに使ってもらう新しいカードを作る一翼を担えたのは本当に興奮しているんだ。
イーサン:『統率者(2014年版)』は毎年作られる『統率者』シリーズの最新作です。統率者戦に興味があれば、この5つセットのデッキを買っていただいて、箱から出してすぐにプレイできます。経験豊富な統率者戦プレイヤーのためには、新カード、新統率者、エキサイティングな再録カード、その他いろんなものを詰め込みました。この記事の中で、イアンと私でこの『統率者(2014年版)』のデザインとデベロップがどのように行われたかをお話ししていきます。
郷愁のための郷愁
イーサン:ここで告白したいことがあります。私は、『時のらせん』が大好きなんです。マジックの歴史を紐解く郷愁がテーマのセットで、昔のマジックのカードへの言及が多く含まれていました。私は『アルファ版』からマジックをプレイしていましたので、まさに『時のらせん』の想定している顧客だったのでしょう。あのセットの中で私が一番気に入っていたものの1つが、伝説のクリーチャーでした。昔のカードのフレイバー・テキストでだけ登場していた人物が、初めて伝説のクリーチャーになったのです。その例が、《特務魔道士ヤヤ・バラード》や《練達の育種師、エンドレク・サール》、《二の足踏みのノリン》でした。
『統率者』のようなサプリメント商品は、もう一度こういった郷愁をねじ込むのに最適な場所に見えましたから、デザインが始まるより前から、私は昔の人物を描いた『時のらせん』型の伝説のクリーチャーのサイクルを作ることを決めていました。
イアン:そういう意味では、イーサンと僕はこのセットのデザインとデベロップをする最高のコンビだったね。デベロッパーの中で、初期のマジックの物語や人物のことを一番好きなのは多分僕だから。『アンティキティ』や『アイスエイジ』、『ミラージュ』といった初期のセットの壮大なファンタジーっぽさに惹きつけられて、僕はマジックにはまったんだ。だから、その頃の人物の何人かに新カードとして生命を与える可能性に惚れ込んじゃったわけさ。
イーサン:最初の『統率者』は3色の「楔」デッキで、入っていた統率者はある色とその敵対色2色でした。『統率者(2013年版)』には3色の「弧」(あるいは「断片」)デッキが5つ入っていて、それぞれの統率者はある色とその友好色2色でした。最近私は、私の仲間で第2回グレート・デザイナー・サーチで決勝に残り、今は統率者戦ルール委員会の一員になっているデヴォン・ルール/Devon Ruleの「統率者戦デッキ1000」という記事を読みました。その記事は、彼がmtgcommander.netのコミュニティ(に投稿された1000個のデッキリストを分析したものでした。ふむふむ......。(編訳注:各リンク先は英語)
単色デッキがどう反応を受けるか、正直言ってわかりませんでした。多色カードはプレイヤーにとって本質的にエキサイティングなもので、多色の伝説のクリーチャーは特に統率者戦プレイヤーに人気があります。この商品をすごいところに持っていけるデザイン空間はあったのでしょうか?
