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企画記事
ゲートウォッチの歩み 第3回:ジェイス・ベレレン&チャンドラ・ナラー
ゲートウォッチの歩み 第3回:ジェイス・ベレレン&チャンドラ・ナラー
by Mayuko Wakatsuki
こんにちは。ゲートウォッチ結成1周年ですが、同時に2017年は「プレインズウォーカー・カード」が登場して10年目にあたります。連載「ゲートウォッチの歩み」、第3回は『ローウィン』で登場した最初の5人に名を連ね、今なお活躍を続けるジェイスとチャンドラを取り上げます。
ジェイス・ベレレン
ゲートウォッチの一員であり、都市世界ラヴニカにて十のギルドの平和を維持する不戦協定魔法「ギルドパクト」の体現。他者の思考を読み、伝え、幻影で欺き、時に記憶を操り、跡形もなく消しさえする。才気と好奇心に溢れた精神魔法の達人、それがジェイスです。
ジェイスはとにかく「謎」に惹かれます。青の魔術師にとって、知識を求めるというのは本能のようなもの。それゆえに時として、それを求める善悪の均衡はとても危うくなります。ですがさまざまな出会いと長い物語を経て、今ジェイスは一つの世界だけでなく多元宇宙の善へと尽くしています。
オリジン
ジェイスの精神魔術の才能は子供の頃すでに開花していました。彼は謎めいた「魔道士輪」が並ぶ次元ヴリンにて生まれ育ちますが、理解も制御もおぼつかないその力から同年代の友人とは距離を置き、友人からもどこか奇異の目で見られていました。ある時、自身の能力を制御し鍛える師に紹介されます。調停者のスフィンクス、アルハマレット。親元から離れることには不安もありましたが、ジェイスは弟子となって能力の制御だけでなくさまざまな魔術や学問を身につけ、成長していきました。
ですが二年が経ち、ある任務をきっかけとして彼は政治的道具として操られていたことを知り、師へと反逆して戦いを挑みます。それはジェイスの記憶に深刻な損害を与えました。両親の顔を、故郷の名を忘れさせられ、一方その苦しみの中で「呼吸の仕方」を忘れさせられて苦しむ師の顔を最後に見て――そして、全く違う世界にやってきました。雑多な種族が行き交い、途切れることなく建物が続くラヴニカ。欠けた心を抱えて、彼のプレインズウォーカーとしての人生が始まったのでした。
ゲートウォッチ以前
<無限連合>
年月が経ち、いつしかラヴニカに身を落ち着けていたジェイスに、別のプレインズウォーカーが目をつけます。表向きは商社、その実は多次元間犯罪組織である「無限連合」の長を務めるテゼレット。ジェイスはその組織に「招待」されたのでした。そこで働きつつ能力を研鑽し、また後に相棒となる青年カリストとも出会いもありました。
ですが時を経るごとにジェイスは連合の行いへの罪悪感と、テゼレットの横暴に対する不満を募らせるようになります。遂にカリストを伴って逃亡した先で、ジェイスは神秘的な美女リリアナ・ヴェスと出会い恋に落ちました。ですがそれは無限連合の真の長、ニコル・ボーラスの任務を受けたリリアナの策でした。彼女はジェイスをテゼレットと対決させるよう仕向け、連合をそのドラゴンへと取り返すのが目的でした。やがて逃亡生活の中でカリストが殺されたことで、ジェイスはテゼレットとの対決を決意します。リリアナの力を借りてテゼレットが隠れ潜む次元へ向かいますが、最後の最後でリリアナの企みと背後関係を知ってしまいます。それでも彼はテゼレットと対峙し、かつて任務で訪れた神河次元、鼠人の村にて死闘の果てにテゼレットの精神を「刻み」、半殺しのまま置き去りにしました。リリアナについては、今は道を分かつとしても、いつの日か彼女の力になろうと心に決めながら。
<ゼンディカー>
連合時代にチャンドラ・ナラーと関わって知った巻物の謎を追い、ジェイスはゼンディカーへと向かいました。そして「ウギンの目」へとたどり着きますが、そこで遭遇したのは、その場所を監視していたサルカン・ヴォルと戦うチャンドラの姿でした。彼女の炎が周囲の面晶体に吸収されてしまう様子を見て、ジェイスは巻物の内容にあった助言を与えます。「目に見えない炎」。そして彼女が放った透明な炎はサルカンを打ち負かしますが、それによって何が引き起こされたかを、その時の彼らは知りませんでした。
