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プロツアー『戦乱のゼンディカー』

観戦記事

準々決勝:玉田 遼一(日本) vs. Ricky Chin(カナダ)

矢吹 哲也
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Corbin Hosler / Tr. Tetsuya Yabuki

2015年10月18日


玉田 遼一(ジェスカイ) vs. リッキー・チン/Ricky Chin(緑白「大変異」)

 プロツアー『戦乱のゼンディカー』のトップ8は、このマジックというゲームの頂の景色を余すところなく見せてくれている。中でもその極致は、生ける伝説となっているジョン・フィンケル/Jon Finkelとパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo Da Rosa、両者ともプロツアーでのマッチ勝利数が100をゆうに超える殿堂顕彰者2名の座るテーブルだろう。彼らは土曜日にも対決し、それは両者がトップ8入賞を決める試合となった。彼らは今、この日曜日に再び対峙している。

 そしてもうひとつ特徴的な卓を挙げるなら、予選ラウンド16回戦を驚くべき力強さで走り抜けて初のプロツアー・トップ8入賞を果たした玉田 遼一とリッキー・チンの両者による、「初プロツアー・トップ8」対決だろう。初めてのプロツアー・トップ8での試合に緊張した様子を見せる両者は、プロツアー『戦乱のゼンディカー』優勝のタイトル獲得への大きな一歩となるこの試合で先に進むべく、戦いの準備を整える。

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初のプロツアー・トップ8入賞を果たした2名が、この日最初の試合に突入する

それぞれのデッキ

 両プレイヤーのデッキは、今大会を通して多く見受けられたものだ。チンが選択したのは、「緑白『大変異』」。スタンダードで幾度となく繰り返し採用されてきたカードが満載のデッキだ。《棲み家の防御者》と《死霧の猛禽》により、このデッキは積極的に盤面へプレッシャーをかけられるだけでなく、ゲーム後半に劣勢を巻き返す力(と《ドロモカの命令》の脅威)によってゲーム後半を制することもできる。

 一方の玉田は、伝統に則った「ジェスカイ」。他の多くのプレイヤーが選択した、黒をタッチしたものは避けた。マナ基盤をすっきりさせて他の色のカードをタッチしないことで、《搭載歩行機械》や《ジェスカイの魔除け》を4枚ずつ採用することが可能になった形だ。今大会では《搭載歩行機械》や《始まりの木の管理人》が多く使われたため、《ジェスカイの魔除け》の4枚採用が功を奏し、玉田はこのトップ8ラウンドの舞台にいる。

ゲーム展開

 この試合のスタートをマリガンで迎えた玉田は、さらにチンが《始まりの木の管理人》を繰り出し次のターンに3/3にすると、序盤からプレッシャーをかけられる展開になった。自身の「フェッチ・ランド」への支払いも合わせて、玉田は盤面に何も繰り出さないまま早くもライフを15点に落とす。

 玉田が《道の探求者》で反撃の一歩を踏み出すと、チンは3枚目の土地を置けず《棲み家の防御者》を「変異」で出せなかった。彼はそれを表向きに繰り出す――そこに玉田は、道が開けたのを感じた。《ジェスカイの魔除け》で《始まりの木の管理人》をチンのライブラリーの一番上へ戻すと、彼の盤面上の脅威を削りつつ、そしてさらに大きなことに、次のドローでも土地を引き込むチャンスを潰したのだ。

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世界ではその名を知られていなかった玉田 遼一だが、母国日本ではグランプリや国内トーナメントでの活躍で高い評価を受けている。

 チンは《始まりの木の管理人》を出し直すのみ。一方玉田は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で展開をさらに進めた。3枚目の土地を引き込んだチンは《死霧の猛禽》を繰り出すものの、玉田は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を含めて攻勢に出る。チンも《巨森の予見者、ニッサ》で4枚目の土地を確保したが、続く玉田の攻撃を受けて生き残るすべがほぼ失われた。玉田の盤面に《搭載歩行機械》が加わるのを見ると、チンはカードを片付けて次のゲームへ移るのだった。

