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プロツアー『イクサランの相克』注目の出来事

矢吹 哲也

Chapman Sim, Marc Calderaro, Frank Karsten / Tr. Tetsuya Yabuki / Edit. Yusuke Yoshikawa

2018年2月4日


(編訳注:埋め込み動画部分は英語となります)

 ここスペイン・ビルバオで繰り広げられた戦いは、素晴らしい瞬間やデッキ、プレイヤー、カード、そして物語にあふれたものとなった。見事な技が光ったドラフト・ラウンド。複雑かつ多様性に満ちたモダン・ラウンド。使用率10%を超えるアーキタイプはひとつもなく、7つの異なる国からプレイヤーが集まった決勝ラウンドでは実に7種類のデッキが火花を散らした!

 以下に、プロツアー『イクサランの相克』の出来事で特に思い出に残るものをご紹介しよう。

チーム「Connected Company」が「人間」デッキを操る人間ふたりをトップ8に輩出する

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 今大会で人気を博したデッキのひとつは、「5色人間」だった。《教区の勇者》や《サリアの副官》を用いる「人間」デッキは2年ほど前から存在していたが、現在の形は『イクサラン』で《手付かずの領土》と《帆凧の掠め盗り》が登場したことで成立した。新たな土地と妨害手段が加わったことで、ついに「人間」デッキはメタゲームの一角を占めることになったのだ。

 今大会で最も多くの使用者を集めた「5色人間」は、《帆凧の掠め盗り》や《翻弄する魔道士》、《スレイベンの守護者、サリア》というコンボ・デッキと戦う手段も備えている。これらの妨害手段はまた、天敵である《至高の評決》や《神々の憤怒》といった全体除去を回避するのにも役立つのだ。

 このデッキはふたりのプレイヤーをトップ8へ送り出した。同じチーム「Connected Company」のアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucci(世界ランキング18位)とハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez(世界ランキング19位)だ。

 メングッチが予選ラウンド8位に入ったことがわかった瞬間、仲間たちから大きな歓声が上がった。その盛り上がりは、競技への熱と深い友情と、仲間がふたりトップ8に入賞したことへの喜びに満ちていた。

#PTRIX、8人目の決勝ラウンド進出者発表です――メングッチ選手(@Mengu09)と「Connected Company」のチームメイト、友人たちが喜びを分かち合います!


 メングッチにとっては自身3度目の、そしてドミンゲスにとっては自身初のトップ8入賞。ドミンゲスはグランプリと昨年の世界選手権で成功を収めているものの、プロツアーでは過去に2度、9位という悔しい結果に終わっていたのだ。

 9位といえば、今大会で9位となり惜しくもトップ8入賞を逃した選手は? 殿堂顕彰者のジョン・フィンケルだ。彼はその偉大な戦績に17回目のプロツアー・トップ8入賞を加えるまで、あと一歩のところに来ていたのだ。

「3度目」という勲章

 初のプロツアー・トップ8入賞は偉大なプレイヤーになるための第一歩。2度目は1度目が偶然でなかったことの証明。そして3度目のプロツアー・トップ8入賞を達成したとき、世界からの賞賛を受け特別なエリートの仲間入りを果たす。これまでにその偉業を成し遂げている者は、100人に満たない。(正確に言うなら94人だ。)

 この週末、新たに3人のプレイヤーがそのリストに加わることになった。リード・デューク/Reid Duke(世界ランキング2位)とジェリー・トンプソン/Gerry Thompson、そして先述したアンドレア・メングッチの3名だ。彼らはみな熱心なプロ・プレイヤーであることはもちろん、それぞれに特筆すべき結果を残している。デュークは2011年のMagic Online王者であり、トンプソンはプロツアー『アモンケット』を制し、メングッチはワールド・マジック・カップを勝ち取った。それらの実績に加えて今大会で3度目のプロツアー・トップ8入賞を果たした彼らは、プロ・プレイヤーたちが求める究極の夢、プロツアー殿堂入りに一歩近づいたのだ。

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 リード・デュークは、長年にわたって愛用する「アブザン」でトップ8入りを決めた。今大会に先がけて黒を含むあらゆるミッドレンジ・デッキについての記事(リンク先は英語)を書き上げており、それらのデッキについて深く知りたいなら必読の一本となっている。「《タルモゴイフ》と《闇の腹心》、《ヴェールのリリアナ》はスリーブから抜いたことがないよ」と、第15回戦でタイ・ユンハオ/Tay Jun Haoとの見事な接戦を制し自身3度目のプロツアー・トップ8入賞を決めたデュークは言った。「それでも使い込み過ぎてボロボロだ。僕は本当にこのデッキが好きで、好きなデッキここまで勝ち上がれて本当に嬉しい」

