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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ゼンディカーの夜明け』の明星

Mark Rosewater
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2020年9月14日

 

 先々週先週で、『ゼンディカーの夜明け』のデザインについての話をしてきた。今週からは、このセットのデザインについて、セット内の他のカードのデザインを通した視点から語っていく。そう、『ゼンディカーの夜明け』のカード個別の話をするのだ。

収得の熟練者
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 パーティーのメカニズムは、いわゆる拡大型メカニズムである。拡大型メカニズムとは、複数のレベルで存在できるメカニズムであり、その効果がさまざまな拡大率で成立するようにデザインされなければならない。ここに、拡大型カードをデザインする上で配慮しなければならない問題がある。例として《収得の熟練者》を取り上げてみよう。

問題1:この効果は数と量のどちらによって拡大するのか。

 数によって拡大するとは、効果に数が含まれており、その数が何であるかが何らかの要素によって変わるものである。数によって拡大する効果の例は、版図やX呪文である。量によって拡大する効果は、基本的な効果が複数回コピーされうるものである。量によって拡大する効果の例は、複製や多重キッカーである。効果に数を含まなければならないので、数によって拡大するメカニズムのほうがデザイン空間が狭い。言及する数字の分だけその効果を生成すればいいので、量によって拡大するメカニズムはほとんどの効果を使うことができる。(ここで、効果の中には自己シナジーを持つものや自己反シナジーを持つものがあることを指摘しておこう。)通常、メカニズム全体としては、数によってか量によってか拡大するものである。パーティーは言うまでもなく数によって拡大するものである。それぞれの効果は1、2、3、4で作用しなければならない。数によって拡大する効果の場合、その中に数字を含む効果に限られる。つまり、数えるゲームの要素が必要だということである。《収得の熟練者》の場合、対戦相手の手札にあるカードの枚数を数えることになる。

問題2:その効果は無限か有限か。

 無限拡大型効果は、通常、組としての制限を持たない変数に言及している。例えば、部族効果は、通常、自分が戦場に出している特定のクリーチャー・タイプを持つクリーチャーの数を数えることが多い。その数はかなり大きい値を取りうる。無限というのはメカニズムに内包されている制限がないということであり、例えばデッキ内のクリーチャー数のような実際上の制限がないということではない。有限拡大型効果は、ある上限までしか拡大しない。例えば、版図は自分が戦場に出している基本土地タイプの数を数える。マジックには基本土地タイプは5つしかないので、この値の上限は5である。これもまた、メカニズム全体について真であることが多い分類の1つである。パーティーは、数えられるクリーチャー・タイプの種類が4つしかないので、言うまでもなく有限である。有限拡大型効果は、可能なことの上限がわかっているので比較的自由に扱うことができる。そのため、バランスの観点から、少し広い空間が扱えることが多い。パーティーの上限が4であることは、上限が5である版図でしたことにおいて有用であり、出発点としてそれらのカードを参考にすることができた。

問題3:その効果は線形的か非線形的か。

 線形拡大型効果とは、増加するものが完全な価値を持つ効果のことである。例えば、「あなたがコントロールしているクリーチャー1体につき1枚のカードを引く。」という場合、引くカード1枚1枚は完全な価値を持つ。数ごとの差異は同じである。追加の1枚を引くことで、完全な1枚を手に入れるのだ。非線形拡大型効果とは、増加するものがその前のものに比べて完全な価値を持たない効果のことである。例えば、「あなたのライブラリーの一番上からカードX枚を見、その中から1枚をあなたの手札に、残りをあなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。Xはあなたがコントロールしているクリーチャーの数に等しい。」という場合、数が1増えたことで見るカードは1枚増え、それによって引くカードの質は上がるが、それはカード1枚分の完全な価値ではない。0と1の差の価値(カード1枚分)は、それ意向の数1ごとの差の価値よりもずっと大きいのだ。これは、同じメカニズムの中でカードごとに変えられる1つ目の分類である。《収得の熟練者》は非線形拡大型である。1だと、対戦相手にカード1枚を捨てさせる。2、3、4にしても、どのカードを捨てるかへの影響力が増えるだけである。これ以外の、《切望の報奨》などのパーティーの効果は、線形拡大型である。(《切望の報奨》の場合、クリーチャーが増えると呪文のコストが1マナ減る。)