すごいチーム2つ
イーサン:もちろん1人ではできませんでした。そのためには助けが必要でした。幸いにして、デザインを始める時期でしたし、私はすばらしいチームでリード・デザイナーを務めることができたのです。
ダン・エモンズDan Emmons
ダンは最近オンライン・メディアの人気者になるためにウィザーズ・オブ・ザ・コースト社を辞めてしまいましたが、彼が『統率者(2014年版)』を手がけていた当時はマジックの中核デザイナーの1人でした。ダンは多作なデザイナーで、ちょうど『ニクスへの旅』で一緒に働いた直後だったので気心も知れていたのです。ダンは青デッキの担当でした。
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
アーロンは開発部のディレクターで、理念的に言えば、難しい選択をして舵取りをする責任があります。私はこのC14にかかるまで、アーロンと同じデザイン・チームで働く機械はありませんでしたので、とても楽しみでした。アーロンはエキサイティングで革新的なカード・アイデアに満ちあふれていました。その一部、例えば〈コウモリ箱〉などは印刷できないほどに奇妙でしたが、私たちは彼の作品の多くをカードに収めました。アーロンは緑デッキの担当でした。
ジェイムス・ハタ/James Hata
ジェイムスは私たちの出している他のトレーディング・カードゲームである『デュエル・マスターズ』のデザイナーです。デュエル・マスターズ開発部に在籍する人の多くは統率者戦をプレイしているので、その中から1人をチームに入れたいと思ったのです。1人ずつにオファーを出したところ、スケジュールに余裕があったのがジェイムスでした。ジェイムスは本当に頼れる相手で、何でも一目で正解を見付けるのです。ジェイムスは黒デッキの担当でした。
チャールズ・ラプキン/Charles Rapkin
組織化プレイ部で働いているチャールズは、熱心な統率者戦プレイヤーです。チャールズはなぜこのフォーマットが楽しいのかをよく理解していて、このプロジェクトに本当に熱心に取り組みました。彼は白デッキの担当でした。彼は猫という部族が大好きです。
イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
私はフルタイムのマジック・デザイナーです。『ニクスへの旅』でリード・デザイナーを務めた後1週間の休みをもらい、そしてすぐに『統率者(2014年版)』のデザインを始めることになりました。私はこの手順に自信満々で、そして本当に楽しみました。『統率者(2014年版〉』のリード・デザイナーという仕事は通常のエキスパンションのリード・デザイナーよりもずっと簡単だったので、途中で立ち止まって薔薇の香りを楽しむ余裕があったのです。
イアン:セットの全体像を作るのがデザインの責任分野なら、開発部のなかの後半担当(デベロップ)はカードやデッキのバランスを取り、セットをプレイして本当に楽しいものに仕上げ、目標を具現化させるのが仕事なんだ。このセットをデベロップしたのはこんなチームだよ。
マーク・グローバス/Mark Globus
マークはマジック開発部の中心的なゲーム・デザイナーだ。数多くある彼の仕事の1つが、エントリーセットからMagic OnlineのCubeにいたるまで、僕たちが作るマジックの商品全体について考え、そしてマジックのプレイヤーに可能な限りのものを提供できるようにすることなんだ。彼は最初の『統率者』のリード・デベロッパーだったので、彼の経験や専門知識はチームにとってかけがえのないものだったんだ。
ピーター・リー/Peter Lee
ピーターは長年ウィザーズで働いているゲーム・デザイナーで、『Dungeons & Dragons』などのいろんなゲームを手がけてきた人だ。ピーターの長所の多くの1つが、シンプルでエレガントなデザインの重視だよ。彼は複雑さが楽しさの邪魔をしそうなとき、僕たちを正しい道に戻してくれたんだ。
マックス・マッコール/Max McCall
マックスはもうウィザーズを離れちゃったけど、彼は当時マジック開発部と、Magic Onlineや『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』のようなデジタル部門との連絡役を務めてくれた。マックスは熱心なトーナメント的統率者戦のプレイヤーなんだ。だから、彼はデッキを調整して様々なテーマを実現してくれたんだ。それに、カジュアル的にもトーナメント的にもパワフルだけどやりすぎじゃないようなカードをデザインしたりデベロップしたりするのにも協力してくれたんだよ。
ダン・エモンズ/Dan Emmons
ダンもデベロップ・チームのメンバーだったよ。普通、デベロップ・チームにはデザイン・チームから1人継続して参加してもらって、デベロップがデザインの決めたそのセットの方針通りに進むようにしてるんだ。ダンはデベロップ中にうまく働かないカードがあったとき、それと入れ替えるカードをデザインすることにも力をふるってくれた。
もう一歩プレインズウォークする
イーサン:『統率者(2013年版)』では、統率者が統率領域を扱うというデザイン空間が掘り下げられました。私は、統率者戦というフォーマット特有のデザイン空間には他にどんなものがあるかというところに注目しました。デザイン・チームで何度かブレインストーミングを行い、その中でさまざまな発想がホワイトボードに記されました。私は、1行のルール・テキスト、「[このカード]は統率者として使用できる」という文について考えていました。生命ある呪文だとして――ソーサリーを統率者に? それとも他のカード・タイプ......? その時、私の後ろにいた誰かが言いました。「プレインズウォーカー」。それだ! それですよ!
