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多元宇宙ヒストリア 第3回:統率者(2017年版)

多元宇宙ヒストリア 第3回:統率者(2017年版)

by Mayuko Wakatsuki

 こんにちは、若月です。多元宇宙の知られざる歴史を辿る短期連載「多元宇宙ヒストリア」第3回となりました。まもなく『統率者(2017年版)』が発売となりますが、今年もまた多くの物語を秘めたキャラクターがたくさんカード化されています。そこで今回は、各デッキから選りすぐりのキャラクターについてその知られざる歴史を紹介致します。


エドガー・マルコフ

 イニストラード次元の恐るべき捕食者、吸血鬼。エドガー・マルコフはその始祖たる存在です。

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 遠い昔、イニストラードに吸血鬼は存在しませんでした。エドガーは人間の錬金術師として、自身や家族の寿命を延ばす方法を探し求めていました。ですが老齢が迫ると、彼は焦りからか闇の魔術へと傾倒します。また、当時起こっていた飢饉のため、彼の身内は孫のソリンだけとなっていました。

 そんな彼の前に現れたのが、シルゲンガーという名の悪魔でした。彼はエドガーへと、不老不死を得る手段を明かします。それは天使の血を飲むことを含む不浄の儀式でした。そしてエドガーを中心としてその儀式が執り行われ、参列した計十二人からイニストラードの吸血鬼が誕生しました。更にエドガーはソリンを吸血鬼化し、そしてその際の衝撃に彼はプレインズウォーカーとして覚醒したのでした。

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 一方で、最初の十二人はそれぞれの吸血鬼一族を興しました。やがて三つは完全に絶え、五つは僅かな人数となり、現在では残る四つの血族がイニストラードの吸血鬼の大半を占めています。マルコフ家の他にヴォルダーレン家、ファルケンラス家、流城家。始祖を抱くマルコフ家は、その中でも最も名声ある一家とみなされています。

 イニストラードにおいて吸血鬼は狼男やゾンビと共に人間の敵の一つですが、その来歴が示すように元は人間です。そして、生きながらえるためには「下等な存在である」人間が必要であることを不承不承認識しつつ、自分達は弱き人間の後継者かつ上位者であるとみなしています。彼らは欲望に忠実に生き、道徳心や礼節を軽視して快楽を追求しながら、獲物である人間へと狙いを定めています。

 その一方で吸血鬼の敵、大天使アヴァシンとその信仰体系はソリンが作り出したものでした。吸血鬼が人数を増し、食糧である人類が減少してやがて吸血鬼も滅ぶことを察したソリンは、旧世代プレインズウォーカーとしての絶大な力をもって人類の守り手であるアヴァシンを創造したのでした。吸血鬼の中にはソリンの行いを理解している者もいますが、エドガーは孫を荘園から追放し、ソリンは今日に至っても一族の爪はじき者とみなされています。

 後にプレインズウォーカー・ナヒリの復讐によってマルコフ荘園が壊滅した際に、マルコフ一族の多くが死亡もしくは離散しました。エドガー自身の行方もまた、わかっていません。


偽善者、メアシル

 メアシルはドミナリア次元、兄弟戦争から氷河期へと至る狭間の「暗黒時代」に生きた魔術師です。表向きの彼は礼儀正しい物腰で誰とも親しく接する紳士、ですが本性では他者を見下し貪欲に力を渇望していました。

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 当時のドミナリアでは兄弟戦争の記憶から魔法が忌み嫌われ、教会による魔術師狩りが猛威を振るっていました。必然的に魔術師らは身を隠し、また密かに集まって知識を守り続けていました。メアシルはそういった共同体の一つである魔道士議事会に身を置き、師である高名な魔道士イス卿のもとで技術を研鑽していました。ですがある時、師を裏切って魔法の檻に幽閉し、議事会の長たる地位を簒奪します。それは議事会の魔術師達にとっては公然の秘密であり、彼らは密かにメアシルを「簒奪者」「偽善者」と呼びました。メアシルがそのような行動に出たのは、権力を得るためだけではありませんでした。彼は檻を通じて師の力を吸収し、更にはメアシル自身が「ウルザの秘密」と信じるその知識を求めたのです。イス卿は十年以上に渡る幽閉と責め苦から狂気へと堕ち、ですが僅かな正気を取り戻した隙に魔法の下僕を作り出し、外の世界へと助けを求めました。

