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『イクサラン』プレインズウォーカー達の軌跡

『イクサラン』プレインズウォーカー達の軌跡

By Mayuko Wakatsuki

 ご無沙汰しておりました、若月です。「マンガで分かる! Magic Story『イクサラン』」はお読み頂けましたでしょうか? 『イクサラン』の物語を非常にわかりやすく、可愛らしい絵柄でまとめて頂きました。ストーリーに興味が湧いてきました? ぜひ本編も読んでみて下さい、きっと引き込まれますよ。

 さて『イクサラン』の物語では四人のプレインズウォーカーが活躍していました。お馴染みの二人と、新顔の二人。それぞれの軌跡をたどり、『イクサランの相克』に備えましょう!

ジェイス・ベレレン&ヴラスカ

 ジェイスは卓絶した精神魔道士であり、ラヴニカ次元のギルドを調停するギルドパクトの化身でもあります。ゼンディカーでの戦いを経て、彼はプレインズウォーカー連合であるゲートウォッチの一員として多元宇宙のために奮闘を続けてきました。

 一方でヴラスカは、恐るべき石化の凝視を用いるゴルゴンの暗殺者です。ラヴニカ次元でゴルガリ団の一員として働きながら、アゾリウス評議会に対するかつての遺恨を晴らそうとしています。同時に彼女はゴルガリの現ギルドマスターへと並々ならぬ不満を抱き、ギルド内でも踏みにじられる者の救済を目指しています。また、余所者であるジェイスがラヴニカの平和を調停する現状を快く思わず、かつて自らの手の内へ引き込もうとしました。

 ラヴニカの平和を司るジェイスと、それを忌々しく思うヴラスカ。敵同士である二人が、かつて争った都市世界ラヴニカとは全く異なるイクサランの大海原で再会しました。

漂流と再会

 アモンケット次元にてゲートウォッチはニコル・ボーラスと対峙し、各個撃破の末に打ち負かされました。中でもジェイスは真っ先に標的となりました。

 ジェイスは強烈な精神攻撃を受け、必死のプレインズウォークで逃走しました。命こそ助かったものの、無事では済みませんでした。彼は自分が何者なのかも忘れ、未知の次元イクサランの無人島へたどり着いたのでした。ジェイスが記憶へとダメージを受けるのはこれが初めてではありませんが、今回のそれは非常に深刻でした。そして彼は自分のその力が何なのかもわからぬままプレインズウォークでの脱出を試みましたが、別の何かの力に阻止されてしまいました。

 否応なしに、ジェイスは無人島生活を開始しました。非力な彼でしたが、試行錯誤しながら住処を確保し、島を探検し、食料を調達し、さまざまな道具を作り出して生活を向上させる。そこには苦労だけでなく好奇心を満たす純粋な喜びと、達成感と、自由がありました。そして生活が軌道に乗って来た頃、彼は自身の能力の一つである幻影術を思い出します。自分をわずかでも取り戻せた嬉しさ以上に、それは孤独を強く思い知らされました。

 ジェイスが滞在していた島は、生きていくことに限れば問題はありませんでした。ですが海の向こうにあるものを見たい、誰かに会いたいという好奇心と、自身の力を証明したいという欲求に駆り立てられ、彼は筏を自作して船出しました。しかし数日後、彼は難破した末に不毛の島へ流れ着いてしまいます。飢えと渇きに苦しむ中、彼は一隻の海賊船によって救助されました。記憶を失った彼は覚えていませんでしたが、それは彼がラヴニカにて敵対したゴルゴン、ヴラスカが率いる船でした。

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 なぜ彼女がイクサラン次元にいたのかについては、少し遡ります。

 ラヴニカで暗殺者として活動していたヴラスカはある時、ニコル・ボーラスからの依頼を受けました。イクサラン次元にあるという「不滅の太陽」を入手すること、報酬はゴルガリ団のギルドマスターの座。その話と依頼主そのものを疑いながらもヴラスカは了承しました。彼女はそのために必要な「魔学コンパス」と航海知識を与えられ、イクサラン次元へと向かいました。

 数か月後、ヴラスカは海賊船「喧嘩腰」号の船長としてイクサランの大海原を航海していました。無名の彼女が乗組員を集めるのは困難でしたが、適正な支払と航海技術の知識、そして身の守りをもって自らを証明しました。やがて乗組員との間にも暗黙の信頼が生まれ、ヴラスカは人生で最も自由かつ満ち足りた期間を過ごしていると実感しました。

 一方で目的地を示すはずの魔学コンパスは不可解でした。ある時、不意に方角を変えたコンパスに従って進んだ先で、漂流者を発見して船が止まりました。ヴラスカはその姿を見て愕然としました。不毛の島に横たわっていたのはあのジェイス・ベレレンだったのです。すぐさま敵意が燃え上がり、自ら始末しに向かいました。ですが酷く消耗した彼の様子は殺意よりも疑問を呼び起こしました。彼女は即座に殺すのではなく、事情を聞き出すことにしました。

