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木曜マジック・バラエティ

2011.09.01

浅原晃の「デッキタイムトラベル!」 Part9 -黒単

By 浅原 晃


 今回紹介するのは黒の歴史。

 黒という色は特別に好かれることが多い色だ。筆者も5色の中では黒が一番好きな色で、ときに破滅的でありながら、ときに圧倒的なパフォーマンスを発揮することができるところが魅力的と感じられるのかもしれない。

 黒は手札破壊の色としての特徴が語られることが多いものの、逆にできないことも明確な色で、極一部の例外を除いてはアーティファクトやエンチャント、その両方を破壊することはできない。
 しかし、有限のカードプールでゲームを行うマジックにおいて、できないということは必ずしもマイナスに働くわけではない。いろいろなことができるということは、それに対してカードプールの中のリソースをさくことであり、利点を伸ばすという点においては欠点が多いことというのは、実は大きなメリットにもなりうる。
 そう考えると、黒というのは特別な色と言えるだろう。

 それだけでなく、何かを犠牲にして何かを得るというのは黒の本質だ。
 ビートダウンやコントロールといった違うアーキタイプにおいてもそれぞれ活躍してきた色である黒。今回は黒の歴史へタイムトラベル!


■1995年~1996年 《Hymn to Tourach》と《ネクロポーテンス》

 マジックではマナがなければ何もできない。そして、手札が無ければ呪文をキャストすることができない。

 手札破壊が最初に強力であると認識されたのは、黎明期のカードである《精神錯乱》によるものだが、それを確固たるものにしたのは、《惑乱の死霊》とフォールンエンパイアで加わった《Hymn to Tourach》だろう。

 特に前者は《暗黒の儀式》から1ターン目に戦場に出すことが可能であり黒の脅威の象徴だった。また、《Hymn to Tourach》は単純に数的な優位を序盤から持つことができた。この2枚のカードによって、対戦相手は手札を維持することは難しかったと言える。

 加えて、この2枚の捨てさせる手札のカードの選び方が「無作為」であったこともプレイヤーに恐怖を与えていた。
 《Hymn to Tourach》によって土地を2枚抜かれて土地事故で負けたというのは、当時のプレイヤーならばよく聞くエピソードの一つだろう。能動的に相手に何もさせずに勝つということを実戦できるのは手札破壊か土地破壊。つまりは、マナか手札、そのどちらかが無ければ、マジックでは何もできない。

 世界選手権95では、この2枚のカードを軸にした《拷問台》デッキが優勝している。

『黒き拷問台』 Alexander Blumke
世界選手権95 優勝
12 《沼》
4 《ミシュラの工廠》
3 《アダーカー荒原》
3 《平地》
1 《底無しの縦穴》
1 《露天鉱床》
1 《地底の大河》

-土地(25)-

3 《惑乱の死霊》
1 《凄腕の暗殺者》
2 《センギアの吸血鬼》

-クリーチャー(6)-
4 《暗黒の儀式》
4 《Hymn to Tourach》
1 《土地税》
1 《精神錯乱》
1 《魔力消沈》
1 《魂の絆》
1 《剣を鍬に》
2 《Zuran Orb》
3 《Dance of the Dead》
3 《解呪》
3 《拷問台》
1 《天秤》
1 《闇への追放》
1 《黒死病》
1 《破裂の王笏》
2 《氷の干渉器》

-呪文(30)-
1 《青霊破》
1 《土地税》
1 《魔法改竄》
1 《臨機応変》
2 《赤の防御円》
2 《ストロームガルドの陰謀団》
1 《秘宝の防御円》
1 《黒の防御円》
1 《虹色の護法印》
4 《憂鬱》

-サイドボード(15)-

 このデッキは青と白がタッチされているが、基本ベースは黒単色のコントロールだ。軸となるのは、《惑乱の死霊》と《Hymn to Tourach》の2つの手札破壊。これらによって、相手の手札を0にしたところで、《拷問台》によって継続的にダメージを与えて勝利するデッキだ。


 手札破壊の強さは相手の呪文が使われる前に対処できることにあるが、逆に言えば弱さは唱えられた呪文に対しては何もしないということが言える。打ち消し呪文も同じ問題を持っているが、大きな違いは手札破壊は相手の引いたカードに対して何もできないという点だ。相手の手札が0の場合、手札にいくら《Hymn to Tourach》があってもしょうがないが、《対抗呪文》がたくさんあれば勝負は決まったようなものだ。

 しあし、手札破壊には能動的に動けるという利点がある、よって、手札破壊は基本的に序盤に最大の効果を発揮し、よりアグロな使用法が求められる。つまり、長期戦ではなく、手札破壊でけん制をしている間に何か強力なカードを通していくというのが理想的ではあるのだ。

