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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

得られた教訓 その3

Mark Rosewater
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2023年5月22日

 

 3月に、私がデザインをリード(あるいは共同リード)した各セットでの経験から得られたことを語るDrive to Workのポッドキャストをもとに、新しく「得られた教訓」というシリーズの記事を書き始めた(その1その2)。前回は初代『ゼンディカー』まで取り上げたので、つまりそれは『ミラディンの傷跡』から始まることを意味する。

『ミラディンの傷跡』

教訓:「一番いいところを飛ばさないこと」

 私がリードを務めたすべてのデザイン・チームの中で、最低の時期は『ミラディンの傷跡』の間にあった。デザインが取り上げられることを恐れたのはそのときだけだった。こんなことが起こったのだ。

 ミラディンを初めて訪れたとき、我々は。もう一度訪れたときに続きをすることを計画して物語の要素をほのかに含めていた。その物語の要素とは、ファイレクシアンの再登場だった。

 ファイレクシアンの初登場はマジックの2つ目の拡張セットの『アンティキティー』で、兄弟戦争の物語上のものだった。その後、ウェザーライト・サーガでの主な敵役になったのだ。その物語の終わりに、ウルザやウェザーライト号乗組員の活躍のお陰で、ファイレクシアンは多元宇宙から一掃された。

 しかし彼らは恐るべき敵で、いつの日か復活するだろうとわかっていた。カーンがファイレクシアの油をミラディンに持ち込んでしまうというアイデアは、我々がミラディンの次元を構成している間に思いついたものだ。我々はいくつかのほのめかしを作り、そして10年間それを放置しておいた。

 『ミラディンの傷跡』ブロックの最初の計画では、第1セットが『新たなるファイレクシア』になる予定だった。そう、ファイレクシアは復活したが、どのようにして復活したのかはわかっていないのだ。そのブロックの第3セットで、「猿の惑星」のエンディングのような形で、新ファイレクシアはファイレクシアンに占領されたミラディンだったと開示するつもりだった。

 私は敵としてのファイレクシアンが大好きで、再登場させることに興奮していたのだ。初代『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックから主席デザイナーになった私は、それ以降すべてのブロックで明確なブロック企画を立てていたが、『新たなるファイレクシア』ブロックをどうすべきかについて決めかねていた。ファイレクシアンを表すメカニズムは思いついたが、何か足りないものがあり、それが何かはわかっていなかった。

 状況は悪化していき、ビル・ローズ/Bill Roseが介入してきた。彼は私に問題解決のための締め切りを指定し、解決できなければセットのデザインを他の誰かに任せると言ってきたのだ。デザイン・チームの編成が変更された。その会議では、ビルは私にそれまでないほど心強い口調で、私がその問題を解決できる方法を語ってくれた。私は、この種の問題に卓越した優秀なマジックのデザイナーだと。

 私は、直面している問題についてかなりの時間をかけて考え、そして大きな解決の転機を得た。私はビルのもとに戻ると、「作るブロックを間違えていた。」と言ったのだ。我々にはクールな物語があるのに、それを飛ばしていたのだと。前回はミラディンにいて、当時は(ほぼ)100%ミラディンだった。戻ってきて、今は(ほぼ)100%新ファイレクシアになっていた。その2つの状態の間はどう変化していったのか。それが物語なのだ。なぜそれを飛ばしたのか。

 私は新しいブロックを提案した。ミラディンで始める。我々が覚えているあの次元だが、何かが進行していて、ミラディン人はそれがなにか気づいていないのだ。第2セットでは、ファイレクシアンが増大して、全面戦争になる。第3セットの舞台は新ファイレクシアになり、ファイレクシアンの勝利を見ることになる。この会議の席上で、ビルは、第3セットの発売までどちらが勝つかをユーザーには伏せておくことを提案してきた。第3セットを『清純なるミラディン』と『新たなるファイレクシア』のどちらかだと宣伝して、プレイヤーには第3セットを手にするまでこの戦争の行く末はわからないようにするのだ。

 このデザインで得た大きな教訓が、木を見て森を見ず、である。私はその物語を伝えることばかりに注目していて、一歩引いて「それは伝えるべき物語か」ということを問い直すことができていなかったのだ。私が本質的にすべきでないことをする方法を考え続けていたために引っかかっていたが、一歩引いて私が伝えたい物語を理解することができたときにデザインは溢れ出したのだった。ファイレクシアによるミラディン制圧がブロックの中心に来たことで、ブロック全体の企画はすぐに決まった。

