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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2016
「ドラフト・マスター」から学ぶこと
Chapman Sim / Tr. Tetsuya Yabuki
2016年9月2日
世界選手権の出場選手たちにはみなそれぞれに「サクセス・ストーリー」があり、マルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoも例外ではない。彼の成功は偶然などではなく、才能と努力が組み合わさった結果なのだ。
この「ドラフト・マスター」(参考:英語記事)は、昨シーズンの4つのプロツアーにおけるリミテッド部門で合計20勝3敗1分という成績を収めた。勝率で言うとなんと83%を超える。無論、この数字は世界一であり、カルヴァリョは世界選手権の舞台に招待されることになったのだった。彼は今大会でも、昨日行われた第1ドラフト・ラウンドを3戦全勝し、これで昨シーズンから続くドラフト連勝記録を15連勝に伸ばした。
この戦績にはリッチ・ハーゴン/Rich Hagonも舌を巻く。「君はドラフトを5回連続で全勝したことあるかい? ましてや、マジックの誇るプレミア・プレイの頂点の舞台でだぞ?」カルヴァリョは今、6連続全勝のグランド・スラムを決めようとしているのだ。
彼はグランプリ・トロント2000で初めてグランプリに参戦し、初参加ながら26位と早くもその才能の片鱗を見せていた。その後何度かグランプリ・トップ8に入賞したのち、彼はついに、当時は単一のフォーマットで行われていたプロツアーの舞台に立った。デビュー戦となったプロツアー・ロンドン2005のフォーマットは、ブースタードラフト。カルヴァリョの得意フォーマットであり、彼は10勝5敗(全5回のドラフトですべて2勝1敗)の成績を収め、28位に入賞した。しかしカルヴァリョは、十分な成績でデビューを飾ったにも関わらず喜びを感じなかったという。
「当時すでにグランプリではかなり勝てていて、初めてのプロツアーにも自信満々で向かいました」と、カルヴァリョは言う。「10勝5敗は決して悪い成績じゃない。でも満足できなかった。まだ年若く何度も参加できるものじゃなかったから、1回のプロツアーがすべてだったんです。次に参加権利を得られるのがいつになるかわからなかったし、参加権利があっても100%行けるとは限らなかった」
その後彼はプロツアー・トップ8入賞2回、グランプリ・トップ8入賞11回を記録し、ポルトガルの国内選手権も3度優勝した。10年を超えるキャリアはついに、彼を選ばれし24人の中に導いた。その偉業を表す「ドラフト・マスター」の称号とともに。
「ドラフトは本当に得意です」と、カルヴァリョは確信を持って言う。「そこに恥じるところはありません。新設された『ドラフト・マスター』のタイトルを獲得して、証明できましたかね。これまでの努力すべてが、この瞬間のためにあったんだと感じています。世界王者になれるチャンスは十分にある。ドラフトは誰より強いんだから」
では本題に切り込もう。「ドラフト・マスター」はどのように「ドラフト・マスター」になったのか?
