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Uncharted Realms

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強引な商売

Kelly Digges / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori

2013年3月20日

原文はこちら

 バーテクは呻きながら、最後に残った重い木箱を荷車から持ち上げた。彼は倉庫の壁にもたれかかり、荒く息をついた。顔面を汗が流れ落ちていた。既に太陽は彼が願っていたよりも高く昇っており、辺りは暑くなっていた。

 息を整えた後、彼は木箱へと重い帆布をかけ、それを定位置に縛りつけた。

 その荷降ろし作業の間ずっと座っていたにも関わらず、汗だくになっているジフカ親方が立ち上がり、歩きまわってバーテクの仕事を確かめた。いつも通りに、彼は頷いて承認を示した。バーテクは長いことジフカの所で荷降ろしをしてきた、そして彼はその商人が求めるものを知っていた。ジフカがバーテクに望むことの一つは、木箱の荷札と重さと中身の立てる音が一致しないことがままあることを黙っていることだった。バーテクは無言でいるのは得意だったし、ジフカは気前よく払ってくれた。二人はいい関係だった。

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 綱をもう一引きすると、ジフカは再び頷いた。

「ご苦労さん」 彼はそう言って、いつものようにその若者の手を握った。彼の掌にはコインの冷たい重みがあった。市場地域を動かし続ける非課税日雇い労働者の後をつけるのは、最も熱狂的もしくは未熟な法官だけだろうが、彼らにも分別というものはあった。

 彼はコインを一瞥して懐にしまった。それは傷のついた1ジノ硬貨で、数時間の重労働には十分すぎる金額だった。それでバーテクの世俗的な富は6ジノとなった――小銭入れに4ジノ、靴の中にそれぞれ1ジノずつ――に加えて80いくらかのジブ硬貨と背負った服。足取りも軽く、彼は歩きだした。重い財布が気分を軽くしてくれるというのは可笑しいものだ。

 ブリキ通りは明るく照らされ、目を覚ました市場は騒音と匂いに満ち、今は紛れもなく日中であることを示していた。行商人達が帽子や薬やその他いろいろなものを売ろうと叫び、魚と果物とチーズの匂いが自由気ままに入り混じり、そしてボロスの新兵勧誘員が強い若者へといい給料を提案する――「そこの大きな君だよ!」 バーテクが通りすぎると勧誘員は言った――果たして彼はウォジェクへと加入するだろうか。彼は急いだ。ああいう新兵募集所で、たまたま優れた素養を持った「強い若者」が立ち止まったら何が起こるかは知っている。そして全ての新兵募集所がこうなのだろうかと疑問に思った。

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「宝石だよ!」 一人の商人が叫んだ、イタチのような目をしたひょろ長い男だ。「そこの君?お客さんみたいな背の高いお人には気になる女友達の一人もいるでしょう?」

 バーテクは歩き続けようとした。だが使ってこそ金だろう? 彼は横歩きをすると、無関心を装ってその男の品物を眺めた。品揃えのほとんどは彼の払える価格を越えていたが、薄い金属の装身具が彼の目にとまった、安物だが上品で、ヘッドバンドや首飾りに合いそうなものだった。彼はそれを指差した。

「いくら?」 彼は尋ねた。

 その商人はイタチのような目で彼を値踏みした。「ガールフレンドにですかい?」

 バーテクは首を横に振った。

「若者の恋路の邪魔をしたくはないですからね」 男はそう言って、芝居がかった溜息をついた。「1ジノであなたのものです」

 バーテクは眉をひそめた。「80ジブなら出せるんだけどな」 彼は言った。「すごくいい物だけど、俺まだ飯食ってないんだよね」

 その商人は眉をひそめ返した。「なあ君、恋は応援したいですけどね、こっちも慈善事業じゃないんですよ。90ジブでどうですか、それが精一杯ですよ」

「80」 バーテクは言った。「頼むよ」

 商人は唇をすぼめた。「売った」 彼は言った。「80ジブ。でも彼女さんに言って下さいよ、ブリキ通りのイムリッチの所で買ったって」

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 バーテクはにやりと笑った。「取引成立」 彼は80ジブを財布から取り出し、商人へと手渡した。もう6ジノある、彼は考えた。そしてその小さな飾りをポケットに入れた。

