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Latest Developments -デベロップ最先端-

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スパイク向けカードのデベロップ

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年8月5日

原文はこちら

 今回の「Latest Developments -デベロップ最先端-」では、我々がスパイク向けのカードを作ること、そしてその心理学分類的にマジックを最も良くするものについてお話ししたいと思います。

 まず最初に、マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterのプレイヤーの心理学的分類についての記事を引用します。

 開発部が最初に分類として認識したのはスパイクだったが、名前をつけたのは最後だった。実際、「スパイク」は私がつけたのでない唯一のニックネームである。さらに言えば、開発部の誰もつけていないのだ。周知の通り、開発部は長年に渡って、ティミー、ジョニー、そして「競技プレイヤー」と呼んでいた。しかし、我々がその3分類をマジック・ブランド・チームに説明したとき、彼らは競技プレイヤーにも名前が必要だと感じ、そして名付けたのだ。「スパイク」という名前になった由来は、おそらくだが、スパイクという響きが真剣で勝利を求めてプレイする名前だと感じたからだろう。

 スパイクは競技プレイヤーだ。スパイクは勝利するためにプレイしている。スパイクは勝利を楽しんでいる。その目的のために、スパイクは最強のデッキなら何でも使う。スパイクはインターネットからデッキをコピーする。スパイクは他のプレイヤーのデッキを借りる。スパイクにとって、マジックの興奮は競争によるアドレナリンの噴出なのだ。スパイクは対戦相手を打ち負かす興奮と勝利の栄光を楽しむのだ。

 スパイクは勝利の質よりも勝利の量を重視する。例えば、スパイクが10ゲームで9勝したとしても、その10試合目に勝てていたと思ったなら失意の中で歩き去ることになる。

 開発部はスパイク向けのカードを大量に作っている。ティミー向け、ジョニー向けのカードと違い、スパイク向けのカードを作るのは比較的簡単だ。スパイクは勝てればいいので、開発部が充分強力なカードを作ればスパイクはプレイするだろう。スパイク向けカードの好例が、《獣群の呼び声》、《影魔道士の浸透者》、それに《嘘か真か》である。


 これは多くのプレイヤーがスパイクについてこう考えていると私が信じているものですが、現在スパイクと考えられているものとは実際には違います。誰かが自分をスパイクと考えるにあたり、私はこの「すべてを勝利に結びつける」という元々の表現がほとんど侮辱であると発見しました。もちろん私は勝つことを楽しんでいますが、しかしただ単に私の名前の次にチェックがつけられるよりも、それを誠実かつ競技的な感覚で行いたいのです。デベロップがこの方法で活動していた時間があったかもしれませんが、我々は確実にもう、そうしてはいません。

 スパイク向けカードを作るのは簡単ではありません――事実、それらは最も難しいものの1つです。この引用で言及されたものは我々がスパイク向けに作ったカードの例ですが、ただそれらが強いからというだけでスパイクはそれらを好きなのではないのです――それらはまた楽しいものなのです。それらはプレイヤーのやり取りを可能にする興味深いゲームプレイと興味深い決定をもたらします。

 一部の人達がスパイクのことを誤解していると私が思っている部分は、彼らが勝利したときにだけ満足すると考えられているところです。スパイクが勝つことを楽しんでいるのは真実ですが、それが彼らがマジックから得ているものの全てではありません。もしそうなのであれば1つのラウンドで勝利できるプレイヤーは半分しかおらず、そして(基本的に)優勝できるのはたった1人なのでかなりまずいことになります。楽しい時間を過ごせるのがたった1人なら、今頃人々は何か他のことをしているでしょう。

 スパイク向けのカードを作るとき、我々はそれを使いこなすと恩恵を受けられるようにしますが、同時に卓の片方にいて楽しい経験を提供できるようにします。マッチの中で最大量の楽しさを探すことの目標は、勝ち方よりも負け方をより興味深いものにすることです。

