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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:バント・エルドラージ(モダン)
岩SHOWの「デイリー・デッキ」:バント・エルドラージ(モダン)
by 岩SHOW
アメリカの選手が良いプレイをすると場内が沸いてU!S!A!コールが沸き起こる......そんなステレオタイプな観戦スタイル、実際にあるのかなと思っていたが、ありましたなぁ。世界選手権2016では、特に最終日にそれが顕著だった。アメリカ出身のBBDことブライアン・ブラウン=ドゥイン/Brian Braun-Duinが優勝、場内では観戦していた地元のプレイヤーたちが歓声を挙げていた。ゲームをもぎ取ると大拍手だ。決勝ラウンドは場内に実況を流すこともあって、選手たちはヘッドセットを装着して外部の音声は遮断してプレイしていたのだが、あれだけアウェーな状態になるのであれば決勝の相手のマルシオ・カルバーリョ/Marcio Carvalhoもその音声が聴こえない状態で良かったなと思えるほどだ。
そんな出身国からの祝福を受けながら、世界王者に輝いたBBD。彼がモダンラウンドを3勝0敗1分けで終えて、予選1位通過を決めたデッキを振り返ってみよう。
2 《森》 1 《平地》 1 《寺院の庭》 1 《繁殖池》 1 《神聖なる泉》 4 《吹きさらしの荒野》 3 《低木林地》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《魂の洞窟》 4 《エルドラージの寺院》 -土地(24)- 4 《貴族の教主》 1 《呪文滑り》 4 《変位エルドラージ》 3 《作り変えるもの》 2 《空中生成エルドラージ》 4 《難題の予見者》 4 《現実を砕くもの》 3 《希望を溺れさせるもの》 -クリーチャー(25)- |
4 《古きものの活性》 4 《流刑への道》 1 《仕組まれた爆薬》 2 《四肢切断》 -呪文(11)- |
2 《墓掘りの檻》 4 《虚空の杯》 3 《石のような静寂》 1 《安らかなる眠り》 1 《崇拝》 2 《仕組まれた爆薬》 2 《太陽の勇者、エルズペス》 -サイドボード(15)- |
「バント・エルドラージ」はこの2016年のモダン環境を象徴するデッキのひとつだ。プロツアー『ゲートウォッチの誓い』にて猛威を振るった各種エルドラージデッキ。これらのデッキの動力源となっていたのが《ウギンの目》だ。無色のエルドラージ呪文のコストが2マナ軽くなるこの土地を置いて、1~2ターン目から高速でエルドラージ・クリーチャーを展開。その速さは常識の範囲を超えた危険なものだったため、《ウギンの目》はあえなく禁止カードに。以降、エルドラージデッキはお咎めを逃れたエンジンの片割れである《エルドラージの寺院》のみでブーストすることを余儀なくされた。
......のだが。「だったら、もっと普通の方法でコイツらを展開しよう。これなら誰にも文句は言わせないぞ!」と素直にマナ・クリーチャーを採用したエルドラージデッキが登場。それがこの「バント・エルドラージ」だ。バント(白青緑)カラーと言えば《貴族の教主》という最強クラスのマナクリーチャーを有する色である。マナを伸ばしてロケットスタートを可能にするだけでなく、賛美能力で《現実を砕くもの》などの破壊力を増してくれる。1ターン目《森》《貴族の教主》→2ターン目《エルドラージの寺院》《難題の予見者》で手札追放という、相変わらずズルい動きは健在だ。
青と白と緑の3色のカードが使えるとあって、かつてのエルドラージデッキに比べると幅広いカードが採用されている。《空中生成エルドラージ》《希望を溺れさせるもの》と、青いトークン生成系のエルドラージを高速展開、そしてそれらを《変位エルドラージ》で追放しては戻してアドバンテージを稼ぎまくって圧殺......禁止改定前の「青白エルドラージ」が用いていた戦術をそのまま踏襲しつつ、緑が入ったことで《古きものの活性》でこれらの無色のクリーチャーや土地を探せるようになった。
このカードのおかげでいわゆる「引きムラ」に左右されやすかったエルドラージデッキの弱点をある程度緩和できており、安定した動きができるビートダウンとしての地位を確立した。短距離も中距離も走れるようになった、というところか。
デッキに白を採用するということはモダンでは大きな意味を持つ。サイドボードに白の誇る強力な対○○カードを色々と採用することが出来るのだ。アーティファクトどっさりな「親和」は《石のような静寂》1枚で機能停止。墓地にクリーチャーカードなどを大量に落として悪さをする「ドレッジ」、大型クリーチャーを一本釣りする「グリセルシュート」のようなデッキは《安らかなる眠り》で対処。同じエルドラージ系などのビートダウン相手には《崇拝》で不死身の肉体を手に入れて完封。
これらお約束のサイドボードに加えて、BBDは自身の調整で対「アブザン」において強力な1枚であることを発見した《太陽の勇者、エルズペス》を2枚採用。トークンをばら撒いてブロック/アタック要員を用意し、パワー4以上になった《タルモゴイフ》《残忍な剥ぎ取り》は[-3]能力でまとめて吹き飛ばす。6マナのプレインズウォーカーであり《突然の衰微》などでは対処されづらく、出して護ることができれば勝ち、というレベルの1枚だ。
また《虚空の杯》4枚採用も潔いチョイスだ。コンボ系のデッキへの対抗手段としてしばしば採用されるのは《頑固な否認》だが、それを活かすには{U}を常に用意しながら《難題の予見者》《現実を砕くもの》を展開しなければならない。ならばいっそのこと2ターン目に設置したら、後はクリーチャー展開に全力でマナを用いることができた方が良いという思想に基づいての採用だろう。これも無色のカードなので《古きものの活性》で探してこれるのもグッド。
BBDはグランプリ・マスターという称号を獲得し、世界選手権に招待された。これを勝ち取るために、常に世界中のグランプリを渡り歩いたという話はインタビューでも聞くことができた。モダンのグランプリにも相当数参加したことだろう。この1年間のモダンの変遷を体験してきた彼が選択したデッキがこの「バント・エルドラージ」。1年間の、否、マジック人生のすべての思いをこめて選択したデッキで、世界の強豪の中の強豪に無敗の成績を残した彼の雄姿を観て、自分もモダンでこのデッキを使おうと思ったプレイヤーも少なくないだろう。目立ってしまったことで《罠の橋》《血染めの月》などの対策を多数取られる可能性はあるが......そこはBBDの如き不屈の精神を宿して乗り切ろう!
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