問題4:その効果は自制的か非自制的か。

 自制的拡大型効果とは、その効果ができる量に限界があるもののことである。例としては、「クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それに、あなたの手札にあるカード1枚につき-1/-1の修整を与える。」という効果が挙げられる。手札にあるカードが何枚だろうが、この効果はクリーチャー1体を除去することしかできない。非自制的拡大型効果は、その効果に限界がない。例としては、「クリーチャーX体を破壊する。Xはあなたの手札にあるカードの枚数に等しい。」という効果が挙げられる。これは、線形的か非線形的かと何が違うのか。ここで自制的効果として例示した効果は、数が増えるごとに-1/-1修整が増えるので線形的だが、効果全体としてできることは限られているので自制的なのだ。通常、リミテッドでのパワーレベルから、低レアリティの拡大型カードを自制的なものに限ることにしている。《収得の熟練者》は自制的である。可能な最大のことは、対戦相手にカード1枚を捨てさせることだけである。

 拡大型効果を持つカードをデザインする場合、そこで扱う引数が何かを理解する必要がある。《収得の熟練者》は、展望デザイン中にコモンのカードとしてデザインされた。つまり、我々はこれを自制的カードであり、かつ非線形的であるものにしたかったのだ。(ただし、《切望の報奨》がそうであるように、低レアリティの線形的カードは成立する。)すでに-1/-1カードと「対戦相手のライフを奪う」カードは存在していたので、これらと違うような働きを擦るものを検討することにした。そこから、手札を捨てさせる効果に行き着いた。しかし、拡大型効果で手札を捨てさせるにはどうしたらいいか。手札からカードX枚を捨てさせるのは非自制的で、リミテッドには(つまりコモンには)変化量が大きすぎる。それ以外で、手札を捨てさせるのに数を使う方法はあるだろうか。鍵となるのは、これまでに存在した手札を捨てさせる効果を検証し、数が組み込まれている場所を探すことである。答えは、《強要》効果(『ミラージュ』の《強要》にちなんだ呼び名)、つまり対戦相手に捨てさせるカードをある程度選べる効果だった。これなら対戦相手の手札の枚数という数を入れることができるので、この効果を拡大型のものにすることができる。リミテッドにおける懸念から、このカードは後にアンコモンに格上げされた。

 長々と書いてきたが、これが拡大型効果をデザインする方法である。

枝重なる小道》《陽光昇りの小道》《清水の小道》《岩山被りの小道》《針縁の小道》《河川滑りの小道
//
カードをクリックで別の面を表示

カードをクリックで別の面を表示

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カードをクリックで別の面を表示

カードをクリックで別の面を表示

 先週述べたとおり、小道サイクルは、モードを持つ両面カード(MDFC)によって開かれたデザイン空間を私が掘り下げていたときにできたものだ。基本的に、これは分割カードと両面カードを組み合わせたものである。これによってできるようになる、分割カードでも変身する両面カードでもできないことは一体何か、という大きな疑問があった。分割カードへの大きな制約は、必ずインスタントやソーサリーでなければならないということである。クリーチャー・トークンを作ることでクリーチャー代わりにすることはできるが、クリーチャー・トークンに持たせられる複雑さには限界がある。つまり、少なくともMDFCの片方の面はパーマネントでなければならないということになる。(理論上は、MDFCで両面がインスタントやソーサリーであるものを作ることもできるが、それは分割カードには収まらないようなルール文章を持たなければならず、それは私が始めたいことではない。)

 私はまず、この制限のもとで可能なあらゆる組み合わせを書き出すことから始めた。

  • アーティファクト/アーティファクト
  • アーティファクト/クリーチャー-
  • アーティファクト/エンチャント
  • アーティファクト/インスタント
  • アーティファクト/土地
  • アーティファクト/プレインズウォーカー
  • アーティファクト/ソーサリー
  • クリーチャー/アーティファクト
  • クリーチャー/クリーチャー
  • クリーチャー/エンチャント
  • クリーチャー/インスタント
  • クリーチャー/土地
  • クリーチャー/プレインズウォーカー
  • クリーチャー/ソーサリー
  • エンチャント/アーティファクト
  • エンチャント/クリーチャー
  • エンチャント/エンチャント
  • エンチャント/インスタント
  • エンチャント/土地
  • エンチャント/プレインズウォーカー
  • エンチャント/ソーサリー
  • 土地/アーティファクト
  • 土地/クリーチャー
  • 土地/エンチャント
  • 土地/インスタント
  • 土地/土地
  • 土地/プレインズウォーカー
  • 土地/ソーサリー
  • プレインズウォーカー/アーティファクト
  • プレインズウォーカー/クリーチャー
  • プレインズウォーカー/エンチャント
  • プレインズウォーカー/インスタント
  • プレインズウォーカー/土地
  • プレインズウォーカー/プレインズウォーカー
  • プレインズウォーカー/ソーサリー

