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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『基本セット2021』

Mark Rosewater
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2020年6月29日

 

 『基本セット2021』の一問一答記事の時間だ。各セットごとに、私は可能な限り多くの質問に答えるためにTwitterを使っている。

 私のツイートは次の通り。

諸君からの『基本セット2021』に関する質問に答える記事を書く時期がやってきた。質問は1ツイート1問でよろしく。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 伝えるべきことは伝えたので、さっそく質問に入るとしよう。

Q: このセットのテーマをテフェリーの人生と歴史にしたのはなぜですか? 私は彼のことが大好きで、ドミナリアの中ではジャムーラが大好きなので、理由を知りたいです。

 基本セットの顔となるプレインズウォーカーの条件には、次のようなものがある。

マジックへの入り口として相応しいと感じられるキャラクターでなければならない

 基本セットは、新規プレイヤーとその獲得にかなり重点を置いたセットである。つまり、最善の一歩を踏み出すようにしたいのだ。そのため、我々はセットの顔を。マジックへの導入として新規プレイヤーを獲得できるプレインズウォーカーにしようとしているのである。

人気のキャラクターでなければならない

 既存のプレイヤーにもこの基本セットを購入してもらいたいので、プレイヤーに好評だとわかっている人物を使うことになる。(一部のテフェリーのカードのせいでテフェリーにいらだちを覚えている人がいることはわかっているが、市場調査の上で彼は好評だ。また、計画はかなり事前に立てられるものであり、テフェリーが選ばれたのは『灯争大戦』の発売前だったのだ。)

単色のカードで表すことができるキャラクターでなければならない

 基本セットにはそれぞれの色の良い体現が必要なので、必ず単色プレインズウォーカーのサイクルがある。セットの顔はそのサイクルの一員である。プレインズウォーカーを単色にするための技は、その本質が1色か2色かにある。例えば、テフェリーの2色目は白だが、時間魔法は本質的に青なので、彼は基本として青のキャラクターなのだ。これと対照的に、サヒーリは非常に青赤である。彼女の特徴は、1つの色ではなく色の組み合わせに関連している。

理想的には、それまでの基本セットで顔になっていないキャラクターであることが望ましい

 それぞれの基本セットの雰囲気を違うものにしたいと考えており、それまでに基本セットの顔になっていないプレインズウォーカーを使うことはその助けになる。確かに、チャンドラはこの規則を破っている。私は、チャンドラは規則破りだ、と記録してある。

 これらを考慮に入れて、我々は短いリストを作り、そしてその中からテフェリーを選んだのだ。彼には長い歴史があるので、彼に関連した伝説のキャラクターたちを大量に見つけ出すことができるということはわかっていた。(これについてはまた後ほど。)

Q: 何で今回テフェリーは1枚だけなんですか?

 トレーディング・カードゲームを作る上で何度も浮上する問題の1つが、何か新しいことをしたら、プレイヤーはそれが何かの始まりだと思い込む、ということである。『基本セット2020』の3種のチャンドラは、基本セットの顔であるプレインズウォーカーの新しい手法の始まりとして行なわれたものではない。単に、『基本セット2020』チームが、その製品のために考えたクールなアイデアにすぎないのだ。『基本セット2019』に両面のボーラスがいたといっても、すべての基本セットに両面プレインズウォーカーが入るわけではない、というのと同じ理由である。『基本セット2021』に3種類のテフェリーを入れるという計画はなかったはずである。

Q: なぜ今回の再録はこんなにすごいんですか?

 それは、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが展望デザイン中にこのセットの展望に組み込んだものだろう。アーロンは、基本セットでは再録を世界観に合わせる必要がないので再録を組み込むのにもっともいい機会だと認識していた。また、(ローテーション的に)1年の最後のセットでは、スタンダードに残る時間が最も短く、パワー・レベル的にもっとも冒険ができるということも認識していたのだ。

Q: フェイジングはフレイバー的な理由で戻ってきたんですか、それとも現在のデザインではプレイヤーに混乱を起こしにくいから戻ってきたんですか?

