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Uncharted Realms

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世界魂を称えて その3

Jenna Helland / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori

2012年10月10日

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 ルージが煙を目撃する前に、クーマが血の匂いを嗅ぎ取った。狼は散らかった建物の廃墟を全速力で駆け抜け、彼らとセレズニアの居住地との距離を急速に縮めていった。木製の門は蝶番から引きちぎられており、ルージとクーマを壊された入口へとしきりに誘っていた。その中にどんな脅威が待っているかは構うことなく。

 ルージ達は、死体から価値のあるものを漁っていた虐殺少女とその下僕の男達を急襲した。壁にラクドスの血紋が滴っているのを見ながら、ルージは脚に差した鞘からナイフを引き抜くと、飛びかかってきた最初の堕落者の腹を刺した。

 だがその男の喉を切り裂く前に、棘付きの鎚と血染めの鎖を振り回しながら狂信者達が彼を包囲した。ルージは過去にラクドスとやり合ったことがあった。彼らに同情の余地はない。生命を空気ほども気にせず、息を吸うように簡単に殺す。

 クーマの唸り声が高い壁に響いた。ルージは視界の隅、汚されたセレズニアギルドの樹の近くにセレズニアの同志達の死体を見た。その中にはセシリーの亡骸もあるかもしれない、そしてその思いはルージを挫けさせた。この多くの敵から自分自身を守るには弱々しすぎるまでに。


《跳ね散らす凶漢》 アート:Kev Walker

 彼らの痩せこけたリングマスターがグロテスクな棘と傷跡に覆われた凶漢達の輪の外に隠れていた。彼女は虐殺少女を自称する狂人だった。ルージは彼女の評判を知っていた。彼女が以前に犯した犯罪の跡を見たことがあった。そして彼は知っていた、彼女がここにいる理由は一つしかないと。

「誰がお前を雇った?」 ルージは叫んだ。

 虐殺少女は下僕の一人へと合図した。鉤と鎖で武装したオーガが前へと進み出た。凹んだ金属の仮面が身長8フィート程のオーガの、その台無しになった顔を部分的に覆っていた。唸りながらクーマは彼から遠ざかった。ルージ自身の脚は震えており、彼は世界魂へとその狼の堅固な脚を感謝した。ルージの感情は彼自身を裏切っていた。すぐに弓を引くことができたとしても、彼の矢は定まらずラクドス信者に命中はしないだろう。

「お金は貰った。それだけなんだけど」 虐殺少女は目を細めて彼を睨んだ。「会ったことあるっけ、ワンちゃん坊や?」

「皆が何をしたというんだ!」 ルージは吼えた。

「それがどうしたの」 彼女は言った。そして鼻歌を歌い始めると小刻みにダンスのステップを踏んだ。次に、高らかに歌い出した――それがどうした、それがどうした――彼女の嘲りは荒らされた中庭に響き渡った。

 踵を返し、虐殺少女は継ぎはぎの上着に手を伸ばすと一握りの色鮮やかな紙片を取り出した。それを空中へと投げると、彼女は歪んだお辞儀をして門へと気取って歩いていった。彼女の合図に続いて、残る狂信者達も門へと向かった。鉤付きの鎖で粗暴な弧を描いて振り回すオーガを除いて全員が。


《ヘルホールのフレイル使い》 アート:Steve Prescott

 クーマは手綱に逆らって顔を上げたが、ルージはクーマを留めておいた。彼らとオーガとの空間を記憶させるにちょうど十分な長さだけ。これは殺しの空間、そう彼の狼の本能へと記憶させるに十分な長さだけ。そして彼らはオーガの鎖が鳴る音が漂う中、その空間を踊り始めた。

 正面きっての攻撃を想定し、オーガは考えなしに彼らへと突撃した。瞬時にルージはクーマへと拍車を当て、頭上からの鋭い鉤の攻撃を左に避けた。力強くスピードを弾けさせ、狼は壁へと跳躍した。ルージが手綱を引くとクーマは板を上って身体をひねり、オーガの背後へと着地した。鎖が無益に地面へと落ち、オーガは驚きに吠えた。攻撃すべくオーガは不器用に振り返ったが、その肉付きのいい腕を上げて喉を守る間もなく狼の歯が迫っていた。剣を引き抜きながらルージが狼の背から飛び降りると同時に、オーガは地面へと崩れ落ちた。

 殺意を抱きながら、ルージは未だ地面でうわ言を発しているオーガの首を切り落とした。彼は悲嘆にくれたような狼の視線を無視し、中庭を闊歩して隠れている者がいないかどうかを確認した。その間、ルージはラクドスを名乗る者達ならば誰でも喜んで殺していたかもしれない。


《ラクドスの魔除け》 アート:Zoltan Boros

 中庭が無人だと確信しても、ルージは姉を探すために立ち止まることはしなかった。彼は恐れた、その暴虐を認めてしまえば膝をついて二度と立ち上がれなくなるかもしれないと。だから彼はシャベルを手に取り、地面を掘り始めた。まるで自身の生をそれに委ねるかのように。そう、血の匂いが獣や野人達を惹きつける前に終わらせなければいけなかった。働くことは生きること、生きることは働くこと。働かなければ何もない。クーマはうずくまってセシリーの死体に寄り添いながら、ルージが何時間も狂乱的に働くのを悲しげに見守っていた。

 ルージが初めて虐殺少女について耳にしたのは数年前だった。彼女がアゾリウスの拘引者を金のために、そして二人目は楽しみのために殺害した時だった。彼女は止めようとする者の命やその家族は誰であろうと脅し、手がつけられなくなっていった。かつて、彼女の犠牲者の父親が復讐として彼女を殺そうとした。それが失敗すると、彼女はその一家の男性を全員殺害し女性からは視力を奪った。アゾリウス評議会自身は彼女を殺人容疑で逮捕しろと命令することはしないだろう。彼らは違法入植地域でのセレズニアのエルフの殺害容疑に対しては、確実に何もしない。