 食事と水を与えた後、ジェイスが語った内容は全く想定外のものでした。自分が誰なのかわからない、何も覚えていない......ヴラスカはその返答以上に、彼がまとう率直かつ友好的な空気に困惑しました。純真で素直、「人の姿をした忠犬」のような様子に彼女の殺意はすっかり削がれてしまいました。彼の処遇をどうするものか悩んだ結果、ヴラスカは暗殺者の信条に従って殺さないことを決断しました。

 しばしの日数が過ぎ、薄暮の軍団の船との戦いでジェイスはその不可視魔法で有用さを示しました。そして彼はヴラスカの石化能力を目の当たりにしますが、それを怖れるのではなく純粋に驚嘆し、助けてもらったことへと素直な感謝を述べたのです。

 その馴染みない反応をどう受け取って良いかわからず、ですが彼が間違いなく有用だと知ったヴラスカは、ジェイスを正式に乗組員として加えることに決めました。

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新たな関係

 イクサラン大陸を目指す航海の途中、「喧嘩腰」号は休息のために孤高街へ寄港します。ジェイスはそこで任務の詳細を知らされるとともに、魔学コンパスの解明を依頼されました。

 そして船へ戻りながら、ジェイスはヴラスカと語り合いました。心が読めるというのはどういうものか。自分達がいた遠くの街ラヴニカ。彼はヴラスカの心に映ったイメージをとらえ、美しい幻影を夜空に映し出しました。高層建築が立ち並ぶ都市に、柔らかく雪が舞い降りる。心を見たことを諫めるヴラスカですが、その目は遠い故郷を想っていました。

 「喧嘩腰」号に戻った二人は静かな波音を聞きながら更に語り合いました。テレパス能力の恐ろしさと、過去にどれほど非道な行いを成してきたのかという怖れ。記憶を失うのは切なく悲しいこと、ですが忘れてしまえればいいと思うこともある......ジェイスはヴラスカから辛い過去を打ち明けられ、黙って耳を傾けました。そして思わず彼女が吐いた弱音には、記憶や過去を失ったからこその言葉で励ましました。自分というのは、そうなろうと決めたもの。世界からどう見られるかは、自分がどう見せるかにかかっている。そして見せるべきものは、未来をどうするかという選択。その真摯な言葉は、間違いなくヴラスカの心に響きました。

オラーズカへ

 以来、ヴラスカの信頼に応えようと、ジェイスは魔学コンパスの解明を目指しました。それが「強い魔力の発現に反応している」ことが判明すると、黄金の都は何らかの巨大なエネルギーを発する中枢なのかもしれないと彼は考えました。

 一方でイクサラン大陸への上陸を目前にして、「喧嘩腰」号は猛烈な嵐に見舞われます。同じく嵐に巻き込まれた薄暮の軍団の船と衝突し、難破しながらも彼らは岸へ辿り着きました。

 吸血鬼との戦いを仲間に任せ、ヴラスカとジェイスは小舟を奪って内陸へ向かいます。ですがいくつもの勢力が魔学コンパスの存在を知っており、ヴラスカの手にあるそれを狙っていました。吸血鬼ヴォーナ、太陽帝国騎士ファートリと川守りのティシャーナ。争奪戦と追跡を経て二人は追いかけてきた乗組員らと合流すると、一路コンパスの針に従ってオラーズカを目指しました。

 そして山を越え、森を抜けた長い道のりの先に、オラーズカを望む丘がありました。鬱蒼とした木々の中から突き出た黄金の尖塔。ジェイスはそれを見て、不滅の太陽についての推測を口にします。ここにあるべきではないもの、あるいは外から持ち込まれた何か......そして、彼らの目の前で都が動きだしました。都が上昇し、その姿が露わになっていきます。同時に地面が鳴動し、激しい揺れとともに地割れが走り、川の水が勢いよく流れ込みました。ジェイスはそれに巻き込まれ、滝壺に落ちまいと岩にしがみつきました。ヴラスカは彼を助けに向かい、手を伸ばしましたが共に落下してしまいました。

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 ヴラスカが必死に水面へ顔を出すと、ジェイスが先の砂洲で血を流して横たわっているのが見えました。泳いで向かおうとした時、彼女の頭を鋭い痛みが突き刺しました。そして見えたのはあの街、ラヴニカの風景――ジェイスの記憶が流れ込んでいたのでした。ラヴニカ、アゾールの公会広場。彼が生けるギルドパクトとなった日。彼女は戦慄とともに悟りました。ジェイスは記憶を取り戻しつつあるのです。つまりそれは、自分達の過去を思い出すことを意味すると。そうなってしまったら、今の関係は終わりを告げる......それでもヴラスカは彼へ向かって必死で泳ぎました。仲間として信頼を築き、そして自分の話へと真摯に耳を傾けてくれた彼は、かつて敵として死を望んだジェイスは、今や危険を冒しても、絶望の中ででも助けたい存在となっていたのです。

 

ファートリ&アングラス

 太陽帝国の象徴でもある恐竜、それを駆る騎士がファートリです。剣と魔法の比類なき腕前、そして最も強大な恐竜をも支配できる天性の才能によって、民衆や皇帝から厚い信頼を寄せられています。同時に彼女は「敵は殺すのではなく実力と説得で降伏させるべき」という帝国の戦闘規範を忠実に守っています。