「彼女にあげるのかい?」 背後で甲高い声が上がった。

 彼が振り返るとニコがいた、自分を友人だと思っている泥棒鼠の小僧が。バーテクはしかめっ面をして財布を手で押さえた。

「彼女じゃねえよ」 彼はつぶやき、歩き始めた。「てめーは牢屋かどっかに入ってろよ」

 ニコは彼についていった、バーテクが二歩歩くごとに三歩。実際のところ、彼は窃盗と破壊行為で牢に入っているべきだ。だがバーテクの友人の多くがこんな奴だった。

「可愛いよな、あの子。そうだろ?」 ニコが言った。

「てめーは知らなくていいんだよ」 バーテクは言った。

 友人とそのように話すのは少々不愉快になるものだが、彼はニコの言葉で話しているのだった。悪党とは悪党のように話しなさい、母はかつてそう言っていた。そして女性とは紳士のように話しなさい。

 ニコは肩をすくめた。「あの子は俺とならどうするか知ってるよ、間違いなくね」

 バーテクの頬が熱くなった。

「その口を閉じろ」 彼は言った。「それとも黙らせてやろうか」

 ニコは彼を追い越すと立ち塞がった。バーテクは肩で押して通りすぎようとしたが、その子供の表情から何かを感じて立ち止まった。奇妙にも本気で彼を心配しているように見えた。

「あの子が本当に好きなのかい?」 ニコは言った。「期待外れになるよ。あの子は商売人だ、バーテク。あんたと仲良くするのは、あんたに特別いい思いをさせるのはあの子の仕事だ。あの子が欲しがってるのはあんたの金だけだよ」

 バーテクはニコを押しのけた。

「俺に金がないことくらいあの人は知ってるよ」 彼はそう言って歩き去った。

「その変な宝石より、80ジブの方があの子は喜ぶよ、絶対」 ニコはそう言ったが、彼を追いかけはしなかった。

 いくつものカーブと曲がり角を過ぎ、頭をかがめて小路を通り、大通りに沿って下って、彼はそこそこ快適な環境に辿り着いた。ここでは人々は下を向いて歩き、拘引者やウォジェクの姿は10分以上見ていない。破滅小径。家はまだ遠いが、彼はまずここに寄る必要があった。

 気取らない小さな屋台が路の両側に詰め込まれていて、何がどこにあるかを正確に知らなければたやすく見逃してしまう。それでも、そこは小さくも友好的な場所で、常に面白い掘り出し物がある......だがバーテクが毎日足を止めるのはその理由からではなかった。

 彼女の名はアンドラ、可愛らしくて上品で、親切だった。彼女は毎日、予備の部品を用いて様々な道具を修繕しているらしかった――だが常にどこか当世風に、そして決して上品すぎないように。

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 歩いて行くと、彼女は外套をまとった女性と気楽に話していた、特徴的に飾り立てられた古い書物の束を見せながら。売り文句を喋り続けながら、彼女はその女性の肩越しにバーテクと目を合わせた、そして真昼の太陽のような笑みを彼に投げかけた。彼は息を呑んだ。

 ついに、外套をまとったその女性は心を決め、バーテクが一月に稼ぐことのできる以上の金額を渋々支払った。食べることも着ることも、戦いに使うこともできない何かに。6ジノでも高い、彼は再び考えた。

 外套の女性はのろのろと去り、アンドラは彼へと微笑んだ。

「バーテク!」 アンドラが言った。「心配になってた所だったのよ」

「ああ」 彼は言った。「ごめんなさい」

 彼女は笑いかけた。

「毎日寄ってくれなくてもいいのに。君は忙しいんでしょう、わかってるわよ」

「いえ、もちろん、寄ります」 彼は親指で胸を差して言った。「俺は貴女の一番のお得意様ですから」

「それは確かね、ある意味」 彼女はそう言った。

 それはいつもの冗談だった。彼はほとんど毎日立ち寄っていたが、ほとんど何も買ったことはなかった。彼は通常、彼女がまだ品物を並べている間に訪れるようにしていた。何も買わなくとも気まずくならないように。バーテクが買う余裕のあるものを彼女は売っていない、単純な真理だった。アンドラはそれを知っており、彼を追い払うために作業を急ぐ様子は見せなかった。