 スパイクが強いカードを好むのは事実ですが、強いカードをただセットに入れることができるという意味ではありません。まず最初に、バランスは大事です。1つのデッキが支配的な環境に一部のスパイクは満足しますが、他のほとんどはいくらかの多様性を求めています。デベロップ・チームにとっては、そのことはまた強力なカードは楽しく、セットの中で最も楽しいカードの何枚かは強力にする必要があるということです。

 それだけでなく、個別のカード視点に基づいて、我々は楽しさを促進させるデッキを作るようにし、そしてそれが多様性のある環境の一部であるようにする必要があります。これは実際容易な仕事ではありませんが、デベロップがその仕事をやりきったなら、我々はまるで何もしていないかのように見えます。


《嘘か真か/Fact or Fiction(EMA)》 アート:Terese Nielsen

選択に意味を持たせる

 スパイクがただ強いカードを求めているとみなすことの問題は、スパイクが勝利以外にも目を向けているという考えを取り除いてしまうことにあります。スパイクが求める強力なカードは、満足できそしてゲーム・プレイやデッキ構築における強力な決断によって彼らにゲームの勝利をもたらすものです。このようなカードを思い浮かべてみてください。

〈溶岩の撃ち込みまくり〉

{R}

ソーサリー

[カード名]は打ち消されない。

コインを投げる。あなたがコイン投げに勝った場合、プレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそのプレイヤーに30点のダメージを与える。

 ええ、これでかなり強力なカードができました。我々がこれを印刷したら、これはトーナメント級のカードになるでしょう。我々がこれを禁止するまで、このカードはあらゆるトーナメント級のデッキに4枚積まれると推測されます。しかしながらこのカードは恐ろしくバランスが取れていて、もっとコストにマナが必要なだけでなく実際に誰もが良いと感じるものではありません。

 そう、勝ったときはいい気分ですが、我々が意図するスパイクはトーナメントで毎回相手がマナ・スクリューして勝つことを望んではいないのです。そのようなプレイヤーの存在に疑問はありませんが、私はその人たち向けのデザインをすることはできません。我々が意図するスパイクは対戦相手を出し抜き、優れた決定を行うことによってゲームに勝とうとします。彼らは彼ら自身がどれぐらい良い選択をしてどれぐらいそうではないかについて全体的に現実的ではないかもしれませんが、彼らは難しい選択をしてそれをうまくやりとげた瞬間を好みます。彼らはマジックを習熟と反省を繰り返し、競技から得られる喜びのためにプレイしています。

 上記のようなカードは基本的に対策がありません。あなたの勝敗はダイスロールで決まり、人々はこれと土地1枚を引くまでマリガンして、これを唱えるでしょう。対戦相手がこれを唱えるので、あなたのゲームの4分の1は1ターン目に何もプレイせずに終わります。そして相手がコイン投げに失敗した場合は? ええ、あなたに同じコイン投げをしてゲームに勝つチャンスが出てきます。そしてさらに、両方が失敗した場合ゲームはどちらかがもう1枚引いて同じことを繰り返すまで続きます。

 あなたがゲームに勝って起こったことに対してちょっとしか介入していない場合、それを友達に自慢するのは難しいでしょう。まさしく満足の行く決定ではありません。我々はプレイヤーがいくつかの難しい決定をして、最良の選択をすることで恩恵を受けるような方法でカードと環境を作ろうとしています。

 その理由の1つである、マジックのカードが機能するのに必要な難解なルールを時間をかけて縮小してきたことは、我々が対戦相手の「《稲妻》いいですか?」が実は相手のターンを終わらせようとしていることを知っていることよりも、戦略的な決断がゲームを決めることを望んでいるからです。対戦相手の誘発型能力がスタックにあることを覚えていることよりも、ゲームを決定づける選択が実際の選択になる方が良いのです。

 さて、これはランダム性が入る余地がないということではありません。もし人々が完璧にバランスの取れた多様性のないゲームがプレイしたいなら、チェスをしているようなものになるでしょう。マジックのような、それぞれのゲームが異なるプレイのされ方をするゲームでは、ある程度の紛れは重要です。その仕掛けはその紛れがあるところを見つけることです。