プレインズウォーカーが三人と、無色の炎。それはかつてこの場所を作ったプレインズウォーカー、ウギンが設定した「鍵」。ゼンディカーの内に封じられたエルドラージ、ジェイスはその「鍵を開いてしまった」のでした。後にエルドラージの封印が緩んだことを察したソリン・マルコフが訪れるも、同行していたニッサ・レヴェインによってエルドラージは解放されてしまいます......。
<ラヴニカへの回帰>
やがて多くの出来事に疲労したジェイスはラヴニカへ帰還し、そこで一つの謎に取り組みます。ラヴニカ第十地区の各所に現れた謎の模様。後に明らかになるのですがそれは「暗黙の迷路」、一万年に渡ってギルド間の平和を維持してきた魔法「ギルドパクト」が失われた時のために、アゾリウス評議会の創設者アゾール一世が準備していた「安全装置」でした。複数のギルドが全面戦争へと突入する寸前、イゼット団のギルドマスター、ニヴ=ミゼットがその存在を明かし、迷路を解いた者が得るという力を賭けた「迷路レース」の開催を宣言しました。
ジェイスは友人にして恩人であるセレズニア議事会のイマーラ・タンドリスを助けて迷路を駆け、最終的に各ギルドの走者十人の戦いをそのテレパス能力をもって調停したことで「迷路」から選ばれ、ギルドパクトの体現者となりました。
<戦乱のゼンディカー>
そしてギルドパクトとして日々働くジェイスを、突然リリアナが訪れました。ですが曖昧な関係のままの再会は、別のプレインズウォーカーによって中断されました。彼、ギデオン・ジュラはゼンディカー世界の惨状を伝え、同行してほしいとジェイスに願います。エルドラージを解放した責任の一端は自分にある。それはジェイスの心にずっと引っかかっていたことでした。直ちに彼はゼンディカーへと向かうことに同意し、翌朝旅立ちました......リリアナとはまたも後味の悪い別れを残して。
ゼンディカーへ着いて早々に、ジェイスは再びウギンの目へ向かいます。そこへたどり着くと、精霊龍ウギン自身が「目」を再構築している最中でした。ジェイスは自身の責任を認め、だからこそ巨人らを対処したいと願い出ます。ウギンは警告しました、ゼンディカーにいる巨人はただの「投影」であり、本体はその外に存在するのだと。エルドラージは多元宇宙全体の生態系において何らかの役割を果たしている可能性がある、それがウギンの仮説でした。対してジェイスは、今この世界と人々が苦しんでいる現実を、そして力になりたいという決意を語ります。
それを聞き入れたウギンは、面晶体と力線を用いてエルドラージを封じる手段を伝授します。ジェイスはそれを了承するも、密かにその先の計画を練りました。力線がエルドラージを引き寄せて拘束するのなら、「本体」をも引きずり出すことができるのでは、と......。
ジェイスは奪還されたばかりの海門へ戻り、そして大胆な計画が立てられました。ゼンディカー軍やプレインズウォーカーらの力を総動員して面晶体を配置し、その中にウラモグを閉じ込める。ジェイスは全計画の指揮を任され、ギデオンが囮になりながらウラモグを面晶体の輪の中へ入れ、ジェイスが罠を起動し......ですがオブ・ニクシリスの策略によって全てが壊されてしまったのでした。
誓いの経緯
今や自由にゼンディカーを闊歩するウラモグとコジレック。ジェイスは冷静に現実を見ること、そして「諦めて逃げる」という選択肢を提示します。自分たちは、プレインズウォーカーは、逃げることができるのだと。実際にジェイスは何度も、窮地から逃げることを選んできました。テゼレットの横暴、また「暗黙の迷路」を追う間にも一度、ラヴニカとその全てからただ去ることを考えました。あるいはプレインズウォーカーはずっとそうやって、何にも縛られずに生きてきたのかもしれないと......。ですがこの時、「自分たちには力がある」という仲間の言葉にジェイスは心を動かされていました、誰よりも容易に他者の心を動かすことができるジェイスが、ただその言葉と行動から。そしてギデオンとニッサに続き、ジェイスも逃げない誓いを、戦い続けるための誓いを、彼自身の想いを込めて立てました。