 その理想的な組み合わせが実現したのが、アイスエイジで生まれた《ネクロポーテンス》が黒に加わってからだ。

『ネクロディスク』 Mark Justice
世界選手権96 準優勝
10 《沼》
4 《露天鉱床》
4 《硫黄泉》
3 《ミシュラの工廠》
2 《漆黒の要塞》

-土地(23)-

3 《黒騎士》
2 《Order of the Ebon Hand》
4 《惑乱の死霊》
2 《Ihsan's Shade》

-クリーチャー(11)-
4 《暗黒の儀式》
4 《Hymn to Tourach》
4 《ネクロポーテンス》
1 《火の玉》
1 《Zuran Orb》
3 《生命吸収》
1 《象牙の塔》
3 《Contagion》
3 《ネビニラルの円盤》
2 《鋸刃の矢》

-呪文(26)-
2 《Demonic Consultation》
2 《紅蓮破》
1 《赤霊破》
4 《Dystopia》
3 《粉砕》
2 《Infernal Darkness》
1 《Contagion》

-サイドボード(15)-

 マジックの伝説的英雄マーク・ジャスティスが使用し、決勝でこれも伝説的デモコンデスを引き起こしたデッキだ。

 《ネクロポーテンス》は黒いデッキを語る上でもっとも活躍したカードであるといってもいいだろう。1ライフを1枚の手札に変えていくエンチャントであり、黒のライフを手札に変えるという特性をもっとも色濃く強力に受け継いでいる。

 発売当初こそ、ドローフェイズが無くなるというデメリットが大きく見え、1ライフと1ドローの交換がどれだけ価値を持つのかというのが『理屈』として理解されてなかったことで(《黒の万力》といったキラーカードは存在していたが)、カスレア扱いされていたという逸話が残っているが、このカードの強さが体感的に理解されると、瞬く間にその強さは広まっていった。

 コントロールは基本的に1対2交換など複数交換を繰り返しアドバンテージを取っていくことを基本戦略とするが、《ネクロポーテンス》を通常のコントロールと同じくして使おうとすると、この部分で引っかかってしまう。
 引いたカードで重いマナを払いさらに複数交換をしようとすると戦いが長引き、逆に時間が経てば経つほどにドローフェイズが無くなるというディスアドバンテージやライフの損失が重くなってしまうのだ。短いターンの間に多くのカードを引き、多くのカードを使用するというのがこのカードを生かすために必要な理論であった。

 それゆえに、『ネクロディスク』は非常に合理的なデッキとして知られている。このデッキの軸は確かに、《ネクロポーテンス》と《生命吸収》だが、《ネクロポーテンス》で引いたカードを生かすために、序盤から積極的にカードを使用できるようになっている。理想的にはライフ以外の部分、カードとカードの交換をより積極的に行っていくことが重要で、それを能動的に成し得るのに手札破壊は、《ネクロポーテンス》を通すカードと同時に、相手とカードを簡単に交換していけるため、非常に重要な役割を果たしているのだ。

 ピッチスペルの《Contagion》も、より多くのカードを使うために採用されているカードだ。

 デッキ名にもなっている「ディスク」、《ネビニラルの円盤/Nevinyrral's Disk(5ED)》がリセットに使われており、盤面をクリアにするだけでなく、用済みになった《ネクロポーテンス/Necropotence(ICE)》の破壊にも一役買っている。

 アドバンテージ+手札破壊+リセット+ライフ回復の組み合わせによって、《ネクロポーテンス》というデッキは環境に君臨することになる。
 後に《Hymn to Tourach(FEM)》が制限カードとなってからも、『ネクロディスク』はプロツアー優勝を果たした。

『ネクロディスク』 Paul McCabe
プロツアー・ダラス96 優勝
18 《沼》
2 《Lake of the Dead》
2 《ミシュラの工廠》
1 《露天鉱床》

-土地(23)-

4 《惑乱の死霊》
2 《センギアの吸血鬼》
1 《Ihsan's Shade》

-クリーチャー(7)-
4 《暗黒の儀式》
4 《ネクロポーテンス》
2 《Demonic Consultation》
1 《Hymn to Tourach》
1 《Zuran Orb》
4 《生命吸収》
1 《象牙の塔》
3 《呆然》
3 《Contagion》
2 《精神歪曲》
4 《ネビニラルの円盤》
1 《鋸刃の矢》

-呪文(30)-
1 《Lodestone Bauble》
4 《Dystopia》
3 《Stench of Decay》
3 《Infernal Darkness》
1 《霊魂焼却》
1 《呆然》
1 《Contagion》
1 《鋸刃の矢》

-サイドボード(15)-


 黒は《ネクロポーテンス》を生み出した色という印象こそ強いが、黒はビートダウンの色としての存在感も発揮していた。黒ウィニーが優勝したアジア太平洋選手権97では、青白のカウンターポストを使う塚本俊樹を相手に9時間の決勝を戦いぬいたという伝説がある。

