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なかしゅー世界一周

2013.03.07

なかしゅー世界一周2013・第4回:プロツアー、あるいはドラフト戦略

By 中村 修平


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 ラスベガス調整から極寒の地、モントリオールへ。
 グランプリ・ロンドンから直接飛ぶジュザとパウロのために、今回はモントリオールへはかなり早く、月曜日に向かうことになっていたのですが......
 私だけは日本からのつなぎ旅券の都合で月曜日の便が取れず、遅れて火曜日早朝の便でモントリオールまで。
 時差もあるので移動はそれだけで1日仕事、乗り継ぎ先で到着が遅れて、あわや次の飛行機に乗り遅れそうというちょっと危険な目に遭いましたが、なんとか到着。
 アメリカ大陸なのにフランス語圏というのは、何度か訪れて経験しているので今回もなんとかなるでしょう。たぶん。

 もっと懸念だった寒さについては、到着後の感じとして、
「これくらいならなんとかなるか...」

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 と思っていた時期が私にもありました。
 なんとかなったのは10分程ですかね。
 『寒い』じゃなくて『痛い』です。
 冗談抜きに、外に放置したバナナで釘が打てるレベル。
 かつて風邪を引いて死にかけた冬のシカゴ、五大湖を越えてさらにその北は、当然のごとく私には住めるレベルを超えている場所でした。

 ですが、そんな場所でも食への探求を諦めないのがチャネル勢。
『シュワルツっていう燻製肉屋に行くけど、シューヘーはどうする?』

 ベガスから絶望的に不味かったファーストフードの朝食メニューを食べて以来の身にはまさに渡りに船。あ、移動はもちろんタクシーで。

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 そんなこんなで、前回にもある通り、急遽制作が開始されたエスパーデッキの調整に明け暮れていたらあっという間に大会前日。
 メインは一応の完成まで漕ぎ着けましたが、まだサイドボード候補が17枚あるという状況。
 そんな中で自作の黒単を使うらしいコンリーから「対ビートダウン用に《鬱外科医/Gloom Surgeon》」の猛烈プッシュがあったのですが、それは参加登録した後に試そうということで、会場のバイヤーに手配だけはすることにしていざ決戦の地へ。
 ちなみに会場までは3ブロックほどですが、移動手段は言わずもがな。


モントリオールでの再会

 グランプリで二、三度訪れた場所ではありますが、季節が変わるだけでここまで印象が違うものなんですね。というかまあ、外が寒すぎるだけなのですが...
 参加登録を済ませて、カードも取りまとめをしてくれているルイスの首尾は上々のよう、それと久しぶりとなる日本人プレイヤー達に挨拶をしつつ......

 ん、この後姿は...

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 やはりワフォさんだ。
 ギヨーム・ワフォ=タパ。
 とある事情で2年ほどマジックができない体になっていたのですが、プロツアー予選を抜けて帰ってきました。フランス一、いや世界一カードを引くのが好きな男です。

 プロツアー・名古屋の不参加表明以来、久しく見ていなかったオリヴィエ・ルエルも顔を見せていますし、いちファンとしては嬉しい限りです。

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プロツアー、あるいはドラフト戦略

 これまでは構築5回戦→ドラフト3回戦というのが初日8回戦の定型だったのですが、今回はドラフト→構築とフォーマットの順序が逆転した形でのトーナメント方式となっています。

 おそらく、最も視聴者が興味がある部分を。最も視聴者が多い地域への時間帯、マジックの場合はもちろんアメリカ在住プレイヤーへの配慮なんでしょうね。朝早くより、昼過ぎの方がリアルタイム配信を見ようという気になるのは当然。
 サッカーやF1といった国際試合がある他の競技にはよくあることなので、十分理解ができます。

 ですがプレイヤーとしてはやりづらく感じるといった部分もあったり。
『ドラフトから先にやられると実力者がそのまま上位に来てしまうから、楽ができない』
 とヤソが言っていたのには、ある程度同意してしまいます。
 デッキという、良くも悪くもかさ上げの下駄となる要素がない分、ドラフトという種目が実力があるというプレイヤーにとって優位になりやすいというのは事実だからです。
 まあ、行弘のように、ルイスとパウロをはじめとしてほぼ全員有名プレイヤー、なんていう地獄のようなポッドに座ってしまった時は、違う意味を含んできてしまいますが...