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 ジェリー・トンプソンは「マルドゥ・パイロマンサー」を操りトップ8入賞への道を進んだ。このデッキは比較的新しいもので、《信仰無き物あさり》や《未練ある魂》といったさまざまなインスタントとソーサリーを駆使し、《騒乱の歓楽者》や《若き紅蓮術士》を活かしていく。「かなり良いよ」と、《騒乱の歓楽者》について尋ねられたトンプソンはそう答えた。「このカードが登場したとき、『こいつの居場所はモダンに違いない。俺が見つけてやる』って思った。でもいろいろと試したけど、あまりうまくいかなかった。そんなときに、Magic Onlineでこのデッキを見つけたんだ」 トンプソンはその可能性を見出し、プロツアーへ持ち込むことを決意した。そして自身3度目のトップ8入賞を果たしたのだ。

 ハビエル・ドミンゲスとの準々決勝では、豊富な除去で「人間」デッキを切り刻んだ。パスカル・フィーレン/Pascal Vierenとの準決勝では、2ゲームを落とし2体の《氷の中の存在》を前にしながらも、そこから劇的な逆転を見せた。決勝でルイス・サルヴァット/Luis Salvattoに敗れたトンプソンだが、この週末の彼の活躍は印象的なものだった。彼にとって今大会は、プロツアーを迎える日に亡くなった親友、コーリー・マクダフィ/Korey McDuffieに優勝を捧げるための戦いだったのだ。

ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinがプロツアーにおける自己最高成績をマークする

 世界選手権2016の王者でありファンも多いブライアン・ブラウン=デュインだが、2016-2017シーズンは厳しい戦いとなり世界選手権への参加権利も獲得できなかった。だが今週末、彼は再び目覚ましい活躍を見せてくれた。

12-4!ドラフトは4-2で、モダンはお気に入りの「ランタン・コントロール」で8-2。オポ低くてトップ8は無理だけど、PTの自己最高成績出せたから満足。


 トップ8入賞には届かなかったものの、彼は自身最高成績を記録し、素晴らしい週末を過ごせたようだ。

これまでで一番楽しいプロツアーだった。10回戦で8個のデッキと当たって、色々な戦いを楽しめた(少なくとも俺は楽しめた)。スタンダードよりモダンが良いな。モダンPTが増えると嬉しい。


パスカル・フィーレンが無敗街道を走る

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 パスカル・フィーレンは7年ほどプロツアーの舞台から離れていたが、2016年に復帰した。兄のピーター・フィーレン/Peter Vierenがベルギー代表キャプテンとなったこの年、パスカルは兄とともにワールド・マジック・カップへ参加するために全力を尽くした。すると「それをきっかけに引っ込みがつかなくなった」 ベルギー代表はワールド・マジック・カップ2016で決勝まで進出し、その後パスカルは個人でも好成績を残し続けた。そしてこの週末、彼の活躍はスペイン・ビルバオの地で結実のときを迎えた。

 予選ラウンド16回戦にわたり、フィーレンは1試合たりとも負けなかった。通常の引き分けふたつと合意の上での引き分けふたつを記録したものの、無敗であることに間違いはない。プロツアー・サンディエゴ2010でルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasが記録した伝説の予選ラウンド全勝を思わせる偉業だ。フィーレンは最終的に、ジェリー・トンプソンとの準決勝で今大会初の敗北を喫したのだった。

 フィーレンが選択したデッキは、兄のピーター謹製の「青赤パイロマンサー」だ。ドロー・ゴーを基本とするこのコントロール・デッキには、火力から打ち消しまで干渉手段が豊富に揃っており、《若き紅蓮術士》や《氷の中の存在》で勝負を決める。それらは《稲妻》や《謎めいた命令》、そして『イクサラン』で加わった《選択》といった青と赤のコントロール向けカードとの相性が抜群なのだ。デッキの多様性、可能性という点において、モダンは決して期待を裏切らない。