「私は想像を絶する脅威を見てきた。エルドラージが脅かしているのはゼンディカーだけではない。もし私達がここを見捨てたなら、エルドラージを放り出したなら、あれらは次元から次元へと食らいながら進み、やがてはラヴニカまでも不毛の地と化すだろう。今この時にも、エムラクールは次に貪る次元を探し、久遠の闇を彷徨っているのかもしれない」
「そうはさせない。多元宇宙の繁栄のため、私はゲートウォッチとなる」
(Magic Story「ゲートウォッチの誓い」より)
それから
ウギンから得た知識を元に、ジェイスは作戦を提案します。ウギンからは警告されていましたが、ジェイスは巨人を屠るつもりでした。力線を操って巨人の全体像を顕現させ、焼き尽くす。彼は戦場の全体像を把握しつつ、テレパスで指示を出す役割を担いました。作戦は途中までは順調に進むも、巨人の抵抗は激しいものでした。世界そのものの限界を見てとったキオーラが力ずくでニッサを止めようとしますが、ジェイスはそれを阻止もしました。最終的に作戦は成功し、ゼンディカーは救われました。
戦いの後、彼らのもとへウギンが飛来しました。精霊龍はプレインズウォーカーたちの所業を認めつつも、遥か未来に訪れるであろう影響を思って溜息をつくのでした。
<イニストラードを覆う影>
ゼンディカーは復興への道を歩みはじめますが、ジェイスはすぐに単身イニストラードへと向かいました。目的はかつてエルドラージを封印した一人、ソリン・マルコフ。その次元に不慣れなジェイスはまず、中途半端な別れ方をしたリリアナのもとへ向かいました。彼女にそれを謝るも助力を得ることはできず、ただ警告を受けてジェイスは単身マルコフ荘園へ向かいます。そこで見つけたのは不可解に破壊された屋敷と殺された吸血鬼の群れ、そして一冊の日誌でした。空民の学者タミヨウが書いたその記述を頼りに彼はネファリアの溺墓へ、そして首都スレイベンへの道をたどります、謎を解く鍵は大天使アヴァシン自身にあると信じて――その間にもイニストラードを覆う不可解な狂気が、次第にジェイスをも蝕んでいきました。
スレイベンにて彼はタミヨウに出会い、彼女の力によって狂気から救い出されます。ですが二人にアヴァシンが襲いかかりました。その窮地に乱入したソリンに助けられるも、アヴァシンは創造主との戦いの末に「破棄」されてしまいます。それとともに、ジェイスとタミヨウはエムラクールの到来を目撃しました。何もかもがエムラクールの名を呼び、触手と格子の異形と化す中、彼はゲートウォッチを呼びに向かいました。
そしてエムラクールを対処すべく、まずはゼンディカーの時と同じ作戦がとられます。ですがニッサもこの次元の力線は上手く扱えず、またエムラクールからの狂気とエルドラージ化した生物による攻撃が途絶えません。その窮地を救ったのはリリアナでした。彼女がエムラクールを押し留めますが、ジェイスはエムラクールの精神攻撃への影響から自身の精神世界で仲間たちの恐怖を目撃し、そして遂にはエメリア、ゼンディカーにて神格化されたエムラクールの姿と対面します。
そのエメリアは、交信を試みるエムラクールの姿なのでしょうか。彼女と礼儀正しいやり取りやチェスの試合を行うも、確信は持てません。そしてエメリアから逃げ出すと、その先で待っていたのは自身の映し身でした。彼自身も忘れていた、万が一のために切り離しておいた自身の一部。その言葉に諭され、そしてリリアナが死にかけていると聞かされて彼は現実へと戻ります。そしてタミヨウの提案で、エムラクールは封じられることになりました。もはや獄庫はなく、ですがその材料となったもの――銀の月へ。タミヨウが呪文を編み、月へと束縛しようとします。その試みが失敗しかけた瞬間、タミヨウは禁断の巻物を開き、エムラクールを封じたのでした。
リリアナを新たな仲間として迎え入れた後、ジェイスはタミヨウから恐ろしい話を聞かされます。彼女はエムラクールに乗っ取られ、そして使用した巻物の呪文は元々書かれていたものではなく、エムラクールは自ら月へ向かったのだと。「私の時じゃない。今はまだ」、エメリアの言葉を思い出してジェイスはただ震えるのみでした。
<カラデシュ>
