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開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

土地の力

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土地の力

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" kaoru

2015年10月9日


 はじめに基本土地があり、それらは良いものでした。同じようにデュアルランドがあり、それらもまた良いものでした。強力でしたが、良いものでした。『アラビアンナイト』が現れたとき、そこにはただ色マナを出すだけでない明確なデザイン空間がありました。いくつかは無色のマナしか出せず、その分他の小さな能力を持っていました。これらの土地は色事故のリスクと引き替えに、時々それらを便利に使うことができました。もちろん、マジック初期の他の多くの事柄と同じく、そのパワー・レベルは若干やり過ぎていたかもしれません。

 幸運にも、『アンティキティ』のデザイナーはそのような強力な土地に対しての完璧な回答を持っており、そしてそれはどんなデッキにも入れることができたのです。

 ええ、これについては......我々はこの当時から大きく成長を遂げたと私は信じているとだけは言えます。土地は今でもセット中の強力なカードの一部ですが、私はそれらの土地がはるかに妥当で信頼のおける方法で強力だと考えています。今週の「Latest Developments」では、我々がどのように土地を作り出しているかについてお話しします。

2色土地を作る

 まず皆さんが最初に抱く疑問は「なんで2色土地があるの?」かもしれません。これらの土地の機能の大部分はマジックの持つばらつきを抑制し、人々が多色のデッキをプレイする可能性を増やすことです。我々は構築フォーマットで妥当な色数を使っているプレイヤーが色事故によって負けてしまうゲームの数を最小限にしたいと考えています。単色をプレイすることが有利なフォーマットも存在しますが、それが行きすぎたものになるとメタゲーム全体の多様性が十分なものではなくなってしまいます。信心のようなメカニズムは単色を推すこともありますが、その方法は2色以上の呪文を唱えることを咎める厚かましさによってではなく、単色を選択することに利益を与えることによるものです。しかしながら我々は適度に呪文を唱えることを難しくしたいので、これは平衡点です。『タルキール覇王譚』のようないくつかの環境では、我々は自らの方針から外れて3色の呪文を唱えられるようにします。しかしほとんどの場合はそうしません――そして大多数のデッキが2色であることを望み、3色をやりたいプレイヤーが少々のリスクを気にしない場合のための選択肢を用意しておきます。

 この点においてのスタンダードの2色土地の絶対的な最低ラインは、《エルフェイムの宮殿》サイクル――タップ状態で戦場に出て、2色のマナが出ることが「唯一」のアドバンテージであるものです。ほとんどの場合スタンダードにはこれに近い土地がありますが、我々はそれらが2色デッキを機能させるための必需品であるとは考えていません。もし全てのデッキがそれらを運用したら、何か間違っています。パワー・レベルの高すぎる『アルファ版』のデュアルランドは、(基本でない土地対策や《窒息》のようなカードを除けば)基本土地と比較してアドバンテージを失っている部分がありません。我々がスタンダードで印刷する2色土地は全て、この2つのサイクルの間にあります。これはやってみるとかなり狭い範囲であり、多くの作業量を必要とします。我々はプレイヤーが円滑にマナを出して、しかし大きな譲歩なしで簡単に5色デッキをプレイできるように感じない土地を作ることを保証したいと思っています。

 土地を機能させることは難しく、そしてそれらはそのセットのスタンダードに大きな影響を与えるので、全体としてデベロップは何年も前から2色土地のサイクルを計画するようにしています。例えば、ゼンディカーに戻りたいということは、上陸と被らないようにフェッチランドがあるようにし、そして敵対色のクリーチャーになる土地がなければならないということは分かっていました。なので我々は、『テーロス』と『タルキール覇王譚』にこれらを入れることを避けました。また我々は便利な土地をたくさん『戦乱のゼンディカー』に入れたいと思ったので、『戦乱のゼンディカー』の前の年にはクリーチャーになる土地を入れることを避けました。『戦乱のゼンディカー』にはタップ状態で戦場に出る敵対色の2色土地が含まれているので、アンタップ状態で戦場に出る他の敵対色の2色土地があるようにしました(それが敵対色のペインランドの理由です)。そしてフェッチランドが友好色のアンタップのマナ基盤なので、『戦乱のゼンディカー』の2色土地サイクルは最初のターンではタップ状態で戦場に出るようにしました。

 これは、我々が実際の土地をデザインする段階に近づく前のスタンダード向けの2色土地の計画段階のほんの一端に過ぎません。我々がいったんパラメーターを知れば、それからそのセットに適正な土地を作り始めることができます。我々がスタンダードで使用可能なセットに入れる2色土地には、2種類の基本的なバリエーションが存在します。戦場にアンタップ状態で出るが欠点のある土地と、タップ状態で戦場に出て何かおまけがついている土地です。可能ならば我々は(占術土地のように)多様性を保つためにそのセットのメカニズムを使いたいのですが、そのようなことはレアケースです。


窪み渓谷》 アート: Adam Paquette

 スタンダードにとても大きな影響力を持っているので、デベロップが可能な限り早くこれらの土地を正しいものにすることはとても重要です。我々がフューチャー・フューチャー・リーグで1セットのテストに費やせる時間には限りがあり、スタンダードでのアーキタイプを他と異なった働きにすることの大部分はそのマナ基盤によるものです。『戦乱のゼンディカー』に今の土地ではなく『ミラディンの傷跡』のファストランドが入っている世界を想像してみてください。ライブラリーから探せないだけでなく、大きく異なる方法で基本土地とフェッチランドに利点を与え、また3色デッキのマナ基盤も全く異なるものになるでしょう。これらの土地に合わせたバランス調整に多くの時間を費やした後に、突然それらが『ラヴニカ』のショックランドに差し替えられたら、テストに費やした時間が無駄になります。我々がちょうど良いと思っていたカードが強すぎるものになっているかもしれないだけでなく、弱すぎるカードもあるかもしれません。我々は時間をかけて土地にかなり小さな調整を施すことができますが、カード・パワーと機能の近いものを得ることは、ゲーム・プレイのために重要です。

