READING

開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

複雑さの浸入的増大

authorpic_samstoddard.jpg

複雑さの浸入的増大

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年2月24日


 こんにちは、「Latest Developments -デベロップ最先端-」にようこそ。今回の記事では、マジックが圧倒されている大きな問題、すなわち複雑さの浸入的増大――年月が経つにつれてマジックが複雑になっていく傾向――について、そしてそれがなぜ悪いことなのかをお話しします。

複雑さが制御しにくい理由

 新世界秩序はいわれのない非難を受けています。私はネットでマジック・プレイヤーによる多くの投稿を読み、そしてそこには新世界秩序の全てを非難する風習がありました。レアが弱すぎる? 新世界秩序だ。スタンダードの青に《対抗呪文》がない? 新世界秩序だ。これは新世界秩序がなんたるかをまったく表していません――新世界秩序とはコモンの複雑さを監視して、マジックの楽しさを保ちながらシンプルにするものです。

 複雑さの最もやっかいなところのひとつは、ある程度の範囲ではそれがリミテッドに楽しさをもたらすところです。ほぼ23年プレイしてきたプレイヤーとして、私は今までに見たことのない状況に置かれ、そして驚異的に複雑な盤面を切り抜けていくことを楽しんでいます。私だけにマジックを売るのなら、新世界秩序はいらないでしょう――その反対のものが必要です。

 しかし我々は私だけを相手に商売をしているわけではありません。マジックが健全であり続け成長し続けるためは、マジックが新しいプレイヤーやそういったレベルの複雑さを楽しめない人々のためにあり、そしてそういった人々が遊べるものであることが必要です。事実、最もとっつきやすいフォーマットであるリミテッドをヴィンテージと同じぐらい難しくすることなく、私の求める複雑さを提供してくれるフォーマットはたくさんあります。

 これらの事柄を監視するのもデベロップの仕事です。セットを引き継いだときに、行き過ぎたものになっていたり、そのセットのメカニズムが(表面上はそう見えなくても)新世界秩序ではない方向に向かっているなら、それらを切り捨てるのはデベロップの仕事です。

 さて、我々は無差別に切り捨てるわけではありません――デザイン・ファイルは基本的にデザインが見つけた、具体化されていない楽しいもののアイデアです。デザイン・ファイルのカードの多くに全く変更が加えられないまま完成版になることは稀ですが、そのアイデアとデザインが楽しんだプレイのパターンを、デベロップはデザインの箱庭の外側でも働く形で再現しようとするのです。またデベロップはデザインが楽しいと思ったものを掘り下げ、(うまくいけば)可能な限り最も単純な方法で再現するカードを作ります。

 しかし複雑さが増えることに関してデベロップに責任がないわけではありません。セットの複雑さが増す最も一般的な理由はバランスの名のもとにあると私は確信しています。リミテッドのプレイテストを行うに際し、我々はすべての色がかなり近いパワー・レベルになるようにしようとします。ある色が強すぎたり弱すぎたりする場合、何かを変更しなければいけません。時には飛行クリーチャーを高空(飛行を持つクリーチャーだけをブロックできる)にしたり、能力に対象かタイミングの制限をつけたりするかもしれません。

 これらはいずれも理論上は問題ないのですが、それが組み合わさると物事はより複雑になってしまいます。文字数を抑えたままにしようとするなら我々はタフネスを1上げるだけになるかもしれません――パワーを上げるほうが基本的に強くなる幅が大きいからです。我々はちょっとだけ動かさなければならないかもしれず、そして3/3を3/4にすることはその色を我々が求めているところに近づけます。

 これの問題点は、我々のセットがパワーの高めなものよりタフネスの高いものになりがちな傾向にあることです。パワーのほうが高いことの利点は通常1対1で簡単に相打ちでき、盤面が膠着しすぎないことです。タフネスが高いとしばしば攻撃しても意味がなくなり、盤面が膠着してしまいます。時には『戦乱のゼンディカー』や『テーロス』のように実際にヒットさせるのが難しいメカニズムを強調するためにこのことを意図して起こすこともあります。しかし我々はこれを考えず他のセットに浸透させる傾向にあり、そうなると、リミテッド環境は同じようなものになってしまいます。私は全てのセットが『ギルド門侵犯』であるべきだとは思いませんが、そのような雰囲気のセットをより良い色のバランスでもっと多く使うことができると思っています。

今起きている複雑さの浸入的増大

 ここ数年に発売されたマジックのセットを見てみると、少なからず複雑さのレベルが上昇していることに気づくかもしれません。『基本セット2010』以降、我々はかなりうまく物事をコントロールできていましたが、時間が経つとコモンの文字数はじわじわと増えはじめ、最終的にコモンとメカニズムの複雑さはどんどん増し、とてもややこしいテキストが増えてしまいました。

 しかしメカニズムをちょっと見てみましょう。昔のマジックでは、1つの大型セットには2つのメカニズムと時々ちょっとしたおまけがありました。『ウルザズ・サーガ』にはエコーとサイクリングがありました。『インベイジョン』にはキッカーと版図、そして分割カードがありました。『オデッセイ』にはフラッシュバックとスレッショルドがありました。『オンスロート』はサイクリングと変異でした。小型セットは通常、メカニズムを1つ追加するかすでにあるものを繰り返し、それで機能していました。

