マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

読み物

Uncharted Realms

authorpic_jennahelland.jpg

世界魂を称えて その2

Jenna Helland / Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori

2012年10月3日

原文はこちら

 その1はこちら

 セシリーは庭園を築くためにやって来た。代わりに、彼女は壁を築いた。

 樹木彫り達は当初、夜間に野生の猪の侵入を防ぐのに十分なくらいの肩の高さの壁を開拓地に張り巡らせた。次に彼らは罰金を課しに来るアゾリウスの拘引者のような厄介者を締め出すために入口に鍵をつけた。ついそして数日前、樹木彫り達は壁を20フィートの高さに増築した。グルールは彼女に対して怒っており、セシリーは壁が十分な高さではないのではと心配したためだった。それが彼女に、今や牢獄の中で生きていると感じさせたとしても。

 そしてそれは真実だった。壁は十分な高さではなかった。だがグルールは何もしなかった。

 残骸地帯に定住した当初、セシリーはその開けた空間に眩暈を感じた。普段なら、都市の端は靄の向こうに青くぼんやりと見えるだけだった。彼女と付き従う者達は不規則に広がる建物の廃墟近く、開けた地に最初の家を築いた。今やそれは鮮緑色の蔓をまとっている。廃墟となっていた建物の床は腐り落ち、ぎざぎざの壁が瓦礫の山にもたれかかっていた。樹木彫りの人員は足りているのだが、この廃墟へと命を与えて残骸地帯を去らせることができればいいのに、とセシリーは思った。


《ドルイドの講話》 アート:Dan Scott

 セシリーは人生で初めて、空に圧倒された――青色の広がりが、彼らが種を植える渇いた赤い土からセシリーの目を惹き続けていた。すぐにセレズニアの庭園が残骸地帯を飲みこむだろう、彼女はそう夢見た。破壊された地をゆっくりと前進し、不浄の都市を再生し、その世界を完全に掌握する。残骸地帯はグルールの住処であり、未開の部族の集まりがばらばらに、ラヴニカの見捨てられた地域の所有権を主張している。彼らグルールの仲間をなだめるために、セシリーはセレズニアの刈り込まれた芝生ではなく、野生的でもつれた庭園を求めた。グルールにとっても家であるように感じて欲しい、彼女はそう願った。

 開拓初期、セシリーの最優先事項は治療院を築くことだった。グルールにも彼らの癒し手がいるが、彼らは放浪生活を営んでおり残骸地帯をでたらめに動きまわっている。セレズニアの者達は、常にそこにあり信頼できる場所を提供した。セシリーにとって嬉しいことに、彼らはやって来た。大人数ではなかったが、彼女の共同体にとってそれは良い働きをしていると感じさせてくれた。グルールはセレズニアの教えを拒んだが、セシリーはそれも時が解決してくれるだろうと信じた。

 だが彼らがジィを養子にすると、全てが変わった。斥候達が残骸地帯の中に放置された乳児を発見し、ヴェルナディへと連れ帰った。彼女が赤子を覆うぼろぼろの布を取り外すと、その背中にはグルールの刺青があった。共同体の中に疑惑が広がった。子供を見捨てるとはグルールは何と残忍なのだろうか? セシリーはその赤子を弟ルージから名付け、彼を自分の息子として育てるために家に引き取った。

 時折、セシリーは世界魂へと祈るよりも弟に会いたいと望む自身に気が付いた。彼女は子供時代、ルージの影を追って過ごしてきた。ルージは彼女よりも弓が上手く、脚も速く、ヴィトゥ=ガジーのどんな子供よりも喧嘩が強かった。だが彼はいつも、セシリーがつまずいて転んでいないか振り返ってくれていた。そして危険な場所を渡る時は手を決して離そうとはしなかった。ルージは彼女が言葉を話せると主張した只一人の人物だった、彼も他の誰も、彼女が言葉を話すのを聞いたことはなかったとしても。

 そしてある日、セシリーは口を開いた。彼女はヴィトゥ=ガジーの樹心での集会にて、唐突に立ち上がった。ギルドマスター・トロスターニがその朗唱を終えた時だった。全員が――バルコニーを踏みならすケンタウルスから長椅子の下に寝そべる狼まで――もはや無言ではない、ほっそりしたエルフの少女へとその目を向けた。

 賛美の言葉が彼女から留まることなく流れ出した。セレズニアを称える朗唱はあまりに美しく、最古参のドライアド達でさえ膝を折るほどだった。彼女は世界魂と繋がれた、そうドライアド達は言った。彼らは共同体の精神によってのみ語ることのできる、根源にして偉大な真理の代言者であると彼女の登場を祝福した。ルージはまるで彼女から二つめの頭が生えたように行動した。だがセシリーは彼の心配を無視した。彼女は他の者が雨粒を感じるように、世界魂を感じていた。彼女にとって、それは明白に触れることのできる、全てを包み込む、命に満ちた贈り物だった。


《守護者の木立ち》 アート:Christine Choi

 セシリーが残骸地帯に開拓地を設立するよう呼ばれていると感じた時、それに対する助言をしたのはルージだけだった。ドライアド達は彼女こそが最も過酷な地に緑をもたらす庭師であると称え、歌った。ルージは彼女へと、自分自身で感じ、考えるように言った。だがその時、セシリーは自身と他の全てを切り離すことはできなかった。彼女はグルールを、セレズニアの報われない兄弟だとみなしていた。何と言っても、彼らは自然への愛をセレズニアと共有している。絶えず成長し続ける都市世界によって抑圧されている自然への。