「貴女に贈りたい物があるんです」 彼は言った。

「奇遇ね」 彼女は言った。「私も同じことを言おうとしてたの。お先にどうぞ」

 注意深く、彼は小さな装身具を取り出して差し出した。アンドラは微笑んでそれを受け取ると、二人の指が触れた。彼女はそれを掴み、朝の光の中で吟味した。

「素材は安いものだけど、綺麗な細工」 彼女は言った。「この小さな錫細工、誰かしら気に入りそう」

「どうですか?」 彼は言った。

「綺麗」 彼女は言った。「でも、これに釣り合う物をあげられるとは思わないの」

 彼は顔を赤らめた。

「それは......あの、貴女のために買ったんです」 彼はどもりながら言った。「贈り物として。イプリッチだったか、そんな名前の、ブリキ通りの店で。どこで買ったか伝えるって約束しない限り、売ってくれないって」

「これを私のために?」 彼女は尋ねた。

「は、はい」 彼は言った。「そうです。これを見て......貴女を思い出しました」

「ありふれてて、だけどよく揃えてる?」 彼女は言って、眉を上げた。

 彼は再び赤面し、彼女は笑った。

「バーテク、これは素敵だわ」 彼女は心をこめて言った。「ありがとう」

 彼女は髪をかき上げ、ヘッドバンドに空き場所を見つけるとその装身具を取りつけた。

「どう?」 彼女は尋ねた。

「綺麗です」 彼は言った。「似合ってます」

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 彼女は瞳を動かして彼を見た。バーテクが彼女を褒めると、それは冗談や誇張、もしくはただのお世辞だと彼女はよく主張するのだった。時折彼はそのことに狼狽した。だが今回は、とてもいい雰囲気だった。

「俺に何かあるって言ってました?」 彼は言った。

「あら」 アンドラは言った。「そうだった。だけどごめんなさい、贈り物じゃないの」

「それは予想してませんでしたから」 彼は言った。

 彼女は布に包まれた包みをカウンターの下から取り出した。

「君のためにとっておいたの」 彼女は言った。「お金がないのは知ってるけど、これは安く手に入ったの。そして君をこれで驚かせようかと思って。これを見て......君のことを思い出したから」

 彼女は包みを解き、刃が優雅に湾曲した、精巧な作りの短剣を差し出した。金属はほとんど黒に近い暗い色で、綺麗に磨かれていた。立派な刃で、丁度良い大きさだった――大っぴらに身につけても刺客のようには見えないほどには小さく、人々を少々怖がらせるほどには大きい。

 バーテクの心は沈んだ。これほどのものを買える余裕はない。

「5ジノで」 彼女は言った。「私の一番のお得意様に、特別にご提供」

「いいんですか?」 彼は言った。「倍はしそうなのに」

「言ったでしょう、安く手に入れたって。それに、君に似合いそうだなって本当に思ったから」

 彼女はあんたの金が欲しいだけだよ。ニコの声が脳裏に響いた。だが彼女は勤勉に働けば、たぶんこれを売って12ジノは手に入れられるだろう。彼個人から騙し取るというのはつまり、多くの金を諦めることになる。

 残る可能性は。彼女は心から、友人と取引をしたがっている。彼は息を呑んだ。6ジノでも。

「試してみて」 アンドラは言って、それを彼に手渡した。

 彼はその刃を受け取り、注意深くそれをベルトに下げた。いい重さ、だが重すぎない。試しに抜いてみると滑らかな金属が緩やかな曲線を描く刃は容易く引き抜けた。彼はその短剣をベルトに戻した。

