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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:バント・スピリット(スタンダード)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:バント・スピリット(スタンダード)

by 岩SHOW

 「バント・カンパニー」が環境の王者であることは疑いようがない。全世界でこのデッキを使用してトーナメントに参加したプレイヤーが果たして合計何人いるのか、見当もつかないが......世界選手権2016においては、少なくとも7人のプレイヤーがこれをスタンダードラウンド(そして勝ち上がった際には決勝ラウンド)で使用する相方に選択している。さらにはその亜種も含めれば合計で13人がバントカラー(白青緑)でカンパニー(《集合した中隊》)を中核としたデッキを持ち込んでいる。実に半数だ。

 残りの11人が《約束された終末、エムラクール》ないしなんらかのエルドラージをフィニッシャーに据えたデッキを持ち込んでいるのも注目ポイントで、「デュエルデッキ:エムラクール vs カンパニー」なんて冗談もつぶやかれたほどだ。

 「バント・カンパニー」のリストも個人によって差が出ることは、以前に特集で紹介した通り。ここで再度7人のリストを見比べても良いが、それより皆さんが気になるのは亜種デッキ6つの方かもしれない。

 このうち5つは、既に当コラムでも紹介した「バント人間」だ。『異界月』発売前の前環境において日本が誇るプロツアー殿堂顕彰選出者・渡辺雄也が作成し、各地のグランプリで初日全勝の記録を残し続けた強力なデッキだ。カードプールが拡大・新たなるデッキの誕生・そして煮詰まった現環境においてもこのデッキが活躍することを、世界選手権の直前のトーナメントで世界選手権参加者であるブラッド・ネルソン/Brad Nelsonが証明し、これを参考に生みの親である渡辺や他のプレイヤーがチョイスしたという経緯がある。ブライアン・ブラウン=ドゥイン/Brian Braun-Duinもこれを手に純正「バント・カンパニー」を2連続で斬って優勝、世界王者となったことも記憶に新しい。

 さて、では残りの1つは? これは前世界王者セス・マンフィールド/Seth Manfieldが持ち込んだ「バント・スピリット」だ。

Seth Manfield - 「バント・スピリット」
世界選手権2016 8位 / スタンダード (2016年9月1~4日)[MO] [ARENA]
1 《
4 《平地
4 《
4 《港町
4 《梢の眺望
4 《ヤヴィマヤの沿岸
4 《進化する未開地

-土地(25)-

4 《霊廟の放浪者
4 《鎖鳴らし
4 《無私の霊魂
1 《族樹の精霊、アナフェンザ
4 《ネベルガストの伝令
4 《反射魔道士
4 《呪文捕らえ
2 《大天使アヴァシン

-クリーチャー(27)-
4 《集合した中隊
2 《オジュタイの命令
2 《意思の激突

-呪文(8)-
1 《霊体の羊飼い
1 《本質の変転
1 《石の宣告
1 《否認
1 《絹包み
2 《即時却下
1 《過去に学ぶ
1 《悲劇的な傲慢
1 《意思の激突
3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン
2 《実地研究者、タミヨウ

-サイドボード(15)-

 「そうきたかぁ~」というのが初見の印象。スピリットデッキは前環境より存在しており、青白の《往時の主教》などの軽量スピリットと打ち消し呪文で構成された、いわゆるクロックパーミッションデッキだった(クロックパーミッションって何?となった方は詳しくは前環境のデッキも含めてコチラでご確認を)。

 このデッキは、『異界月』のプレビューで数々のスピリットが公開されていくにつれ「次の環境で強いんじゃないのか」と注目を集めていくことに。そして実際にそれを証明しようとプロツアーにスピリットデッキを持ち込んだプレイヤーたちもいたが、残念ながら彼らは大きく勝ち越すことはできず、その後のグランプリなどでも新たなるデッキと「バント・カンパニー」を押しのけることはできず......というのが8月末までのスタンダード環境。

 しかしながら、そんな立ち位置のデッキを世界王者はチョイスした。何故か? 実は王者も、プロツアー前にはこのデッキが気になっていた。彼が所属するチーム内でもバントカラーのスピリットデッキが調整されていたのだが、結局納得する形にはたどり着けずに、プロツアーでの使用を断念したのだそうだ。しかしながら世界選手権に備えて、Magic Onlineにてこのデッキで100回以上の対戦を行った結果......好感触を覚えたそうで。デッキ登録の朝まで悩み、また「バント・スピリット」の完成形にたどり着いたという確証もないが、よく出来てはいる自信はあってこのデッキの使用を決めたとのこと。使用者がおそらく自分1人になるであろうこのチョイスに対して、ある思いもあったそうだ。詳しくはこちらの記事にて

 さて、デッキの動き自体は単純だ。1ターン目は《霊廟の放浪者》を出せれば御の字。2マナのクリーチャーも9枚入っているため、たとえ1ターン目に土地をタップインでゲームを開始しても2ターン目にはなんらかのスピリットを戦場に出すことができるだろう。というか出せないと少々苦しい。これをサポートするために、少しでもアンタップイン率の高い《港町》が青白の土地の枠を埋めている。

 2マナのスピリットを出したら、後は構えて殴る、が望ましい。3マナ域には《ネベルガストの伝令》と《呪文捕らえ》という瞬速持ち2種類が採用されている。

 これらの妨害能力を持ったスピリットを相手のアクションに合わせて展開するか、あるいは《意志の激突》《オジュタイの命令》で打ち消すか。《鎖鳴らし》ですべてのスピリットが瞬速を得ている状況ならばそれらも構えて、とにかくインスタント・タイミングで動いて相手の邪魔をしつつスピリットでピチピチと対戦相手のライフを削る。そういう、どちらかといえば通好みのデッキだ。自身のメインで動いたのは《反射魔道士》だけだったというゲームも少なくないだろう。

 《大天使アヴァシン》も瞬速で駆けつけるフィニッシャーだし、そもそも《集合した中隊》もインスタント。とにかく隙なく立ち回ることのできるデッキだ。《集合した中隊》から《ネベルガストの伝令》と《反射魔道士》が出てきて相手の攻撃をいなして......ということを繰り返せば、段々と相手の心も折れてくる。2点3点のボディブローも重くのしかかってくる。

 ものすごくカードパワーの高い1枚を叩き付けて逆転勝ち、ということができない構造であるため、しっかりとしたプレイングを求められるデッキであることは間違いない。僕らの世代はマジックを始めたばかりの頃に土地とクリーチャーとソーサリーしか入っていないデッキでマジックというものの基本について勉強させられたというプレイヤーも少なくない。このデッキはその真逆だ。どんな時にでも何でもできる分、一歩間違えれば簡単に何もできぬまま敗れることがある。綱渡り感のあるこういったデッキ、自分のマジックの実力を測るにはうってつけのデッキかもしれない。

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