クリエイティブ的には、プレインズウォーカーは文字通りプレインズウォークできるという点を除いては基本的に伝説のクリーチャーと同じです。プレイヤーの中には、プレインズウォーカーを統率者として使ってみている人もたくさんいました。そうしたいと思って、実際にそうしていたんです。私は、この発想がまともかどうか判断するため、いくつかのデッキの統率者をプレインズウォーカーに入れ替えてプレイテストをしました。まともでした! まったくもって、正常!
私たちは普通のプレインズウォーカーと少し違う形でプレインズウォーカーをデザインしました。効果の中には、統率者戦では面白くないかもしれないものもありますし、数字を調整する必要があるものもあります。私たちは最初はフレイバー的にどの人物なのかを考慮せず、デザインのメカニズム面から手を着けました。満足できるデザインができたら、その中にアジャニ、リリアナ、ニッサといった既存のプレインズウォーカーのメカニズム的一貫性に充分近く、調整すればその人物らしくなるものがあることに気付きました。青と赤のプレインズウォーカーは、新しい人物である必要がありました。
私たちの中に、デベロップ中にプレインズウォーカーたちを待ち構えている大変動を予想したものはほとんどいなかったのです。
イアン:デベロップの手順の中で、プレインズウォーカーをうまく仕上げることが最重要課題の1つだってことはわかってたんだ。『統率者(2014年版)』では、多くのマジックのセットと同じく、プレインズウォーカーの最終的なデザインはデベロップ中にできたのさ。プレインズウォーカーにはノブが多すぎるんだ。「ノブ」っていうのは、デベロップがカード全体のパワー・レベルを調整するにあたって変更できるカードの部分のことさ。一般的なプレインズウォーカーのノブには、マナ・コスト、初期の忠誠度、3つの能力それぞれのコスト、それぞれの能力の効果なんかがあるね。しかも、それぞれの能力にもまたいくつかのノブがあるのさ! 一般的に、プレインズウォーカーはデベロップ中に複数回にわたってデザインの見直しをすることになるんだ。
デベロップの初期に、僕たちはマジックのクリエイティブ・チームを招いてプレインズウォーカーの誰を採用すべきかという議論をしたんだ。デザインはアジャニ、リリアナ、ニッサ、それに既存の誰とも違う赤と青のプレインズウォーカーのデザインを送ってきたんだけど、僕らは既存の人物を再利用すると、その人物がどういう人物で、今のマジックの物語上(『統率者(2014年版)』はある意味「時間の枠外」にあって、いろいろな人物をマジックの歴史上の様々な瞬間から集めたものなんだ)どういうことをしているのかという一貫した物語を作る邪魔になる、と判断したんだ。
マジックの物語のどこかで活躍している人物を避けることにしたので、イーサンと僕はこのセットの郷愁というテーマに立ち返り、そしてこれまでカードになったことがないプレインズウォーカーのプレインズウォーカー・カードを作ることにしたんだ。クリエイティブ・チームはその発想を気に入ってくれた。僕らはデザインが作ったデッキとかみ合う4人のプレインズウォーカーを見付けることができたんだ。そのうち3人はマジックの過去に存在した有名な人物で、1人は名前は知らないかも知らないけど有名な人物、そして1人は初登場の、ただしみんなが行ったことのある次元からの人物だよ。
Legends of Antiquity
イーサン:プレインズウォーカーの統率者を作ることは、奇妙でなかなか進まない工程でしたが、『時のらせん』型の伝説のクリーチャーを作るのはそれよりも簡単でした。私はクリエイティブ・チームのアリ・レヴィッチ/Ari Levitchに人物リストを作ってもらい、私も人物リストを作りました。私が1人だけで作ったとしたら、『アルファ版』から『アライアンス』までの登場人物ばかりになってしまいます。人によって郷愁の指すものは違いますし、マジックの歴史上の他の時期からの採用も必要だということはわかっていました。
黒の人物の選択肢は大量にありました。クリエイティブの人たちは、『イニストラード』に登場した屍術師の双子、縫い師ゲラルフとグール呼びのギサを強く推してきました。ユーザーはこの2人にこだわり、『アヴァシンの帰還』が登場したときにこの2人を伝説のクリーチャーにしなかったことに失望していたのです。ダンとジェイムズはこの2人を対照的な人物にデザインしました。1人は複数の屍をつなぎ合わせて巨大なゾンビを作り、もう1人はゾンビを切り分けて2体のゾンビにするのです!