「どうですか?」 彼は尋ねた。

「威勢がいいわね」 彼女は言った。「武骨で、ちょっと危険な感じ。よく合ってるわよ」

 彼は瞳を動かした。

「ちょっとごつすぎませんか、どう思います?」

「バーテク、私は真面目よ」 彼女は言った。「本当に君にぴったり」

 彼は再び顔を赤らめた。

「取引成立」 彼は言った。「5ジノですね。俺は無一文になってしまうんですが、その価値はあると思いました」

 彼は右の靴から1ジノを取り出し、財布を空にしてカウンターに置いた。残り1ジノ、彼はそう考えた。

 彼女は優雅な動作でコインを回収し、微笑んだ。

「ありがとう」 彼は言った。「贈り物じゃないかもしれませんが、貴女はそんなことをしなくても」

「ううん」 彼女は言った。「私がそうしたかったの」

 彼はにっこり笑った。

「そろそろ行きますね」 彼は言った。「重要なことが沢山あるんです。威張ってやらないと」

「そうね」 彼女は言った。「君は忙しい人だもの。知ってるのよ」

 彼は最後に一度彼女に微笑みを投げ、家へと向かった。彼の足取りが少々威張っていようとも、それを誰が責められるだろう?


 早朝、陽光が周囲の建物を際立たせると、小径に夜明けが訪れる。アンドラは口笛を吹きながら店を立ち上げつつ、視線をバーテクから離さずにいた。

 バーテクの長身が朝のまばらな人影の中を動いているのを見かけたのは、彼女がちょうど品物を並べるだけの時点だった。今日の彼は時間通りだった。

 彼の片目の上は大きく紫色に腫れており、立派な職人技の短剣はどこにも見られなかった。そのまま通り過ぎるように見えたが、彼が目を合わせ、手を振るのが見えた。彼は店に向かって歩いて来た。

「バーテク! 何があったの?」 彼女は尋ねた。「大丈夫?」

「大丈夫です」 彼は言った。ひどく疲れた様子の声だった。「昨晩、男が二人、俺の仕事中に襲いかかってきました。顔を見る前に頭を殴られて、金のためかどうかはわかりませんけど、俺の新しい短剣を奪って行ったんです」

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「ごめんなさい、バーテク」 彼女は渋い表情をした。「聞いて。普段はこんなことはしないんだけど、もし5ジノを返して欲しいなら――」 彼は首を横に振った。

「貴女のせいじゃありません」 彼は言った。「俺が自分のものを失ったんです」

「ごめんなさい」 彼女は再び謝った。彼は弱々しく頷いた。

「俺は大丈夫です」 彼は言った。「買い入れる相手に気をつけて下さい。俺は、あの短剣は盗品なんじゃないかって思ってます。あいつらはそれを取り戻しに来たんだと。あいつらが本当に叩きのめしたいのは貴女かもしれない」

「優しいのね」 彼は言った。「ええ、気をつけるわ」

「帰って寝ます」 彼は言った。「どうか気をつけて。それでは」

「君もね」 彼女は言った。

 アンドラは彼が去るのを見守った。彼はただの子供、そしてかつて悪党だった自分にはいい子すぎる。

 まだ客の姿はなかったので、彼女はカウンターの背後に腰かけた。そして紙とインク、ペンを取り出すと、上役へと向けて高度に暗号化された伝言を綴り始めた。

 今や品物は第三者の手にあります。より詳細をご希望でしたら連絡下さい。

 彼女はその短剣が殺人の武器なのか、盗品なのか、その他の何なのかは知らなかった。知りたいとも思わなかった。彼女が知るのは、ディミーア家がそれを何者か特定の人物に売ることだけ。そして彼らは、短剣の新たな所有者と彼女との間のいかなる繋がりも望まなかった。

 案内人は生き延びました、ですが配達の役割は知らずにいます。

 それは彼女お気に入りのトリックだった。禁制の品物を誰かに売り、それを本物の買い手に盗ませるよう手配する。彼女に続く痕跡を断ち切り、そして何よりも、彼女は同じ品物について支払いを二度受け取る。通常、案内人は取引の中で良く扱われはしないが、今回彼女は買い手へと、その少年を生かしておくよう頼んでいた。彼女はバーテクの顔を見て安心していた、それが腫れ上がっていても。

 第一取引の利益:20ジノ 第二取引の利益:5ジノ。第二の業務の際に得た追加の品の価値:

 彼女はヘッドバンドに付けられた小さな装身具を指で弄び、微笑んだ。

 無視してよい。

 彼女は息を吹きかけてインクを乾かすと、手紙を折りたたみ、それを仕舞いこんだ。

 あの子は本当に優しいから。

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