イニストラードの出来事が落ち着くと、ゲートウォッチはラヴニカに本拠地を構えました。ジェイスが再びギルドパクトの仕事に追われていたある日のこと、力を借りたいとしてカラデシュ次元から使者のドビン・バーンが訪れました。彼の要請は現地の反政府組織の鎮圧でしたが、内政干渉はゲートウォッチの理念とは異なるものでした。ですがチャンドラとリリアナが独断でそこへ向かい、ラヴニカの業務から離れられないジェイスとギデオンはいったんニッサに捜索を任せます。その後、リリアナが戻ってきて驚くべき事実を伝えてきました。テゼレットが生きている。その知らせはゲートウォッチとして動くに十分でした。
ジェイスもゲートウォッチとして改革派に協力し、卓絶した幻影術やテレパス能力で貢献します。リリアナがテゼレットへと一際強い憎しみを燃やして動いたこともあり、ジェイスは直接テゼレットと対峙するには至りませんでした。そしてボーラスが支配するというアモンケット次元へ向かうことに彼は同意します。時間を無駄にはできない、それを心得ていました。
チャンドラ・ナラー
熱烈な感情を燃やしながら、心のままに、ひたすら自由に生きる――それがチャンドラです。彼女は類稀な才能で炎の魔術を振るいます。情熱的に、衝動的に、即興的に、反抗的に。
チャンドラの武器は「炎の呪文を」「相手に叩きつける」、それが全てです。熱く鮮やかに、時には自らの身すら焦がすほどに。チャンドラこそ、赤のマナを最も典型的に体現するプレインズウォーカーと言えるでしょう。炎というものの性質がそうであるように、見境なく破壊を振りまくこともありました。ですが今彼女はゲートウォッチの一員として、自身が信じるものと守りたいもののために力を振るっています。
オリジン
チャンドラの故郷はカラデシュ次元。「霊気」で動く、創造力と楽観主義が溢れる世界です。彼女はこの世界では稀な、魔術の才能を持って生まれました。両親は自由の才気を持つ発明家であり、政府の圧制へと密かに抵抗活動を行ってきました。ですが法を犯したとして一家は執拗に追われ、父は殺され、チャンドラもまた死刑を宣告されました。処刑場に連れ出された彼女は悲嘆と怒りから紅蓮の炎と、そしてプレインズウォーカーの灯を点火させ、見知らぬ世界へと飛んでいきました。そしてたどり着いたレガーサ次元のケラル砦、紅蓮術師の僧団に迎え入れられます。そこでチャンドラは生きる場所を与えられ、能力を制御する方法を学びました。
ゲートウォッチ以前
<Purifying Fire(小説)>
やがて、とある巻物を手に入れようとした時のこと。チャンドラは自分を追うプレインズウォーカーに遭遇します。ギデオン・ジュラ、彼はケラル砦と対立する騎士団からの命令を受けてチャンドラを追っていました。彼女は逃走しながらその炎で周囲に大きな破壊をもたらし、さらに見境のないプレインズウォークにより、見知らぬ闇の次元ディラデンへと行きついてしまいます。ギデオンも彼女を追ってきましたが、黒以外のマナが枯渇したその次元にて、二人は不本意ながら協力して脱出を試みます。ギデオンは真面目な堅物、ですが滅多に出会うことのない自分以外のプレインズウォーカーへの興味と、その頼もしい戦いぶりは否定できませんでした。またギデオンは、チャンドラが盗もうとした巻物に記されている次元について語りました。力強いマナと動く大地、神秘のゼンディカー。初めて聞く世界でした。
苦難を乗り越えてレガーサへと戻ると、ケラル砦は騎士団に包囲されていました。彼らの目的はチャンドラであり、彼女は仲間たちに危害が及ばないようにと投降します。そして彼女は見せしめとして「浄化の炎」、白のマナからなる炎へと捧げられることになりました。ですがそこにギデオンが手を差し伸べます。もしも「潔白な魂」とともに炎に入るなら、許され、受け入れられるだろうと。そしてチャンドラはギデオンへと、自分をずっと追い立ててきた悪夢の源、過去を告白しました。村が焼き払われ、家族も殺されたことを。ギデオンはそれを責めるでもなく、慰めるでもなく、ただ彼女の手を握って聞いていました。