『香港型黒ウィニー』 Nathan Russell
アジア太平洋選手権97 優勝
18 《沼》
4 《ミシュラの工廠》
2 《Thawing Glaciers》
1 《Lake of the Dead》

-土地(25)-

4 《黒騎士》
4 《下水ネズミ》
4 《アーグの盗賊団》
4 《惑乱の死霊》
4 《卑屈な幽霊》
3 《Krovikan Horror》

-クリーチャー(23)-
3 《生命吸収》
1 《骨の収穫》
1 《Ritual of the Machine》
1 《墓石の階段》
4 《Contagion》
2 《ネビニラルの円盤》

-呪文(12)-
3 《Dystopia》
3 《憂鬱》
3 《冬の宝珠》
2 《Ritual of the Machine》
2 《墓石の階段》
1 《ネビニラルの円盤》
1 《鋸刃の矢》

-サイドボード(15)-

 この時の黒ウィニーが優勝できたのは、特に当時最強の除去と言われていた《剣を鍬に》に耐性のあるプロテクション(白)を持つクリーチャーが多かった、というのもその要因だが、《卑屈な幽霊》や《アーグの盗賊団》など序盤から攻勢に出られるだけのクリーチャーが揃っていたのも大きい点だろう。

 そして、このデッキの最大の売りは《墓石の階段/Tombstone Stairwell(MIR)》だ。これによって、中盤以降の息切れを防止するだけでなく決定打として機能する。アイスエイジブロックには軽く強力な手札破壊がなかったこともあり、メタゲーム上の選択として強いデッキであるということが言えるだろう。


■1997~1999年 スーサイドブラックと黒コントロール(テンペストブロック~ウルザブロック)

 テンペストブロックで大きく補強されたものの一つがビートダウンだ。黒も多分に漏れず各種シャドークリーチャーに加えて、自らにペナルティ(主にライフ)を課すことで強力なパワーを得るクリーチャーや呪文が投入された。ウィニーの本質は相手をより早く倒すことにあり、そのためにいくら自分がライフを払っていっても問題ないという理念によるものだ。

『スーサイドブラック』 Andrew Wolf
プロツアー・ロサンゼルス98 第8位 / テンペストブロック構築
18 《沼》

-土地(18)-

4 《ブラッド・ペット》
4 《ダウスィーの殺害者》
4 《ダウスィーの怪物》
4 《ヴォルラスの召使い》
3 《ケザードリックス》

-クリーチャー(19)-
4 《暗黒の儀式》
4 《肉占い》
2 《再活性》
4 《呪われた巻物》
4 《脊髄移植》
4 《煮沸ばさみ》
2 《生ける屍》

-呪文(24)-
3 《夜の戦慄》
3 《強要》
2 《闇への追放》
2 《非業の死》
1 《凶運の彫像》
4 《ボトルのノーム》

-サイドボード(15)-

 スーサイドとは自殺の意味を持つ。スーサイドブラックは相手に1回も殴られていなくても、ライフが減り続けることからその名前が付いていて、テンペストしか使われていないこのデッキでも、《肉占い》や《ケザードリックス》は相手のライフを攻めると同時に、自分のライフを削っていた。また、《脊髄移植》は強力ながら強烈なデメリットを有していたエンチャントクリーチャーであり、戦略そのものも「のるかそるか」といったところがあった。

 だが、そういった比較的薄い印象であるのもテンペストまでで、エクソダスで《憎悪》が加わると一気にデッキの凶悪度が増すことになる。

『ヘイトレッド』 東野 将幸
日本選手権99 優勝
16 《沼》
2 《裏切り者の都》
2 《不毛の大地》

-土地(20)-

4 《カーノファージ》
4 《ダウスィーの殺害者》
2 《走り回るスカージ》
4 《ダウスィーの怪物》
2 《ダウスィーの大将軍》
2 《ダウスィーの匪賊》

-クリーチャー(18)-
4 《暗黒の儀式》
4 《強迫》
4 《肉占い》
2 《吸血の教示者》
1 《呪われた巻物》
3 《呆然》
4 《憎悪》

-呪文(22)-
4 《夜の戦慄》
3 《呪われた巻物》
2 《恐怖》
3 《偏頭痛》
3 《非業の死》

-サイドボード(15)-

 《憎悪》は究極的なスーサイドカードで、自分のライフを好きなだけクリーチャーのパワーに変えられるカードだ。コストとしてライフを支払うために、《火葬》などの火力はもちろん、《対抗呪文》などにも弱い。

