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企画記事
背景世界のアイコニック 第1回:ザルファーの魔道士、テフェリー
背景世界のアイコニック 第1回 ザルファーの魔道士、テフェリー
by Mayuko Wakatsuki
こんにちは! 背景世界の色々なお話を書かせて頂いております若月です。
「Magic Story」本編は『イクサランの相克』までしばしお休み中です。そこで今回は『アイコニックマスターズ』の発売に合わせまして、物語においても「アイコニック」なカードについてその背景を紹介致します。全2回と短いですが、どうぞお楽しみ下さい。まずはこちら!
ドミナリアの歴史に何度もその名を残すテフェリーは、時間と空間を操る力に長けたプレインズウォーカーです――でした。青らしい知的な落ち着きと社交的な明るさを併せ持ち、しばしば善悪の基準や正気を疑われる「旧世代プレインズウォーカー」の中では比較的良識を保つ、地に足のついた人物です。とはいえ彼もまた神のごとき力を持っていたことに変わりはなく、そして少年時代においてはむしろ迷惑なことで知られていました。
少年時代
テフェリーはドミナリアのジャムーラ大陸、ザルファーに生まれました。魔術の神童として知られた彼はまだ少年のうちにトレイリアのアカデミーに招かれます。そこはファイレクシアの侵略に備えるプレインズウォーカー・ウルザが、世界中から若き魔道士を集めて訓練させるとともに様々な研究や実験を行う施設。その学府でテフェリーは将来有望ながらも素行に問題のある生徒として、数々の悪ふざけで教師たちを悩ます存在となります。いえ、悩まされたのは教師だけではありませんでした。テフェリーは年上の学友ジョイラに執心であり、彼女はしばしばその悪戯のようなアプローチに困惑していました。
トレイリアにてウルザが最も熱心に研究していたのは「時間遡行」、彼は時を遡ってファイレクシアの侵略をその元から断つことを考えていました。そのために創造されたのが銀のゴーレム、カーン。テフェリーは「誕生」したばかりのカーンにも、その銀の巨体に怖気づくこともなく早くから友となりました。
そんなトレイリアは絶海の孤島であり、ファイレクシアの工作員の侵入をウルザが怖れたことから島への出入りは物資や人員の輸送を含めて厳しく監視されていました。ジョイラは何年もの間アカデミーで学ぶうちに、島の外へと思慕を募らせるようになります。ある日、一人で海岸を散策していた彼女は、流れ着いた船を発見しました。その船には一人の男性が乗っており、ジョイラは彼の存在がアカデミーに知られたら追い払われることを知って彼を洞窟に匿いました。
ジョイラはその男性ケリックと親交を深めますが、実は彼こそがトレイリアへの侵入を試みるファイレクシアの工作員だったのです。ある夜、ケリックの手引きでファイレクシア兵の群れがアカデミーを襲撃し、テフェリーとジョイラも殺害されてしまいます。アカデミーが炎に包まれる中、ウルザはカーンを僅かに時間遡行させてその攻撃を防ごうと試みました。それ自体には成功したものの、時間遡行機械は大破し、アカデミーの建物を崩壊させて多数の死者を出しただけでなくトレイリアの時の流れを完全に乱してしまいました。テフェリーは生き延び、ですが服に着火したまま時の泡に捕われてしまいました。
テフェリーが救出された時、外では二十年以上が経過していました。時の流れが遅い水を飲んだジョイラはほぼ変わらない姿でしたが、かつての学友はほとんどが死亡し、もしくは遥かに年上となっていました。テフェリーはひどく意気消沈しますが、後にジョイラとカーンの献身によって元の快活さを取り戻しました。
やがて年月をかけてアカデミーは再建を果たすとともに、再び対ファイレクシアへの準備が開始されます。テフェリーはジョイラとともに彼女の故郷シヴへと赴き、古代スラン帝国のマナ・リグを再稼働する任務に従事しました。パワーストーンを生産し、ファイレクシアと戦う機械の動力源を確保するのが目的でした。テフェリーはしばしジョイラと共にウルザへの協力を続けていましたが、後に故郷ザルファーに帰って宮廷魔道士となりました。