 もちろん、我々がマジックのデザイン空間をどんどん進んでいくにつれて、新しいメカニズムが平均的に深みを失っていくのは分かっていました。個人的には、これまでのマジックのメカニズムベスト3はフラッシュバック、サイクリング、キッカーであり、これらは全てマジックのこの5年間に登場しました。これらのメカニズムではとても多くのことができるようになります――マジックの寿命を考えるなら多すぎるほどに。

 デザイナーとデベロッパーとして、我々はマジックをたくさんプレイします。我々が複雑さに対して鈍感になっていてもおかしくありません。マジックのセットを作っている開発部のほとんどの人はマジックを15年以上プレイしています――平均的なプレイヤーよりもかなり長いマジック歴です。

 セットにより多くの新しさを求めるのは簡単で、そしてメカニズムはそれを簡単な方法で達成できますが、それだけが唯一の方法ではありません。新世界秩序ができる原因となった複雑さの最高点は『時のらせん』ブロックで、40個のメカニズムがありました。これと「全てのカードが盤面上のトリック」デザインの『ローウィン』の期間は、我々は新しいプレイヤーを獲得できませんでした。

 ここ数年の複雑さの浸入的増大はこれよりもはるかに少ないものですが、注意を怠ればすぐにそれに近いレベルになってしまいます。そして開発部内では複雑さの一部について多くの不満がありましたが、個別の各セットにはそのセットで行うことに関するとても正当な理由がありました。

 『イニストラード』は両面カードを求めていて、そしてそれは(特に初めての時は)複雑でしたが、我々はそれを機能させるためにそのセットの他の部分を簡単にしました。次に我々は『ラヴニカへの回帰』ブロックに取り掛かり、いきなり5つのメカニズムを持つことになりました――しかしこれらの各メカニズムは少し単純だったので大丈夫でした。そして『ドラゴンの迷路』では1セットに11個のメカニズムが入ることになりました。『テーロス』の授与はとても複雑なメカニズムでしたが、これは物語面でもエンチャントを機能させるためにも重要でした。『タルキール覇王譚』ブロックは第1セットに5つ、第3セットに別の5つ、そしてその重複が第2セットに必要で、その上に変異が必要でした。


囁きの森の精霊》 アート:Raymond Swanland

 私は『戦乱のゼンディカー』が我々が行き過ぎてしまったことに気づいたセットだったと思います。我々は(結集を持つ)同盟者と上陸を再利用し、エルドラージの欠色と無色テーマ、さらに嚥下、昇華者、覚醒、収斂を必要としました。そして第1セットだけでこれなのです――『ゲートウォッチの誓い』では怒濤、無色マナ、盟友、支援が加わりました。この時点で、我々は『戦乱のゼンディカー』に『タルキール覇王譚』ブロックと同じ数のメカニズムを収録したのですが、その年には丸々1ブロック残っていたのです!

 『戦乱のゼンディカー』はとても人気のあるセットですが、新しいプレイヤーにマジックを始めてほしいと言える理想的なところだとは感じられませんでした。我々が基本セットを作らなくなったときに、その埋め合わせのためにセットをもう少しシンプルなものにするべきだとある程度理解していたのですが、『戦乱のゼンディカー』や『イニストラードを覆う影』ブロックでは実際にはそうできていなかったと思います。『カラデシュ』ではそれより良い仕事ができましたが、まだまだ道程は長いと思います。

将来

 物事をシンプルにしているからといって、我々はそれらをつまらなくしているわけではありません。『イニストラード』は史上最高のリミテッド環境として広く知られていて、最近のセットと比べてみるとそれはよりシンプルです。複雑なカードは興味深い事柄をセットの中に多く作り出しますが、そのセットはそのようなとても複雑なカードなしでは興味深いものにならないということではありません。お互いに相性がいいシンプルなカードを作ることは可能であり、これは大量のテキストや必要以上に複雑な盤面を必要とせずに楽しく絶妙なゲームプレイを可能にします。

 メカニズムそのものの観点では、『カラデシュ』ブロックはここ数年のセットよりもはるかに持続可能なレベルであり、『戦乱のゼンディカー』ブロックや『イニストラードを覆う影』ブロックよりも我々の新しい基準に近いと思います。私は『カラデシュ』ブロックにはいくつか複雑さの問題があると思います――主に我々が新しいプレイヤーにとってエネルギーや機体がどれぐらい難しいかを少なく見積もっていたかによります――が、少なくともその上に追加で他のメカニズムを4つ積むことはありません。

 我々は経験豊富なプレイヤーが求めるような戦略的深みを維持したまま、新しいプレイヤー向けにとっつきやすい方法でより良いリミテッド経験を作る方法について将来出るセットで焦点を当ててきました。ここ数年を振り返ってみると、私は我々が楽しいリミテッド環境を作ることに関して素晴らしい仕事ができていたと思いますし、個人的にはそのほとんどを複雑にさせすぎずに維持できると信じています。

 我々が今製品を作っていることでもうひとつの良いことは、我々が複雑さを置くことができる場所、そして来週私が話そうと思うもの――『モダンマスターズ 2017年版』があることです。これはデザイナーとデベロッパーが普段より少し深く横道に踏み入り、スタンダードで使えるセットでは入らないカードがいくつかコモンで印刷されるセットです。これに全てのレアリティでかなりエキサイティングなカードがあります。『モダンマスターズ 2017年版』は私が一番好きなマスターズのセットですが、セットのリード・デザイナーとして偏った意見であることは認めます。

 なので来週はこのセットのデザインをリードすることについてと、マスターズのセットの世界でのデザインとデベロップの違いについてお話しします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索