目標に向かって行動を起こそうとするとき、自分が何をするべきなのかを理解している人は少ないものだ。そういうときに最も大切なことは、計画を立ててなんとか時間を捻出し、スケジュールを厳守することだ。それができるのは自身のみであり、誰も代わりにやってはくれないのだから。カルヴァリョは平均して毎日3時間から4時間の練習を行い、「本気の日」には8時間から10時間を練習にあてた。
彼のMagic Onlineのトレード・バインダーには、287枚の《掴み掛かる水流》がある。古くから「習うより慣れろ」と言われるが、カルヴァリョはそうは思わないという。彼としてはただ慣れるだけでは不十分で、その過程も大事なのだ。だから彼は、賞金がかかっていなくとも気を緩めることはしないし、Magic Onlineで練習するときでさえ厳しいハードルを自身に課す。
「Magic Onlineでの勝率は75~80%です」と、カルヴァリョは言う。「8-4ドラフトを10回やったら7回か8回全勝していることになりますね。全勝できなかった回は必ず見直して、なぜ勝てなかったのか振り返ります。僕にとってブースタードラフトはジグソー・パズルのようなもので、環境を解明していくのが楽しいんです」
では、「リミテッドが上手くなりたい」というプレイヤーのために、「ドラフト・マスター」からアドバイスをお願いしよう。
「僕は『ドラフトの点数表』を信じていません」と、カルヴァリョは言う。「毎セット、さまざまなプレイヤーがカード1枚1枚に点数をつけて、ランキングを作っていますよね。そういうのは目安としては悪くないんですが、どんな場面でも信頼できる情報ではありません。8点のカードと6.5点のカードが同時に出ても、絶対に6.5点の方が必要なこともあります。その場合、点数表は間違っていると言えます。ドラフト上達のためには、点数の優れたものを思考停止でピックするのではなく、『どちらを取ればデッキを最大限強化できるか』ということを素早く評価できるようになることが必要なんです。例えば、《ソンバーワルドの雄鹿》をすでに3枚取れているのに、8点の5マナ域をピックしますか? 5マナ域はそんなに多く使えないし、それなら6.5点でも2マナ域か3マナ域のカードをピックするべきでしょう」
またカルヴァリョは、ドラフトの経験が浅いプレイヤーの多くが、最初にピックしたカードに引きずられ過ぎていることを指摘する。「1パック目から本当に強力なカードを取れると、それを使わなければならないという思いが強くなりがちです。中にはシグナルを無視して、空いている色に入り損ねる人もいますね。他の色が空いていると感じたら、色を変えることを恐れないでください。その方が良いデッキになるんです」
改めて、世界選手権の話に戻ろう。今大会の第2ドラフトとなる本日の手応えは?
「かなり良いです」と、カルヴァリョは頷いた。「『緑青現出』を中心にした形に仕上がりました。リード・デューク/Reid Dukeが《絡み草の闇潜み》を2枚奪っていったのは惜しくてたまらないですが、《爪の群れのウルリッチ》と《内部着火》が流れて来てデッキをかなり強化できました。マイク(・シグリスト/Mike Sigrist)は恐らく、最初のピックで赤緑の2色に決めたくなかったんでしょう。僕は《爪の群れのウルリッチ》が流れて来た時点で《ソンバーワルドの雄鹿》をピックしていたので、喜んで取りましたよ」
「グランプリ・マスター」ブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinとプロツアー『異界月』王者ルーカス・ブロホン/Lukas Blohonを相手に見事勝利したカルヴァリョだったが、最終戦でついに、プロツアー『ゲートウォッチの誓い』王者ジャアチェン・タオ/Jiachen Taoに敗れた。しかしそれでも彼は今大会の首位を維持し、トップ4入賞を早々に固めようとしている。
だがここまでのドラフト部門での成功とは裏腹に、カルヴァリョは克服すべき根深い不安を抱えていた。
「構築における判断の改善は課題ですね」と、彼は認めた。「直近2回のプロツアーでは、どちらもドラフト部門で全勝しました。構築部門を普通の成績で切り抜ければ、トップ8に入賞できたはずなんです。僕はデッキの作り方もデッキの選び方もわかっていない。今は到底うまくできません。今後は同じチームの構築上手のプレイヤーに助けてもらって、構築についてたくさん学ぶつもりです。明日のモダン部門では正しい選択ができることを願っていますよ。あと1勝か2勝でトップ4に入賞できるんですから」
敗北の苦さを知る者にとって、勝利ほど甘いものはない。カルヴァリョが抱える課題を克服したそのとき、必ずや彼は今日よりもさらに偉大な人物になるだろう。
成功を遂げたプレイヤーを目にするとき、人はその輝かしい栄光だけを見て、そこに至るまでの苦労や犠牲を知ることはない。今回の話はカルヴァリョに限ったものではなく、夢を掴むことやそのための勇気や意志といった心構えに通じるものだ。諦めずに続けること。そうすればほとんどの夢が達成可能であり、実現可能であることに気づくだろう。
私たちが抱える最大の弱点は、諦めてしまうことだ。どうか諦めないで挑戦してほしい。
RESULTS 本大会の対戦結果・順位
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