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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:PGOティムール(スタンダード)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:PGOティムール(スタンダード)
by 岩SHOW
世界選手権に挑む。すなわち、世界中の強豪23人を相手にするということ。実力・経験・勢い、それぞれの武器を持った、マジックの怪物たちと己の身1つで立ち向かうというのは......その舞台に臨むようなプロの中のプロであっても、恐ろしいことかと思う。
こんな時に頼もしいのが仲間の存在である。昨日紹介した「青黒アズカンタ」は、世界選手権参加者3名によるドリームチームの調整により生まれたものだ。
世界選手権という舞台に挑めるプレイヤーは、たったの24人。普段の調整仲間や、チームシリーズをともに戦ったメンバーが皆権利を持っているというわけでもなく、それゆえに誰とともに調整するかというのは大変難しい問題となる。......ある3人を除いては。
チームシリーズを「Puzzle Quest」のメンバーとしてともに戦い、そしてチーム戦グランプリで「Peach Garden Oath(以下PGO)」として参戦し暴れまくった3人。オーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwald、リード・デューク/Reid Duke、そしてウィリアム・ジェンセン/William Jensenの3名だ。
《桃園の契り》の名の通り、三国志の時代を生きた劉備・関羽・張飛の義兄弟のような強い絆で結ばれたこの三英傑。ともに勝ち取った世界選手権参加権利、もちろん本戦で使用するデッキも3名で調整してきたものだ。世界の王者になる、そう誓い合った3名が持ち込んだのがこちらのデッキだ。
4 《森》 1 《島》 2 《山》 4 《植物の聖域》 4 《根縛りの岩山》 3 《尖塔断の運河》 4 《霊気拠点》 -土地(22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー(23)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《本質の散乱》 1 《削剥》 1 《慮外な押収》 1 《暗記 // 記憶》 -呪文(15)- |
2 《奔流の機械巨人》 1 《チャンドラの敗北》 4 《否認》 1 《削剥》 2 《人工物への興味》 1 《至高の意志》 1 《天才の片鱗》 1 《慮外な押収》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
カード1~2枚の差はあれど、3名ともがこのデッキを使用している。その中でも3日間通してプレイングが最も安定していたウィリアム・ジェンセンが12勝2敗という圧巻の成績で予選を突破しており、決勝ラウンドでもその進撃は止まることなく優勝。プレイングは当然のことながら、デッキも強かった!
今のスタンダードで強いかどうかよりも、世界選手権で勝つために作られたという印象を強く受ける。スタンダードで強い=世界選手権で勝てる、じゃないの? とお思いの方もいらっしゃることだろう。なのでデッキの解説の前にそちらの説明から。
現行の世界選手権の参加人数は、何度も述べてきたように24名である。24名の強豪が使用するデッキというものは、Magic Onlineのリーグ戦やグランプリやプロツアーなんかに比べれば、グッと絞って考えることができる。ましてや、新セット発売とそれに伴うローテーションから2週間というスケジュール。このタイミングで、挑戦的なデッキ・実力不明のデッキ・全く未知の新デッキを構築して持ってくるなんてことは、世界王者を争うようなプレイヤーにとっても困難である。対戦相手が強くなければそれも可能かもしれないが、そんなわけもなく怪獣しかいないトーナメントだ。
というわけで、事前にある程度はトーナメント参加者のデッキを予測することができる。○○を選択するプレイヤーが非常に多くなるだろう、と。そうなれば、そのデッキに勝てそうな構築を行うことができれば世界選手権に勝てるというわけだ。同時に仮想敵を絞った構築なので、どんな相手とも戦えるかといえばそうではない、というわけ。
さてさて本題。この「ティムール・エネルギー」デッキはどのような意図で制作されたのだろうか。そもそも、「ティムール・エネルギー」といえば前環境での覇者である。そして、ローテーションにより失われたカードはほとんどない。つまりは『イクサラン』環境でも強いと予測されており、実際に発売後の環境ではその変わらない強さを見せつけていた。
特に純正ティムール(青赤緑)よりも《スカラベの神》を採用したタッチ黒型も人気。世界選手権でもこれらのデッキを選択したプレイヤーはとても多かった(PGOの3名を含めると24人中8人)。これらの中速デッキには、それよりも遅いどっしりとしたコントロールデッキが有効である。そのコントロールには軽量クリーチャーと火力を武器にした「ラムナプ・レッド」が有効、このデッキには《つむじ風の巨匠》でブロッカーを用意できるティムールが......という三すくみが成立している。
世界選手権はこれらのデッキが争う構図になるだろう、とPGOのメンバーは読んだのだろう。彼らが使用したこのデッキは、この三すくみを制するために「コントロールデッキに化けるティムール」を作成した。世界選手権を制するためのとっておき、「PGOティムール」とでも呼ぼうか。
一般的な3色純正ティムールのリストに見えるものの、そこかしこにコントロール要素が潜んでいる。メインデッキの《本質の散乱》は対同型において《逆毛ハイドラ》《栄光をもたらすもの》などの厄介なクリーチャーを2マナで対処できるという点がとてつもなく強かった。
一見何に使うのかわからない《暗記 // 記憶》も、《暗記》はプレインズウォーカーなどの危険なパーマネントを一時的に除外、クリーチャーを弾いた場合は《本質の散乱》を構えるまでの時間も稼いでくれてベリーグッド。《記憶》モードで唱えることはあるのか? という疑問にも、ジェンセンはしっかりと《記憶》プレイからの勝利で答えてくれているので放送をタイムシフトでご覧あれ。(1日目、2日目、3日目)
また、この《暗記 // 記憶》と相性の良い《奔流の機械巨人》と(《記憶》をマナなしでインスタントタイミングで使用可能!)、その機械巨人で使いまわす前提の《至高の意志》《天才の片鱗》などがサイドボードに採用されているのも他のデッキと一線を画す大きな特徴だ。これらを搭載し、より重くコントロールチックなデッキとして立ち回ることで、他のティムールたちを手玉に取ろうというわけである。
そして実際に、他のティムールに対して無類の強さを発揮していたものである。ティムールのみならず、打ち消し合戦からのアドバンテージ勝負に持ち込むことができるため、コントロールにさえ対等に渡り合っていたのには驚かされた。見事なまでにこの世界選手権で勝つためのデッキへと調整されていたのである。
クリーチャーで勝負する「ティムール・エネルギー」でありながら、呪文を構えたりする細かいテクニックが要求されるため、扱うのは容易ではない。また、何度も言うように狙いを定めて設計されているので、丸々コピーしてお近くの大会に持ち込んでも勝てない可能性もある。
ただリスト自体は美しく、またコントロールに抗う術を持った緑の中速デッキというのは魅力的なものである。このデッキをベースに、新しい「ティムール・デッキ」の形を模索していくのも楽しいだろう。PGOのような仲のいいメンバーであれこれ言いながら自分たちのデッキを作る、なんてできたら最高の思い出になるだろうね!
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