過去に直面し、最早逃げないと誓った彼女を、浄化の炎は清い魂を持つとして受け入れました。そしてチャンドラはかつてない程に力に満ち、解放されたように怒りを爆発させると全てを燃やし、周囲を破壊し尽くしてしまいました。最後に一度ギデオンと対面し、正義や法を振りかざして立ちはだかる者は、理由は何であれ容赦はしないと告げます。ですが「また会おう」という彼からの言葉を否定はしませんでした。
<ゼンディカー>
チャンドラはゼンディカーへ向かいました。巻物に記されていた「ウギンの目」へたどり着くと、そこを守っていたのはプレインズウォーカー、サルカン・ヴォルでした。彼はチャンドラの炎を評価し、「目」の内部へと案内します。道すがらサルカンは説明しました。「目」は形のある宝物などではなく、恐ろしいものを地の底に閉じ込める牢獄なのだと。そして彼は「目」へチャンドラを捧げようと襲いかかりました。彼女は魔法でやり合おうとしますが、その術は周囲の面晶体に吸収されてしまいました。そこに思いもしなかったことに、ジェイスからの助けが入ります。「無限連合」の工作員であった彼はかつて戦ったことのある相手でした。目に見えない炎を撃てというジェイスからの助言を受け、チャンドラは見事に「透明な炎」を思い描いて放ち、サルカンを打ち負かしました。自分たち三人がこうしてこの場に集い、透明な炎を放った、それが何を意味するかを知るのは後のこととなります......。
<戦乱のゼンディカー>
そしてある時。いつしかレガーサへ戻っていたチャンドラを、ジェイスとギデオンが訪ねてきます。自身に因縁のある二人が揃う様子は彼女をひどく驚かせました。彼らはゼンディカーで一緒に戦ってほしいと願いましたが、砦の仲間への恩と新たに得た責任を無視はできませんでした。一度は拒否するものの、やがてゼンディカーの鮮やかな風景、思う存分に力を振るいたいという欲求、そしてエルドラージの解放に加担したという罪悪感が彼女を動かします。その心を理解する砦の仲間に見送られ、チャンドラは晴れやかにゼンディカーへと旅立ちました。
到着して彼女が見たのは、ウラモグを封じた面晶体の罠が壊され、コジレックが出現する様でした。彼女はプレインズウォーカーたちを連れ去ったオブ・ニクシリスを追いかけると、想定外の増援によって計画を狂わされた悪魔へと戦いを挑んで彼らを解放し、ともにその悪魔をゼンディカーから追い出しました。
誓いの経緯
絶望的な状況を前に、それでもギデオンが戦い続けることを呼びかけます。ニッサと、ジェイスも賛同し、それぞれの思いとともに「誓い」を立てました。誓い、それはただの約束とは異なるものです。重く、束縛となりうるもの、すなわちチャンドラが何よりも嫌うもの。三人が続けて誓いを立てた時、残ったチャンドラは彼らの視線にその了解と、それでもという期待を悟ったのでしょう。ですがそれ以上に、この仲間たちとともに戦うというのは素晴らしいことなのだとわかっていました。自分たちには力があるのだから、それを良いことに使うならもっと素晴らしくなれる――
「でも、これは確か。私も、自分達が力を合わせて何ができるかを見てきた。それにギデオンの言う通り――私達の誰も、一人だけでエルドラージとやり合うなんてできない。あいつらを倒すには、私達四人全員が力を、魔法を合わせないといけない」
「どんな世界にも暴君がいて、欲望を追い求めている、何も気にすることなく人々を踏みつけながら。それはエルドラージと何ら変わらない。だから私も言うわ、絶対そんな事はさせない。それで誰もが自由に生きられるのなら、そうね、ゲートウォッチになるわ。一緒にね」
(Magic Story「ゲートウォッチの誓い」より)
それから
チャンドラにはウラモグとコジレックを焼き尽くすという役割が与えられました。ニッサが力線を編んで巨人を拘束するまでは、ギデオンと共に囮となります。群れる落とし子をキオーラが片付け、ジェイスがテレパスで指示を叫びます。暴れる巨人たちに苦戦しながらもニッサが力線を編み、引き寄せます。巨人の全体像が露わになると、それはまるで空そのものが覆い尽くされるようでした。触手と落とし子が溢れ、世界すらも壊れてしまうような揺れが襲います。世界が壊れるか、巨人が斃れるかはチャンドラに委ねられました。