 という感じで、勝ち抜くという意味では先々で強いプレイヤーと当たる可能性が少し上がった初日の8回戦。
 なにはともあれ、ドラフトでそれなりの成績を出さなければ意味がありません。

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前夜に行われたドラフトらしきもの

 私がギルド門侵犯ドラフトに挑むにあたって感じた印象は、
『どのギルドでも良いけど、各ギルドが持つコンセプト、その完成度が高いデッキをドラフトできなければ勝てない』
 というものです。

 それぞれ全く違うギルドコンセプトによって、例え単色のカードであっても《強打/Smite》のように明らかに片方のギルド用といえるカードが相当数あるのです。
 従来の画一的なカードの得点付けではなく、ギルドごと、デッキのコンセプトごとでのカード選別と、デッキ全体としての方向性に統一感がなくてはいけません。

 もう1つ重要なのは速度。
 明らかにアグレッシブなボロスの大隊とグルールの湧血。シミックの進化もマナ域通りの召喚を推奨していますし、暗号のディミーアにしても攻撃を通すことを前提としたデザインです。
 唯一オルゾフだけが低速寄りの志向ですが、他のギルドが速度を重視している手前、それを受けられる程度の速さ、速攻よりはやや遅いというデッキ構築が求められます。

 そんな中で、まず普通にドラフトすればボロスが強いというのは当たり前でしょう。

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 何よりも速いし、それに応えるかのように低マナのカードが強い。
 コンセプトである大隊も、その軽いクリーチャーを集めればよいと解りやすい。
 ですが、その簡単さゆえに卓内でボロスに人気が集中しやすく、飽和状態のボロスとなってしまうのも簡単に予測できます。
 そうなると逆に低マナ域が少なくて高マナ域が平凡。それでも一見してそこそこに見えるが、実際にはこの環境では解りやすい失敗デッキ、ということに繋がりやすい。それが私が練習中に感じた印象でした。

 そうならないためには、卓内で空いているギルドに上手いこと滑り込み、最大の利益を取る。

 これを大指針として、負けるドラフトの仕方の逆、勝っているドラフト、そしてプレイヤーは誰か、と考えます。
 ここで言う「勝っているドラフトとプレイヤー」というのも、環境の特色でしょうね。
 上記のようにかなり各人のドラフト指針に左右されるので、同じ面々で練習し続けた場合、使用ギルドが固定化されやすいのです。

 黒が、というより《忌まわしい光景/Grisly Spectacle》が入れば、かなりの割合でオルゾフ/ディミーアに寄らざるを得ないでしょうし、同じようにコモンで《強盗/Mugging》を最優先するプレイヤーなら、必然的に向かう先はボロス/グルールとなりやすいのも道理です。
 それが一定数繰り返されてしまうと、なんとなくこのプレイヤーはオルゾフ、あるいはボロスばっかりやっている、という印象を呼び込み、さらに遠慮もあってよりギルド固定が進んでしまう...

 それを踏まえた上で、チャネル合宿の練習ドラフトを見返してみると、明らかに勝率が良かったのがイーフロウのシミックでした。

 スピードではボロスとグルールに負け、デッキの強度ではオルゾフに劣る。
 シミックはギルドとしての強さでいうならおそらく4番目でしょう。
 ですが練習ドラフトの段階でシミックが勝てたことには確かに理はあります。

 1つは除去色からは離れていること。先ほどの《忌まわしい光景/Grisly Spectacle》/《強盗/Mugging》といった明らかにトップを争うコモンとは競合しないので、住み分けがしやすいという大きな武器があります。

 そしてシミックの進化というキーワード能力が、集めれば集めただけ強い、むしろ集めなければならないという伸るか反るかしかない、ということも働いてきます。
 経験値が蓄積される環境中盤以降ならともかく、初期ではこういう傾向のアーキタイプというのは練習のしづらさゆえに敬遠されがち。
 つまり見た目以上に参入する障壁が強く、卓内で1人になりやすい。
 そしてもし卓内で1人になった時の利益はいわずもがな。