 これから、諸君のほとんどが予想していなかったであろうことを告げよう。我々は、フェイジングを落葉樹にすることを実験している。何だって? 明確にしておこう。我々は、フェイズ・アウトを落葉樹にすることを実験している。だから何だって? 説明しよう。

 フェイジングは、『ミラージュ』で初登場した。パーマネントが持つ能力で、基本的には1ターンおきに見えなくするというものだった。フェイジングを持つクリーチャーは、自分のターンの開始時に、順に、フェイズ・インしたりフェイズ・アウトしたりするのだ。フェイジングは明滅(クリーチャーを追放して戻すこと)とは違い、フェイズ・アウト中もカウンターやオーラ(当時はまだ装備品はなかった)がそのまま残る。フェイジングはまた「戦場に出たとき」や「戦場を離れたとき」の効果を発生させない。カードを軽くすることができる、本質的には弱点であるメカニズムだったのだ。しかし、実際にこのメカニズムを扱ってみると、興味深いことが起こった。これに、全く異なる機能を持たせることができることがわかった。

 フェイジングは、キーワード行動としても機能できたのだ。何かをフェイズ・アウトさせる、つまり次のそのオーナーのターンが始まるまでフェイズ・アウトした状態にしておく、ことができるのだ。これは、クリーチャーを一時的に除去するという攻撃にも、自分のクリーチャーを守るという防御的にも、使うことができる。何かをフェイズ・アウトさせるということは、フェイジングのさらに興味深い使い方であるということが時間とともに証明されていったのだ。

 『ミラージュ』が世に出て去っていき、開発部はフェイジングにそれほどの検討をせずにいた(私はフェイジングをもとに明滅をデザインしたが)。数年後、当時のルール・マネージャーであったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは《Oubliette》をルールの枠内で働くようにするための方法を考えていた。

 《Oubliette》はクリーチャーを追放するが、その情報(カウンターやオーラ)は保持する。しかし、それは現在の追放のルールとは違う動きである。カードが追放されたら、カウンターやオーラは失われるのだ。さまざまな問題を解決していき、ゴットリーブは問題の解決策を見つけ出した。《Oubliette》が、クリーチャーをフェイズ・アウトさせればいいのだ。このカードに必要なそのままのことをフェイジングはしていて、フェイジングはすでにルールの中にある。問題解決だ。

 簡単に問題を解決するが、ゴットリーブはどうも落ち着かないものを感じていた。フェイジングのルールが、非常に直感的だとは言い難い状況にあることに気がついたのだ。追放代わりの処理が、追放と同じように働かないのはどうも不安定だ。フェイズ・アウトしたクリーチャーが実際には戦場を離れなければどうだろうか。実際に戦場を離れる必要なしで、なくなったように扱うだけ、としたらどうだろうか。これは、なぜカウンターやオーラがそこから外れないのか、そして「戦場に出たとき」「戦場を離れたとき」の効果が発生しないのかの理由になる。文章は非常に感銘で、効果はずっと直感的になる。ゴットリーブはフェイジングの作用を、直感的になるように変更スべく働いた。

 数年後、《テフェリーの防御》が『統率者(2017年版)』で作られた。これは新バージョンのフェイジングがカードに印刷された初めてのケースだった。

 それからさらに数年後、我々は『基本セット2021』を作ることになる。テフェリーがセットの顔で、我々は彼のためにクールなカードを作る必要があった。能力の1つが、対戦相手のクリーチャーをターン終了時まで追放するというものだった。テフェリーの魔法は時間をもとにしたものであり、これは彼がクリーチャーの時間をずらすことを表していた。ほとんど問題はなかったが、この能力は戦場を離れたときや戦場に出たときの能力を誘発させてしまうので、一部のクリーチャーに使うことができずその分弱くなっていたのだ。また、オーラを破壊し、装備品を外すというのも、このカードの目指すところではなかった。テフェリーにフレイバー的にふさわしいので、チームはフェイジングのことを検討した。フェイジングは、両方の問題を解決してくれたのだ。

 最初は、基本セットでは過去のメカニズムを再録しないので、常盤木でも落葉樹でもないフェイジングを戻すことはできないと考えた。しかし、フェイジングの新しい機能は現代デザインにおいて有用だという議論が起こった。明滅ではできないことをできる。落葉樹効果にすることができるのではないか。どうすれば落葉樹にできるだろうか。『基本セット2021』で実験し、プレイヤーの反応を見ることができる。