 ただ、ウルザズ・サーガから、当時、1マナ最高の手札破壊と考えられた《強迫》が入ってからはそのリスクも大きく軽減できるようになった。《強迫》は相手の手札を捨てさせる枚数こそ、《Hymn to Tourach》には劣るが、何より重要な、相手の手札を公開させることで安全確認ができたのだ。
 これは《Hymn to Tourach》にもなかったことで、《強要》が3マナと重く実用的ではなかったこともあってか、《強迫/Duress》はあらゆる黒いデッキで重宝する存在になっていった。
 軽さはその後に繋げて行動できることになり、相手の手札を確認できているためにその後の展開の予想もしやすい。この時代から、手札破壊とは相手の計画を崩すだけでなく、こちらの行動の完全さをもたらすものになったと言えるかもしれない。


 この《強迫》は黒のコントロールもサポートした。

 黒はアーティファクトもエンチャントも壊せないゆえに、ときに置かれたら負けとまで言われるほどの対策カードが出てしまう。《日中の光》や《因果応報》などは代表的なものだろう。それらの対策カードを選んで捨てることができるという点で《強迫》はサイドボード後においても対策カードに対する対策となっていた。

 そして、第6版に入ってから、《ネクロポーテンス》は失われたが、黒コントロールの新しいアドバンテージエンジンとして活躍したのが、ウルザズ・サーガの《ヨーグモスの意志》だ。

 いわゆる「壊れた」カードの多いことで有名なウルザズ・サーガブロックだが、この《ヨーグモスの意志》も、壊れ一歩手前のカードだったと言ってもいいだろう。他のカードに多くの禁止カードが出るなかこの《ヨーグモスの意志》が禁止を免れたのは、あくまでコントロールカードに過ぎなかったという一点でしかない。

『黒コントロール』 Jakub Slemr
世界選手権99 ベスト8
15 《沼》
4 《不毛の大地》
2 《産卵池》
1 《ヴォルラスの要塞》

-土地(22)-

3 《貪欲なるネズミ》
1 《ファイレクシアの抹殺者》
3 《ファイレクシアの疫病王》
2 《チクタク・ノーム》
1 《ボトルのノーム》

-クリーチャー(10)-
4 《暗黒の儀式》
4 《強迫》
1 《吸血の教示者》
4 《悪魔の布告》
3 《呪われた巻物》
1 《急速な衰微》
4 《火薬樽》
3 《ヨーグモスの意志》
2 《死体のダンス》
2 《呆然》

-呪文(28)-
2 《腐肉クワガタ》
3 《急速な衰微》
1 《ストロームガルドの陰謀団》
2 《非業の死》
2 《ファイレクシアの抹殺者》
1 《エヴィンカーの正義》
1 《迫害》
1 《抵抗の宝球》
1 《ボトルのノーム》
1 《憎悪》

-サイドボード(15)-

 《暗黒の儀式》があったことでマナブーストが容易であり、《ヨーグモスの意志》はほぼすべてのカードにフラッシュバックを付けるようなものだった。

 また、このデッキではテンペストブロックからの《死体のダンス》を使ったコンボ「ダンシングノーム」をさらに拡張して採用されている。本来のコンボ名の由来でもある《ボトルのノーム》ノーム以外にも《チクタク・ノーム》でのダメージ源のほかに、《ファイレクシアの疫病王》など、自らを生け贄に捧げられるクリーチャーとともに使うことで、ターン終了時にゲームから取り除かれるという部分を無視して繰り返し使うことができた。
 墓地からカードを繰り返し使うというのはまさに黒らしいと言えるかもしれない。


 時系列が若干戻るが、根強い人気を誇った《悪疫》も紹介しておきたい。

『シュナイダーポックス』 Royce Chai
世界選手権99 エクステンデッド部門 ベスト8
15 《沼》
4 《不毛の大地》
3 《ミシュラの工廠》

-土地(22)-

3 《鋼のゴーレム》

-クリーチャー(3)-
4 《暗黒の儀式》
4 《強迫》
4 《Hymn to Tourach》
3 《葬送の魔除け》
2 《Demonic Consultation》
2 《悪疫》
4 《ウルザのガラクタ》
4 《拷問台》
3 《呪われた巻物》
3 《悪魔の布告》
2 《ヨーグモスの意志》

-呪文(35)-
1 《葬送の魔除け》
2 《トーモッドの墓所》
3 《底なしの奈落》
2 《Dystopia》
1 《恐怖》
1 《ヨーグモスの意志》
3 《ボトルのノーム》
2 《砂のゴーレム》

-サイドボード(15)-

 スタンダードでは第5版までしか収録されていないので、このデッキレシピは後期のエクステンデッドのものになる。《悪疫/Pox》は手札、ライフ、クリーチャー、土地のリソースをお互いに3分の1ずつ失うという、癖の強く影響力の高いカードだ。

