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企画記事
多元宇宙ヒストリア 第2回:ニコル・ボーラス(下)
多元宇宙ヒストリア 第2回:ニコル・ボーラス(下)
by Mayuko Wakatsuki
こんにちは、若月です。多元宇宙の知られざる歴史を辿る短期連載「多元宇宙ヒストリア」。第2回では「大修復」による大幅な弱体化を被ったニコル・ボーラスがどのような行動に出たのかを、現在の物語まで追いかけます。
1.大修復の影響
前回、多元宇宙を大きく変えた出来事である「大修復」について述べました。まず、大修復がプレインズウォーカーをどのように変化させたのでしょうか?
- 大修復以前に覚醒していたプレインズウォーカー(いわゆる「旧世代プレインズウォーカー」)は、不老不死性と無限の魔力を失う。その後の寿命については種族による。
- 大修復以後に覚醒するプレインズウォーカー(いわゆる「新世代プレインズウォーカー」)は、それ以前の個人的能力に加えて「次元を渡り歩く能力」だけを手に入れる。
とはいえ、旧世代プレインズウォーカーにはその長い人生で培ってきた知識や経験の積み重ねが存在します。新世代であっても、「次元を渡り歩く」という力は常人には計り知れない可能性や成長の機会を彼らへと与えます。
それでは、ボーラスにとって大修復はどうだったのか。予想以上の喪失と老いを感じ、彼にあったのは無念と怒りでした。とはいえ弱体化しようとも、自身が強大なドラゴンでありプレインズウォーカーであることに変わりはありません。かつての力を、神性を、支配を取り戻す。今、ボーラスはそのための行動を開始しています。
2.『アラーラの断片』の物語
アラーラ次元は遠い昔、五つの「断片」に分裂しました。その詳しい原因はわかっていません。それが長い時を経て自然に再び統合を始めた時、ニコル・ボーラスはそれを利用しようと考えました。断片が衝突する際に生じる途方もないエネルギーを食らうことで、かつての力に近づこうというものです。同時に彼はアラーラ各所に手下や工作員を送り込み、動乱を勃発させてそのエネルギーを増加させようと企みました。
ですがその計画は、一人のプレインズウォーカーによって阻まれてしまいます。ナヤ生まれのレオニンである黄金のたてがみのアジャニ、彼は兄を殺害された衝撃からプレインズウォーカーとして覚醒しました。そして犯人を追い求めた果てに、最終的な黒幕であるニコル・ボーラスへと辿り着いたのでした。
ボーラスは断片が衝突する中心「大渦」にてアジャニと対峙します。遥かに劣る相手、ですがアジャニは他者の魂の精髄を見るという能力を持っていました。その力によってボーラスは自らの映し身を呼び出され、戦う羽目になります。自らと戦う、その結果は相打ちとならざるを得ませんでした。
とはいえ、ボーラスは大渦のマナを幾らか手に入れることに成功しました。そして無数の計略の中では、アジャニへの敗北は些細なものに過ぎませんでした。
また同時期に、ボーラスは「無限連合」と呼ばれる組織を設立して動かしていました。表向きは商社、ですがその実はプレインズウォーカーの密輸人が、違法な物品をボーラスのために収集する犯罪組織でした。ボーラスは自らの手中に飛び込んできたプレインズウォーカー・テゼレットに支部の一つを委ねるのですが、彼はボーラスを騙して組織を我が物にしようとしました。
ボーラスは連合を取り戻すべく、過去に悪魔との契約を仲介したリリアナ・ヴェスへと指示を出します。リリアナはテゼレットの部下であった精神魔道士のプレインズウォーカー、ジェイス・ベレレンを籠絡してテゼレットに反逆させ、対決させるようにそむけました。最終的にジェイスは連合のラヴニカ支部を壊滅させ、そして一対一の戦いでテゼレットの精神を拭い去りました。テゼレットの記憶とともに連合の記録は多くが失われ、全てを取り返すことは叶いませんでした。ですがこれも、ボーラスにとっては大きな失敗ではありませんでした。
3.様々な次元での暗躍
アラーラでの出来事以降、ボーラスはしばし表立った行動をとらず、工作員を用いて多元宇宙の各所で暗躍していました。
ゼンディカー次元
ある時、ボーラスはゼンディカー次元へと興味を抱きました。正確には太古の昔、その次元の奥深くに封じられたエルドラージに。そしてボーラスはその解放を仕組みました。目的は、多くのプレインズウォーカーをその戦いへ向かわせるとともに、彼らがそれほどの脅威へといかに立ち向かうのかを見定めるため。そのために彼はまず、アラーラ次元で手に入れた新たな下僕を送り込みます。
ドラゴンを崇拝するプレインズウォーカー、サルカン・ヴォルはアラーラ次元の生まれではないものの、多くのドラゴンが生息するジャンド断片を気に入って滞在していました。そしてボーラスに出会い、一度はその強大さに心酔して忠誠を誓いましたが、アラーラでの戦いを経て彼自身が抱くドラゴンの理想との剥離に疑問を感じ始めていました。そして目的も定かでないまま、ゼンディカー次元の謎めいた地下空洞「ウギンの目」を見張るよう命じられ、サルカンは忠実にその命令を執行します。ですが不気味な幻影と苛む思考の落とし穴に、緩やかに正気を失っていったのでした。