 長くなったが、なぜフェイジングが(より正確に言えばフェイズ・アウトが)戻ってきたのか、の説明は以上のとおりである。

Q: このセットでお気に入りのカードはどれですか。

 何年も前(私がデザインのリードを努めた最初のセット、『テンペスト』で)、私は《ラースの灼熱洞》というカードを作った。自分のダメージをすべて倍にするというアイデアはマジックのカードの可能性を超えたものだと思っていたので、私はこれをデザインしたときたいそう興奮したものだった。今は、当時の私がそれほどすごいことを考えていなかったと気がついた。3倍だって?

Q: 犬と猫がその違いを乗り越えて団結したのは一体何があったんですか?

 雨の中を一緒に歩いて、そういう話になっただけだと聞いている。

Q: ケアヴェクが赤の魔法を使えなくなった理由はありますか? 過去のセットでは私の大好きなカードで、またラクドス色で登場してくれることを心から祈っています。

 彼は、テーマ的にテフェリーと関係のある単色の伝説のクリーチャーのサイクルの一部である。(マンガラ、バリン、ケアヴェク、スビラ、ジョルレイルのサイクルだ。)彼の基本色は黒なので、彼を黒単色で作っても問題ないと感じたのだ。今回のカード化は、ケアヴェクが黒赤ではなくなったということを意味しているわけではない。

Q: なぜ伝説のクリーチャーがこんなに少ないんですか?

 過去の基本セットを見て、伝説のクリーチャーがどれだけ入っていたか見てみよう。

  • 『アルファ版』から『基本セット2014』:0
  • 『基本セット2015』:6
  • 『マジック・オリジン』:10(そのうち5枚はプレインズウォーカーに変身するカード)
  • 『基本セット2019』:10
  • 『基本セット2020』:12
  • 『基本セット2021』:10

 確かに昨年よりは2枚少ないが、過去の基本セットの中では2位タイなので、「こんなに少ない」とは思わない。また、統率者にすることはできないが、レアには伝説のエンチャントのサイクルもある。

Q: ガラクを、ビビアンと差別化したままでクリーチャー中心の能力を持つプレインズウォーカーにするためにはどういう手法を使いましたか?

 新しいプレインズウォーカーを作り続ける上での課題の1つが、既存のプレインズウォーカー・カードのメカニズム的デザイン空間にひどく踏み込まないようにすることである。ビビアンとガラクは、この問題の素晴らしい例である。どう扱うべきなのか。まず第一に、クリーチャーを扱うというのは特に緑においては非常に広い範囲であり、他のどのメカニズム的空間よりも広いと言える。言い換えると、緑ならクリーチャー中心のプレインズウォーカーを2人扱うことも容易なのだ。ビビアンと彼女の弓は、状況に最もふさわしい動物を探そうとすることがほとんどである。彼女がクリーチャーを衝動する(ライブラリーの上から特定枚数のカードを見る)ことが多い理由はこれである。また、彼女の『イコリア』版のプレインズウォーカー・カードが3種類のキーワード・カウンターの中から選んでトークンを強化できる理由でもある。対照的に、ガラクは、その路上に存在するあらゆるものを殴る、大きくて知能のない獣を作る。言い換えると、ビビアンはガラクが知らない繊細さを使っているのだ。この差は大きいわけではないが、両プレインズウォーカーにいくらか異なる雰囲気を持たせることはできるものである。

Q: 私は果敢が好きですが、ここで見かけたのは驚きでした。なぜここで登場させたのですか、そして常盤木キーワードと差し替える計画はありますか?

 果敢が常盤木から外されたとき、それを完全に追放するのではなく、落葉樹という状態にした。これは、必要なセットなら使うことができる、という意味であり、基本セットもその例外ではない。

Q: マークさん。『灯争大戦』では新しい白のプレインズウォーカーが2人登場しましたし、エルズペスは死の国から脱出を遂げました。白にはアジャニもいます。なぜ彼らを使うのではなく、新しいプレインズウォーカーを作ることにしたんですか?

