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Beyond the Basics -上級者への道-

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ゲームを越えて

Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing

2017年10月24日

原文はこちら

 プロツアーには数多くの名場面が存在する。「残酷な根本原理の予告ホームラン」「記憶の点火からの奇跡の生還」。そしてもちろん、誰もが知るところである「稲妻のらせん・トップデッキ」もそうだ。(各リンク先は英語動画)

 しかし私にとっては、それらの痛快な話よりも、2005年に開催されたプロツアー・名古屋、その準々決勝で起こった出来事のほうが印象深いんだ。それほど注目されてはいない。喧伝するプレイヤーもいない。何があったかと聞かれても、答えは微妙だろう。

 しかし私にとっては、マジックについての考えが完全に変わるほどの衝撃だったんだ。

 この話をするためには、『神河物語』ドラフトのちょっと変わった出来事をできるだけ知ってもらわないといけないかな。

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プロツアー・名古屋2005の準々決勝で対決したテリー・ソー/Terry Soh(左)とフランク・カーステン/Frank Karsten(右)

 マレーシアのプロプレイヤー、テリー・ソーは、リミテッドの達人であり後に殿堂入りも果たしているフランク・カーステンと当たった。4ゲーム目は終盤までもつれ込み、テリーのライフは8、カーステンのライフは9となった。ここでテリーが勝てば、彼がマッチの勝者だ!

 カーステンが攻撃を仕掛けた。テリーはブロックですべてのクリーチャーを使ってしまうことを避けるため、いくつかの攻撃クリーチャーはわざと通した。そうすると7点のダメージを食らい、テリーのライフは1になってしまう。

 それは《兜蛾/Kabuto Moth(CHK)》がいなければ、の話だが。

 これは神河ブロックのリミテッドの話をするときには知っておきたいコモンの1つだ。(もし『神河物語』のドラフトをするなら、できるだけ早めに取ろう。)フランクには、ここで取れる行動がある。

 とどのつまり、ブロックされていない攻撃クリーチャーに《兜蛾/Kabuto Moth(CHK)》の能力を使えば、与えるダメージは8点になってフランクの勝ちだ!

 ......テリーが残している2マナでそれに対処しない限りはね。フランクがここでテリーにとどめを刺さないなら、次のターンにテリーが勝つだろう。(実際、テリーのブロックの仕方はそれを狙ったものだ。)

 よってカーステンはどうすべきか考える。そしてそこで、テリーがこう言ったんだ。

「こっちのライフは9だけどいいの?」

「君のライフは8だよ」とカーステンは返す。

 テリーは驚いたようだった。

 カーステンはまだ考えている。テリーは自分のライフメモを手に取り、「ダメージを解決していい?」と尋ねる。数秒後、カーステンはついに《兜蛾/Kabuto Moth(CHK)》の能力を使った。

 そしてテリーは手札を使ってライフを1残し、ライオンがシマウマを襲うも結局群れからはぐれてしまったときのように、ぎりぎり生き延びた。それから、次のターンの攻撃で勝ったんだ。

 つまり、マッチにも勝った。

 しかし実際には、テリーは自分のライフが8であることを知っていた。間違っていたかのように思わせることで、カーステンが《兜蛾/Kabuto Moth(CHK)》を使うように仕向けたんだ。

 それは成功した。

 さて、ブラフ(はったり)や二重ブラフ(裏の裏をかくこと)の利点について討論することもできるだろう。カーステンがもう少し考え続けていても、結局同じ行動に行きついたはずだ、と主張することもできる。適切なプレイの背後にある考え方について深く掘り下げたければ、それを学ぶために必要な全体像を詳しく解説したテリー・ソーの素晴らしい記事(訳注:リンク先は英語)を読むことで、『神河物語』ドラフトの共通認識を完全に我がものとすることができるだろう。

 しかし今回は、何か特定のプレイについてこだわるよりも、その魅力的な世界をざっくりと捉えられるよう、その背後にある全体像について話したい。

 では今日は、それを見ていこう。

人間の特徴

 マジックはカードゲームだ。注目される戦略の多くは、特定のカードについてどのように用いるか、対戦相手の行動に対してどのような対応をすべきか、といったものになる。戦略の多くはカードについての考えになるが、それも当然だ。

 しかしながらそこには、マジックが2人の人間によって行われるカードゲームだ、ということが暗に含まれている。(ああ、AIと対戦している場合を除いてね――しかしここでは関係ない。今日の記事は、実際に人間が紙のカードをプレイすることを前提としている。)そしてそれについての議論は、カードについての議論に比べるとはるかに少ない。

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ブレイク・ラスムッセン/Blake Rasmussenは居なくてもいいが、居ても困らない。

 人間は決断するものだ。そして人間は間違いやすい。相手に簡単に騙されてしまうだけでなく、自分自身にすら簡単に騙されてしまう。

 これらはマジックそのものの構成要素ではなく、ゲームでない外部で見られる要素だ。しかし「ゲームの外部」は実際にはゲームの一部だよね。

 ここで大きく影響してくる、人間の3つの特徴について解説しよう。

言葉による手掛かり

 言葉による手掛かりは、他の人に何かを示唆するために発するものだ。

 誰かに「お腹すいてない?」と尋ねるとき、それはそろそろ食事をしたいという自分の意思を伝えるだけでなく、多くの場合、自分が空腹であるということも伝えている。常にそうだというわけではないが、文脈の前後や意味を単純な言葉で省略するものだろう。(どこでもそうだとは言わない――国によっては「もう食事済ませた?」が「調子はどう?」を意味するかもしれないね!)

