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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ラクドス・サクリファイス~魔女の秘伝のレシピ~(スタンダード)

岩SHOW

 マジックは、カードとカードの組み合わせが起こす化学的反応を楽しむものだ。一見、無関係なカードがとてつもない相乗効果(シナジー)を形成し、爆発的な効果をもたらしてくれる瞬間が最高のひと時。

 でも中には「このカードはこれと組み合わせて使ってくれよな!」とこちらがあれこれ考える必要もなく、デザイナー側が意図的に組み合わせるように作ったカードたちも存在する。促されるがままにその組み合わせを使ってみると、もちろんのことだが完成度が高く、これも楽しいものだ。

 僕が特に好きだったのは《泥沼煎じの魔女》と彼女にまつわるカードたち。

 《泥沼煎じの魔女》は《ただれたイモリ》と《泡立つ大釜》というカードをライブラリーから手札に加える能力を持つ。《泡立つ大釜》はクリーチャーを生け贄に捧げてライフを回復する装置だが、この生け贄が《ただれたイモリ》だった場合は同時に対戦相手のライフを4点失わせる砲台になる。《ただれたイモリ》は死亡時に対象のクリーチャーに-1/-1の修整を与える小さな除去能力を持つが、これもまた《泥沼煎じの魔女》が戦場にいると値が-4/-4に跳ね上がり、大抵のクリーチャーを巻き添えにできるナイス除去に。魔女が大釜でイモリを煮る秘伝のレシピというフレイバーも楽しく、ゲームにもたらす影響も大きいので、『基本セット2014』ドラフトではどうか魔女出てくれと祈りながらピックしていたものだ。

 現行スタンダードにもこれとニュアンスの近い「一緒に使ってくれセット」があるじゃないか。《魔女のかまど》と《大釜の使い魔》だ。

 かまどにクリーチャーを放り込むと食物が出来上がる。その食物の匂いを嗅ぎつけて、墓場から猫が蘇る。この生と死を繰り返す食いしん坊な猫は、その食物の元になったものを問わないので……猫自身を生け贄に捧げて得た食物で猫を戻し、また生け贄に……という魔女の倫理観に則ったループを形成することが可能だ。

 使い魔自身の能力で出入りするたびに対戦相手のライフを1点吸ってライフ差を詰めることもでき、またこれは相手のクリーチャーをブロックして攻撃を防いだ後でも可能なので攻防一体だ。

 この2枚以外にも生け贄に関するカードを詰め込んだ、赤黒のクリーチャー主体デッキ「ラクドス・サクリファイス」は現スタンダードの人気デッキの1つだ!

Miles Merton - 「ラクドス・サクリファイス」
スタンダード (2019年10月13日)[MO] [ARENA]
7 《
6 《
4 《血の墓所
1 《エンバレス城
1 《ロークスワイン城
4 《寓話の小道

-土地(23)-

4 《大釜の使い魔
4 《忘れられた神々の僧侶
4 《嵐拳の聖戦士
4 《波乱の悪魔
3 《砕骨の巨人
4 《悪ふざけの名人、ランクル

-クリーチャー(23)-
4 《初子さらい
4 《魔女のかまど
2 《アングラスの暴力
4 《炎の侍祭、チャンドラ

-呪文(14)-
4 《害悪な掌握
2 《溶岩コイル
2 《軍団の最期
1 《アングラスの暴力
4 《ドリルビット
2 《無頼な扇動者、ティボルト

-サイドボード(15)-
Miles Merton氏のTwitter より引用)

 

 この手のデッキはカードチョイスが微妙に異なる多種多様なリストが存在する。その中でも個人的にシンプルにまとまっていて使いやすいなと思ったものを紹介しよう。

 このデッキのテーマは生け贄(サクリファイス)。クリーチャーを生け贄にする手段、生け贄供給源、生け贄が発生すると仕事をするカードの三要素と、生け贄シナジーとは関係がないが単純に強いカードからなっている。ひとまず要素それぞれについて説明しよう。