プレインズウォーカーとして
プレインズウォーカーとしての覚醒は、その多くが生命の危機や激しい精神的衝撃による劇的な変化です。テフェリーの「プレインズウォーカーの灯」は、トレイリアの時間災害にて服に着火したまま時の泡に捕われたという凄まじいストレスによって点火しました。ですがその先、定命の人間から不老不死にして全能の高位存在への変化は、他のプレインズウォーカーのそれとは異なってとても緩やかなものでした。定命としての肉体が少しずつ入れ替わっていくようなもので、彼が自身の変質を自覚するまでには数十年を要しました。長いことテフェリーは歳をとり、血を流し、病にかかり、肉体的には一般的な人間と何ら変わらない状態だったのです。変化に気付いたのは、故郷ザルファーに帰還してその地の豊富なマナに触れてからでした。
テフェリーは幼い頃から、時間というものに特別な興味を抱いてきました。トレイリアのアカデミーで学び始めると、ウルザはそんな彼に目をかけ、時にその意欲を称えることすらありました。プレインズウォーカーとして、ウルザは自らと同じ力を見ていたのだろう、と彼は後に回顧しています。とはいえ、テフェリーはウルザの時間実験とそれが引き起こした災害を忌まわしく悲惨な事件とみなし、何千回と呪いました。同じプレインズウォーカーであっても、師であっても、ウルザとは違う視点と価値観を保つ。テフェリーは事あるごとにそれを意識するようになります。
ジャムーラ戦争
ザルファーの宮廷魔道士となったテフェリーは五つのギルドを設立し、個別の利害を越えてザルファーに尽くす仕組みを作り上げました。それは国の繁栄と安定に長く貢献し、テフェリーの偉業として称えられることになります。
一方で彼はとある孤島にて時間の実験を行っていました。そして長年の研究を経て、時の流れから物体を出し入れする事に成功します。それを彼は「フェイジング」と呼びました。ですがその技術は本質的に不安定で、様々な副次効果をもたらしました。気付いた時には既に遅く、時間のバランスは多大に乱れてしまっていました。テフェリーはそれを修復しようとするも、結果として島はその土台だけを残して時の流れから切り離されて――フェイズ・アウトしてしまいます。そしてその騒動はジャムーラでも名高い三人の魔道士を引き寄せました。
クウィリーオン・エルフの盟友にして熟練の政治家、コロンドールのマンガラ。密林の隠者ジョルレイル。そして炎熱の島のケアヴェク、闇の魔術や夜魔の使い手。島に何もないことを知ると彼らは故郷に戻り、それぞれの役割に従事します。マンガラは巧みな交渉術をもってジャムーラ国家間の不和を解決し、調和をもたらしました。ですがそれに嫉妬したケアヴェクはジョルレイルを操作して味方とし、二人は軍を集めました。マンガラを琥珀の牢に閉じ込めた後、彼らは宣戦を布告しました。
テフェリーが大規模なフェイズ・アウトから帰還した時、ジャムーラは戦乱のさなかにありました。彼は自身が間接的にでもその争いを引き起こしたことを悔やみますが、時の流れを修復することに忙しく、戦争に直接介入はしませんでした。やがてジョルレイルは自身が利用されていたと知り、ケアヴェクから離反します。テフェリーは彼女やジャムーラの指導者らへと夢や幻視という形で助言を与えました。マンガラはムウォンヴーリーの密林で救出され、ケアヴェクもまた打倒されました。
ところでマンガラ救出隊はその道中、とある人物に遭遇しました。空を飛ぶ船、ウェザーライト号の艦長シッセイに......そこから先はもう少し別のお話。
ファイレクシアの侵略
そしてウルザが怖れ、長年をかけて備えていたファイレクシアのドミナリア侵略が遂に開始されました。世界各地にポータルが開いてファイレクシアの戦艦や怪物が溢れ出し、直接の攻撃や疫病で瞬く間に幾つもの地域が壊滅的な被害を受けました。
