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グランプリ・京都2018

トピック

チーム原根/藤村/斉藤に見る「プロ」と「スペシャリスト」

By 矢吹 哲也

 さまざまなチームが頂点を目指して戦いを続ける今大会の会場で、ひときわ目を引く3人組があった。

 昨年の日本選手権王者にしてワールド・マジック・カップ2017優勝チームの一員、原根 健太。

 昨年ゴールド・レベルを達成し、チーム「Kusemono」としてチームシリーズにも出場中の藤村 和晃。

 そしてレガシー・コミュニティでその名を知らぬ者はいない、レガシーのスペシャリスト、斉藤 伸夫。

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(写真左から)斉藤、藤村、原根。

 「ゴールド」レベル・プロ2名とレガシーのスペシャリストという異色の組み合わせは、フィーチャー・マッチの舞台はもちろん、それ以外にも毎ラウンドでギャラリーを集めていた。一体このチームはどのように生まれたのか? 結成の経緯を、原根は次のように語る。

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第2回戦、フィーチャー・マッチの様子。多くのギャラリーがゆくえを見守る。

原根「直前までチームを全然決めていなくて、そうしているうちに周りはどんどん決まっていきました。そろそろまずいなと考えた僕はTwitterで募集をかけたんです。ノブさん(斉藤 伸夫)はTwitterをやっていなかったんですけど、人づてに僕がチームメンバーを募集しているということを聞いて、井川さん(井川 良彦)経由で声をかけてくれました。レガシー担当を探すのは難しいと悩んでいた中で、スペシャリストからのオファー。願ったり叶ったりですよ(笑)」

斉藤「僕もチームメンバーを探していたので、ありがたかったです」

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結成までの道のりを振り返る原根(写真右)。

原根「それで2人は決まったんですが、あとひとりを決めようと共通の友人を探しても、すでにチームが決まっている人ばかりでした。その中でもうひとり、チームが決まっていない人がいました。それがこいつ(藤村 和晃)です(笑)」

藤村「僕の理念として、チーム戦は後輩的な立場の人と一緒に出たいっていうのがあったんですけど、今回ちょっと声をかけられたときに、『先輩風を吹かせるのも大人げないかな』と躊躇してしまったんです。で、後日改めてこちらから声をかけてみると、僕の席はなくなっていた(笑)」

藤村「それで、出させてもらえるなら、と乗っかった形ですね。グランプリなんで、お祭り気分で楽しめればいいかなと」

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3人目として白羽の矢が立った藤村(写真中央)。

藤村「あとは今回のフォーマット(3人チーム構築戦)が大きかったですね。チーム・リミテッドとかでは絶対この3人で組むことはなかった」

原根「他のチーム戦フォーマットだと絶対に一緒に練習する時間が必要ですからね。このフォーマットは個々人の練習でどうにかなる」

斉藤「このフォーマットは、レガシー・プレイヤーがグランプリに参加する大きな動機になりました。それから、普段から競技の舞台で戦っているプロ同士でチームを組む場合、プロがレガシーをやるじゃないですか。そういう機会って珍しくて、レガシー・プレイヤー的にもすごく刺激になるんです。プロの考え方や使用しているデッキにはみんな注目しますよ。僕以外にも、プロの方とチームを組んで今大会に出ているレガシー・プレイヤーは多くいます。」

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レガシー・プレイヤーの視点から語る斉藤(写真左)。

 こうして普段ともにプレイすることのない3人が出会い、チームとして今大会に臨むことになった。レガシーは斉藤が担当することが決まっていたものの、残るスタンダードとモダンの担当はやや時間を要したという。

原根「チームが決まったのがプロツアー『イクサランの相克』の前でした。そのフォーマットがモダンだったので、そこで成績の良かった方がモダンを担当しようということになりました。そして結果はふたりとも8勝8敗(笑)。『これじゃダメだ!』ということで、しばらくはふたりともスタンダードとモダンに並行して取り組み、自信がある方を主張しようということになったんです。スタンダードとモダンを両方1日1リーグほどこなし、結果的に僕がスタンダード担当を主張したという形ですね。結果が明確に良かったので」