『イニストラード』

教訓:「トップダウン・デザインは、情緒の再現が基である」

 『イニストラード』は、私が最も誇りに思うデザインの1つである。我々が『オデッセイ』を作ったとき、ブレイディ・ドマーマス/Bredy Dommermuthと私が、メカニズムと与えられたクリエイティブが噛み合っていないと話し合ったことから生まれたものである。(当時、我々がマジックのセットを作り、その後でクリエイティブ・チームがクリエイティブ要素を与えていた。当時、ブレイディはクリエイティブ・チームに入る前だった。)ブレイディは、墓地中心のセットにはゴシックホラーの次元があるべきだと考えていた。私はそれに同意し、数年をかけてそのセットを現実のものにしたのだ。時間はかかったが、最後に、私はホラージャンルをもとにしたセットを作る許可を得た。

 マジックは『神河物語』でトップダウンのブロックに挑んだが、成功したとは判断されなかったので、私は『イニストラード』を使ってトップダウン・デザインの例を示したいと考えたのだ。私は、このセットをプレイすることでホラー映画を見たりホラー小説を読んだりしたときと同じような感情を引き起こすことが鍵となると考えていた。中核となる感情は、恐怖である。マジックのゲームで恐怖を引き起こすにはどうすればいいか。

 そのための方法はいくつか存在した。1つ目は変身だ。クリーチャーが、さらに恐ろしい存在に変身するとしたらどうだろうか。そうすれば、そのクリーチャーが戦場にいる間、対戦相手はそれがなりうる姿に警戒しなければならない。2つ目は、普通を予想できないものにすることだ。通常マジックで起こることで、このセットでは何かを増大させるものがあったらどうか。我々は、「通常マジックで起こること」としてテーマ的にふさわしい「死」を選んだ。我々はこれらを、怪物を基柱とした構造と組み合わせて、必要だと思った雰囲気を再現したセットを作った。

 我々はまた、そのジャンルに関連する素材の長いリストを作り、それらを再現するカードをデザインした。名前から始めて、その名前を再現するようにカードのメカニズムをデザインするという形で多くのカードをデザインしたのだ。デザインを示唆的なものにしていくほど、プレイテストの反響は良くなり、のちにユーザーからの反響もよかった。この情緒的な芳醇さはこのセットでの我々の指針となり、そして、根本的に、それ以降のトップダウン・セットを作る上での定形になっていったのだった。

『闇の隆盛』

教訓:「テーマを楽しいものにせよ」

 当時、私はマジックの年の最初の大型セット(「秋」セット)を担当していたが、次の大型セットは『ラヴニカへの回帰』であり、再訪は(構造上の問題やテーマの大半がすでに片付いているので)新しい次元に比べてデザインするのが少し簡単なのでケン・ネーグル/Ken Nagleに任せるのにふさわしい最初の大型セットだと考えた。それによって私は、それまでそれほど多く経験してこなかった小型セットのリードが務められることになった。実際、私がデザインのリードを務めた小型「冬」セットは『闇の隆盛』だけだと思う。

 『闇の隆盛』のテーマは、人間が絶滅の瀬戸際にある、ということだった。初代『イニストラード』で状況は悪化していたが、ブロックの第3セット『アヴァシンの帰還』に向けて状況をさらに悪化させなければならなかったのだ。(セット名でわかる通り、アヴァシンは獄庫から開放されて人間を救いに戻ってくる。)

 初期デザインで、私は人間の窮状に焦点を当てることにかなりの時間を費やした。状況が切迫していることを重視する窮地などのメカニズムを作った。当時は、現在の展望デザイン、セットデザイン、プレイデザインという構造ではなく、デザインとデベロップというシステムになっていた。我々が「デヴァイン/Devign」と呼んでいたデザインの最後の2ヶ月は、デベロップ・チームからの意見を受けて、問題を解決するために変更することができる期間だった。

 トム・ラピル/Tom LaPilleは『闇の隆盛』のリード・デベロッパーだった。デザインについての彼の見解は、「憂鬱なもの」というものだった。我々はこのセットのリソースの多くを、人間にとっての苦境を描くのに費やしていた。では、怪物にとってはどうなのか。その観点から見ると、状況は最高だった。彼らはさらに力を増し、最大の目標の1つを達成しようとしていた。怪物たちにとって心躍るものは何か。

 トムのコメントは、まさに正鵠を射たものだった。プレイヤーがセットをプレイするとき、彼らはプレイしているものを体験することになる。『闇の隆盛』や『イニストラード』をプレイして楽しいことは、怪物の側をプレイすることだ。我々はそれを楽しくしなければならない。デザインの目的は、したことで嫌な気分になるようにすることではなく、楽しめるようにすることであり、怪物であることの理屈抜きの興奮を体験できるようにすることである。つまり、派手な怪物のメカニズム(不死になった)が必要で、このセットの怪物テーマを扱えるようにする必要があったのだ。私はデベロップへ提出する前にそれらすべてを終え、セットを大きく改善できた。