白は多少難題でしたが、緑のいい候補は何人も居ました。アリが挙げた赤の候補者の中で、ひときわ私の目を引いたのはフェルドンでした。そう、《フェルドンの杖》のフェルドンです。
「フェルドンって赤なんですか? どこで知ったんです?」
「ネット上で見たんだ」とアリは答えました。
「うーん......」
私は大まじめで偏執的なオタクなのです。私のこれまでの人生の中で、スターウォーズの本は100札以上持っていますし、パルプSFの大家「ドク」ことE・E・スミスの著書目録をまとめたこともあります。それに、ウォーハンマー40,000の、スペースマリーンのウルトラマリーンの話を時系列順に包括的にまとめたこともあります。マジックの小説について調べたことはありませんでしたが、どうやって本に当たればいいかは知っていたのです。
ざっと調べたところ、フェルドンに関する情報源は大きく3つありました。小説「The Brothers War」、「The Colors of Magic」アンソロジーに収録された短編「Loran's Smile」(この2つはジェフ・グラブ/Jeff Grubbの手によるもの)、それに《フェルドンの杖》のフレイバー・テキストです。『アンティキティ』時代のフレイバー・テキストにはもとより詳しかったので、私はクリエイティブ部門へと足を運びました。
「The Brothers War」は『ウルザズ・サーガ』ブロック全体のことに触れた叙事詩で、『アンティキティ』の出来事の多くを再び語っているようなものでした。ウルザとミシュラのアーティファクト使いの兄弟の間で何十年に及んだ戦争を、時系列順に描いたようなものです。そして、マナの力を探求する科学者集団が3つめの陣営「第三の道/Third Path」でした。フェルドンはロノムの山の赤マナを扱う氷河学者です。彼は赤魔法らしい炎の力を扱うことができたということは判りましたが、物語の中で彼について触れている部分は非常に少なかったのです。うーん......どうやってカードにすればいいのか、手がかりが見つかりませんでした。
幸いにも、私の求める情報は「Loran's Smile(リンク先は英語)」の中にありました。フェルドンを「理解する」ためには読んでおくべき物語です。とても感動する物語で、そしてこの記事の1枚目のプレビュー・カードを生み出すきっかけになりました。どうぞ〈第三の道のフェルドン〉をご覧ください。
ご覧の通り、このカードはフェルドンが技術を使ってロランを蘇らせようとするところを表しています。まだ彼がマジックの赤以外の色を学ぶ前のことです。このカードは物語をうまく描けていると思います。プレイテスト中、こんな面白い状況がありました。「フェルドンはとても悲しいよ。命を賭けて愛した《ワームとぐろエンジン》が死んだのに、あきらめがつかなかったんだ。『なぜあなたは死ななければならないのか、《ワームとぐろエンジン》?』」
デザインの観点から見ると、フェルドンは明らかに《鏡割りのキキジキ》の系譜にあります。《鏡割りのキキジキ》と同じく、〈第三の道のフェルドン〉もコンボの王様です。《鏡割りのキキジキ》ほどの爆発力はありませんが、彼を使ったコンボは止めにくくなっています。あなたがコピーしたいクリーチャーを自分の墓地に置くことはいろいろな方法で可能ですし、彼が出すトークンがアーティファクトでもあるということを利用して面白いデッキを組めるかもしれません。
確かに、私はこのカードを偏愛しています。まるで過保護な母親のように、セット作成中ずっと騒ぎ立てていました。「The Colors of Magic」の写しをデベロップ・チームやクリエイティブ・チームの面々に配りもしました。このカードはデベロップ中に何度も変更されましたが、その変更がこのカードで描きたい物語を描く助けになるか邪魔になるかについての意見を述べました。15年前の小説の読者向けのファンサービス・カードを作ることに意味があるのかと疑問を持つ人もいましたが、私はまったく迷いませんでした。私はアートに関する希望を、このカードの方向性に関する責任者のアリに伝えました。アート指示を目にして、私は最後の一筆を書くのをこらえきれず、メールでアリに言いました。「私は、《フェルドンの杖》は紫色ではなく銀色だと思います」。最終的なアートを見て、私は圧倒されることになります。そのアートは全ての詳細、私が考えていた以上の詳細が描かれていたのです! それ以来、私はチェイス・ストーン/Chase Stoneのことを気にかけるようになりました。