 この呪文のいい点は、アーティファクトには何の影響も無いところだろう。
 影響のないアーティファクトを並べて、いいタイミングで《悪疫》を打つ。3分の1は切り上げて計算するので、相手の土地が4枚だった場合、2枚の土地を削ることができる。こちらは3の倍数に調整することで被害を最小限にとどめつつ、アドバンテージを取ることができる。お互いに同じ効果をもたらすものだが、実際の影響は異なるという点で面白く強いカードであり、人気もあった。

 デッキ名の「シュナイダーポックス」とは、考案者のジェイ・シュナイダーから取られている。ジェイ・シュナイダーはスライを考案したプレイヤーとも言われており、黎明期のマジック理論を確立させた人物の一人だ。


■2000~2001 スーサイドブラックと黒コントロール(ウルザブロック~マスクスブロック)

 テンペストブロックが退場してから、この《ヨーグモスの意志/Yawgmoth's Will(USG)》を使ったデッキをより機能的に昇華したデッキが現れる、それがフローレスブラックだ。

『フローレスブラック』 Jon Finkel
アメリカ選手権00 優勝
15 《沼》
4 《リシャーダの港》
2 《黄塵地帯》
2 《産卵池》

-土地(23)-

3 《走り回るスカージ》
1 《ストロームガルドの陰謀団》
2 《ファイレクシアの抹殺者》
2 《走り回る怪物》
1 《のたうつウンパス》

-クリーチャー(9)-
4 《暗黒の儀式》
4 《強迫》
4 《吸血の教示者》
4 《不純な飢え》
4 《ヨーグモスの意志》
1 《仕組まれた疫病》
1 《撲滅》
1 《虐殺》
1 《非業の死》
1 《迫害》
1 《呆然》
2 《暴露》

-呪文(28)-
2 《急速な衰微》
1 《ストロームガルドの陰謀団》
2 《仕組まれた疫病》
2 《ファイレクシアの抹殺者》
1 《撲滅》
1 《虐殺》
1 《非業の死》
1 《火薬樽》
1 《呆然》
1 《スランのレンズ》
1 《暴露》
1 《ファイレクシアの処理装置》

-サイドボード(15)-

 「フローレスブラック」は製作者のマイク・フローレスの名前から取られたデッキっであり、キーカードは《吸血の教示者》と《ヨーグモスの意志》だ。

 《吸血の教示者》はどんなカードでも持ってこられるため、コンボデッキなどでは必ず使われるが、そのデメリットからコントロールデッキで多く使用するというのはリスキーなカードであった。
 何故なら、まずライフを損失するし、対応するためのカードを持ってくるといってもライブラリーのトップでしかないため、アドバンテージを失ってしまうからだ。

 このデッキではシルバーバレット戦略がとられており、メインで《非業の死》や《虐殺》といったカードまで積まれている。《吸血の教示者》によって、疑似的に5枚の《非業の死》がデッキに入っているかのように扱えるため、理論上は優秀な戦略と言えるだろう。

 ただ、シルバーバレット自体が優秀かといえば、それはアドバンテージを失わない範囲での話であって、《吸血の教示者》ではまず効果の代償となる、そのディスアドバンテージが大きい。結局必要なのはそれを簡単に取り返せるもの、そう、シルバーバレット戦略を可能にしているのが、この《ヨーグモスの意志》なのだ。《ヨーグモスの意志》が疑似的に8枚入っていることこそが、このデッキのもっとも重要な点だろう。

 《暗黒の儀式》や《不純な飢え》、《吸血の教示者》といった燃費の悪いカードを使ってなお余りあるアドバンテージをもたらしてくれるカードというのは、《ネクロポーテンス》と同様であり。そして、合理的なデッキは黒にこそ多く存在するというのが、このデッキから言えるのかもしれない。


 コントロールスタイルが健在なら、《憎悪》を失ったスーサイドブラックも新しい形でメタゲームに残っていた。

『ツイストブラック』 阿南 剛
日本選手権00
16 《沼》
4 《リシャーダの港》

-土地(20)-

4 《走り回るスカージ》
4 《肉裂き怪物》
4 《ファイレクシアの抹殺者》

-クリーチャー(12)-
4 《暗黒の儀式》
4 《強迫》
2 《吸血の教示者》
1 《隠れ潜む邪悪》
1 《ギックスのかぎ爪》
4 《よじれた実験》
1 《虐殺》
1 《ヨーグモスの意志》
4 《殺し》
4 《からみつく鉄線》
2 《暴露》

-呪文(28)-
4 《夜の戦慄》
2 《隠れ潜む邪悪》
1 《レシュラックの秘儀》
4 《恐怖》
2 《スランの鋳造所》
1 《ひずんだレンズ》
1 《暴露》

-サイドボード(15)-

 ツイストブラックは《よじれた実験》を使った超高速のビートダウンデッキだ。歴代でも類を見ないほど低コスト高パワーな強烈なデメリットを持ったクリーチャーを使用している。