 虐殺少女を殺すためには、狼乗りの仲間達の助力が必要となるだろう。だがトロスターニは彼女のギルドへと、決して復讐の殺人を許しはしないだろう。正義が成されるためには、ルージはセレズニアと断絶して別の道を探さねばならない。姉の姿を見ることができなかったにもかかわらず――彼女を皆と一緒の墓穴に入れた後でさえも――虐殺少女を殺す、それを自分の人生の目的にしなければならないと彼は気付いた。都市を全て燃やし尽くしてその鼠穴を探さねばならないのであれば、そうするつもりだ。

 最後の死体が埋葬されたその時、クーマがやってきてその頭を主人にもたせかけた。クーマだけがルージへと悲しみにくれる時をくれた。ルージはその腕で狼を抱きしめ、自身を世界魂に捧げることができたらと願った。彼は慰めを求めていた、そして内なる声は世界魂の中でそれが見つかるだろうと言っていた。だが彼はその声を直ちに黙らせた。それではセシリーに何もしてやれない、彼は思い直した。死者に何もしてやれない。


《安らかなる眠り》 アート:Terese Nielsen

 クーマがその音を最初に聞いた。彼は耳を立て、鼻を鳴らした。ルージは即座に立ち上がり、攻撃に備えた。だがラクドスの者達が戻ってきたのではなかった。ルージが予想していたようなグルールの斥候達でもなかった。それは子供の鳴き声だった。不意に目が覚めて孤独に、母を呼んで泣いていた。

 セシリーの小屋、机の下、幾つかの箱の後ろに揺り籠が隠されていた。その赤子――彼の甥――はルージが抱き上げると泣きやんだ。グルールの赤子。彼らが取り戻しに来た赤子。彼は気付いた、グルールは子供のために相当な距離をやって来るだろうが、共同体を殺し尽くすほどのラクドス教団員を雇うほどではないだろうと。都市生活者の何者かが虐殺少女を雇ったにしても、殺人に金を費やす誰かがいる。

 今や彼の肩でまどろむ乳児の可愛らしい顔を見て、彼は気付いた。他の誰かに虐殺少女を殺させるにはどうすればいいかを。


 残骸地帯の中心から数マイル南下し、ルージはグルールの宿営地を発見した。だが彼らの指導者、古き道のニキアはルージへとその入り口を跨ぐことを許さなかった。彼女の戦士十人余りに挟まれ、そのグルールの長は共に地面へと座るように示した。それはルージが伝えなければいけないことを聞く意志があるという歓迎の印だった。

 ニキアは古のラヴニカ、古き神々を崇拝するグルールの部族の一つ、ズーア・ター族の長だった。ルージは彼女の年齢を推測できなかった。彼女は若き戦士のよく鍛えられた肉体を持っていたが、戦傷は古参兵のそれだった。目尻には年齢を示す皺が何本も刻まれており、ヴィトゥ=ガジーのドライアドの古老達の多くよりも彼女を賢く見せていた。彼女の宿営地の壁はぐらつく骨の山からなり、都市の重さに窒息させられたと彼らが信じている地下深くの神へと捧げられたものと思われた。


アート:Aleksi Briclot

「私の姉は貴女がたの幼い従兄を引き取るべきではなかったんです」 ルージは言った。「それは間違っていました。ですが姉は憐れみや無知からそうしたのではありません」

「無知は言い訳にはならん」 ニキアは言った。「我らは生の過酷さから子供達を守ることはしない」

「姉は死にました。彼女の住処で殺されました。姉の血でラクドスの紋様が描かれていました。それで十分でしょう、彼女の大きな過ちに対する貴女がたの血への飢えを満たすには」

「お前の姉は狙われてはいない」 ニキアは言った。「血は血のためのもの。殺しは殺しのためのもの」

「あいつらは貴女がたの赤子を殺したんです!」 ルージは言った。「奴らはあの子の首を石の上に投げつけていた。私がその遺骸を埋葬しました」

「誰の仕業だ」 ニキアは尋ねた。「お前の目で見たのか?」

「ラクドスです」 ルージは言った。「罪はラクドスの者全員にあります。ですが虐殺少女と自称するリングマスターが行いました。彼女は金のために子供も殺します」

「我らの斥候が居留地から戻ってきている」 ニキアが言った。「我らは壁の血紋を見た。お前の言葉は真だ。我が前では、あの悪魔に跪く者達は全てグルールに対する血の罪を負う。奴らは街路で殺されるであろう」

 ルージは宿営地を立ち去った後、不毛の地の闇の中を何マイルも歩いた。狼なしには、彼の旅程は長く遅々としたものだと知った。彼は闇の中、森の根を歩く子供のようだと思った。グルールに追跡されていないかどうかを確認すべく、ルージは何度も後ろを振り返った。


アート:Randy Gallegos

 そしてついに、彼は都市の端に辿り着き、馴染み深い建物を見上げた。その頂上、屋上にかかる覆いの下で狼が彼を待っていた。クーマの足は彼の柔らかな毛皮をしっかりと掴む、赤子のジィを保護するように丸められていた。ルージは甥を抱き上げると夜の中、狼の背に乗った。

「明日になったら、この大きな街をもっと見せてやるよ」 彼はジィへと囁いた。「そして、全部壊してやろう」

 ラクドス対セレズニア。グルール対ラクドス。ルージ対その全て。

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