 それらの選択肢すべてを検討したが、デザインした新しいプレインズウォーカーがいて、それを初登場させるのにふさわしい場所だと考えられたのだ。物語に登場しない新しいプレインズウォーカーを、基本セット以外の本流のセットに収めるのは難しいことが多い。我々にエルズペス、テヨ、放浪者がいて、彼らの可能性を探すことになるだろう。

Q: 変身は今は赤だけですか、それとも必要に応じて青と赤で使い分けることになりますか?

 境界線が存在している。クリーチャーを他のクリーチャーに変身させるが、何になるのかはわからないという場合は、赤だ。何になるのかがわかっているのであれば、青だ。《変身》能力(『ミラージュ』の同名カードに由来している)のほとんどは前者なので、今は赤の能力ということになる。

Q: レアのハイドラはどこですか?

 おそらく、緑のレアと神話レアが非常に詰まっていた(開発部語で、「使える枠に入れるには枚数が多すぎる」という意味)ので、ハイドラはアンコモンになったのだろう。

Q: マナ3倍とダメージ3倍が登場しました。今後も、たとえばカードを引くことなど、何かを3倍にすることはありますか?

 すべきものがあればするだろう。

Q: 切削を、能力のように常盤木にすることで発展性を持たせるつもりはありますか?

 切削はほとんどのセットで使っているので、すでに本質的に常盤木だと言える。この能力に関して我々がしたことは、キーワード処理にした(名前をつけた)ことだけである。これについて歴史が何かをするとしたら、キーワードを与えることでそれを使う頻度が上がるということだろう。

Q: このセットでメカニズムを再録しないと決めたのはなぜですか?

 『基本セット2019』で基本セットが戻ってきて以来、キーワード1つを再録するという行為はやめている。ただし、フェイジングと果敢はこのセットに存在している。

Q: 私は今のクリーチャーの組み合わせが気に入っているんですが(リスの大ファンがここにいます)、この、どんどんカワイイクリーチャーと一般的な獣に寄せていく変化は今後も続きますか、それともゾンビ、ゴブリン、天使といった神話的なクリーチャー・タイプが圧倒的に多い時代に戻りますか?

 振り子は揺れるものであるが、振り子の中心は伝統的なファンタジーのクリーチャーにある。『基本セット2021』の可愛らしい猫や犬は、今後ゴブリンやゾンビを見かけることがなくなるという印ではない。

Q: 『テーロス』以降で、白のパワー4のクリーチャーをコモンに入れることは検討しましたか? 全く見ていませんが、私は希望を捨てていません。

 白のコモンにはパワー4のクリーチャーを入れない、という制限は取り払っている。だからといって、すべてのセットに入るというわけではなく、それが禁止されなくなったというだけである。(知らない諸君のために添えておくと、開発部にはつい最近まで、白のコモンにはパワー4のクリーチャーを入れてはならないという内規があったのだ。)

Q: 『基本セット2021』で、伝説のクリーチャーとしてクールな単色カードがありますが、それらはどれも統率者として特に魅力的というわけではありませんでした。なぜ既存のエキサイティングなデザインを持った単色の統率者はいなかったんですか? 例えばただで再利用できるもの(《墓場波、ムルドローサ》《ネル・トース族のメーレン》)、ただで唱えられるもの(《永遠の大魔道師、ジョダー》《不屈の巡礼者、ゴロス》)、ただで引けるもの、とか。

 伝説のクリーチャーは統率者戦で中心的な役割を果たすからである。すべての伝説のクリーチャーが統率者戦向けにデザインされているという誤解があるようだ。統率者戦をプレイしないが伝説のクリーチャーが好きなプレイヤーは大量にいて、我々は彼ら向けにもデザインしなければならないのだ。

閉幕

 本日はここまで。この問答を楽しんでもらえていれば幸いである。質問を送ってくれた諸君に感謝すると同時に、回答できなかった諸君には申し訳なく思っている。いつもの通り、今日の記事や『基本セット2021』についての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、マジックの未来について語る日にお会いしよう。

 その日まで、『基本セット2021』をプレイして浮かんだ新しい質問があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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