虚ろな者》が環境に風穴を開ける

 「黒赤『虚ろな者』」は、《信仰無き物あさり》や《燃え立つ調査》、《ゴブリンの知識》といった自身の手札を捨てる呪文からアドバンテージを引き出す比較的最近のデッキだ。これらの呪文はこれまでも使われていたが、2017年に印刷された2枚のクリーチャーがデッキを成立させるに至った。それが《炎刃の達人》と《虚ろな者》である。このデッキは楽しいだけでなく、この上ない2日目進出率を記録した。ひとりだけいた「赤緑」の《虚ろな者》デッキは初日敗退となったものの、「赤黒『虚ろな者』」は使用者全員を2日目へ送ったのだ。

 序盤に《虚ろな者》を繰り出す手段はさまざまだ。《燃え立つ調査》は1ターン目《虚ろな者》を実現してくれるし、2ターン目の《信仰無き物あさり》や《ゴブリンの知識》でも《虚ろな者》は戦場に現れる!

第14回戦:行弘 賢 vs. リウ・ユーチェン/Liu Yuchen

準々決勝:行弘 賢 vs. リード・デューク

 《虚ろな者》が持つ可能性は、0マナで4/4を繰り出せるというだけではない! ルイス・サルヴァット/Luis Salvattoとの準決勝にて、行弘 賢は《渋面の溶岩使い》による止めの一発を放つためにもう1枚墓地のカードが必要だった。そこで彼は《虚ろな者》を「サイクリング」して墓地のカードを2枚にし、スコアを2-2に戻すことに成功したのだった。

 行弘は主にふたつの面で世界に広く知れ渡っている――ひとつは魅力的なキャラクター、そしてもうひとつは魅力的なデッキ構築で。彼は《ホネツツキ》や《単体騎手》、《ツカタンのサリッド》といった、他に誰も目を向けないカードを信じて使ってきた。そしてこの週末の活躍により、《虚ろな者》も彼を代表するカードに加わるだろう。「黒赤『虚ろな者』」は、プレイする者にとっても観る者にとっても楽しく爆発力のあるデッキだった。プロツアー『イクサランの相克』のトップ8デッキの中でも、最もユニークなものとして記憶に残ることだろう。

 行弘は惜しくも決勝進出を逃したものの、自身4度目のプロツアー・トップ8入賞に笑顔を見せ、その足取りは軽かった。今大会ではチーム「Musashi」の盟友のうち3人が同様の「黒赤『虚ろな者』」を使用し、その全員が10勝6敗以上の成績を収めた。「Musashi」の結束力と《虚ろな者》の可能性を示す結果と言えるだろう。「Musashi」はこの週末63点ものプロ・ポイントを稼ぎ出し、プロツアー・チームシリーズの最上位へ一気に近づいたのだ!

 行弘は今日、プロツアー優勝を掴むことはできなかった。だが私たち全員の心を掴んだのは間違いない。

サルヴァットのバラッド

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プロツアー『イクサランの相克』王者、ルイス・サルヴァット

 チーム「Hareruya Latin」のルイス・サルヴァットが織り成す物語の始まりは、今大会の決勝ラウンドではない。彼にプロツアー・タイトルをもたらした「ランタン・コントロール」の活躍とあわせて語ることにしよう。

 サルヴァットが自身初のプロツアー・トップ8入賞を果たしたのは、アルゼンチンを含む南米地域のコミュニティが急成長を遂げていた時期、プロツアー『イニストラードを覆う影』でのことだった。その後彼は昨シーズンにゴールド・レベルまで到達したものの、プロツアー『破滅の刻』の最終ラウンドで負けたことにより、あと一歩のところでプラチナ・レベルを逃していた。そんな彼は今大会に向けての練習中、ペドロ・カルヴァリョ/Pedro Carvalhoがあるデッキをプレイしているところを見て、使おうと思っていた「8-Rack」から乗り換えることにした。そのデッキが「ランタン・コントロール」である。

 サルヴァットは「ランタン・コントロール」を手に初日をスムーズに抜け、2日目はトップ8入賞に向かう道の中で激戦を繰り広げていった。

 第14回戦、サルヴァットはジョン・スターン/Jon Sternとの記憶に残る一戦を制した。サルヴァットはもう勝ち筋がないと思われたところから、《写本裁断機》と《アカデミーの廃墟》によって墓地の《集団的蛮行》を繰り返し再利用し、「バーン」デッキを操る相手を焼き尽くした。

 繰り返すが、「バーン」デッキを使用しているジョン・スターンを、サルヴァットの「ランタン・コントロール」が「焼き尽くした」のだ。とんでもない出来事だが、彼はそれを成し遂げた。彼は4度にわたって同じ《集団的蛮行》を唱えたのだ!