副官の水平サイクル
イーサン:今回の、『統率者』第3弾の発売まで、統率者戦関連のメカニズムを1つ作るという伝統は守られるのが当たり前でした。私は、統率者の助手という発想に強くこだわっていました。ゲームの開始時に統率者と共に統率領域にあるクリーチャー、というのを最初に試しましたが、すぐに、そのカードがとても弱いか効果がとても狭いのでなければ、その色のデッキに必ず入るようになってしまうと言うことが判りました。次に、統率者を強化するクリーチャーを試しましたが、新しいプレインズウォーカー統率者とはうまく働きませんでした。最終的に、統率者が戦場にいるときに強化されるクリーチャーという発想にたどり着きました。よし! 出来もよくて単純です。数枚のカードをデザインしてみましたが、それらは巧く行きませんでした。でも時間切れです。セットをデベロップに手渡す時期が訪れていました! 幸あれかし、このタコ! ハハハハハ! 私たちは尻に帆かけて泥棒のように逃げたのでした。
幸あれかし、このタコ! |
イアン:既に言った通り、デベロップの労力の多くはプレインズウォーカーに向けられてたんだ。多くの統率者戦プレイヤーが、既に「ハウスルール」としてプレインズウォーカーを統率者にできることにしていた。でもそれは巧く行っていたとは限らなかったんだ。問題は、既にあるプレインズウォーカーのデザインは統率者向けにできていなかったということだ。でも、もし最初から統率者として使うことを考慮してプレインズウォーカーをデザインすれば、2人戦であれ多人数戦であれ、統率者戦でずっとうまく働くものができると確信してた。
これまでのプレインズウォーカーの能力は、ライフ20点から始まる2人戦向けにバランスが取られていた。テーブルに3人以上の対戦相手がいる可能性のある多人数統率者戦では、対戦相手1人だけを狙うのはかなり弱いことになる。2人統率者戦でさえ、対戦相手の開始時のライフが多いから、プレインズウォーカーのあり方も変わる必要があるんだ。僕たちは、プレインズウォーカーの能力を自分にとって有利になるものや、複数の相手から自分(や味方!)を守る助けになるものに集中することにした。それから、統率者戦という文脈の中でだけ特に強くなるような能力も探したよ。例えば、自分のマナ生成能力やカードの流れを強化するもの、そして対戦相手の数によって変動するものなんかがそうだね。
これまでのプレインズウォーカーは、統率者戦におけるライフ総量やクリーチャーのサイズに比べると忠誠度が低かった。ここを弄らなければ、プレイヤーは自分のプレインズウォーカー統率者を守るためにとても防御的になることになるのは判ってたんだ。といって、それらのプレインズウォーカーの初期忠誠度を上げてしまうと、プレイヤーが統率領域から唱え直すたびにテーブル上の「実質ライフ総量」がどんどん増えていくことになって、ゲームが長引く原因になる。そこで、プレイテストを通して、僕たちは初期の忠誠度はそのままに、もっと気前のいい「プラス」能力を巧いバランスで入れることにしたのさ。それから、プレインズウォーカーを守る手段もたっぷり入れた。これで即座に殺されることを心配する必要はなくなったわけだ。
最後に、僕たちは初期忠誠度と「マイナス」能力を組み合わせ、最後の忠誠カウンターを使い切ってからプレインズウォーカーを統率領域から唱え直し、忠誠度を初期化してそのターンのうちに2度「マイナス」能力を使う、ということが難しくなるようにした。そんなプレイパターンは対戦相手を苛立たせるし、伝統通りに使われたときに充分魅力的で強いプレインズウォーカーを作る邪魔にもなったからね。
イーサンも言っていた通り、このセットに含まれるもう1つの新メカニズムは副官という能力語だ。しばしば、かなりトーナメント寄りの統率者戦プレイヤーは、色指標を選ぶために統率者を決めることがある。その統率者を軸にしてどんなデッキを組むか、じゃなくね。副官は、統率者を実際に唱えて戦場に残そうとするプレイヤーにボーナスを与えるものなんだ。