 1ゲーム目にマリガンを喫したものの、速度を落とさなかった玉田。その彼が2ターン目に《ヴリンの神童、ジェイス》を繰り出したのだから、期待が高まるのも無理はない。

 だが、チンの動きが完璧だった。《始まりの木の管理人》から《搭載歩行機械》、そして《死霧の猛禽》とマナ・カーブ通りの展開を見せたのだ。この圧倒的なスタートに次のターンには《巨森の予見者、ニッサ》も加わり、チンが玉田の手に負えない速度で主導権を取ったように見えた。

 しかし玉田も簡単には倒れない。彼は《絹包み》で《死霧の猛禽》を追放し、続くチンの攻撃には軽く胸を叩いて、残りライフを6点に落とすことを受け入れる。チンの攻勢を止めるためには、ビッグ・プレイが必要だ。だがその状況で、玉田は一見ビッグ・プレイとはほど遠い動きを見せた――パワー0の《ヴリンの神童、ジェイス》で攻撃に向かったのだ。このプレイに首を傾げながら、チンは《ヴリンの神童、ジェイス》をブロックしなかった。

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初参加のプロツアーにて練習量と技術の高さを見せつけてきた、リッキー・チン

 玉田の狙いはすぐに明らかになった。《ヴリンの神童、ジェイス》が攻撃したおかげで《風番いのロック》が「強襲」を達成し、トークンを連れて戦場に現れたのだ。2体の鳥が空を覆い、そしてチンは《ヴリンの神童、ジェイス》を生かしてしまったことを後悔することになる。2枚目の《絹包み》で《始まりの木の管理人》を除去した玉田は、《ヴリンの神童、ジェイス》を「変身」させた。チンの《ドロモカの命令》も引き込んだ《払拭》で打ち消すと、玉田は完全に立ち直った。ここから両者は混戦に突入する。

 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が玉田の側に降り立ち、トークンで盤面を築き出す。チンも失った優位を取り戻すべく、《棲み家の防御者》を表向きにして《ドロモカの命令》を手札に戻すと、それで同盟者・トークンを除去して《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を退場させることにも成功した。玉田は迎えたターンに反撃し、両者のライフは9点で並んだ。彼は《ヴリンの神童、ジェイス》を追加して、《束縛なきテレパス、ジェイス》を守るためにブロックする可能性も残した。

 結局《束縛なきテレパス、ジェイス》はチンの攻撃に倒れた。さらに彼の手札には《ドロモカの命令》があり、「変身」に対応して除去されるリスクがあるため、玉田もうかつに《ヴリンの神童、ジェイス》の能力を起動できない。何か、解答が必要だ。チンのライフは残り9点で、ブロッカーはなし。玉田の盤面には3/4飛行が2体。《ジェスカイの魔除け》1枚でゲームは終わる。

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チンも、2ゲームで今大会の幕を降ろすつもりは毛頭ない

 玉田はアンタップ後、カードを引いた。そして......何も引き込めなかった。彼はカードを片付けると、運命の3戦目に託した。

 3ゲーム目も、チンの緑白デッキが最高の動きを見せる。《始まりの木の管理人》から《搭載歩行機械》、そして《巨森の予見者、ニッサ》、しまいには《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だ。この強烈なスタートと比べては、玉田の《ヴリンの神童、ジェイス》は遅いように見えた。ジェイスの「変身」の助けとなる土地が墓地にないのも苦しい。

 それでも玉田は、懸命にゲームを取り戻しにかかる。《カマキリの乗り手》の攻撃で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の忠誠度を1に落とすが、返しのチンの攻撃で残りライフは8点。チンの盤面には11点分のパワーがあり、玉田が何か引き込めなければこの試合の終了は間もなくだ。

 ビッグ・ターンになることを願いアンタップする玉田。まずは《カマキリの乗り手》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を退場させると、続けて《搭載歩行機械》を展開し、チンの大軍勢を前に3体のクリーチャーを残してターンを渡した。

 チンの軍勢は、さらなる《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》展開からの「紋章」でより強大なものになった。玉田はそれに対応して《焦熱の衝動》を唱え、《始まりの木の管理人》を除去。これで《道の探求者》の「果敢」が誘発して同盟者・トークンを相討ちに取ることができ、さらに絆魂でライフを増やしてターンを迎えることができた。