 そしてそれが見つけ出したのがジョダーという名の青年でした。魔術の師を教会に殺害された彼はその謎めいた案内人の導きで議事会の本拠地へと辿り着き、同志として迎えられます。メアシルにとっては、彼は偶然か否か「ウルザの秘密」を知るための重要な手がかりでした。入会の際の面談において、ジョダーは数代前の先祖である魔術師ジャーシルに言及していたのですが、メアシルにはその名に心当たりがありました。それは兄弟戦争の記録で読んだ、ウルザの孫の名......そしてジョダーの出身地も一致していました。あるいはウルザの血が、その秘密へと導くかもしれないとメアシルは考えました。

 ウルザの秘密、それは彼が信じるところによれば、「闇の地」と彼が呼ぶファイレクシアへと至る方法です。メアシルはその地の王に謁見し、プレインズウォーカーの力を授けてもらう......それができると信じていたのでした。メアシルは優しい同志の外面を装ってジョダーに接触し、彼を計画に引き込もうとしますがやがてそれは察せられてしまいます。それだけでなくジョダーはイス卿の幽閉場所へ辿り着き、自身がここに導かれた真相を知りました。そして後に教会の軍勢が議事会の居城を攻撃した際、イス卿はジョダーによって解放され、メアシルは炎に焼き尽くされてしまいました......ですが彼は密かに自身の精髄を指輪に封じ込めていたのでした。

 そして数千年後、氷河時代のこと。吹雪の中で迷った一人の敗残兵がとある洞窟へと逃げ込みました。彼はそこで白骨死体と紅玉の指輪を発見し、それをはめ......そして凄まじい力を得て、やがて強大な屍術師として名を轟かせ、テリジア大陸を脅かすこととなります。彼の名は、リム=ドゥール。


ウェザーライトの決闘者、ミリー

 空と次元を駆ける船、飛翔艦ウェザーライト号。その乗組員であり、優美にして強靭にして残忍なる猫族の戦士。それがミリーです。類稀な戦闘能力で揺るぎない信頼を仲間から得ています。

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 幼い頃、ミリーは左右の目の色が異なることから不吉な存在だとして同族に捨てられ、ラノワールの森にて魔術師ムルタニの教えを受けて育ちました。彼女と共に育てられたのがジェラード・キャパシェン。彼こそ数千年前よりプレインズウォーカー・ウルザが練り上げてきた対ファイレクシア計画の根幹、その王と戦うことを運命づけられた存在です。ミリーにとっては、種族こそ違えど幼馴染以上の感情を抱く相手でした......その想いは決して報われないと知りながらも。

 成長した二人は共にウェザーライト号の乗組員となり、シッセイ艦長の元で世界各地に散らばるアーティファクト「レガシー」の収集に携わります。ですがある時シッセイ艦長が誘拐され、乗組員らは異次元ラースへと救助に乗り込むことになりました。そこは暴風雨が吹き荒れ、大地は絶えず流動する過酷な世界。更には到着して早々に敵艦プレデター号の襲撃を受け、ジェラードが眼下の森へ落下するとともに船もまた墜落してしまいます。ミリーは猫族としての本能を駆使し、スカイシュラウドの森にジェラードを捜索しました。

 ミリー達は現地のエルフに保護されていたジェラードと再会し、船を修理すると、シッセイを救い出すべく少数精鋭が敵要塞へと侵入することになりました。隠密行動に優れたミリーも戦闘要員として加わりました。ですが要塞内を進んでいた時、上空から急襲してきた闇の天使セレニアによって重傷を負わされてしまいます。同行していたクロウヴァクスが直後に天使を倒すも、彼もまた呪いを受けて酷く消耗してしまいます。二人はシッセイの捜索を断念してウェザーライト号へと戻らざるを得ませんでした。