 だいたいプロツアーに来るグループが同じような変遷をたどるとするならば、これがプロツアーにおける最適戦略ではないか。
 実際にそれが上手くいったのが1回目のドラフトデッキです。

中村 修平
プロツアー「ギルド門侵犯」 第1ドラフト
17 土地

-土地(17)-

3 《雲ヒレの猛禽》
2 《旧き道の信奉者》
1 《エリマキ眼魔》
1 《シュラバザメ》
3 《ドレイク翼の混成体》
1 《両生鰐》
1 《神出鬼没の混成体》
1 《雨雲を泳ぐもの》
2 《水深の魔道士》
1 《力線の幻影》
1 《心見のドレイク》
1 《腐食スカラベ》

-クリーチャー(18)-
1 《急速混成》
1 《闘技》
1 《軟泥の変転》
1 《神秘的発生》
1 《道迷い》

-呪文(5)-

 初手《水深の魔道士/Fathom Mage》からスタートしてその後は進化カードをひたすら取り続けるだけ、シミックデッキでは明確な爆弾カード、《軟泥の変転/Ooze Flux》も取れて言うことなし。
 初戦のルーカス・シウ戦を、6ターン目《戦導者オレリア/Aurelia, the Warleader》、7ターン目《溶鉄の始源体/Molten Primordial》と連打されて落としてしまいますがその後は問題なく2連勝で2勝1敗。
 感触では3連勝できただけに、それでもちょっと残念といったところです。

 及第点の結果でスタンダードラウンドへと駒を進め、こちらも初めの3戦を2勝1敗で進めたまでは良かったのですが、そこから2連敗して4勝4敗のギリギリで初日通過。

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 そして2回目のドラフトです。

中村 修平
プロツアー「ギルド門侵犯」 第2ドラフト
6 《沼》
5 《平地》
3 《島》
3 《オルゾフのギルド門》

-土地(17)-

2 《従順なスラル》
2 《聖堂の金切り声上げ》
1 《カルテルの貴種》
1 《果敢なスカイジェク》
1 《死体の道塞ぎ》
1 《地底街の密告人》
1 《欄干のスパイ》
1 《組織の処罰者》
1 《門なしの守護者》
1 《航行隊の猛士》
1 《煙の精霊》

-クリーチャー(13)-
1 《オルゾフの魔鍵》
1 《束縛の手》
1 《処刑人の一振り》
1 《忌まわしい光景》
1 《真夜中の復活》
1 《千叩き》
1 《天使の布告》
1 《債務者の演壇》
1 《殺意の凝視》
1 《暴動用具》

-呪文(10)-


 簡単に言ってしまうと失敗ドラフトでした。
 ドラフト中の感触で、上に座っているケニー・オルベルグとオルゾフ被りしているのは解ってはいたのですが、スイッチできるだけの機会がなく引きずられ続けた結果、できたのはなんとも微妙なオルゾフ。
 敢えて良いところを探そうとするならば、この環境には珍しく、弱いデッキなのに土地のサポートがあることくらいでしょうか、
 この環境の弱いデッキのパターンとして、

弱いゆえに色をタッチしなくてはならない
→多色が出る土地を取ろうとするとその分、カードを補填する機会を損ねることになる
→結果的にはやはり土地を取ることができず、厳しいマナ基盤で3色デッキを使わなければならない

 というものが常ですが、今回は珍しくその例外で、上との色被りで取るものが無くて仕方なく《オルゾフのギルド門/Orzhov Guildgate》を取るはめになっていたのです。
 タッチ青で暗号を忍ばせるというのは、『呪文』を『唱える』ことにメリットがあるオルゾフではわりかし好みでよくやるのですが、問題は強請そのものが少ないことです。
 とはいえ貧弱なりとはいえ勝ち筋自体は用意しました。2勝を取りに行くくらいはできそう......