 そして担当が決まると、3人は今大会に向けて主に情報の共有という形で互いにサポートし合った。

原根「基本的には、『今自分がこれをやってるよ』っていう報告ですね」

藤村「あとは大会の情報とかは共有しましたね」

原根「今度こういう大会があって、このフォーマットに影響があるから結果をチェックしておいてねという風に声をかけあいました」

斉藤「各大会のトップ8とかトップ32までのアーキタイプ分布とか、情報は逐一追って共有しました」

藤村「(個人だけだと)見落としも絶対あると思うんで」

原根「3つのフォーマットに全員で取り組むのは効率が悪いんで、調整は個人に任せつつ、できる限りのサポートをしていく形でした」

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 この3人によるチームが成立したのは、結果に対する意識の差が大きくなかったことも挙げられる。「スペシャリスト」たるレガシー・プレイヤーは、プロ・プレイヤーと異なりプロ・ポイントを追い求めない。しかし斉藤と手を組んだふたりも、ゴールド・プロでありながらプロ・ポイントを追い求め過ぎないプレイヤーたちだった。

藤村「(今大会でプロ・ポイントを稼ごうとは)思ってないですね、まったく」

原根「『この大会で何点取る』という考え方は辞めたので。稼ぐ目標を決めると大会中に『あと◯回しか負けられない』という考えが浮かんできて、しんどいんですよ」

 「もちろん勝てたらいいけどね」と笑う藤村は、短い間ながらグランプリという同じ目標へ向かう道をともにした、スペシャリストたる斉藤をこう評した。

 
藤村 和晃

藤村「具体的な話になるんですけど、対『スニーク・ショウ』の一戦で、こちらの手札が強かったので構えて待つかなと思っていたら、(斉藤は)おもむろに土地をフルタップして《精神を刻む者、ジェイス》を繰り出したんですよ。あとで聞いてみると、複雑な読みをノータイムでやっていたことがわかりました。レガシーを普段プレイしていないと身につかない『柔軟な読み』に、スペシャリストを感じましたね」

 一方の斉藤は、プロとレガシー・プレイヤーの違いを常々感じていたという。

 
斉藤 伸夫

斉藤「例えば個人戦のグランプリでは、初日9回戦を全勝か1敗で乗り切らないとプロツアーへの道やグランプリ優勝の道は閉ざされてしまう。また合計15~16回戦+決勝ラウンドという長い戦いをレガシー・プレイヤーは滅多に体験しません。体力やメンタル・コントロール、リスク管理など、マジックの技術以外の部分もプロは本当に強いなと思っているんです」

斉藤「マジックに限らず『競技』の世界では、勝敗を求めるのはもちろん自分をコントロールできることが大切です。プロの人たちを見ていると、その点が自分たちとは明確に違うな、と感じますね。競技の世界に生きる人は、比較的いつも落ち着いていて、長い戦いの中でも適切な判断を失わず、疲労を表に出さない。そういうところが、自分たちにない、鍛えたい部分だなと思います。そのためにも、長いラウンドに触れる機会を増やして、今後来るレガシーのグランプリで勝ち切る力を身につけたいです」

 そして原根は、斉藤の職人ぶりに驚かされることが多かったとしながらも、「こちらから与えられるものもある」と言う。

 
原根 健太

原根「印象的な場面がありました。3日前くらいにチーム構築のイベントに参加したんですけど、イベント後に斉藤さんからサイドボーディングの相談を受けたんですよ。レガシーの第一線でプレイしている方に僕からアドバイスできることはないかなと思っていたんですが、サイドボーディングを見ているとけっこう思い切った入れ替え方をしていて、危うさを感じたんですね」

原根「例えばサイド後に打ち消し呪文を大量に入れた結果、能動的に動けなくなり、ゲームが長引いて土地を引きすぎて負ける、という風に。スタンダードやリミテッドを主戦場にしているプロ・プレイヤーって、いわゆる『フラッド負け』に敏感なんですよ。攻守のバランス感覚が鋭いというか。そういう部分が普段スタンダードをやらないレガシー・プレイヤーには浸透しないのかな、とすごく印象深かったです。レガシー・プレイヤーならではの視野の広さには脱帽ですが、そういうところに違いを感じましたね」


 「3人チーム構築戦」は個人戦的な要素が強いと参加者たちは口々に言う。

 その中で、主戦場もプレイスタイルもキャラクターも異なる原根、藤村、斉藤の3人はできる限りの方法で互いに助け合い、高め合ってグランプリ・京都2018の舞台に立った。

 そして冒頭で述べた通り3人の活躍は多くのギャラリーを集め、このチームは毎ラウンド激戦を繰り広げながら6勝2敗で2日目へ進出した。

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延長ターン突入かと思われた戦いを制し、安堵の3人。

 これまで出会うことのなかったプロとスペシャリストの共演は、まだまだ私たちを楽しませてくれそうだ。

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RESULTS

対戦結果 順位
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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