 これは非常に重要な教訓で、すべての新セットに適用するようなものになったと考えている。セットをプレイするときにプレイヤーが誰になるのか、そしてその体験を可能な限り心躍るフレイバーに富んだものにするにはどうしたらいいか。

『ギルド門侵犯』

教訓:「他からのメカニズムを使え」

 『ラヴニカへの回帰』ブロックはデザイナー教育の助けとしていい年になったので、私はケン・ネーグルに『ラヴニカへの回帰』のデザインをリードさせ、『ギルド門侵犯』のデザインはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebと共同でリードすることにした。

 初代『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックと『ラヴニカへの回帰』ブロックの間での最大の変化は、ブロックの構造を変え、ギルドの配分を変えたことだった。初代『ラヴニカ:ギルドの都』ブロックには、大型セット1つと小型セット2つがあり、大型セットにはギルド4つ、小型セットにはそれぞれギルド3つが割り当てられていた。『ラヴニカへの回帰』ブロックでは、大大小(あるいは大大中)のブロック構造に変化していて、2セットにはそれぞれギルド5つ、1セットにはギルド10個が割り当てられた。『ラヴニカへの回帰』にはギルド5つが割り当てられていた。『ギルド門侵犯』には、残りの5つのギルドがあることになる。そして、『ドラゴンの迷路』では10個のギルドすべてを使うのだ。

 『ラヴニカへの回帰』ブロックのデザインを始める直前に、私はグレート・デザイナー・サーチ2(GDS2)を行なった。詳しくない諸君のために説明すると、何年も前に当時の上司であるランディ・ビューラー/Randy Buehlerから、新しいデザインの才能を見つける方法を訊ねられて、私は奇想天外なアイデアを思いついた。「Project Runway」や「Top Chef」のマジック版というべきデザイン協議会を開くのはどうか。基本的な条件を満たしていれば誰でも参加できるようにして、それから候補者の人数を減らしていくのだ。

 週ごとに、デザインの課題を出す。参加者の提出物を審査して、1人ずつ脱落していく。最後に、3人の決勝進出者をウィザーズ・オブ・ザ・コーストに招き、インタビューと最終問題に挑んでもらう。第1回グレート・デザイナー・サーチの参加者のうち5人はインターンシップを勝ち取り、うち4人はウィザーズで就職した。上位2人であるアレクシス・ヤンソン/Alexis Jansonとケン・ネーグル/Ken Nagleはそれぞれ、『ラヴニカへの回帰』ブロックのセットでデザインのリードを務めている(ケンは『ラヴニカへの回帰』、アレクシスは『ドラゴンの迷路』)。

 グレート・デザイナー・サーチ2では、そのやり方を変えた。各参加者に次元のアイデアを出してもらい、課題はそのセットの要素を組み上げることだった。私はGDS2で作られたメカニズム2つを使ったので、これは『ギルド門侵犯』のデザインで重要になった。

 そのメカニズムの1つが、進化だった。GDS2に優勝することになるイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerは、前史時代の次元を作った。彼は、進化を描いたメカニズムが必要だった。そのメカニズムはクリーチャーが持つもので、それより大きなクリーチャーが自軍で戦場に出たら+1/+1カウンターを得るというものだった。『ギルド門侵犯』の5つのギルドのうち1つが、緑青のギルド、シミックだった。シミックは最初の登場時に、自然での実験と+1/+1カウンターというテーマを持っていた。進化はこれにまさにふさわしかった。『ギルド門侵犯』のデザイン・チームは進化の作用を調整した(パワーだけでなくタフネスでも大きければ誘発するようにした)、このメカニズムは名前もそのままに印刷に至った。

 2つ目のメカニズムは、大隊だった。GDS2で、次点となったショーン・メイン/Shawn Mainは、絶滅の危機にある次元をデザインした。彼は、3体以上で攻撃することで利益をもたらす、突撃/assaultというクリーチャー・メカニズムを作った。『ギルド門侵犯』には赤白のギルド、ボロスがあり、これがふさわしかった。『ギルド門侵犯』デザイン・チームはこれにも調整を加えた(この能力を持つクリーチャーも3体の中に数えるようにした)が、このメカニズムは印刷に至った。