 と、思ったら卓内全体が悲惨だったようで、苦しい戦いとなりましたが2連勝。
 最終戦は卓内1人と思われる気が狂ったかと思えるほど強いボロスでしたが、ギルド間の相性差と対戦相手の微妙な回り、ついでにこちらのトップデッキも重なって3連勝達成。
 まあマジックとはこんなものですね。

 そして構築ラウンドでも...とそう上手くは続かないのもマジック。
 接戦を全て落として、気がつけば昨日と同じ2勝3敗。
 ドラフトラウンドの通算5勝1敗と合わせて、10勝7敗の100位ちょうど。
 プロポイントが100位からは1点加算の4点となるのでそこは物凄く嬉しいのですが、構築ラウンド合計では4勝6敗と大幅な負け越しと、なんだかなあといった形でプロツアーを終えることとなりました。

プロツアー「ギルド門侵犯」


チームの危機?

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 一方でチームチャネルはというと、外から見れば大成功と言ってもよいでしょうね。
 使用デッキが分裂という事態で挑んだ大会は、蓋を開けてみればチーム内での3人のプレイヤー、ナヤのイーフロウ、トリコロールのジェリー・トンプソン、そしてエスパーのベン・スタークがそれぞれ別のデッキでトップ8に入賞。
 優勝こそ、調整チームとしてはスター・シティで所属としてはチャネルというちょっと面倒なポジションにいるトム・マーテルにかっさらわれましたが、3位と4位。こっそりコンリーがトップ16に入っていたりもします。

 プロツアー「ギルド門侵犯」最終順位

 個人的には、チームとして結果が出て良かったと心底安堵した大会でした。
 デッキ的な信頼度という点で自信が持てなかったからこそ、いつもとは違い複数のデッキ選択という結果に繋がったわけですし、一部のメンバーが調整に参加せず、チームを離れてヨーロッパのグランプリに行っていたという事情は、多かれ少なかれチーム全体に決して良い影響を与えたとは言えませんでした。

 新規メンバーがどうだったかという点についても同様です。
 常に新しい血を導入しない限り、硬直化は避けられないという共通認識はありますが、だからといって無秩序に構成員を拡大するには私達のチームは大きすぎます。
 そしてお互いに強い個性の集合体なのですから、もちろん衝突もあります。

 勝てている内情とは正反対に、今回チーム内では不協和音の連続だったのです。

 かつて世界に君臨していて、同じように3人が別々のデッキでプロツアートップ8入賞をしたあたりが最盛期だった「チームYMG」もこんな形から崩壊していったのかも、と私が危惧するには充分でした。

 ですがプロツアー直後に、リーダーのルイスをはじめ、チーム全員がそれを理解した上で聞く耳を持って改善しようとしているところに、改めてこの面々に対して、まだしばらくはこのチームでやっていけそうという認識を受けた出来事もあったのです。

 土曜日、予選ラウンド終了後恒例のチームディナーでのことです。
 平たく言うと成績優秀者の奢り会で、これまで日本人との付き合いを優先して参加していなかったのですが、そういった事情もあって参加してみると、いつものおちゃらけた雰囲気もほどほどに、今回の総括・反省と、これからどうするべきか、そして改善案について真剣な議論が繰り返されていました。

 決して非難合戦にはならずに、悪かった点は次回はどうするべきか、逆に良かった点については評価を惜しまず、とはいっても手放しで褒めることはせず、注文も惜しまない。
 もちろん会話の全てを理解できたとは私の読解力では言えませんが、それでもとても有意義な会合だったと思います。

 あ、それでも解決できなかった問題点が一点だけありました。
 人数分のコースを頼んだのに何故かこんなにも届いてしまった料理の数々についてですね。
 おかしい、人並み以上に食う面子のはずなのに......

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 あとフォーチュンクッキー(アメリカの中華の食後に必ず1つ付いてくるおみくじ付きお菓子)を何個も食べるパウロもそれはそれで...

 といった形でチームが危うく空中分解かと心配になってしまったモントリオールですが、次回は今回の反省を糧にもっとがんばろう。ということになりました。
 逆に言えば次のプロツアーこそが本当の試練となるのかもしれませんけどね。

 それでは今回はこの辺りで終わりにしたいと思います。
 それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。

ドバイに向かう飛行機内にて
中村修平

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