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コラム

なかしゅー世界一周

なかしゅー世界一周2013・第12回:アメリカ・グランプリツアー

なかしゅー世界一周2013・第12回:アメリカ・グランプリツアー

shuheinakamura

Text, Photo by 中村 修平


友人たち

 私が所属しているチーム、チャネル・ファイアーボールにベン・スタークというプロがいます。
プロツアー「ギルド門侵犯」イベントカバレージより
 プレイヤーとしての経歴はとても古くて、チャネル内だとプロツアー最古参のブライアン・キブラーと同じくらい。  まだ「ジュニアプロツアー」というカテゴリーがあった頃からマジックのトーナメントに参加していて、そういえば黒田正城が優勝したプロツアー・神戸2004ではトップ8に入賞の経験もあります。  そこからキブラーと同じく2000年代前半に休眠期間を挟んでの復帰があり、プロツアー・パリ2011をカウ・ブレイドで優勝してからはアメリカの第一線にい続けるプラチナレベルプロ。  特にリミテッドでは自他とも認めるスペシャリストとして、チャネル内でも高く評価されています。  マジックの評価はこんな感じなのですが、  性格的にはというと基本的に怠け者で快楽主義者。おまけに頭の回転が早くて口も立つ...  まあ、だいたいこれでどういうキャラクターなのかはご想像いただけるとは思います。  明らかにベンが悪い状況でも怒涛のマシンガントークで相手を捻じ伏せていくさまを見て、 『ベンスタする』  という言い回しがあることからお察しください。  よくパウロが 『アメリカ人の癖にチーム内で一番、英語が書けない』  と綴り間違いだらけのベンの文章をネタにするのに対して、 『ブラジル人の割には英語上手いよね、まあこんなに早く喋れないようだけど』  とやり返すさまはもはや風物詩。  と、こうやって文章にしてしまうと、ただただ面倒くさい、酷い奴のように見えてしまいますが、最後には相手がベンなんだからしょうがないと言うことになってしまう、どことなく憎めない、チームとしてのチャネルにとって欠かせない存在。  私も彼に随分助けられています。  つくづく思うのですが、難しいことを簡単に説明できるというのは一種の才能ですね。  私が会話に加わっている時に配慮してくれて、実際にそれが助けになっているのはリーダー格のルイスや付き合いの長いジュザ、そしてこのベン・スターク。  あくまで個人的な経験からですが、こういう配慮ができる人は凄くデキる人か、あるいは頭が良すぎて集団行動が飛び出してしまうタイプが多い気がします。  ルイスが前者で、ジュザとベンが後者。
グランプリ・プロヴィデンス イベントカバレージより
 ジュザとベンはとても仲が良いのですが、私から見ると、性格・気質的に凄く似てるから気が合うんだろうな、と思うことしきりです。  それでも時々、あまりにベンの怠け具合が酷くてジュザがキレてるところも見ますが、逆に延々と愚痴モードに入ったジュザをベンが適度な距離を取りながら相手してるところも見ますし、親友という表現がとてもしっくりきますね。

グランプリ・プロヴィデンス(6/8-9)

