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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:望遠鏡と煙突と(ヴィンテージ)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:望遠鏡と煙突と(ヴィンテージ)
by 岩SHOW
子どものころの話。まあ、スマホなんかまだまだ未来の秘密道具くらいの文明を超えた存在だった時の話だ。おもちゃの双眼鏡、望遠鏡のようなものを何かのおまけで手に入れたりした時には、ワクワクしたものである。意味もなく、ベランダから遠くの風景を眺めたりね。おもちゃだから見られる範囲もたかが知れているのだが、ものすごく遠くの世界に手が届くかのように思えて、その時は無心でいろんなものを見ていたと思う。
特に印象に残っているのは煙突だ。モウモウと、煙を吐き続けるその姿は怪物のようにも見えて、なんとも魅力的だった。一体それがどのような施設のなんなのかは当時はわからなかったが、はるか遠くの自分の知ることのない世界の存在、ある種ファンタジーなものだと思い込んでいた。
中学生ともなれば行動範囲も拡がる。チャリンコ1つあれば、どこへだって行ける。マジックを始め、ルールが身についたころ。とにかくマジックを扱うお店に行きたい! 自転車で30分くらいのところにあるらしい、行ってみよう。1時間のところに......問題なし。仲間とやいやい話しながら漕ぎ続ければあっという間だ。河川敷を突き進むマジック大好き少年たち。
突如として、甘いような、そして粉っぽい、呼吸を阻害するものに襲われる。子どものころ、別世界の存在だと思っていたあの巨大な煙突だ。それは黄緑色の外壁の工場から伸びており、明らかに有害な物質をばら撒いていた。恐怖を覚えるとともに、僕はある1枚のカードを思い浮かべ、そして納得していた。《煙突》である。
マジックを始めてかなり早い段階で、『ウルザズ・サーガ』のトーナメントデッキから出てきたレアカード。とりあえず、書いてあることがよくわからない。でもイラストと、そして《煙突》という何の変哲もない名前が大変に魅力的だった。ルールが理解でき、このカードが一体何をしたいのかわかりはじめると、なかなか強い......いやらしいカードであることが認識できた。
当時のテキストでは「アップキープの間」なんていうよくわからないタイミングで解決される能力となっているが、今では2つの能力ともにアップキープの開始時に誘発するようになっている。自身のアップキープの開始時にスス・カウンターを1個置いてもよく、各プレイヤーのアップキープの開始時にそのプレイヤーは《煙突》の上のスス・カウンターの数だけパーマネントを生け贄に捧げる。こっちは生け贄に捧げてしまっても問題のないパーマネントをしこたま用意したり、相手の土地をバキバキ破壊したりしつつ運用すれば、相手のパーマネントを全滅させることも可能なアーティファクトだ。
この《煙突》にはスス・カウンターが100個くらい乗っているんじゃないか、なんて考えながら橋を渡り、目的のお店へ向かうということを何度も繰り返したものである。《煙突》デッキは組んだこともあったが、たまーに相手がハマってくれた時にだけ勝てるという完全に趣味のデッキだった。
それからさらに時は流れて、この《煙突》によるパーマネント消滅作戦を主軸としたデッキが存在することを知る。それは「スタックス」と呼ばれるもので、《Black Lotus》などが飛び交う魔境的フォーマット、ヴィンテージの主要デッキの1つであるという。ヴィンテージ......そんな古いカード持ってないって! とあの日望遠鏡で眺めた煙突のように遠い世界の話だと思ったものだが......さらにさらに時が経ち、いろんなマジック仲間ができていくと、これもまた目の前の光景となった。ヴィンテージ好きの面々がプレイする姿を見たり、実際にプレイさせてもらったりすることで「《煙突》って無茶苦茶強いんだな」と驚かされたものである。同時に、あの100個スス・カウンターが乗っている煙突は今も稼働しているのだろうか、なんて思い出したり。