 《肉裂き怪物》は与えたダメージを自分も食らうというものであり、お馴染みの《ファイレクシアの抹殺者》は受けたダメージ分のパーマネントを失う。また、《隠れ潜む邪悪》はクリーチャーとなるのに、ライフの半分を持っていった。
 このデッキはリストから感じられるとおり、赤にとてつもなく弱い。スーサイドらしさという点では、もっともらしいかもしれない。

 しかし、《強迫》と《からみつく鉄線》に、さらに《リシャーダの港》といった相手を一時的に抑え込むという点において効果覿面のカードがあったため、相手になにもさせずに圧倒的な動きをすることも可能だった。

 今となっては、影も形もないかもしれないが、当時、スーサイドブラックを愛好していた人にとっては印象深いデッキになるだろう。


■2002~2003 隆盛の時代

 オデッセイブロックの2つ目のセット、トーメントはセット全体で色の枚数が異なるセットだった。このセットでもっとも多かった色は黒。当然、黒には強力なカードが多く含まれていた。

 その中でも《もぎとり》は黒にとって待望の全体除去となっていた。マイナス修正なため、プロテクションに引っかからず、《沼/Swamp(ALA)》の枚数に効果を依存するものの、黒単であるなら十分効果的に使えたカードだった。
 また、この「《沼/Swamp(ALA)》の数だけ」というのがセット全体のテーマとなっており、黒は《沼/Swamp(ALA)》を多く使う単色で組まれるものというのが定石になっていた。《精神ヘドロ》や《陰謀団の貴重品室》などはどれも黒単色ではバカバカしいほどの効果を持っていたのだ。

『黒コントロール』 Olivier Ruel
プロツアー・大阪02 準優勝 / オンスロートブロック構築
23 《沼》
4 《陰謀団の貴重品室》

-土地(27)-

4 《ナントゥーコの影》
2 《よろめく大群》
4 《ラクァタスのチャンピオン》

-クリーチャー(10)-
4 《無垢の血》
3 《占骨術》
4 《チェイナーの布告》
1 《腐臭の地》
3 《もぎとり》
2 《魔性の教示者》
1 《消えないこだま》
4 《精神ヘドロ》
1 《病的な飢え》

-呪文(23)-
1 《占骨術》
3 《催眠の悪鬼》
3 《腐臭の地》
2 《よろめく大群》
4 《陰謀団の先手ブレイズ》
1 《もぎとり》
1 《病的な飢え》

-サイドボード(15)-

 実際に、オデッセイとトーメントの限定構築で行われたプロツアー・大阪は、青緑マッドネスと黒コントロールが一大勢力となった。また、スタンダードにおいても、黒コントロールは使われ続けることになる。スタンダードでは、さらに《堕落》が使えたため、最後の切り札としてや《占骨術》で失ったライフを取り戻すために使うことができた。

『黒コントロール』 藤田 修
日本選手権03 準優勝
23 《沼》
3 《陰謀団の貴重品室》

-土地(26)-

2 《アンデッドの剣闘士》
2 《戦慄をなす者ヴィザラ》

-クリーチャー(4)-
4 《強迫》
2 《陰謀団式療法》
2 《占骨術》
4 《チェイナーの布告》
4 《燻し》
4 《魔性の教示者》
4 《もぎとり》
1 《消えないこだま》
1 《精神ヘドロ》
3 《堕落》
1 《ミラーリ》

-呪文(30)-
4 《ナントゥーコの影》
2 《萎縮した卑劣漢》
3 《墓生まれの詩神》
1 《消えないこだま》
2 《ラクァタスのチャンピオン》
1 《精神ヘドロ》
1 《激浪の複製機》
1 《堕落》

-サイドボード(15)-

 また、オンスロートブロックから《アンデッドの剣闘士》が加わったことも大きい。サイクリングと回収能力によって、《マーフォークの物あさり》としても機能することカードは、《陰謀団の貴重品室》から出る膨大なマナを余すことなく生かせるために、特に終盤戦において、手札に土地だけがたまり何もできないといった事態を回避することが可能だった。


■2004~2007 装備品と次元の混乱

 オデッセイブロックが落ちると、黒コントロールというスタイルは《死の雲》を中心としたデッキに移るものの、これも黒緑が中心であり、黒単色という点で目立ったデッキは無かった。

 オデッセイブロックが極端に《沼/Swamp(ALA)》に依存したカードが多く黒単色の構成であったこともあり、それが使えなくなってしまった以上、単色にこだわる必要性が薄くなったというのが大きなところだろう。また、ミラディンブロックがアーティファクトサイクルであったことから、アーティファクトに根本的に対処できない黒という色に問題があったことも否めない部分かもしれない。