 スパイクは全体的に、ある程度技術が重要なゲームを求めています。皮肉っぽく言うなら、彼らは自分よりも弱い相手を全て倒すのに十分なぐらい技術が重要なゲームを求めているのですが、このゲームは自分よりも強い相手に勝つのに十分な紛れを持っています。

 私は人々を満足させるより正確なレベルは、弱いプレイヤーに負けるよりも勝つ数が多く、強いプレイヤーに勝つよりも負ける数が多いぐらいだと考えています。マジックのペアリング方法では、あなたはイロレーティングを比べてレートの高い人が勝ちとはしたくないでしょう。その代わりに、強いプレイヤーが巨大なアドバンテージを持っている一方で、メタゲーム的にはローグ・デッキの構築や他のゲームの一面に意味を持たせることが必要です。それだけでなく、弱いプレイヤーに負ける可能性があることは、その部屋にいる最強の人以外が最強のプレイヤーになれる良い刺激になります。単体として強いプレイヤーはより弱いプレイヤーを負かすでしょう。そのことはプレイしている大会の規模に関わらず、プレイヤーの習熟度がほぼ無限の恩恵をもたらします。

 私の主張を証明するために、大きなランダム要素を持ちながら、しかし全体的にスパイクが大好きだと言えるこのカードを見てみましょう。

 このカードは強力です。とても強力です。ここ数年間、これは史上最高のクリーチャーでないとしても、史上最高の2マナ域であると考えられていました。時間とともにいくつかの競争を経て、これはスタンダード、ヴィンテージ、レガシー、モダンで十分な強さを持ったレアのクリーチャーとなりました。

 これを極めてスパイク的なカードにしている要素の1つは、これが発売されたとき、多くの弱いプレイヤーはこのカードをひどいと考えました。彼らはライフの喪失を過大評価し、パワー2のクリーチャーにこの能力が付いていることを過小評価していました。このカードを、そしてどれだけ強いかをいち早く評価できるのは、ゲームをプレイしていないときにスパイクが楽しむ多くの物事の1つです。彼らは他の人たちの想定よりもはるかに強いセットの中の宝石を見つけたり、欠点を軽減する方法を見ることを好みます。

 《闇の腹心》がそのコスト以上にそのコントローラーに勝利をもたらすのに十分な強さであることは明らかですが、このカードには適量のランダム性も存在します。私は《意志の力》を2ターン連続でめくってしまった「負けるはずのない」ゲームがたくさんあることを知っています。このカードが楽しい理由は多くの力をもたらし、しかしある程度の見返り――これを中心にデッキを作り、ドローの操作をすること――を要求していきます。

 代わりにこんなカードを思い浮かべてください。

〈真に暗き腹心〉

{1}{B}

クリーチャー―人間・アドバイザー

あなたのアップキープの開始時に、カードを1枚引く。

2/1

 ええ、これはより強力ですが、楽しくはありません。これが何ターンか生き残れば勝率はさらに上がりますが、このカードに基づいた決断をすることは何もありません。あなたは望むならこれを公開されるカードのマナ・コストの平均値を気にしたり、もしくはアップキープに《渦まく知識》を唱えて土地を一番上に置いてダメージを抑えたりすることなくどんなデッキにも入れることができます。あなただけがこれをプレイしていると仮定するなら、このカードはあなたの勝率を《闇の腹心》よりも上げてくれるでしょう。

 しかし物事の仕組みは違います――あなたの対戦相手も同じカードを使ってきます。とても強力なカードから単に追加のリソースを得るだけよりも、《闇の腹心》のようなカードを中心にした素晴らしいプレイやデッキ構築の決断をして、それらが盤面に与える不定数を最大限にする方法を考え出すことによって勝利するほうが、もっとずっと満足できることを私は発見しました。