 これらの組み合わせの中には、他の組み合わせよりもずっと広いデザイン空間を持つものがあることは明らかだった。私の目を引いたのは、土地/土地 だった。デザインの鉱脈に挑むとき、私はいつも最も基本的なデザインから始めることにしている。それぞれの面に異なる基本土地があるというのはどうだろうか。いろいろな意味で、これは「フェッチランド」に立ち返るものだ。

 『ミラージュ』のデザイン・チームは、2色のうち1色を選び、それ以降はその土地をタップするとその色が出るようになる2色土地というアイデアを持っていた。どちらの色を選んだかを土地1つごとに覚えておくのがあまりに大きな記憶問題を引き起こしたので、『ミラージュ』のデザイン・チームは賢い解決策を思いついた。その土地を生け贄に捧げて、2種類の基本土地タイプのうち1枚を自分のライブラリーから探し、それを戦場に置くのだ。これによって基本的な機能は再現できている。

 見つかった問題の1つが、この土地が戦場に出たターンにこの処理をできるものであれば、その土地は基本土地の(ほとんど)「完全上位互換」になってしまうというものだった。(『アルファ版』には、初代2色土地でこの問題があった。)《》か《》として使える土地があるなら、《》を使うようなことはしない。『ミラージュ』のデザイン・チームはこれを、戦場に出される土地がタップ状態で戦場に出るようにすることで解決した。これは最終的に、やや弱い側になった。(数年後の『インベイジョン』で、タップ状態で戦場に出てタップすることで2色のどちらでも出せる2色土地が作られている。)そこで、『オンスロート』で、タップ状態で戦場に出すのではなく起動するのに1点のライフを支払う必要がある強化版を作ったのだ。

 この話をしている理由は、基本的にこの同じ問題を解決しなければならなかったからである。今回も、《》か《》かどちらにするか選べる土地があるのだ。我々が常々作ってきているタップインランドよりも単純に弱くなるので、弱点として「タップ状態で戦場に出る」を使うことはできなかった。(そしてタップインランドには占術や門であるといったおまけを付ける余地すらあるのだ。)最初に試みたのは、『オンスロート』のフェッチランドと同じように扱うことだった。

〈黒っぽい島 1.0〉
土地 ― 島
[カード名]が戦場に出たとき、1点のライフを失う。


〈青っぽい沼 1.0〉
土地 ― 沼
[カード名]が戦場に出たとき、1点のライフを失う。

 一見したところ、これはうまくいきそうに見えた。フェッチランド同様、1点のライフを支払うことで2色のうち1色を得ることができるのだ。より緻密に調査していくと、フェッチランドはデッキを絞って土地でないカードを引ける確率を高められる上、基本土地タイプを複数持つカードを手に入れることもできるので3色以上のマナ基盤にもなるので、こちらのほうが少し弱かった。次に試みたのは、初代『ラヴニカ』で(以降のラヴニカのセットでも使われている)「ショックランド」をデザインしたときに使った手法を採用したものだった。

〈黒っぽい島 2.0〉
土地 ― 島
[カード名]が戦場に出るに際し、あなたは1点のライフを支払ってもよい。そうしなかったなら、これはタップ状態で戦場に出る。


〈青っぽい沼 2.0〉
土地 ― 沼
[カード名]が戦場に出るに際し、あなたは1点のライフを支払ってもよい。そうしなかったなら、これはタップ状態で戦場に出る。

 アンタップ状態で戦場に出す必要があれば1点のライフを支払ってもいいが、支払わなければライフを必要とはしない。私はこのバージョンをアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheに見せた。アーロンはこのデザインを気に入ったが、ライフの支払いは必要なのかと聞いてきたのだ。どちらの面も、ペナルティなしで単にアンタップ状態で戦場に出るのではどうかと。

