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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:徴兵バント(スタンダード・『アラーラの断片』~『エルドラージ覚醒』)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:徴兵バント(スタンダード・『アラーラの断片』~『エルドラージ覚醒』)

by 岩SHOW

 バント。安定感のあるもの、という印象を受ける言葉である。手堅く送りバントで、という話ではなく......マジックにおけるバント(緑白青の3色)は、堅実なデッキになるイメージがある。例えば前スタンダード環境後半に活躍し一大勢力を築いた「バント・カンパニー」。《集合した中隊》から《死霧の猛禽》》や《跳ねる混成体》なんかを展開し、《層雲の踊り手》《棲み家の防御者》でサポートする、手堅い強さを持ったデッキだ。当コラムでも既に紹介した「バント・トークン」も安定した攻めを見せるデッキだった。

 時を遡って、『ラヴニカの回帰』があったころのスタンダードでは「バント・コントロール」の姿をよく目にした。《スラーグ牙》に《至高の評決》《スフィンクスの啓示》などのパワーカードで相手の心をへし折るこのデッキは、メリッサ・デトラ/Melissa DeToraをプロツアー史上初の女性プレイヤーのTOP8入りまで導いたのも記憶に新しい。

 プロプレイヤーでバントと言えば......グランプリ・仙台2010を制したブライアン・キブラー/Brian Kiblerの「Next Level Bant」もまたどっしりとした安定感を誇るデッキだったなぁ。《精神を刻む者、ジェイス》《遍歴の騎士、エルズペス》《復讐蔦》ら強力なカードを、多数のマナ・クリーチャーと《海門の神官》《前兆の壁》で確実にプレイできるようにするこのデッキは、使用者のキブラーをして「この環境にこれほど安定したデッキは他にない」と言わせしめた。通称キブラーバント、コピーして回しているプレイヤーを何人見たやら覚えてないな......。

 こんな具合に、安定感のあるデッキは多い一方、例えば《炎樹族の使者》などの連打から《ゴーア族の暴行者》でぶち抜く「グルール・アグロ」や、《ファルケンラスの貴種》《雷口のヘルカイト》を叩き付けて怒涛の攻めを見せる「ラクドス・アグロ」のような、突き抜けた爽快感があるデッキは少ないように思える。安定感と爽快感、どちらを重視するか......これらの両立は不可能なのか? 否、可能である。かつて、安定してドデカい花火を打ち上げられるバントカラーのデッキが存在した。先述のグランプリ・仙台2010でもTOP4入りを果たした、当時の人気デッキの1つ「徴兵バント」だ。

伊藤 大明 - 「徴兵バント」
グランプリ・仙台2010 4位 / スタンダード (2010年6月5~6日)[MO] [ARENA]
4 《
2 《平地
2 《
4 《霧深い雨林
2 《新緑の地下墓地
1 《乾燥台地
1 《広漠なる変幻地
2 《陽花弁の木立ち
1 《活発な野生林
4 《天界の列柱
2 《セジーリのステップ

-土地(25)-

4 《極楽鳥
4 《貴族の教主
4 《水蓮のコブラ
4 《聖遺の騎士
3 《不屈の随員
2 《悪斬の天使
3 《失われたアラーラの君主

-クリーチャー(24)-
2 《エルドラージの徴兵
4 《精神を刻む者、ジェイス
3 《遍歴の騎士、エルズペス
2 《ギデオン・ジュラ

-呪文(11)-
2 《ロウクスの戦修道士
2 《静寂の守り手、リンヴァーラ
1 《ジュワー島のスフィンクス
1 《無傷の発現
2 《剥奪
2 《否認
2 《バントの魔除け
2 《忘却の輪
1 《思考の泉

-サイドボード(15)-

 『エルドラージ覚醒』にて登場したクレイジーすぎるカード《エルドラージの徴兵》。8マナでクリーチャー1体に+10/+10という驚異的なサイズアップを施し、トランプルと滅殺2を付与する......まるでバズーカ砲のようなオーラだ。

 このオーラを、なんとかして現実的に運用できないか?という思いに応えるカードが、なんと既にスタンダード環境に存在していた。《失われたアラーラの君主》がそうだ。明らかに雲となって浮遊しているイラストなのに、飛行を持たない6マナ4/5賛美、というリアクションのできないスペックのカードであったが......それまで割と空気であった、下の能力「あなたがコントロールするいずれかのクリーチャーが単独で攻撃するたび、あなたはあなたのライブラリーからそのクリーチャーにエンチャントできるオーラ・カードを1枚探し、それをそのクリーチャーにつけた状態で戦場に出し、その後あなたのライブラリーを切り直してもよい。」の一文に大きな意味がもたらされたのだ。

 マジックの構築フォーマットの歴史において......特にその前半では、自軍のクリーチャーを強化するオーラはあまり活躍できなかった。それをつけたクリーチャーが除去されるだけで、簡単に1対2交換を取られてしまうからだ。「呪禁」という、相手の除去を受けずにこちらのオーラをつけるにはうってつけの能力を持ったクリーチャーが登場したのは、その歴史の後半も後半、近年になってからのこと。安全に運用できず、またそのリスクに見合うほど威力があるわけでもなかったオーラが、リミテッドはともかく構築の場で活躍するのが難しいのは当然と言えば当然であった。

 しかし、この《失われたアラーラの君主》の能力はその1対2交換を取られて大損する、というオーラのデメリットを帳消しにしてくれる。手札を消費せずに、ライブラリーから戦場に出すので、それをつけるクリーチャーが除去されてしまっても実質的に1対1交換だ。もし除去されなかったら、持ってくるのは破壊力抜群の超重量級オーラ。《極楽鳥》が攻撃してきたと思ったらいきなり10点。もはや隕石だ。《悪斬の天使》についたりすると......あぁ、想像で白米が食えそうだ。

 《失われたアラーラの君主》自体が6マナと重めのカードではあるが、そこはバント。合計16枚のマナを伸ばすクリーチャーを用いて、思っているよりもスムーズ・スピーディーに徴兵パンチをかましてくる。もし《エルドラージの徴兵》が手札に来てしまっても、8マナぐらいならこのクリーチャーたちが生み出してくれるのでなんとかなる! あるいは《精神を刻む者、ジェイス》の能力でライブラリーに押し込んでしまえば良いのだ。このグランプリのTOP8でも多数使われた《精神を刻む者、ジェイス》。その名を満天下に轟かせる、某デッキが登場するのはまだ先の話である......(機会があったら書きたいね)。

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