 私が思う我々がデザインする最高のスパイク向けカードは、戦場やデッキ構築で幾つかのコストを持ち、その強さを最大限に発揮するにはそれらを必ず払わなければならないものです。最大限にするためにどれぐらいまで行っていいのかを考えだすのが、この楽しみの大きな部分です。

バランス取り

 スパイク向けに関するマーク・ローズウォーターの意見で全くその通りであることの1つは、プレイするのを見て彼らにとって良いものである必要があるということです。我々は世界のすべての楽しさと興味深い決断を持つカードを作ることができますが、もしそれがスタンダードでプレイして十分な強さがないなら、それらはスタンダードでプレイされないでしょう。デベロップがスタンダードがどうなるかというかなり良い(しかし完璧ではない)考えを持っていること、そしてこのフォーマットを定義するカードが楽しいものであるようにすることは重要なことです。

 マジックのセットを作るときに我々が自問していることは、「このカードが強かったら楽しいだろうか?」ということです。これは重要な問いかけです。どこかが弱いものをプレイするカードから蹴り飛ばす人々が存在しますが、実際には違います。

 例えば《大オーロラ》は、《過ぎ去った季節》デッキでいくらかプレイされていた楽しいデッキの核となるカードです。私はこれがニッチな役割の1つを持った素晴らしいカードだと思っていて、一方で我々がスタンダードを定義するものになってほしいというようなカードとは思いません。その理由は、これに大きなランダム要素があるというだけではなく、解決にとても時間がかかり、複数回コピーされた場合のゲームの状況がどうなるかということも理由です。「スタンダードを定義するカードとは」という意味では《歪んだ世界》よりは良いのですが、我々がスタンダードを定義してほしくない別のカードです。

 我々はセットのデベロップを終えた時点でスタンダード最強のカードが何であるかを知ることはありません。分かったなら我々はそれを弱くするでしょう。常に何かが最強になり、そして我々はさらに強力なものを楽しくすることができ、人々はよりこのフォーマットに満足するようになります。


《集合した中隊/Collected Company(DTK)》 アート:Franz Vohwinkel

 《集合した中隊》は極端に推されたカードの一例です。我々はこのカードが強いことはわかっていましたが、どれぐらい強いか――もしくはおそらくより正確に言えば、これを支援するカードがどれぐらい強いかを少なく見積もっていました。大差はありませんが、このカードをスタンダード最強の単体カードにするには十分すぎました。このカードは現在スタンダードに大きな足跡をつけていて、そして我々は「バント・カンパニー」デッキを堅実に倒せるデッキを人々が見つけられるか否かという観点からプロツアーで起こることを見なければならないでしょう。

 「最強のデッキ」やカードが存在して、そしてそれが長い間支配的である場合、人々は飽きてしまい不満を募らせます。人々は《包囲サイ》がスタンダードからローテーションする時までに飽き飽きしていましたが、その多くはアブザンのデッキの残りのカードの強さによるものです。ええ、このカードはつまらないカードの類ですが、もしこれがこれがなければ弱すぎるデッキをプレイすることの報酬であったなら、クールなものになっていたでしょう。ところが実際は、このカードがなくてもほぼ十分に強いデッキを固めただけでした。アブザン・デッキの幾つかのカードが少し弱い別の世界線では他のデッキのカードが強く、《カマキリの乗り手》や《凶暴な拳刃》は人々がひどく不満に思っているカードかもしれません。

 スパイク向けのカードを作ることの一部は、狭いパワーの帯域にあって影響が大きく、そして新しいデッキを駆り立てて、しかしそれらが多くのものを締め出してしまわないカードを作るということです。1つの方向性に行き過ぎることは簡単ですが、我々は基本的に多くのカードで少し低めを狙っていて、そして我々が間違っている量が多すぎるカードを増やすことなく、スタンダードに強力なカードが十分にあることを保証していると信じています。我々は常に正しい方向に向かっているわけではありませんが、我々の足跡はかなり良いもので、全ての事柄はよく考えられたものだと私は思います。

 今週はここまでです。来週は、スタンダードとコントロール、そしてデッキの多様性についてお話しします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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