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 そんなファートリには何よりも大きな一つの目標がありました。それは一世代に一人だけが与えられる「戦場詩人」の座に就くこと。太陽帝国では、詩文とその演技術が重要視されています。戦士は戦闘における能力だけでなく、その経験を創造的に表現する力も兼ね備えてこそとされています。ファートリは皇帝の心をも動かす優れた詩人として知られており、正式にその座を得てはいないながら既に戦場詩人と呼ばれているほどです。

 太陽帝国は新皇帝のもと、華々しい拡大政策のさなかにありました。同時に鉄面連合の海賊や薄暮の軍団の吸血鬼という外敵が訪れていることもあり、ファートリはいくつもの戦いに赴いては華々しい戦果を挙げてきました。ですがある時、そのような任務の一つで彼女は人生をすっかり変えてしまう出来事に遭遇します。

未知との出会い

 沿岸部での哨戒任務にて、ファートリは見たこともない怪物に襲われました――少なくとも、彼女の目には怪物として映りました。

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 雄牛の頭に人の身体――炎の鎖を操るミノタウルス、アングラス。不滅の太陽を探している、怪物はそう言うと焼けつく鎖でファートリに襲いかかりました。非常に手強い敵に直面し、死を意識した瞬間、彼女の胸の奥で何かが弾けました。すると目の前に全く見たこともない世界が姿を現し、ですが次の瞬間には強烈な力で引き戻されたのです。更に不可解なことに、そんな彼女を見たアングラスは攻撃を止めて態度を変え、自分への協力を願い出ました。ファートリはわけがわからず、アングラスを切りつけて逃走しました。

 ファートリの身に何が起こったのか、把握しているのは対峙したアングラスの方でした。自分と同じ存在、プレインズウォーカー。彼はここではない世界から訪れ、ですが謎めいた束縛によって帰れなくなっていたのでした。愛する娘二人を故郷に置いたまま、数年が経過していました。そして帰還する手段を求め、海賊となって不滅の太陽を追い求めていたのです。

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 一方でファートリは、目にした幻視を自分なりに解釈しました。あれは伝説にうたわれる黄金の都、オラーズカなのではないか――迷いながらもその体験を皇帝に明かすと、彼は何かを確信したようでした。太陽帝国の価値観において、太陽は三つの相で現されます。白の創造、赤の破壊、緑の持続。ファートリは既に最初の二つの恩恵を受けており、最後の一つを探究する時が来たようだと。そして皇帝はファートリへとオラーズカ探索を命じました。黄金の都を発見し、不滅の太陽の力を手に入れたなら戦場詩人の地位を与えると。驚きながらも、ファートリは頷きました。太陽帝国のために黄金の都を見つけ出し、その力を持ち帰り、戦場詩人の地位を得る。これまでに赴いてきた戦いとは全く異なる、未知への挑戦。それは不安と同時にとても心躍るものに思えました。

川守りとの協力

 オラーズカ探索のためにファートリがまず求めたのは、川守りの案内人でした。現在の帝国にとっては戦争相手ではあるものの、吸血鬼や海賊という共通の敵がいる今は説得も可能と彼女は考えたのです。ファートリは川守りの長老ティシャーナと出会い、太陽帝国と川守りが共に生き残るためには都を見つけねばならないと説得しました。ティシャーナは了承するも、都の力を我がものにしようとするならば容赦はしないと付け加えました。あくまで川守りは都の番人であり、余所者の手に渡ることを防ぐのがその役割なのです。

 とはいえ彼らの間でも、時代の変化とともに異なる考えが生まれているのは確かでした。一部の川守りはティシャーナの警告を無視し、率先して黄金の都を探しに向かっていたのです。

 またティシャーナは、川守りの間に流れる噂を伝えました。オラーズカの位置を示すコンパスを持つ海賊船船長がいる。薄暮の軍団の吸血鬼も同じくそれを狙っていました。

 コンパスはいくつもの勢力を渡り歩き、ファートリは吸血鬼ヴォーナを執拗に追跡してそれを入手するものの、直ちに鉄面連合に取り返されてしまうだけでなく、ティシャーナに先へ行かれてしまいました。とはいえオラーズカは目前、彼女は自力で向かおうとしますが、それを呼び止める声がありました。この全てが始まった元凶、アングラス。だがこの時アングラスはそれ以上の危害を加える様子はなく交渉を申し出ました。わけがわかりませんでした。人殺しの怪物が友になろうと言ってきているとは。


 以上になります。不滅の太陽の入手を他の誰でもなくヴラスカへと依頼したボーラス、その人選には更なる狙いがあるとされています。その不滅の太陽とは何なのでしょう? オラーズカには何が待ち受けているのでしょう? そしてジェイスとヴラスカの関係は一体どうなってしまうのでしょう? 気になって仕方ない『イクサランの相克』。物語は1月スタートです。それではよいお年を!

(終)

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