 まずはクリーチャーを生け贄に捧げる手段。これは先述の《魔女のかまど》が含まれる。使い魔と相性が良いかまどの他には《忘れられた神々の僧侶》。

 生け贄の数は2体と多めに要求してくるが、対戦相手にもクリーチャーの生け贄とライフ2点を要求し、こちらはマナとドローを得る。対戦相手の盤面にクリーチャーが少ない状況だと、この僧侶で完封してしまえることもある、強力な生け贄エンジンだ。

 そして、かまどと一緒にやってきたもう1枚が《悪ふざけの名人、ランクル》。

 3/3飛行・速攻にして、ダメージが通れば全プレイヤーに生け贄要求、これもまた相手の戦場にクリーチャーが並んでいない状況で炸裂すると一種のハメ技として機能するポテンシャルがある。手札を捨てさせたりカードを引いたりとその状況によっていろいろな嫌がらせができる点が優秀だ。

 これらのような、クリーチャーを生け贄にする手段のことを「サクリ台」ということがある。生け贄に捧げることをサクリファイスを縮めてサクると言うこと、またその生け贄を捧げる祭壇のイメージが合わさって生まれた言葉だ。古くは《アシュノッドの供犠台》などのカードがあったのも、このイメージの定着に繋がっているだろう。

 続いて、サクリ台に捧げる生け贄の供給源。サクっても使い減りしない墓地から戻ってくるカード、そう《大釜の使い魔》などのクリーチャーやトークンを生成するカードがこれにあたる。

 《炎の侍祭、チャンドラ》は毎ターン速攻持ちのトークンを生成し、攻める手段であると同時に最高の生け贄供給源である。

 そのトークンもターン終了時には自動的に生け贄に捧げられるため、後述の生け贄が発生すると仕事をするカードと相性が抜群。

 もう1つの生け贄を得る手段は凶悪で、《初子さらい》で相手から奪ったクリーチャーを用いるというもの。

 本来なら一時的にクリーチャーを奪って攻撃するためのこのソーサリーを、1マナの除去呪文にしてしまうってわけだ。奪える範囲は低コストに限られているものの、ハマった時にはとてつもないリターンをもたらすので、悪く使ってニヤニヤしたいものだ。

 最後に、生け贄が発生すると仕事をするカードを紹介しよう。このリストでは1種類だけではあるのだが、大変に重要な存在だ。《波乱の悪魔》である。

 生け贄が発生すると、どこにでも飛ぶ1点ダメージ! たかが1点と侮るなかれ、この1点が盤面からクリーチャーやプレインズウォーカーを排除し、ライフをゴリゴリと追い詰める砲台として機能するのだ。かまど&使い魔コンボの横にこの悪魔が立っているだけで、使い魔と食物の生け贄で2点ダメージを飛ばしつつ使い魔でも1点と、無視できないライフの損失をもたらすのだ。

 他の生け贄手段とも相性はもちろん良好、これが2体以上並んでサクリ台と供給源が揃った暁には「いや、もう無理」と相手の投了を引き出すこととなるだろう。

 生け贄が発生するればなんでもOKなので、《忘れられた神々の僧侶》や《アングラスの暴力》で対戦相手がパーマネントを生け贄に捧げた時や、《寓話の小道》が起動された時など、忘れずに誘発を宣言してガスガスとダメージを飛ばして勝利を目指そう。

 《嵐拳の聖戦士》《砕骨の巨人》など単体で強いカードも用意し、これらでビートダウンして勝つこともちゃんとできるようになっている点が個人的には良いところだと思っている。

 もっともっと生け贄シナジーに寄せた構築も可能なのだが、そうなるとカード単体の強さはどうしてもダウンしてしまい、噛み合わないドローに見舞われた時や生け贄戦略を脅威としないデッキを相手にした際に勝つことが難しくなってしまうからね。

 歪な形にすることなく、しっかりとシナジーを享受して楽しくて強いデッキにまとまっている、個の完成度の高さにはプレイしていて唸らされた。猫とかまどを使いたいけどデッキ案はまとまらない、そんなプレイヤーには一度プレイして参考にしてほしいリストだ!

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