ザルファー上空にもポータルが出現しました。テフェリーはウルザに協力を仰ぎ、ポータル内部へのプレインズウォークを繰り返してそのエネルギーを暴発させ、ポータルを破壊するとともにファイレクシアの艦隊へと多大なダメージを与えることに成功します。更にテフェリーには策がありました。彼はそうして発生したエネルギーを用いて、とてつもなく大規模なフェイジング呪文を完成させます。時の流れから切り離すのは、ザルファー全土。これにはウルザも唖然としますが、テフェリーはあくまで、そして自分なりの手段でザルファーを守るつもりでした。守る、それが自分と師匠ウルザとの間で決定的に異なる視点だと彼は理解していました――ウルザは常に敵を打倒しようとしてきました、どれほどの犠牲を払おうとも。テフェリーが呪文を完成させると、ザルファーの広大な大地がゆっくりと消えていきました。
ウルザは苦い顔をしますが、テフェリーは主張し続けました。これが自分なりの、皆を守る方法だと。後に彼はジョイラに請われ、彼女の故郷シヴの一部をも世界から切り離すとともに、自らもまた時の流れに姿を消しました。侵略戦争が終わり、安全な世界が訪れるまで......。
大修復
数百年が経過し、フェイズ・アウトさせたシヴの帰還が迫りました。テフェリーはジョイラを伴い、事前調査のためにドミナリアへ降り立ちます。ですがそこは思わず唖然とするほどに荒廃しきっていました。歴史上、何度も繰り返された大災害によって時間や空間、エネルギー、魔力、様々なものが歪んでストレスとなり、テフェリーが表現していわく「ひび割れたガラスの器ように」危うい状態となっていたのです。このままでは最悪の場合、シヴとザルファーの帰還がとどめとなってドミナリアは崩壊しかねない。テフェリー達はそれを解決する手段を探す旅を始めました。
世界のひび割れは「裂け目」となってドミナリアを侵食し、マナが流出して大地を荒廃させるだけでなく、周囲の時間と空間にまで変調をもたらしていました。それを塞がなければシヴとザルファーの帰還は危険なものとなり、もしくはいずれ世界は枯れてしまいます。裂け目は世界各地に存在し、それはどれも過去の大災害によって形成された――その多くでプレインズウォーカーが関わっていた――ものでした。それだけではなく、ドミナリアは多元宇宙の中心に位置するため、連鎖的に他の次元へも破壊をもたらすだろうと。つまりは裂け目を「塞ぐ」ことが彼らの目標となりました。
そして旅の道中でテフェリーは、未知の力を秘めた二人を見出します。スカイシュラウド・エルフとケルドの血を引くハーフエルフのラーダと、アーボーグ出身の人間の工匠ヴェンセールです。
全てが痩せ衰えた世界において、この二人はまるで砂漠のオアシスのように瑞々しい生命力を持っていました。ラーダはテフェリーの熱意を受けて仲間に加わり、ヴェンセールは巻き込まれるように同行することとなります。ある時、彼らは時の乱れに巻き込まれてジャムーラ大陸、マダラ帝国の海岸へ流れ付きました。そこで遭遇したのが、何世紀も前に滅ぼされたプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスの残留思念。彼はラーダとヴェンセールの素質を利用し、現世へと復活を果たします。そして生かしては帰さぬというボーラスに、テフェリーは仲間を守るべく果敢に対峙しました。
とはいえ「多元宇宙最古の悪」はとてつもなく強大でした。テフェリーは無残に敗れるも、ドミナリアの現状、裂け目についての自身の理論と先の可能性を語り、ボーラスを説得しました。ボーラスは不思議と納得したように、彼方の次元へと姿を消しました。
やがてシヴの帰還が目前に迫ります。裂け目を塞ぐためにテフェリーが取った手段は、かつて別のプレインズウォーカー、ボウ・リヴァーが成し遂げたことに着想を得たものでした。