ユーティリティ・ランド

 もちろん2色土地だけが我々がセットに印刷する唯一の土地ではありません。マナ基盤とはならないが様々な能力を持った土地も存在します。それらの最も基本的なバージョンは、タップすると無色のマナを出し、重いコストで影響の少ない起動型能力を持った土地です。また1色のマナを出し追加の能力を持っていて、しかしタップ状態で戦場に出る土地もあります。ゼンディカーを舞台にした『戦乱のゼンディカー』にはバラエティ豊かなこれらの土地があります――コモンには戦場に出たときの誘発型能力を持った土地があり、アンコモンには起動コストが色マナとそれを生け贄に捧げることで呪文の効果を生み出す土地が、そしてレアには便利な能力や追加のマナを生み出す土地があります。

 我々はこれらの土地を、マジックのリソース・システムの別の形であり、人々が苛立ちを覚えるもの、つまりマナ・フラッドを和らげるために作っています。マジックのシステムの長所の1つである、人々がゲーム中にどれだけ土地を引くかで展開が無作為化されることは、マナ・カーブの形成に興味深い決断をもたらします。土地を増やして重いカードを入れるか、もしくはマナ・カーブの頂点を3~4マナにして土地を少なくするのか? ここで妥当な選択をしたとしても、デッキにそぐわない引きをしてしまうこともあり得ます。そこでユーティリティ・ランドは、基本土地や2色土地の信頼性のいくらかを引き替えにして能力を持っています。最も一般的には、これらの土地はもっと土地を増やしたい人々を推し、もしくはマナ・フラッドに陥った人々に追加のユーティリティを与えるためにあります。時折、我々は《同盟者の宿営地》のような、2色土地のような動きをするけれども特定のデッキ・タイプを推すようなカードを作ることがあります。


同盟者の宿営地》 アート:Jonas De Ro

 初期のマジックのセットの多くを見てみると、そのデザイナーがそれらの土地の利点と欠点のパワー・レベルを正確に判断していないことは明らかです。ここで私の言いたいことは、このカードとデッキの基本土地を1枚入れ替えるのがいいのか? 2枚目だとどうなのか? 3枚目は? その次の土地はどうなのか? という問いがあることです。何もしない土地からなるマナ基盤でありながら、デッキが呪文を唱えることにとても野心的な構成でないのなら、何か問題があると私は思います。

 かつては伝説の土地であることが単純に欠点でした。そこで、しばしば他の全ての面で基本土地に勝る伝説の土地がありました。対戦相手がその土地を先にプレイすると、それは自分にとってとても大きな不利となるので、(ちょっとうさんくさいにも関わらず)機能していました。「レジェンド・ルール」がそのように機能しなくなり、《ペンデルヘイヴン》や《先祖の院、翁神社》のような土地をスタンダードに収録することが難しくなりました。ほとんど全ての緑のデッキが1枚目を自由に使えて、それらを引いてきたときにある種のアドバンテージを得られるからです。全体的に、我々はユーティリティ・ランドを使うかどうか、そして何枚使うかという興味深い選択のために、基本土地と比べて先天的な欠点を持たせたいと考えています。『戦乱のゼンディカー』のタップ状態で戦場に出て呪文の効果を持つ土地を見てみると、デッキの速度を代償にしてその効果を得ています。何枚かプレイするぐらいなら大きな負担にはなりませんが、デッキに入れられるユーティリティ・ランドの枚数には上限が明確に存在します。

 しかしながら、ごく最近である『基本セット2014』に《変わり谷》を収録したときに我々は間違いを犯したと信じているので、私はこれらの古い土地を単純に批判はしません。我々はこのカードを『ラヴニカへの回帰』ブロックに続くこのセットに入れることで金色のカードを全てプレイすることから離れることを推す興味深いものになると考えましたが、最終的にスタンダードのデッキの大多数に入ることになるとは想定していませんでした。その一部は《変わり谷》がネズミであることを過小評価していたことであり、そしてスタンダードに他の現実的なユーティリティ・ランドの選択肢がないことに気づかず、その範囲で何かをプレイしたかったあらゆるデッキが同じカードにたどり着いたことでした。強力なユーティリティ・ランドには確実に余地がありますが、ほとんど全てのプレイヤーが同じものを使うなら我々は多分どこかで間違えてしまったのでしょう。この場合の最適なのは、多種多様なデッキがそれらのうちいくつかを使うけれども、それらのうちどれを使うかはそのデッキの中心戦略とメタゲームの両方に依存する、という状況です。もし人々がクリーチャー1体で攻めてくるデッキに対抗するために《荒廃した湿原》をプレイし、しかしクリーチャーを並べるデッキが多くなったら他のものを使うようになれば、我々はとても上手くやれたと私は思います。

 今週はここまでです。来週は『戦乱のゼンディカー』での、エルドラージ対ゼンディカー人の対決を我々がどのように整えたかについてお話しします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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