ボーラスは次に、衝動的な紅蓮術師のプレインズウォーカー、チャンドラ・ナラーを仕組んでウギンの目へと向かわせました。そこはエルドラージを封じる要です。サルカンは命令通りチャンドラを排除しようとしますが、そこに複雑な経緯から彼女を追ってきたジェイス・ベレレンが現れました。
チャンドラはジェイスの助言に従い、「透明な炎」を放ってサルカンを攻撃します。その攻撃でサルカンは打ち負かされ、ジェイスとチャンドラはこの巡り合わせに疑問を抱きながらもゼンディカーを離れました。その時の彼らは知るよしもありませんでしたが、プレインズウォーカーの灯が三つと、無色の炎。それがエルドラージの封印を解く方法だったのです。そして、その時は言うなれば「扉の鍵を開けた」までに留まったエルドラージも、後にソリン・マルコフの説明不足とニッサ・レヴェインの早まった行動によって完全に解き放たれてしまいます。一方サルカンはこの出来事をきっかけに故郷タルキールへと帰り、彼自身とその世界、そして精霊龍ウギンの運命を大きく変えることになります。
ゼンディカーでの出来事は、完全にボーラスの予測通りには進みませんでした。想定外の一つは、遠い昔に殺したはずであったウギンが「実は生きて」おり、エルドラージを対処するための助言を与えたことでした。プレインズウォーカー達はゼンディカーとイニストラードにてエルドラージの巨神を倒し、もしくは封じ込めて無力化しました。
それでもプレインズウォーカー達が結束し、エルドラージと戦い、チームを組んで行動を開始した。それはボーラスにとってはこの先様々に利用可能な存在です。ある意味では、思惑通りの結果となったのでした。
ミラディン次元
一方で、ジェイスによって痛めつけられたテゼレットをボーラスは「修理」し、新たな任務を与えました。それは金属次元ミラディンにて、密かに世界を蝕みつつあったファイレクシアを監視すること。金属の身体を持つテゼレットにはうってつけの場所でした。彼はファイレクシア勢力に侵入して任務をこなすとともに、創造主カーンを探し求めて世界の内部を探索するプレインズウォーカー達を手助けしました。ファイレクシアを激しく敵視するエルズペス、ミラディン人としてファイレクシアに対抗するコス、そしてカーンを師と仰ぐヴェンセール。テゼレットはカーンへと至る道を三人に教え、またファイレクシアの油に免疫を持つ人間の少女メリーラを委ねました。
その後テゼレットはファイレクシアの派閥内で成り上がろうとするのですが、最終的にファイレクシアがミラディンを征服すると、ボーラスは彼を呼び戻しました。
カラデシュ次元
次にテゼレットはカラデシュ次元へと送り込まれ、現地政府である領事府に入り込んで「発明博覧会審判長」という要職に就き、更には「大領事」となって現地の反政府勢力との戦いを率いました。最終的には敗れるも、彼はボーラスへと大きな収穫をもたらしました。大修復によって世界の構造が変化したことで不可能になったと思われていた、空間を超えて物質を運搬する装置......「次元橋」を。
4.そして『アモンケット』
現在の物語から60年前、ボーラスはアモンケット次元を訪れました。そして大修復の影響でその力を急速に失いつつある焦りから、彼自身も「手荒」と認める行動に出ました。この次元の大人を全て殺害し、歴史を抹消し、八柱の神々のうち三柱を我がものとし、残る五柱を改竄し、「試練」の伝統をねじ曲げました。そして「刻の預言」を残し、時が満ちるのを待って一度は離れました。
この次元におけるボーラスの目的は、不死者の軍団を作り上げることでした。鍛錬に人生を捧げ、その上で過酷な五つの試練を通過した者は「蓋世の英雄」として栄誉ある死を賜り、栄光ある来世へと赴く......ボーラスは伝承をそのようにねじ曲げ、アモンケットの民はそう信じ続けてきました。ですが栄光ある来世とは、不死者の兵としてボーラスに仕えることを意味しました。永遠衆、死者となった最高の戦士達の大軍団。怖れも疲労も疑問もなく、かつ生前の強さのまま、ボーラスの征服行のために戦い続ける兵士です。
やがて預言の「刻」が訪れ、ボーラスは目的を果たすべくアモンケットへと帰還しました。同時にあのプレインズウォーカー軍団、ゲートウォッチもボーラスを倒すべくその次元を訪れていました。
ですがボーラスにとって彼らなど、複雑に張り巡らされた計略の一部すら把握できない些細な有象無象の集団に過ぎません。彼らはエルドラージこそ対処したものの、ボーラスのその次元への関わりを完全に解明するには至りませんでした。次元橋も破壊したと思っていますが、テゼレットがその核部分を手に入れていたことも知らないのです。
ボーラスは難なくゲートウォッチの一人一人を対処し、惨めに追い払いました。彼にとっては脅威でも何でもありませんでした。自分の力を見せつけ、絶望させ、神の計略に逆らう術などないと思い知らせた上で退散させられれば良かったのです。不可侵たる王神ニコル・ボーラスに勝てる希望などないのですから。これまでも、この先も。
次週はお休みしまして、8月24日(木)に第3回を掲載の予定です。『統率者(2017年版)』のキャラクターには、どんな「知られざる歴史」があるのでしょうか? お楽しみに!
(終)
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