ww1312_providence.jpg  日本からアメリカ西海岸、そして東海岸への都合18時間フライトで大会前日着、という強行軍をしてでもこのグランプリ・プロヴィデンスに参加するのは、もちろん約束したから......というのはありますが、この2人、友人であり世界でも有数のリミテッダー2人とチームが組めるからというのも大きいです。  シアトルでウィザーズ公式のウェブキャストで解説をしているマーシャル・サトクリフ、乗り継ぎ先のアトランタで発売直後の『Modern Masters』の話をしていたら実は後ろにラプター(ジョシュ・ウッター・レイトン)、プロヴィデンス空港でのバゲージクレームでウェブ(ディビット・オチョア)とパーティーが増えていき、タクシー支払いダイスロールで私が100面ダイスで90差で負けたところで到着。  まあ精々25ドル。凄く悔しいです。  それは置いといて、ホテルのロビーで同じくその朝アメリカに到着したジュザと合流できたのですが、そこで衝撃的なニュースが届きました。 『ベンがトロピカルストームに捕まってまだマイアミらしい。到着時刻は未定。』  ちなみに現地時刻で土曜日0時を過ぎたあたり...  日本人マジックプレイヤーの間では飛行機が遅延して刻限までに会場に到着できないことを『アトランタする』というのですが、まさかアメリカ在住のベンがアトランタするとは、いやアトランタ経由は私の方だし。  これはなかなかに予想の範疇を超えています。  とは言ってもベンもこちらへ向かうべく努力してくれているようですし、こちらからできることはありません。幸いなことに到着予定時刻は土曜日の午前10時半とのこと。  今年度からプラチナには無償で支給されるスリープイン・スペシャルのおかげで正午くらいまでなら、いや構築も2人で担当するならもう1時間、午後1時くらいまでならなんとかなりそうです。  前回のアメリカチームグランプリ(グランプリ・サンノゼ2012・リンク先は英語カバレージ)を優勝したディビッド・ウィリアムズとポール・リッツェルが、突然マット・スペリングがキャンセルしたことによって今から3人目探しをしているような状況から見れば大分マシ。  むしろ我々、アメリカに今日着いた組にとっては、時差ぼけこそが真の敵ともいえます。  ついつい午前4時過ぎまで起きてしまって、眠い目を擦りながら昼過ぎの会場へ向かってみると... ww1312_ben_at_providence.jpg  いました!  スリープイン・スペシャル2バイ持ちがデッキ構築をするたった20分前。11時30分に会場に着いたとのこと。  そんなカルマバッチリな私達ですから試合の方はもちろん絶好調。  ボロス大好きなジュザ、選べるならと強いカードが多いシミック+グルールが私。  ベンは残ったオルゾフを使用。  「Walking the Planes」というマジックビデオに出演させられたり(参考)、
メイキングの一幕
 マリガン大好きジュザと、「2色とも出る土地2枚、2マナ圏あり」のハンドをキープするかどうかが大論争に発展したり、  ベンとジュザが既に勝っているのに私の結果でチームの勝敗が決まると騙されてかなり真剣にマジックやっていたり、  ライフが残り6のところから、対戦相手のうっかり《爆発の衝撃》本体で勝ちを拾ったり、で気がつけばバイ明け7連勝。  日付が変わるか変わらないかのあたりでの初日最終戦、エクストララウンドは残念ながら落としてしまいましたが、9勝1敗というのは上々でしょう。  夕食を食べようにも空いてる店が1つも無くてホテルの売店のお菓子で我慢したことと、この日のエナジードリンクの摂取量がちょっと尋常じゃない量になってしまったこと以外は満足です。 ww1312_pod4.jpg  2日目はチームリミテッド。  各チームが交互になるように着席しての6人制ドラフトの2回戦。1試合毎に2勝したチームに勝ち点3点が与えられるというちょっといびつな形式。  たしかにトーナメントマネージメントの都合上、1戦単位で再ドラフトだと時間がかかりすぎ、3戦までしてしまうとスイスドローという原則が崩れてしまうので致し方ないし、プレイヤー的な視点ではどんなフォーマットでもただこなすだけで、あとはカフェインの摂取量が上がるくらいだけの問題でしかないとも言えなくはないのですが、同じ方式で開催されるグランプリ・京都のことを考えると...。  日本では会場の閉場時間というものがありますらね。  初日でもそうだったのですが、この環境に対するアプローチが3人とも違っていて、ドラフトラウンドに入ってそれがはっきりと表れ、ジュザはビートダウン至上主義、ベンスタはなんでもありで、私はコントロール寄りという役割分担ができていました。  鍵となる初めの2戦目を3人とも2連勝して、残りの2ドラフトを1勝1敗×2で、上位4チームによるプレイオフへ。  この時点で時計は22時を過ぎたあたり。ここからのドラフトは2戦ではなくて総当たり戦で勝ちチームを決めると説明を受けていたので、果たして何時に終わるのだろう......と思っていたら、  準決勝は1戦のみの決着で、あれ?と思った瞬間には4位になっていました。  ジュザとベンも意外な顔をしていたので、聞き取りミスというよりは伝達ミスの可能性の方が高そう。  まあアメリカ連戦ツアーの初戦からプレイオフにまで行けたのだから上出来でしょう。  これから続く2戦は得意科目のリミテッドだし、もう1回くらいそこそこの成績を残せたら今のシステムだと目標達成まであるな。  と思っていたら翌週に、そのそこそこの成績と、新たなベン・スターク伝説が作られてしまったのでした...  Old Friends, New Champions in Providence!(グランプリ・プロヴィデンス2013 英語イベントカバレージ)

グランプリ・ヒューストン(6/15-16)