あの「ナイン・タイタンズ」の一人であったボウ・リヴァーはファイレクシア突入任務から帰還すると、自らの力を使い果たすことで、生涯愛した海の一部をヨーグモスから守りました。今度は自分が犠牲となり、愛した世界を救う番だとテフェリーは悟ったのです。他に方法があったとしても、もう間に合いません。ジョイラへと長年の友情に感謝を告げ、後を託して彼は裂け目へと身を捧げました。シヴは無事にドミナリアへフェイズ・インし、テフェリーもまた、全く意外なことに生還しました......プレインズウォーカーとしてのあらゆる力を失い、ただの人間となって。残されたのは本人曰く「見習いの魔術師にも劣るほどの」わずかな魔力でした。そしてテフェリーの行為によって、裂け目を塞ぐにはプレインズウォーカーがその灯を、場合によっては命をも捧げる必要があることが確かめられました。
そして灯と魔力は失っても、長い間に蓄えた知識と経験は生きていました。後遺症から回復すると、テフェリーは時間と空間に関する類稀な知識をもってその先の旅でも大きな力となります。新世代のプレインズウォーカーとして覚醒したヴェンセールを導き、アーボーグにてウィンドグレイス卿を説得し、そしてプレインズウォーカーとなっていたカーンと再会すると、トレイリアの裂け目に関する理論を構築・解説しました。カーンはトレイリアの裂け目を塞ぎに向かい、それ自体には成功するのですが、謎めいた言葉を残して行方をくらましてしまいました。後に彼は自身が創造した次元ミラディンの奥深くにて、ファイレクシアの油に汚染されて「機械の父」となっている姿を目撃されます......。
入れ替わるように、カーンを師と仰ぐプレインズウォーカー、ジェスカが接触してきました。独立独歩の気風を貫く彼女はドミナリアの現状を知り、一人で行動に移ります。彼女はラーダを無理矢理捕え、その力を用いてザルファーの裂け目を塞ぐのですが、非常に強引なやり方をとったためにザルファーはドミナリアへのフェイズ・インに失敗し、時の流れの中へと永遠に失われてしまいました。テフェリーが故郷を失った衝撃はとてつもなく大きく、無力さと後悔はそれに勝りました。けれど先に進むことを止めてはいけないとも判っていました。彼はジョイラ達に励まされ、修復の旅を続けました。それが救えなかった者達への義務だと信じて。
ジェスカの暴走の影には、また別のプレインズウォーカーが存在していました。氷河時代よりその名を轟かせた「夜歩みし者」レシュラック。彼は更なる力を求め、世界に崩壊が迫ろうとも構わずに様々な存在を利用していたのでした。再び辿り着いたマダラにて、テフェリー達はボーラスとレシュラックの決闘に立ち合います。ドミナリアから飛び出して幾つもの次元を駆ける壮絶な戦いを経て、ボーラスはレシュラックを打ち負かしました。戦いに決着がつき、古龍が何処か彼方へ去ると、多元宇宙の運命は再び彼らに託されました。最後に残った裂け目はかつて邪神カローナが顕現したオタリア。ジェスカとラーダ、ヴェンセールがその中へ突入します。テフェリーはジョイラと手をとり合って、その外から見守りました。その光景はまるで、世界の運命がかつてのプレインズウォーカーの手から離れていくことを象徴しているようでした。
そして全てが終わると、ドミナリアから修復の波が広がっていきました。多元宇宙を安定させるとともにプレインズウォーカーの灯や世界の様々な理を変化させたこの出来事は、「大修復」と呼ばれるようになります。新たな時代の始まりに、テフェリーは共に歩んだ仲間達へ晴れやかな感謝と別れを告げ、一人旅立ちました。プレインズウォークではなく、自らの足で「歩いて」......。
以来、六十年余りが経過しています。定命となった彼が今も存命なのかどうかはまだわかりません。テフェリーは長い時を経ながらドミナリアの歴史に何度も顔を出してきました。その事実もまた、彼の「時間の達人」としての類稀なる個性なのかもしれません。
(終)
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