 私は、それではほとんど基本土地の「完全上位互換」になってしまうという懸念を伝えた。理論上、それらは基本でない土地であり、しばしば基本でない土地への対策カードが作られてはいたが、それで充分だとは思えなかった。それを受けて、アーロンは、基本土地タイプを取り除くことを提案してきたのだ。我々が2色土地を少しだけ強化するための方法として、基本土地タイプを与えるというものがある。その逆をすればどうだろうか。そうすることで、基本土地タイプを探すときには持ってくることができず、基本土地タイプを数えるカードでは数に入らなくなる。これはちょっとした欠点に過ぎないが、最もクールな形でこのカードを印刷することを正当化するには充分だと感じられた。

 こうして、小道サイクルができたのだった。

遠見の達人
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 色の協議会が現在取り組んでいる課題の1つが、白にカードを引かせる、白らしく白の欠点を埋めない方法を探すことである。我々はこれを1つだけの方法ではなくさまざまな解決策を探すことで解決しようとしているのだ。その解決策の1つが、『エルドレインの王権』の《めでたしめでたし》で出現したものである。

 『エルドレインの王権』のリード・セットデザイナーであったエリック・ラウアー/Erik Lauerは、このカードに何かちょっとしたものを付け足そうとして、そして全体ドロー(全員がカードを引くこと)がふさわしいと感じたのだ。これは白がしてきたことではなかったので、彼は色の協議会に可能かどうか諮った。我々は、白は集団全体に供給することに最も強く結びついた色なので、これが理念的に白らしいと同意した。また、他のプレイヤーにもカードを引かせるので、他のプレイヤーが脅威を引くことになり、回答を集めることにはならない。我々はその能力を白に加えることに暫定的に同意したのだ。

 書き添えておくと、この能力が《めでたしめでたし》に与えられたのは、このセット内のこのカードにこの効果が必要だったからである。この効果を試すためにこのカードをデザインしたというわけではない。《めでたしめでたし》に関して、他にいろいろとカードを引く手段がある、5色を使うデッキでしか使えないので統率者戦の助けにならないという多くの反響が届けられている。我々はこれがどう受け取られたか、一般的な反響を調べていた。白らしいと感じられたかどうか。それ単体では、それが回答であるということにはならないし、進行中のカードから回答につながることもありうる。そして、それは唯一の回答ではないのだ。

 我々はこのカードに関して外部からも内部からもいくらかの反響を得た。外部からは、誰もこの効果が白であることに疑問を持たなかった。ただし、上述の通りの反響は大量に届いていた。内部からは、このメカニズムを他のセットで試し、そしてその反響は、全員がカードを引くという効果は統率者戦では有用ではないというものだった。それでは、自分と、対象にしたプレイヤー1人がそれぞれカード1枚を引くとしたらどうだろうか。こうすれば、この効果が必要ない2人戦では何も違いがないが、この効果が必要な多人数戦では有用だろう。私は特に、どの対戦相手がカードを得るかを選べるという、社会的側面の加え方が気に入っている。

 《めでたしめでたし》同様、これはこの効果のために特にカードを作ったのではなく、存在しているカードで試しているものである。しかし、正しい実装に近づくにつれ、もっと統率者戦向けのカードでこの効果を見かけられるようになっていくことだろう。

大群への給餌
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 カラー・パイの話をするなら、もう1枚、新しい空間を試しているカードがこれである。以前の記事で述べたとおり、我々は黒がエンチャントを破壊できるようにしたいと決定したが、その目的は黒を白や緑に次ぐ3種色にすることである。過去の実験では少しばかり足りなかったので、もう少し強い、それでいて明らかにエンチャント除去の3種色であるようなものを試しているのだ。他の試験同様、最終的にどうなるかはわかっていない。(これは最終地点よりも少しばかり強いかもしれない。)しかし、このカードについて諸君がどう思うかを知りたいと思っている。我々は何が正しいと感じられるかを掴みたいと思っているので、プレイヤーの反響はこのような変更にとって重要であり、私は諸君の考えを聞きたいと思っているのだ。

これこそ「禅ディカーの夜明け」

 本日はここまで。いつものとおり、私は諸君からの反響が欲しいのだ。対象を取る黒のエンチャント除去、白のカードを引く能力、MDFC2色土地、パーティー・メカニズム。これらについてどう思うか、『ゼンディカーの夜明け』についてどう思うかを聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらなるカード個別の話を続ける日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが2種類の土地のうちどちらをプレイするかを選ぶときにシャッフルする回数が大きく減りますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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