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舞い降りし「神啓」
舞い降りし「神啓」
Tom LaPille / Tr. Tetsuya Yabuki / TSV testing
2014年1月13日
『神々の軍勢』では、私がリード・デベロッパーを務めました。こうしてデベロップについて書くのは久しぶりで、キーボードと向き合っている今でも何とも言えない気分です。『神々の軍勢』を手がけるにあたって、前回マジックのセットに取り組んでから少し時間が空いてしまいました。それでも私はマジックを心から愛していて、里帰りができたのを嬉しく思います。
それでは、今回の記事を始める前に『神々の軍勢』のデベロップ・チームをご紹介しましょう。
トム・ラピル/Tom LaPille
私です! 主要セットのデベロップを率いたのは、この『神々の軍勢』で3つ目です。それから『Masters Edition III』、『Masters Edition IV』、『Archenemy』のデベロップ・リーダーも務めてきました。他にもたくさんのセットでデベロップ・チームのメンバーに入っています。ここ最近は「D&D Next」の数学的な指針の作成に取りかかっていて、マジック関係の仕事からは離れていました。アーロン(アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe)が今回のセットのリード・デベロッパーを探していて、私が戻ってきたという形です。ここへ戻ってくることができて嬉しいです。今はもうひとつ、別のセットも手がけているところですよ!
デイヴ・ハンフリー/Dave Humpherys
デイヴはデベロップ・グループの管理を行っています。また『アヴァシンの帰還』や『ギルド門侵犯』などのデベロップを率いてきた実績があります。彼は他のゲームにおいてカード・ゲームのデザイン経験を多く積んできました。そしてマジックにおいても、プロツアー殿堂顕彰を受けたプレイヤーのひとりなのです。並外れたプレイ技術と豊かな経験を併せ持つ彼は、今回のチームに欠かせない人材です。
ビリー・モレノ/Billy Moreno
2005年プロツアーのファイナリスト、ビリー・モレノも今回のチームに加わってくれました。ビリーは、彼の持つ奇抜なデッキ構築のセンスとプロツアーならではのマジックの知恵を私たちに授けてくれました。当時『神々の軍勢』のデベロップに携わりながら、彼は自身初のリーダーを務めるセットの準備も行っていました。その後は更なるチャンスを求めてテキサスへと帰っていったビリーですが、皆さんも近いうちに、彼の手がけた仕事をもっと目にすることでしょう。
マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb
マークは現在デザイン・グループのマネージャーを務めていますが、ウィザーズ社で働く中で実に様々な仕事をしてきました。私が働き始めた2008年の頃はルール・マネージャーをやっていましたね。彼はデザイン・チームを管理する役職に就く前に、短い間ですがデベロップに従事した期間がありました。それが今回の『神々の軍勢』の頃だったのです。彼は『ミラディン包囲戦』のリード・デザイナーを務め、また『ギルド門侵犯』でも共同リーダーの片翼を担いました。DailyMTG(英語公式サイト)でも、「The House of Cards」というコラムを連載していた時期があり、そこを訪れれば彼の持つ美しいまでの狂気が形を成したものと出会えるでしょう。マークは個性溢れるカードのデザインに長けた素晴らしいデザイナーであり、今回のセットでもいたるところでその手腕が振るわれています。
クリス・デュピュイ/Chris Dupuis
『神々の軍勢』の開発が始まったとき、ボード・ゲームのデザイナーであるクリスは「D&D」の開発部にいました。当時彼は『ウォーターディープの支配者たち』の拡張セットである『スカルポートの悪党たち』や「Adventure System」のゲームをいくつか開発し、それから『ダンジョン・コマンド』シリーズの5つのボックスもすべて手がけていました。熟練のゲーム・デザイナーであった彼はトレーディング・カード・ゲームの分野も学びたいと考えていて、そこで私たちは「マジック開発部に所属しない者」の席を彼に譲りました。それは大正解でした。彼はあっという間にマジックを学び、それをさらに「kaijudo」での仕事にも活用し、それ以来デザイナーとして「kaijudo」の開発部へ籍を移したのです。学び取る早さにかけて、クリスは私がこれまで出会った中で最も優れたゲーム・デザイナーのひとりです。彼をチームに加えることができて、本当によかったです。
私たちは、デザイン・チームが働く期間を加味してスケジュールを組みます。デザイン・チームが仕事を終える頃に、今度はデベロップ・チームが仕事に取り組むのです。こういったプロセスを経る中で一番大切な時期となるのが、デザインとデベロップ、ふたつのチームの仕事が重なる期間です。私たちは気の利いた呼び名をつけるのが好きで、その期間のことは「デヴァイン/devign」と呼んでいます。今回の『神々の軍勢』では、私たちは本来の「デヴァイン」に入るよりも1ヶ月早く仕事に取りかかりました。「デヴァイン介入」と私は好んで呼んでいるのですが、これはデベロップ・チームが実際にデザイン・ファイルを使って遊び、デザイナーたちに正式なフィードバックを送る、というものです。
私にとっての『神々の軍勢』は、この「デヴァイン介入」から始まりました。セットを手がける上で私がいつも最初にするのは、新しいメカニズムがどんなものか確認することです。私たちが「デヴァイン介入」のプレイテストを行ったとき、『神々の軍勢』の新しいキーワード・メカニズムはひとつだけでした。それが「貢納(こうのう)」で、この時点ですでに最終形に近いものでした。