 危機は脱した。

 だがそれでも、勝利への道はまだ遠い。玉田がタップ・アウトで《風番いのロック》を繰り出すと(《ヴリンの神童、ジェイス》は「変身」させなかった)、今度はチンがビッグ・プレイのチャンスを得た。

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最終ゲームにおける玉田の見事な戦いぶりは、この準々決勝をプロツアーの歴史に残る名勝負へと変えた

 しかし、チンのドローは土地。それでも彼は《巨森の予見者、ニッサ》を「変身」させてカードを引き、プレインズウォーカーを駆使するゲームに持ち込む。そして、その引き込んだカードは、彼のデッキ最強の1枚――《ドロモカの命令》だった。

「大当たりですね」玉田は小さく笑みを浮かべ、そう漏らす。

「はい、そう思います」チンは頷いた。

 ターンを迎えた玉田は、攻めに転じるときが来たと決意した。彼が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の「紋章」を盤面に加えようとすると、チンは即座に《ドロモカの命令》を放ち、《風番いのロック》本体を除去しにかかる。玉田はそれを受け入れ、残った飛行クリーチャー2体をそれぞれ別の方向に攻撃させた。1体は《精霊信者の賢人、ニッサ》を倒し、もう1体はチンのライフを残り11点に落とした。玉田は続けて2枚目の《搭載歩行機械》を繰り出し、飛行クリーチャーが勝負を決めるまで地上を止め続ける構えをとった。

 チンがターンを迎えてすぐに全軍で攻撃すると、クリーチャー同士のぶつかり合いのすえに互いに飛行機械・トークンを得て、戦場には大量のクリーチャーが並んだ。しかし幸運にも飛行クリーチャーの数で勝る玉田は、3枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で「紋章」を追加し、彼の軍勢をチンにとって致命的な大きさに変えたのだった。

「準決勝、頑張ってください」 チンは穏やかにそう言うと、右手を差し伸べた。プロツアー・トップ8初入賞のふたりが織り成した歴史に残る名勝負の、その勝者を称えて。

玉田 遼一がリッキー・チンを2勝1敗で下し、準決勝へ進出!
玉田 遼一 - 「ジェスカイ」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』 トップ8 / スタンダード[MO] [ARENA]
2 《平地
1 《
2 《
2 《大草原の川
1 《燃えがらの林間地
1 《梢の眺望
4 《溢れかえる岸辺
4 《樹木茂る山麓
4 《吹きさらしの荒野
2 《神秘の僧院
1 《シヴの浅瀬

-土地(24)-

4 《ヴリンの神童、ジェイス
4 《道の探求者
4 《カマキリの乗り手
4 《搭載歩行機械

-クリーチャー(16)-
4 《焦熱の衝動
4 《勇敢な姿勢
1 《絹包み
4 《ジェスカイの魔除け
3 《宝船の巡航
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン

-呪文(20)-
2 《アラシンの僧侶
1 《風番いのロック
2 《引き裂く流弾
1 《払拭
2 《軽蔑的な一撃
2 《見えざるものの熟達
2 《正義のうねり
1 《焙り焼き
1 《絹包み
1 《龍語りのサルカン

-サイドボード(15)-
Ricky Chin - 「緑白・大変異」
プロツアー『戦乱のゼンディカー』 トップ8 / スタンダード[MO] [ARENA]
6 《
5 《平地
3 《梢の眺望
4 《吹きさらしの荒野
3 《溢れかえる岸辺
4 《樹木茂る山麓

-土地(25)-

4 《始まりの木の管理人
4 《棲み家の防御者
2 《隠れたる龍殺し
4 《死霧の猛禽
3 《巨森の予見者、ニッサ
3 《風番いのロック
4 《搭載歩行機械

-クリーチャー(24)-
4 《ドロモカの命令
2 《絹包み
1 《勇敢な姿勢
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン

-呪文(11)-
1 《アラシンの僧侶
2 《囁きの森の精霊
3 《正義のうねり
2 《進化の飛躍
2 《勇敢な姿勢
1 《ギデオンの叱責
1 《見えざるものの熟達
1 《光輝の粛清
2 《悲劇的な傲慢

-サイドボード(15)-
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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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