ww1312_houston.jpg  このグランプリ連戦中、日本から半分マジック、半分ポーカー目的で来ている佐藤黎や高橋純也、彌永淳也たちとラスベガスの安宿をシェアして滞在拠点にしているのですが、ちょっと油断した隙にヒューストン往復航空券が倍額になってしまって彼らが皆ヒューストン行きをキャンセル。晴れて1人旅となってしまったこの週末。  マイアミに戻ったベン、それに付いていったジュザと宿をシェアする話をしていたので、1人でホテル代全額負担というのは回避できたのですが、空港からのタクシー代が60ドルというのも実に財布に響きます。おまけにまた食べ物に関して難民状態。  ちょっとラスベガスを発つ時に慌ただしくなってしまってろくに食事を取れず、ヒューストンに着いたら着いたでまた午後11時。  ホテル周りを放浪してようやくメキシカンフードにありつけたのはまた日付が変わったあたりと、今回もカルマ抜群です。  そのおかげか久しぶりにシールドで高額レアを引きました。  ドラゴンの迷路から《復活の声》がこんにちは。  あとおまけに《ボロスの反攻者》も。
 デッキの方は《ボロスのギルド門》がギルド門侵犯から2枚、ドラゴンの迷路から2枚と合計4枚も出たのでほとんど自動的に赤と白のカードが入って、残りのカードの中からマナ域を埋める組み合わせで2マナ圏があるのが緑しかないので、緑メインに同じくらいの白赤が混合されたデッキが完成。  《ボロスの反攻者》とマナが合致する土地が10枚ほどしかないので実質5.5マナコスト扱い。《ボロスのギルド門》が4枚もあるのになんだか報われないヤツです。  キャストできたターンもだいたい予想通り。  初戦に手札から一向に出せなくて負けた時は真剣に解雇を検討しましたが、その後はそこそこのターンで召喚できたり、1回だけ3ターン目に出てきて無双したりで、今回も8勝1敗での通過。  同宿者の成績はというと、ベンがかなり弱いカードプールをもらっていたのに同じく1敗で初日通過。  一方、ジュザはセオリー通りの多色デッキを組むものの、バブルマッチで《摩耗 // 損耗》が突き刺さって残念ながら初日落ち。  ジュザは早々と飲みに繰り出し、先週と違って午後9時には初日が終わっているという幸せから、まともなものに飢えている私とベンはイーフロウ(エリック・フローリッヒ)、ルイスと一緒にブラジリアンステーキハウスで更に散財。 ww1312_steak.jpg  ついついウェイターに乗せられてデザートを2品頼んだ上、またタクシーダイスロールで負けて占めて100ドル。  うーん、今回の旅は本当によく散財するなあ......  まあ、その分ご利益もあるようで、2日目第1ドラフトはそこそこのディミーアで2連勝。  この環境で2色で組めるというのはそれだけで強いのです。 ww1312_dimir.jpg  3戦目の対トム・ロスの青赤《ニヴィックスのサイクロプス》スペシャル相手に、1-1からのお互いマリガンした時点で合意の上での引き分けを提案して2勝1分け。  リミテッド方式のグランプリだと、通常卓内の半分以上がトップ8へと進出できる1番テーブルに座るメリットはとてつもなく大きいものです。  特に卓内で勝ち点が下位だった場合、プラスして1勝したところで『対戦は同ポイントが原則』というスイスラウンドのルールから、このドラフトで前のラウンドで負けたプレイヤー、つまりより戦いやすい相手と2戦目も戦える可能性が高いのです。  果たして、目論見通り1番テーブルに座ることができました。  同卓には前回の1番テーブルから2勝1敗のオポーネント最上位で滑り込んだベンの名前もあります。  ところが肝心のベンが現れないのです。  10分ほどでしょうか、ジャッジの再三のアナウンスにも反応がなく、仕方ない、とベンの席にあったパックが取り除かれ、とうとうドラフトが開始されてしまいました。  ベンが走って会場に現れたのは3手目が終了したあたり。  ラスベガスへと向かう飛行機の時刻をトップ8ドラフトをやっていたら間に合わない時間に指定していて、それを変更していたら時間を食ってしまったとは後で聞いた話。  かくして1番テーブルなのに7人でドラフトするという摩訶不思議なことになり、  私のこのドラフトでの初戦の相手はそのベン・スターク。  これも後からジャッジに聞いて初めて知ったのですが、ルール上はドラフトに参加できなくてもトーナメントには参加はしなくてはならず、その場合は基本土地40枚のデッキを提出することになってただ負け続けるだけという扱いになる、とのこと。  もちろん1戦を消化したらドロップアウトしても構わないのですが、この位置の場合だと3連敗でも賞金圏内になってしまうので、不戦敗×3の方が良いという。  なんとも複雑な気分です。  とはいえどうしようもないとはまさにこのこと。  次のトップ8バブルを残り1分までかかりましたが制して、12勝1敗2分けでトップ8入賞。 ww1312_top8playmat.jpg  トップ8に配られる専用プレイマットがそのまま昨日の夕食代になり、改めて胡散臭いオカルト話をする時のネタになったと思っていたら、その怨念か休憩中に食べたチュロスが胃の中で大暴れ。  トップ8ドラフト中はそうでもなかったのですが、早々と敗退した後は吐き気と下りで完全にグロッキー状態でラスベガスへと帰りましたとさ。  あ、当然帰りのタクシーも60ドルです。  Shenhar Punishes his Enemies in Houston!(グランプリ・ヒューストン2013 英語イベントカバレージ)