そして今日。「久しぶりにヴィンテージのデッキでも紹介してみよう」なんて思い立ってデッキリストを探っていると、久しぶりに《煙突》入りの「スタックス」を見つけた。そこには、おもちゃとは呼べない、立派な望遠鏡の姿もあって......それで寝る前になんやかんや思い出したのがここまでの前置き。長いよ!と言わずにここまで読んでくれた皆さんに感謝しつつ、デッキリストを見ることにしよう。
4 《Mishra's Workshop》 4 《古えの墳墓》 4 《不毛の大地》 1 《露天鉱床》 4 《幽霊街》 2 《ミシュラの工廠》 1 《発明博覧会》 1 《カラカス》 1 《トレイリアのアカデミー》 -土地(22)- 4 《ファイレクシアの破棄者》 3 《ファイレクシアの変形者》 1 《磁石のゴーレム》 1 《ワームとぐろエンジン》 -クリーチャー(9)- |
1 《Black Lotus》 1 《Mox Pearl》 1 《Mox Sapphire》 1 《Mox Jet》 1 《Mox Ruby》 1 《Mox Emerald》 1 《太陽の指輪》 4 《魔術遠眼鏡》 4 《抵抗の宝球》 3 《無のロッド》 1 《アメジストのとげ》 3 《世界のるつぼ》 1 《罠の橋》 1 《三なる宝球》 4 《煙突》 1 《虚空の杯》 -呪文(29)- |
1 《ファイレクシアの変形者》 1 《ワームとぐろエンジン》 4 《墓掘りの檻》 2 《真髄の針》 1 《無のロッド》 3 《四肢切断》 1 《罠の橋》 1 《からみつく鉄線》 1 《カラカス》 -サイドボード(15)- |
対戦相手のマナ基盤を中心としたパーマネントを徹底的に破壊し、最小限の勝ち筋で勝利する。これぞ「スタックス」だ。《抵抗の宝球》《虚空の杯》などの呪文を唱えることを阻害する置物を設置。《不毛の大地》《幽霊街》《露天鉱床》で土地をバキバキ割りつつ《世界のるつぼ》で再利用して盤面の構築を許さない。残ったパーマネントを《煙突》で始末してやれば、対戦相手は行動不能になる。無抵抗な相手に、クリーチャーが殴り掛かってエンドロール。
この展開を支えるのは《Mishra's Workshop》に《古えの墳墓》、そして《Black Lotus》に各種Moxなどのマナ・アーティファクトだ。《Mishra's Workshop》ははっきり言ってぶっ壊れだが、これが使えるのがヴィンテージの魅力だと言ってしまっても決して過言じゃない。
このデッキに新たに採用されたのは《魔術遠眼鏡》。《真髄の針》に対戦相手の手札を見るおまけがついてきたことで、使いやすさが増している。
相手の手札が見られる、というのはソーサリータイミングでしか動けないこのデッキにとってはありがたいことだ。土地破壊かアーティファクト設置か、相手の手札を見たうえでベストな選択肢を取ることができる。こういう選択1つを誤ることが、ヴィンテージでは即敗北に直結したりするしね。《ファイレクシアの破棄者》と併せて、対戦相手が何ひとつ起動型能力を使えない状況に追い込んでやることもできる。とにかく、対戦相手をけちょんけちょんにしたい。そんな欲望を叶える鋼鉄の監獄。《煙突》からは誰も逃れられない。
今、ヴィンテージというフォーマットを遥か彼方の存在に感じている人がいるかもしれない。でも、この《魔術遠眼鏡》のように最近のカードが採用されて活躍したりして、思っているほど遠くないかもしれないよ、ということを伝えて終わりにしよう。確かに、絶版セットのカードを大量に集めるのは大変だ。だったら、いま手に入るカード・実際に遊んでいるカードを大事にする、ということを積み重ねていくのが良いかもしれない。あと10年、15年も経てば、現在のモダンのデッキだって今のヴィンテージみたいなもんだよ。このカードと初めて出会ったのは......なんて思い出しながらプレイするその日を楽しみにしようじゃないか。いつまでも、末永くマジックと付き合っていけたら最高だ。
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