 グルールは物事を違う目で見ている、ルージは説明しようとした。彼らにとって、セレズニアの完全無欠の庭園は欺瞞なのだと。そう、調和という絵を描くために飾りつけられた葉片。ルージは、その調和はグルールの聞くことのできる音楽ではないと警告した。彼らの好戦的な精神の騒音や叫びにかき消され、それは届かない。だが愛と容認が打ち勝つに違いないとセシリーは力説した。セレズニアはその敵の中心で勝利のために励まなければならない。苦しみは問題ではない。代価は問題ではない。

 そして彼女は旅立った。20人程の同行者を従えて、誰も想像さえできない野生の地へと。そして彼らは故郷を築き始めた。開かれた腕、開かれたテーブル、そして癒しの手が待つ故郷を。

 毎夜、セシリーは世界魂と交信を試みた。団結を通して共同体の精神が完璧なものとなるよう懇願した。そして彼女の小さな共同体は日々少しずつ成長していった、埃っぽい中庭にギルドの若木が花開くように。セシリーは同行者達へと約束した、いつの日か彼らの根はラヴニカ中へと広がり、あらゆる声が世界魂を称えるであろうと。


《兵士の育成》 アート:Seb McKinnon

 だが日ごとに彼らは疲れ果てていった。アゾリウスは彼らの治療院が違法であると法令を挙げた。イゼットの魔道士は秘義の魔力とポータルについてまくし立て、彼らに立ち去るよう要求した。セシリーがジィを引き取ると、グルールは彼を連れ戻すために女性を送り込んだ。彼女はニキア族の呪術士であり、その子は同胞でありグルールとして育てると主張した。だがセシリーは聞く耳を持たなかった。ジィは瓦礫の中に置き去りにされて死にかけていた。そして男の子を異邦人へと渡す気はなかった。

 それ以来、グルールの者達が治療院にやって来ることはなく、セレズニアの者達が壁からあまりに離れた所へ赴いた際には攻撃を仕掛けるようになった。夜毎に、グルールのかがり火は彼らの門へと近づいてくるように思えた。セシリーは男の子を返すべきだ、そう囁く者もいた。

 日の出の直前、彼らの門が蝶番から外れ、砕けて地面に転がった。一撃で彼らの安全は砕かれた。最初に門をくぐったのは、切り取られて台無しになった顔をした巨体のオーガだった。セシリーは皆に逃げるように言ったが、今や壁が彼らを閉じ込めていた。セシリーはただ一人、両腕を掲げて中庭に立っていた、まるでそのか細い身体で侵入者を押し留めようとするかのように。奇妙な、筋骨逞しい女性が入口をまたいでやって来た。彼女はより暴力的な、傷のある男達を連れていた。ピアスと街路的な衣装から、セシリーは彼らがグルールではないとわかった。


《快楽殺人の暗殺者》 アート:Tyler Jacobson

 セシリーはその女性に顔面を殴りつけられ、泥の中に転がった。そして立ち上がろうともがく中、再び殴られた。セシリーの庇護下には多くの人々がいたが、彼女が考えていたのは揺り籠で眠るジィの事だけだった。

「お前の腕なんて小枝みたいに折ってやる」 その女性はほくそ笑んだ。セシリーの目には、彼女は見せかけの笑顔を描かれた、骨ばった醜い人形のように映った。その女性はギルドの若木を地面から引き抜くと中庭の向こうに放り投げた。そこでは彼女の下僕達が吠え、踊り、混乱を大いに喜んでいた。セシリーは彼女に大きな喜びを与えてくれたとてつもなく貴重なものを軽視され、その衝撃に動くこともできなかった。

 セシリーはヴィトゥ=ガジーの外の世界を多く見てきてはおらず、ラヴニカについてもほとんど知らず、彼女が今や家と呼ぶ残骸地帯の隅さえも知らなかった。彼女は知らなかった、その女性は虐殺少女と自らを名乗るラクドスの傭兵殺人者だということを。暴力に直面し、セシリーの四肢は石のように硬直し、心は今やただの砂だった。その女性は錆ついた刃を手にし、セシリーの金髪を叩き切った。そして声を上げて笑った。

「怒らないのか?」 その女性は首をかしげた。セシリーの従者達は皆殺され、泥にうつぶせに倒れていた。それでもセシリーは血と泥と切られた金髪に囲まれ、膝をついていた。女性は何の行動も起こさないセシリーへと純粋に興味を抱いたように見えた。「何故座ったままで何もしない?」

 だがセシリーは再び黙ってしまった。ヴィトゥ=ガジーからの生命を運ぶ根は引き裂かれた。千の魂の英知も、折れた心にとっては言葉なき鼻歌以上のものではなかった。荒廃した地と世界の暗闇の中、そこにあるのは、セシリーの喉を切り裂いている錆びた刃とそれを持つ女性だけだった。

次週、その3:ギルドの抗争

ラヴニカへの回帰

前の記事: 世界魂を称えて その1 | Uncharted Realms一覧に戻る | 次の記事: 世界魂を称えて その3

トピックス

新着順