俺は一体何を見たんだ? いつから「ランタン」はバーン・デッキになった?!?


 「ランタン・コントロール」の生みの親であるザック・エルシク/Zac Elsikでさえも、このデッキについてわからないことがある。

 その後コーリー・バークハート/Corey Burkhartが操る「グリクシス・コントロール」との死闘を経て(両者とも当たる可能性が低い相手との戦い方まで熟知していた)、また歴史に残る戦いが待っていた。それは、当たる可能性が低いだけでなく不運なマッチアップだった。トップ8入賞が懸かるこの大事な試合で、サルヴァットは友人でありチームメイトでもあるプロツアー王者のルーカス・エスペル・ベルサウド/Luis Esper Berthoudと当たってしまったのだ。何もここで当たる必要はなかっただろう。他の誰であっても、ふたりが揃って決勝ラウンドの舞台に立てる可能性は大いにあったのに。だが、そうはならなかった。

サポリート選手(@bolov0)、どうなりました?

(肩をすくめて苦笑いをしながら)「やるってさ」

サルヴァット選手(@LuisSalvatto)とベルサウド選手(@bertuuuu)、「Hareruya Latin」チームメイト同士がトップ8入賞を懸けた戦いに挑みます。


チームメイトのティアゴ・サポリート/Thiago Saporitoも、このどちらかの敗退を決めるしかない不運な戦いを見届けた。

 まさかサルヴァットのもとにさらなる不幸が訪れようとは、誰が想像できただろうか。第1ゲーム早々、彼が《発明品の唸り》からカードを持って来ようとしたとき、ひどい異変が起きていることに気づいた。彼は前のラウンドでサイドボーディングしたまま、デッキを戻し忘れていたのだ。ジャッジが呼ばれ、サルヴァットはそのゲームを落とすことになった。

 この奇妙な状況に、その場の空気は重苦しいものになった。サルヴァットもベルサウドも大いに混乱したに違いない。ベルサウドはのちに、「あれで試合が終わったらその晩は眠れなかったよ」と語っている。

 だが驚くべきことに、サルヴァットはとんでもないミスを世界中に晒した後、続く2ゲームを勝ち取りトップ8に入賞した。最終ゲームでは記憶に残るシーンも生まれた。ベルサウドがサルヴァットに尋ねる。「俺が勝てる可能性は?」

 サルヴァットは真剣な面持ちで答えた――「ない」。

 賽は投げられたのだ。


ルイス:みんな、「8-Rack」より「ランタン」の方がそんなに良いの?
ちなみに「ランタン」の使い方は知ってる。

ティアゴ:うん

ティアゴ:ロンドンで言ったろ。使えるのに「ランタン」使わないのはミスだって。

ルーカス:俺もランタンに1票


まさかこんなことになるとは。


試合後のベルサウドのツイート。サルヴァットが「ランタン・コントロール」の使用を決断するきっかけとなった、チーム・チャットの様子が貼られている。

 この第16回戦からは、人前でとんでもないミスをした後に立ち直る方法だけでなく、もうひとつ大切なことが学べる。それは、「プロも人間である」ということだ。最高峰にいるプレイヤーでも、私たちと同じようなミスをするのだ。世界中に何百万というファンを持つマジック:ザ・ギャザリングは、世界で最も複雑なゲームのひとつだ。ひとつのミスに囚われるのではなく、そこから立ち直ったり学んだりすることの方が大切なのだ。この出来事はマジック・コミュニティで大いに話題になった。Redditにスレッドが立てられるなり一気にトップ・ページまで登り詰め、いつの日か頂点に立ちたいと願う私たち全員に強烈なインスピレーションを与えたのだった。

 そしてサルヴァットは、頂点に立った。決勝ラウンドではまずジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Deprazと当たり、《罠の橋》に対する回答に欠ける「横断・死の影」を3勝2敗で下した。準決勝では行弘 賢と対峙し、彼も3ターン目《罠の橋》を打ち破ることはできなかった。

 そして迎えた決勝では、ジェリー・トンプソンを3連勝で退けた。どのゲームでもサルヴァットは、《洞察のランタン》と《写本裁断機》、《罠の橋》を素早く集めることに成功したのだ。

ルイス・サルヴァット、プロツアー『イクサランの相克』優勝おめでとう!
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