 そしてウェザーライト号の医務室で、ミリーは不審な動きをするクロウヴァクスに気付きます。傷の痛みをこらえて彼を追うと、甲板で戦闘が行われているようでした。ですがクロウヴァクスはそれに目もくれず、ハッチを開いてウェザーライト号の機関を探っていました。その様子からしてエンジンを破壊しようとしているのは明らかでした。迷うことなくミリーは彼を止めようと飛びかかり、クロウヴァクスもミリーを船外へ投げ落とそうとしますが、二人はもつれ合って眼下の庭園へと落下してしまいました。

 クロウヴァクスはセレニアを殺害した呪いにより、吸血鬼と化していました。その牙を突き立てられ、ですがミリーは自分の名を呼ぶ声を聞きました。シッセイ艦長を救い出したジェラードが向かってきていました。その姿を見てミリーに吸血の衝動が目覚めます。手に入れたい、その身体を切り裂きたい......ですがミリーは拒絶の叫びを上げ、クロウヴァクスへと襲いかかりました。そして赤く染まる視界の向こうで、ジェラードが無念の表情で背を向け、飛び立とうとするウェザーライト号へと向かうのが見えました。

 ミリーにとっては、それで十分でした。

......そして、ミリーには別の結末が存在します。それは時間が捻じれ、運命が入れ替わった世界でのこと。クロウヴァクスではなくミリーがセレニアを倒し、その呪いを受けました。彼女は殺害されることはなく、ですがラースに置き去りにされ......やがてその地で、優美にして残忍な支配者として君臨することになるのです。


ネコルーの女王、ワシトラ

 丸顔と尖った耳、美しい毛皮に覆われた身体、そして力強い四肢と翼。猫に近いながらドラゴンの特徴も併せ持つのがネコルー、広大なドミナリアでも一部地域にしか生息していない種族です。強大な捕食者であるだけでなく高い知能を持ち、人語を理解する個体も存在します。

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 ワシトラは同族の雌達を打ち負かし、頂点たる女王の座を手に入れました。そして好物の魚を求め、また子供を産み育てるべくジャムーラ大陸近隣の島国であるマダラ帝国へ向かいます。その本島のとある漁村近くに巣を構え、村人を脅して魚を貢がせました。困り果てた村人は、帝国の要職であるテツオ・ウメザワへと助けを求めました。

 当初テツオは決闘にてワシトラを対処しようとするのですが、その戦いは海から現れた巨大なランド・ワームの乱入に中断されてしまいます。それはマダラ帝国皇帝とラムセス・オーバーダークが侵略しようとしている近隣諸島からの警告でした。テツオはワームを倒すと、仲間の治療師にワシトラの傷を癒させるとともに、帝国闘士の代理として彼女を任命し、魚の貢物と引き換えにその村を外敵から守らせる契約を交わしました。やがて彼女はテツオの力と人柄を認め、彼自身やその仲間達と友好的な関係を築くに至ります。ワシトラの子供達は彼らを良い遊び相手として慕うようになりました。

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 後にテツオが皇帝への反逆を宣言すると、ワシトラの一家はウメザワ家の領地や身辺を守ることで彼の力になります。皇帝やラムセスの軍と戦うのは、子供達にとっては狩りを学ぶとともに暴れられる絶好の機会でした。頼もしい仲間に後背を守られてテツオは戦いへ赴き、類稀かつ周到な策略をもってラムセスと皇帝を倒したのでした。

 そして数百年後。完全にネコルーが掌握する国となったマダラの地に、プレインズウォーカー・テフェリー達が訪れました。そして皇帝の残留思念らしきものに彼らは出会うのですが、そこから先はまた別のお話ということで。


 次回はいよいよ『イクサラン』に向けて、プレインズウォーカー・ヴラスカを解説する予定です。彼女はどのような人物で、これまで何をしてきたのでしょうか? お楽しみに!

(終)

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