グランプリ・ラスベガス(6/22-23)

ww1312_lasvegas.jpg  さて、いよいよこの旅のメインイベントたるグランプリ・ラスベガスなのですが、  まあ、人だらけという、4500人という数字がどれくらい大きいかというのがよく分かるイベントでした。  しかもこの週末はマジックのイベントだけではなかったのです。  ラスベガスのストリップを歩いているとそこらかしこで 『EDC』  という叫び声を聞けたのですが、意味を聞くと1週間ぶっ通しで開催される音楽の野外フェスのことらしく。 ww1312_fes.jpg  その結果、週末だけは普通のお値段になるホテルの代金が普通どころかとんでもない金額に。  平日2000円の我らが安宿が、週末だけ1泊2万円というお値段を見て、どうせ高いなら高くて良いところに泊まろうと決断。  普段はポーカーをしに行くだけで絶対に泊まることはない、ストリップの超高級ホテル『ウィン』に滞在することにして、先週末から取得したレンタカーでダウンタウンの外れにある会場まで向かう、という方針を取ったのは正解だったのかもしれません。  よくよく考えれば、週末はマジックの大会に出るために引き払うので、ラスベガスの週末を体験するのは初めてだったのです。  それに加えて30万人を動員するイベントが同じ週末にあるのです。  当然、内も外も凄い人だかりで、ただでさえ疲れきってしまうマジック後の体調では耐えられなかったと思います。 ww1312_crowd.jpg  VIP参加なのにプレイマットをもらうための行列で1時間半も並んだり。  VIP特権でモダン・ミニマスターズという大会にタダで参加できて、1パックシールド&シングルエリミネーションで勝つごとに新たなブースターパックをその場で支給、どんどん強くなるデッキに一喜一憂するも残り4人のところで脱落したり。  負けた後に、実は優勝すれば最低でも『Modern Masters』1ボックスがもらえるドラフトへの参加権があったと聞いてショックを覚えたり。  Twitterで『もはやこれはトーナメントではない』というようなことを呟きましたが、会場で感想を聞かれた時に常に併せて答えた後ろの言葉が欠けていました。 『これはお祭りであり、そして私は祭りに参加しに来たのです。』  それでも、自分が勝負ラインに来てしまうと、どうしてもトーナメントに勝つことが至上命題であるプロ的な欲求が出てしまうものです。  具体的には最終戦に2敗でこぎ着けたところで、そこにはプロツアー招待が懸かっていました。負けると普通は賞金圏外落ちなのですが、引き分けを選択することができないのです。  先週のこの国や海の向こうの向こうだと2敗で最終戦だと全員インテンショナルドローでトップ8に残れたことを考えると、ちょっと恨めしくもなってしまいます。  まあ、ここは本当にただの愚痴の部分。  この素晴らしい祭りを見事やり遂げたカスケードゲームズ、ジャッジたち、スタッフたち、そして参加したプレイヤーたち、そしてその一員となれたことは忘れられない思い出になるでしょう。 ww1312_vegas_memorial.jpg  Oliver is the Modern Master in Las Vegas(グランプリ・ラスベガス2013 英語イベントカバレージ)

祭りのあと

 祭りに文句は禁物。  ですが、非日常の世界だからこそ今回は楽しめたのであって、今期から変更された新システムの問題点が噴出してしまった点では、これから先については悲観的な見方をせざるを得ないのです。  やはりプロポイントを基準にした場合でのグランプリの難易度は格段に上がってしまっています。  マジックとはある程度は運の要素が絡む、どんなに強いプレイヤーでも全勝することは至難のゲームなのです。  あまりにグランプリに参加し続けることが多すぎて疲れてしまうというプレイヤーの声が発端で変更されたこのシステムによって、結果としてグランプリに参加することそのものを止めざるを得な い、というのは、もちろん理解はしていますが意図したものとはなんなのでしょうね。  今週はグランプリ・マイアミが開催されますが、おそらくその地に私はいないでしょう。  旅費、練習量、得られるプロポイント、プラチナ・レベル報酬など、条件を一つ一つ並べていけば、行かないという選択肢に理があることは明らかです。  それでもまだ行くことに対して多少の未練を残しているのは、やはりマジックが好きだからなのでしょう。  隔週で2年と少々続いたこの連載に、ここで一区切りとするにはいささか以上にまとまりが欠けていますが、それも私らしいといえば私らしい気もしないではないありませんね。  マイアミに参加していても、いなくても、プラチナ資格があるうちはマジックを最優先にして考える生き方を続けていくのは変わらないところ、なはずです。  と、ますますまとまりがつかなくなりかねないので、この辺りで、  それではまた次回があれば、世界の何処かでお会いしましょう。

ラス・ベガス 滞在中のホテルにて
中村修平

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