 ただ、神河ブロックが加わると、細かいクリーチャーのビートダウンを支える装備品《梅澤の十手》が加わったことで、アドバンテージ型のクリーチャーの価値が急激に高まっていく。

『ネズミ』 Tim Aten
インビテーショナル05 スタンダード部門 3戦全勝
18 《沼》
4 《ちらつき蛾の生息地》
1 《死の溜まる地、死蔵》

-土地(23)-

4 《騒がしいネズミ》
4 《鼠の短牙》
4 《貪欲なるネズミ》
4 《骨奪い》
3 《鼠の殺し屋》
4 《ネクラタル》
3 《鬼の下僕、墨目》
3 《喉笛切り》

-クリーチャー(29)-
4 《霊気の薬瓶》
4 《梅澤の十手》

-呪文(8)-
2 《困窮》
3 《残響する衰微》
3 《恐怖》
4 《減衰のマトリックス》
3 《頭蓋の摘出》

-サイドボード(15)-

 アドバンテージ型のクリーチャーというのは、相手にダメージを与える以外にリソースに干渉する能力を持っているもので、黒で代表的なものといえば、《貪欲なるネズミ》と《ネクラタル》などが挙げられる。これらのクリーチャーは他のリソースを削るだけでなく、クリーチャーとしての機能も持っているが、パワーとタフネスという点では貧弱だ。
 ただ、装備品が加われば話は別。特に《梅澤の十手》は「ダメージを与えられるクリーチャーならば何でもよい」といった点があり、むしろ、死んでもよいクリーチャーであるネズミ達は相手に向かった特攻させるのにはうってつけだった。

 クリーチャーと装備品のスタイルは今でも続いているが、それが明確になったのは、ミラディンブロックの《火と氷の剣》や《頭蓋骨絞め》、そして《梅澤の十手》が決して強くないクリーチャーと組み合わせて、強さを発揮してからだろう。


 コントロールという点では、時のらせんの2つ目のブロック、次元の混乱によって、タイムシフトしてきた《滅び》が加わり、そして、未来予知で《黒き剣の継承者コーラシュ》が黒単色において力を発揮するカードとして収録されたことで、一つの形となっている。

『黒コントロール』 Matthew Vienneau
カナダ選手権07 ベスト8
19 《沼》
4 《草むした墓》

-土地(23)-

4 《闇の腹心》
4 《惑乱の死霊》
4 《黒き剣の継承者コーラシュ》
3 《墓生まれの詩神》

-クリーチャー(15)-
2 《殺戮の契約》
3 《突然の死》
2 《魂の消耗》
4 《精神石》
3 《呆然》
2 《滅び》
4 《堕落の触手》
2 《ロクソドンの戦槌》

-呪文(22)-
4 《虚空の力線》
3 《クローサの掌握》
1 《滅び》
4 《ボトルのノーム》
3 《十二足獣》

-サイドボード(15)-

 《黒き剣の継承者コーラシュ》はそれほど大きな活躍はしなかったクリーチャーだが、本人のスペック自体は異常なまでに高いクリーチャーだ。このカードが思ったよりも活躍しないというところに、時代の流れを感じるのかもしれない。
 それでも、《沼/Swamp(ALA)》しか入っていない(《草むした墓》も含めて)このデッキでは圧倒的なパフォーマンスを発揮した。


■2009年~イニストラード 吸血鬼

 アラーラブロックは多色のサイクルだったことで、そもそも単色のデッキ自体の活躍が少なかったが、ゼンディガーブロックに入ると、吸血鬼という部族を得て、黒のビートダウンデッキが甦っていく。

 吸血鬼は軽量かつ攻撃的にデザインされていたため、かつての黒ウィニーを彷彿とさせ、さらに、アドバンテージに優れた能力も有していた。黒の軽量クリーチャーのいいとこ取りとも言える種族が吸血鬼であると言ってもいいだろう。
 吸血鬼はゼンディカーブロックだけでなく、基本セットにも盛り込まれており、《吸血鬼の夜侯》は吸血鬼ロードの中でも最高のスペックを誇っていた。

『吸血鬼』 Oleksii Antonenko
世界選手権09 スタンダード部門 全勝
16 《沼》
4 《湿地の干潟》
4 《新緑の地下墓地》

-土地(24)-

4 《マラキールの門番》
4 《吸血鬼の呪詛術士》
3 《恐血鬼》
4 《吸血鬼の夜鷲》
4 《吸血鬼の夜侯》
3 《マラキールの血魔女》

-クリーチャー(22)-
4 《血の署名》
3 《見栄え損ない》
4 《堕落の触手》
2 《精神ヘドロ》
1 《エルドラージの碑》

-呪文(14)-
4 《死の印》
4 《強迫》
3 《湿地での被災》
1 《マラキールの血魔女》
2 《精神ヘドロ》
1 《エルドラージの碑》

-サイドボード(15)-

 何度でも甦る《恐血鬼》にアドバンテージを備えた《マラキールの門番》、ライフ回復と切り札にもなる、《吸血鬼の夜鷲》と《マラキールの血魔女》。スーサイドとは言えないかもしれないが、黒の特徴を多く持ったデッキと言えるだろう。
 現在、基本セット2010から、《吸血鬼の夜侯(M10)》こそ居なくなってしまったが、現在でも吸血鬼はデッキとして存在している。