「貢納」は《限界点》や《怒鳴りつけ》といった、いわゆる「懲罰者」と呼ばれるカードを思い起こさせます。「懲罰者」メカニズムは一見すると対戦相手に苦渋の選択を迫るため、よくできたメカニズムに見えました。ところが、実際には思った通りに動いてくれないことが多々あるのです。《限界点》の持つふたつの選択肢は方向がまったく違うもので――ひとつはかなり攻撃的で、もうひとつは極めて防御的で――あるため、実はその選択に困ることはほとんどありませんでした。対戦相手がライフをたっぷり残したビートダウン・デッキなら、6点のダメージは何とも思わないでしょう。クリーチャーがほとんど入っていないコントロール・デッキを使っていて、ライフを大切にしているなら、喜んでクリーチャーを差し出すでしょう。《怒鳴りつけ》は「懲罰者」カードの中でとりわけ強力なものですが、それは素直なバーン・デッキにとって5点のダメージと3枚ドローがどちらも噛み合っているためです。
「貢納」は選択肢となるふたつの効果の違いを減らすことで、「懲罰者」にあった問題を解決しています。「貢納」を持つカードはベースとなるクリーチャーに重点を置いていて、対戦相手の選択によってはまったくの無駄になってしまう、ということが少なくなっているのです。つまり、より多くのカードが実際のゲームに採用されやすく、それから「懲罰」の選択もより面白くなるということです。プレイテスト中に、私は「貢納」を残すべきだと確信しました。
先ほど私は、この時点で『神々の軍勢』の新しいキーワード・メカニズムは他になかったと書きましたね。当時そこにあったのは、クリーチャーがタップ状態かアンタップ状態かを参照して使うカードたちで、各カード間の繋がりも緩いものでした。メカニズムとしてまとまったものはなく、これではいけないと私は考えました。斬新なアイデアは多くあったものの、「タップ状態のときにのみ効果を発揮する常在型能力や起動型能力を持ったクリーチャー」といった、やや扱いづらいものばかりだったのです――これがコモンにあっても、私は魅力を感じませんでした。コモンというレアリティでは、セットを代表するメカニズムが輝くべきなのです。
〈ファラガックスの巨人〉 アート:Ryan Pancoast |
ケン・ネーグル/Ken Nagleと私は、そういった繋がりの緩いカードたちをひとつのメカニズムにまとめる道を探りました。私は基本的に、同じような挙動のカードを固めるのが好みです。プレイヤーたちがひとつひとつのカードの挙動を確認する時間を減らし、速やかに別のカードとの相互作用を考え始めることができるからです。するとケンは、キーワード能力としてまとめられる新たなメカニズムを模索し始めました。
「デヴァイン介入」をきっかけに始まったこの調査で私たちが最初にあたったのは、『シャドームーア』と『イーブンタイド』の「アンタップ・シンボル」でした。起動コストにマナを使う点と、何か特別なことをしない限り1ターンに1度しか使えない点が気に入り、私はこれが正解だと感じました。インスタント・タイミングで使えるのは盤面を複雑にしてしまい、それは望ましくないため、私たちは「この能力は、あなたがソーサリーを唱えられるときのみ起動できる」と制限をつけました。
その後2度のプレイテストを経て現在の形に近づいたものの、まだ至らない部分がありました。攻撃を終えてすぐにマナを支払いアンタップする、という動きが不自然だったのです。また「アンタップ・シンボル」はそれ自体が原則から外れたものでした。そこで私は、「[カード名]がアンタップしたとき......」という誘発型能力を提案しました。ケンはそれを試し、そして採用へ至ったのです。
デベロップにおいて、私たちはあえてバランスを崩すことをよくやります。つまりメカニズムの各色への配分に差をつけるのですが、これは色によってそのメカニズムの使い勝手が違うためです。「神啓」は最初、5色すべてのファイルに均等に入っていました。しかし『テーロス』のリミテッドでは、長期戦を目指す青と黒において「神啓」がより強いシナジーを発揮したのです。これを受けて、私たちは青と黒に「神啓」を持つカードを更に加え、また自身のクリーチャーをタップするのに助けとなるカードも増やしました。
こうしてリミテッド向けの「神啓」は完成しましたが、構築向けがまだです。当時私たちがプレイテストで使っていた黒いデッキは、ほとんどが重いコストのカードをふんだんに採用したものでした。黒を含むビートダウン・デッキは非常に弱かったのです。それから、私は構築で採用されるくらい強力な「神啓」カードを少なくとも1枚は作りたいと意識していました。私が考えついたアイデア、それは《闇の腹心》の亜種なら低マナ域を駆使するデッキの力になれて、高マナ域を目指したデッキでは《地下世界の人脈》の枠を奪うこともないだろう、というものでした。
プレイテスト中は余白の多さから《歩く死骸》を〈苦痛の予見者〉の代わりに使っていましたが、そこでデッキの草案を考えているうちに、私は《闇の腹心》の能力を《歩く死骸》に持たせれば面白いことになると気づきました。《歩く死骸》は通常、構築で採用したいと思えるものではなく、それと比べれば〈苦痛の予見者〉は極めて強力です。それでも、ただやみくもに強化したと言われるほどではないでしょう。
私は様々な理由から、「神啓」を極めて高く評価しています。マジックにはクリーチャーをタップする手段として「攻撃」が備わっているため、「神啓」を持つカードはどんなデッキでも採用することができ、その効果を発揮します。とはいえ構築の幅は実に広く、私たちの多くは『神々の軍勢』のカードを用いて攻撃に頼らずともクリーチャーをタップさせ、「神啓」を堪能しました。また「神啓」は強く攻撃を促し、ゲームを終局させる方向へ進ませます。私はその点も大いに気に入っているのです。
『神々の軍勢』を作っている間、楽しいことがたくさんありました。ケン・ネーグルから見事なデザインが手渡され、また私の仕事も会心の出来だったと思います。このセットが世に出ることで一体何を見せてくれるのか楽しみです。それはまた今度、近いうちに私の口から語ることにしましょう。
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