副官を持つクリーチャーは、自分が統率者をコントロールしているかぎり何らかのボーナスを得(たり与えたりす)る。そのため、通常の2人戦では認められないような戦闘向けのサイズのクリーチャーを作ることができるんだ。だって、その能力が有効になるのはプレイヤーの初期ライフ総量が多い環境でだけだからね。もっと言うと、副官が全力を発揮できるのは、統率者が戦場にいるときだけであっていつもじゃない。この追加効果の価値があるようなクリーチャーを作るようにしなくちゃね。
以前に、僕は多人数戦で伝統的なクリーチャー戦が生じないようにする圧力がかなりある、という話をしたね。今日僕が紹介するプレビュー・カードは、〈天使の元帥〉。これはクリーチャー戦で打ちのめしたいと思うプレイヤーの助けになると思うよ。
{2}{W}{W}で、飛行と警戒持ちの5/5クリーチャーでありうるんだ。〈天使の元帥〉は――うん、言った通り、普通なら印刷できないほどに気前のいいカードだよ。回避能力を持っていて、警戒を自軍に与えるということは、防御をおろそかにすることなく相手にいくらかのダメージを与えられるってことだもの。さらに加えて、彼女は自軍のプレインズウォーカー統率者を守ることにも長けてる。彼女の使い方だね。
この2つの新メカニズム以外にも、デベロップはエキサイティングなカードをたくさん作ったんだ。特に、低いマナ・コストのカードを入れることにも気を配った。しばしば、プレイヤー(や開発部も)が「統率者戦用カード」と言うとき、巨大クリーチャーやコストの重い強力で強烈な効果の呪文のことをイメージするよね。もちろんこのセットにもそういうカードは大量に入っているけれど、同時に、小型クリーチャーや実用的な呪文も多人数環境ではとても有用で、長期戦でも価値を失うことはないんだ。「統率者戦は巨大なもののぶつかり合いだけだよ」という風評と戦いたかったんだよ。
トークンの封入
イーサン:最後にもう1つ、箱に入っているマジックのカード「でない」ものについて話しましょう。これまでの『統率者』シリーズにトークンが入っていなかったことに、アーロン・フォーサイスは非常に不満だったそうです。彼には秘密の計画があったと思います。それは、マジックにおいてトークンを生成する全てのカードに、対応するトークン・カードを印刷するということです。『Modern Masters』には《骸骨の吸血鬼》が入っていましたので、コウモリ・トークンを印刷することができました。私としては、私は統率者戦のゲーム用に大量のトークンが入ったバインダーを持っていました。そこで、私はアーロンと同じく現状に不満を持っていたのです。『統率者(2014年版)』のデッキの中には、大量のトークン生成カードが入っているものがあります。その多くは再録カードなので、その作るトークンは似てはいても機能的に異なるものだったりします。ゲームの局面は、私たちが望んでいるよりもわかりにくくなってしまっていました。私は、誰もパッケージから出さない大判の統率者カード2枚をトークン・カードに置き換えることを提案しました。
「トークンの裏面はどうしよう?」という質問がありました。通常のブースター・パックでは、トークンの裏面は宣伝かルール解説が書かれていました。デュエルデッキでは、トークンの裏面はマジックのカードの裏面でした。『統率者(2014年版)』のトークンをブランド・チームと共有する必要はありませんでしたし、清算上の理由からデュエルデッキのトークンのようなマジックの裏面を使う必要もありませんでした。自由に使えるのです! トークンの裏面に何を入れると一番いいでしょうか? さらなるトークンです! 兵士が欲しい? はいどうぞ! スピリット? 裏をどうぞ! 急いで3冊めのトークン用バインダーを準備しなければならないかもしれませんね。
今週中に(明日!)、何枚かのトークンをお見せします。それから、来週にはセット全部と残りのトークンも公開されるでしょう。
それではこのへんで......
イーサン:ご覧になったとおり、これが私たちからヴォーソスへのラブレターです。私たちが作るのを楽しんだのと同じぐらい、皆さんもプレイを楽しんでくれたら幸いです!
イアン:プレビュー特集はまだまだ続くよ。新旧のカードや人物を楽しんで、そして僕らがカードを作るのを楽しんだのと同じく、みんなもプレイを楽しんで欲しいな。
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