 また、間もなくゼンディカーブロックが落ちてしまうことになるが、次のイニストラードの世界観では吸血鬼がメイン種族の一つでなるであろうという話だ。イニストラードのテーマの一つである、昼と夜の境目を考えるのにこれほど適した種族もいないだろう。

 ビートダウン、コントロール、黒の今後の活躍にも期待できるはずだ。


 今回は、機会があったので、特別編として最後にインタヴューを掲載して今回の記事を終わりにしたいと思う。


■比較的読まなくてもよい"特別編" 伝説の黒使い"藤田憲一"インタヴュー。あと、ヤソ。

 特別編ということで、黒好きのプレイヤーなら誰もが崇拝する藤田憲一組長にインタヴューを取ってきました。

 おそるおそるドアを開けると・・・

フジケン 『おう』

浅原 「どうも、いつもお世話になりまーす」

フジケン 『(笑)』

浅原 「す、すいません・・・では、さっそくインタヴューということで、黒で一番好きなデッキってなんですか?」

フジケン 『なんだろうな、黒コンとかは好きだな』

浅原 「《Hymn To Tourach》とかも好きそうですけど、やっぱ《強迫》ですか?」

フジケン 『相手の手札見れるからいいんだよ、おい手札見せろっつってな』

浅原 「黒コンっていつの時代のですか?」

フジケン 『あれだあれ、好きなのが《アンデッドの剣闘士》とか居たころな。日本選手権で惜しいところまで行ったんだけど、最後、確か津村と当たったんだよな。浅原が最終戦頑張らないからオポで9位。最終戦、真剣にやってたら、外人に君はとても怖い感じでプレイするけどわざとなの?って聞かれたし、散々だよ』

浅原 「あーあー、そんなこともありましたね」

フジケン 『サイカレス(※1)に負けたのも、黒コンだったな。何か使い魔(《夜景学院の使い魔/Nightscape Familiar(PLS)》)しか出てこねぇと思ったら、そのまま殴り殺された。何を言ってるか分かられねぇが、ありのままに話したらこんな感じだ。あとここじゃないかもしれないがナック(※2)にもどこかで負けたな、《ガイアの祝福》でこっちの《沼/Swamp(ALA)》2枚戻されて、土地引き続けて負けたんだよ』

浅原 「サイカレスサイカに負けたって伝説ですもんね。そういえば、ネクロ嫌いなんでしたっけ?」

フジケン 『ありゃあ壊れすぎ。あと、流行ってるの嫌いなんだよ』

浅原 「シュナイダーポックスとかはどうですか?」

フジケン 『シュナイダーじゃないポックスは良く使ってたな』

浅原 「すいません、そこまで細かいのは詳しくないんで」

フジケン 『まあ、俺はどっちでもいいけど』

浅原 「他にも何かあります?」

フジケン 『あとスーサイドブラックはいいね。《隠された恐怖》だっけ、ライフ払うとクリーチャー化する奴とかに+3/-1な』

浅原 「それ、《隠れ潜む邪悪》ですね」

フジケン 『そうか、俺はどっちでもいいけど。浅原は黒で好きなデッキは?』

浅原 「僕は《汚染》デッキですね。最初に大会で優勝したのが、確か《汚染》ロックだったので」

フジケン 『なるほど』

浅原 「逆にスーサイドとかは嫌いです。コントロール志向なんで、ネクロとかポックスは好きですね。」

フジケン 『まあ、人それぞれだな。手札破壊できればなんでもいいだろうってな』

浅原 「そうですね、黒使うなら手札攻めたいっすね。時間のない中、ありがとうございました」

フジケン 『おう』


ついでに、そこを通りがかった八十岡にも軽く質問を。

浅原 「ヤソって、大きな大会で黒単て使ったことある?」

ヤソ 「ないよ」

浅原 「ふーん」


 それでは、また次回。


※1 サイカレス
《サイカトグ/Psychatog(ODY)》をデッキリストに書き忘れて、当時のルールにより《サイカトグ/Psychatog(ODY)》の入っていないものに変更させられてしまったサイカトグデッキ

※2 中村聡氏
NACの愛称で親しまれるハットマン

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