 興味深いことに、GDSのデザインをもとにしたギルドのメカニズムはもう1つあったが、それは『ギルド門侵犯』ではなかった。ケン・ネーグルは彼の第1回GDSでの分散メカニズムのデザインを使って『ラヴニカへの回帰』のイゼットのメカニズム、超過を作ったのだ。

 ここでの教訓は、メカニズム(やカードやテーマ)はどこからでも持ってこれるということである。確かに多くのものはそのセットのためにデザイン中に作られるが、アイデアの出自に関わらず最高のアイデアを使うという意欲はなければならないのだ。デザインで、それまでに使わなかったものを含むあらゆるアイデアから採用できるということの重要な部分は、現在のセットにメカニズム的にふさわしいものがあるかどうかを見るということである。

『テーロス』

教訓:「実装はメカニズムで重要」

 ギリシャ神話をもとにしたブロックというアイデアは、マジックの初期からあったものである。『アラビアン・ナイト』はマジックの最初の拡張セットで、それがあったことで開発部は常に現実世界の物語を元にしたセットを作ることを考え続けていたのだ。『アルファ版』の多くのカードの元になっていたギリシャ神話は、選択肢の上位にあった。常に議題にはなっていたが、一度も採用されることはなかった。そんな中、工程のあとになって、あるブロックのアイデアが却下されたのだ。

 『テーロス』ブロックの「年」の本来の規格は、第1セットで前史時代の世界を、第2セットで中世の世界を、第3セットで現代の世界を作るというものだった。クリエイティブ・チームは、3つの別々の次元を作らなければならなくなり、それだけのことをする人員はないという理由で却下したのだった。(今なら人員はいる。)

 この変更の結果、我々は長い間話し合ってきていて採用されていなかったテーマ、ギリシャ神話を扱うことにした。初期にエンチャント・テーマの採用を決めていて、私はエンチャントが神々の影響を表すというアイデアを気に入っていた。しかし、神々への人々の信仰を表すのにはどうすればいいだろうか。我々はそれがこの世界の重要な部分だと考え、ここまでの教訓を踏まえて、なにか新しいものを作る前にこれまでにやってきたことを掘り下げることにした。信仰心を表しているようなメカニズムはないだろうか。そこで提案されたものの1つが、彩色だった。

 彩色メカニズムは、『フィフス・ドーン』のデザイン中に考え出されたものである。アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheは、自分の手札にあるカードにあるマナ・シンボルの数を参照するカードを提出した。私は、それをカード1枚だけで使うのではなく大量に使う価値があるクールなメカニズムだと考えた。そして私はそのカードをセットに入れず、将来使うデザインとして温存したのだ。『未来予知』で、私はこのメカニズムを持つ《燐光の饗宴》というミライシフト・カードを作った。

 このメカニズムはその1年後のセット『イーブンタイド』で、彩色という能力語になった。そして、《燐光の饗宴》をそのセットにも入れたのだ。『イーブンタイド』には、彩色を持つカードが9枚あった。市場調査の結果、このメカニズムの評価は低かった。プレイヤーはこのメカニズムに興奮しなかったのだ。

 興味深いのは、彩色が何年も経ってから呼び出されたことである。彩色は、高い期待をかけていたのに大失敗に終わったメカニズムだった。単に『イーブンタイド』での失敗が悪いメカニズムだったことの証だとするのではなく、我々はそれを改善できるアイデアを探したのだ。

 そして、2つ大きな変更を加えた。1つ目に、より具体的なフレイバーとして、信心を与えた。2つ目に、戦場にある自軍のパーマネントだけを見るようにした。彩色では様々な場所(戦場、手札、墓地など)を見るカードがあり、そのため基柱とすることができなかったのだ。信心では集約したことにより、それをテーマとしてデッキを組むことができるようになった。

 信心は大ヒットとなり、そこから『テーロス』の重要な教訓が得られた。いいアイデアがあってもそれをカードを作ったりフレイバーを付したりそれ自身を成立させたりする中で無駄遣いに終わらせることもある。新しい素材を常にデザインし続ける上で重要な部分は、最初の結果が最適なものでなかったとしても、可能性を示したものに鑑識眼を向けることである。マジックでうまく実装されなかった土中のダイヤモンドで、もう一度挑戦して輝くものはありうるのだ。メカニズムだけでなく、テーマや次元やキャラクターにも言える。我々はいつでも失敗を犯すが、いわゆる赤子を湯桶に投げ捨てるようなことがないようにしなければならないのだ。

生活と教訓

 本日はここまで。このシリーズはまた機会があれば続けるが、それはすぐという話ではない。いつもの通り、今日の記事や今回の教訓に関する諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『指輪物語:中つ国の伝承』のプレビューの始まる日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの人生に教訓が溢れていますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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