巨人を逃がす隙を与えることなく、一撃で焼き尽くす――仲間からの切望と信頼に、彼女は頷きました。チャンドラが放った炎、そしてニッサが触れた手から、力線を通してゼンディカーのマナが、世界の怒りが流れ込みました。一つの、とてつもなく巨大な高温の炎で、ウラモグとコジレックは焼き尽くされ、ただゼンディカーの空に灰の柱だけが残されました。
そしてチャンドラは、身体の回復と復興の手伝いのためにしばしゼンディカーに残ることを選びます。自分だけ自由奔放にやるのではなく、ゲートウォッチの一員として。そんな帰属意識が確かに芽生えていました。
<カラデシュ>
ラヴニカに落ち着いていたある日のこと、カラデシュ領事府からの使者ドビン・バーンが訪れます。そこはチャンドラにとって、一度も戻っていない故郷。ゲートウォッチは組織としての協力こそ断りますが、チャンドラの心はざわつきました。どうしたいのかも定かでないまま、彼女はリリアナとともにカラデシュへ向かいました。
風景は変われど、そこは確かに故郷でした。発明と創造の祝祭、輝かしきギラプール。ですがそこでは彼女の想像を超えた多くの、衝撃的な出来事が待っていました。死んだと思っていた母ピア・ナラーは「改革派」を率いて領事府と対立しており、そしてかつて自分たちを迫害した仇敵バラルも生きていたのでした。
追ってきたニッサとともにチャンドラは奔走し、また領事府の背後にいるのが悪しきプレインズウォーカー、テゼレットと判明したことでゲートウォッチも組織として動き出します。また独自に改革派と接触していたプレインズウォーカー、アジャニとも合流し、闘技場での対決からピアを救い出すと、彼女らは本格的に領事府との対決に臨むこととなりました。
さらに、テゼレットは恐ろしい発明品を製作していることが明らかになりました。空間を越えて物体を転送できる装置、次元橋。その完成がどのような結果をもたらすかは明白でした。テゼレットを対処し、次元橋を破壊する。ゲートウォッチの目標は決まりました。
改革派は本格的な行動に移り、重要施設を一度は奪うものの多方面からの反撃を受けて大きな損害を出してしまいます。チャンドラもまたバラルの挑発におびき寄せられ、心身ともに激しく消耗してしまいました。改革派はチャンドラの父の魂を受け継ぐ新造船「キランの真意号」で脱出し、そして次元橋を無力化するための飛行機械「ギラプールの希望」が作られました。真意号でテゼレットの本拠地である霊気塔に近づき、搭載された攪乱機で内部の機構を破壊するという計画でした。ですが真意号に単身潜入してきたドビンによって攪乱機は破壊されてしまい、真意号も妨害を受けて高度を下げはじめます。ならば次元橋を破壊するのは自分だと、チャンドラは「希望」へ乗り込む決意を静かに固めます。その故郷への思いを知り、ギデオンは同行を宣言しました。
そして、テゼレットとリリアナが対峙する霊気塔へと「希望」が突入します。ギデオンに守られ、チャンドラは力の限りを込めた大爆発を放ちました。次元橋は破壊され、テゼレットの姿は消えました。ニコル・ボーラスの所へ逃げ帰ったのだろう、それがプレインズウォーカーたちの見解でした。
領事府と改革派の争いは次第に下火となり、やがて終結しました。復興と再生の日々が始まり、ゲートウォッチには新たな仲間、アジャニが加わりました。次に目指すはニコル・ボーラスが支配する次元アモンケット。アジャニは反対しますが、急いで向かうべきだという五人の意見は一致していました。
チャンドラは一度、この世界に残ることを思いました。家族と離れていた時間を取り戻すために......ですが母は彼女を送り出します。チャンドラの才気は一つの世界に閉じ込められるものではない、そして何度でも旅立ちを見送り、帰りを出迎え、また見送る。そんな家族になるために......
以上になります。逃げないことを選んだジェイス、自身の力を善い目的へと向けはじめたチャンドラ。二人とも長い物語を経ているだけあって、戦いや仲間との関わりの中で大きく成長しています。
次回が最終回となります。ゲートウォッチ結成後に加入した二人、リリアナ・ヴェスと黄金のたてがみのアジャニの足跡をたどります。それではまた!
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