 テリーは「こっちのライフは9だけど」とフランク・カーステンに聞いた。それが言葉による手掛かりだ。それは、自分のライフが9なのでこのようなブロックをした、ということを示している。つまり、自分が死ぬようなブロックの仕方を意図的に行ったのではなく、間違ってそうしてしまったように思える、ということだ。

 言葉の持つ力は強い。

 さて、次の段階へ進む前に、はっきりさせておきたいことがある。とても重要なことだ。ゲームの状態について嘘をついてはいけない。実際にライフは9なんだと主張し続け、ライフを1点多くごまかそうとする――その暗黒面へと落ちるのは簡単なことかもしれない。これは慎重に扱うべきカミソリの刃なんだ。

 ゲーム中に発する、あらゆる言葉による手掛かりは、情報を与えることもあれば将来のミスを誘う種となることもある。

 では、わずかに違うだけで意味が全く変わってしまう例を挙げてみよう。

 あなたの《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》のサイズを聞かれてから、それより小さなクリーチャーで攻撃された。どう思うだろうか?

 思いついたら先に進もう。

 よし、ちょっと変えてみよう。

 《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》をコントロールしているあなたに向かって、それより小さなクリーチャーで攻撃してから、《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》のサイズを聞かれた。どう思うだろうか?

 違いはあるだろうか?

 先にサイズを聞いた最初の例では、相手が《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》に対処できるパンプアップ(訳注1)呪文や火力呪文を持っていることを示している。そのサイズを知ったうえで攻撃してきているからだ。大きさを確認してから攻撃してきているのだから、うっかりミスではない。

(訳注1:パンプアップ/クリーチャーのパワーやタフネスを上昇させる効果)

 一方で2番目の例は、よくある失敗のように思える! 相手は《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》がいるところに攻撃を仕掛け、それから大きさを知らなかったと示した。間違いなく、相手の失敗だ!

 大きな差だとは思わないだろうか? これはほとんど同じ一文で、発言が行動前か行動後かの違いしかないが、そこから導き出される仮説は全く異なる。

 基本的には、強ければ弱いふりを、弱ければ強いふりをするものだ。したがって、ここでブラフを仕掛けるならば、対策がないときは攻撃する前に質問し、対策があるときは攻撃してから質問するのが基本だろう。(もちろん、相手の実力によっては、二重、三重のブラフを仕掛けるべきかという議論に進む!)

 言葉は、それを発する時、多くの物事に影響する。

言葉によらない手掛かり

 言葉が行き交うとき、言葉によらない手掛かりは存在しない、と考える人もいるかもしれない。

 オンラインの会話でテキストメッセージを打つ時、直接会話する時に比べて正しい意図を伝えにくい、と感じたことはないだろうか? ああ、結構あると思うんだ。

 心理学者のアルバート・メラビアン/Albert Mehrabianはかつて「7%ルール」(コミュニケーション全体のうち言葉が関与しているのは7%だけという法則)を提唱した。その数値や扱い方については議論されているが、ざっくり言えばこうだ。私たちはコミュニケーションの50%以上を会話に頼るが、それが伝わるのは他の方法を含めたコミュニケーション中において50%に過ぎない!

(訳注:メラビアンの研究内容は実際には、「好意や反感について言葉と態度が示す内容が相反する場合、言葉が信用される割合は7%」というようなものです)

 ボディランゲージ、声のトーン、会話への関心といったものは、文章に起こすとすべて失われてしまうこともある。

 しかしマジックを実際の人間とプレイする利点は、それらすべてを利用できるところにあるんだ。

 「お腹すいてない?」と尋ねながらたまらずお腹をこすっているなら、それはその人が間違いなく空腹だということを示している。解釈の余地が残るような言葉による手掛かりとは違い、そこに疑問はない。これが言葉によらない手掛かりだ。

 最初のテリー・ソーとカーステンのゲームに戻ろう。まだここから話していないことが1つある。存在する中でも最も古い技の1つがそこにはあった。

 カーステンがまだ考えている時に、テリーは紙とペンを手に取った。この言葉によらない手掛かりは、「戦闘ダメージの解決に入ろう」と強く主張している。

 ペンを手に取り、相手に対してダメージを解決しようと言う。ところが実際はコンバット・トリック(訳注2)やパーマネントの能力を使って状況を覆すことを考えている。これはずっと前から見うけられるテクニックであり、プレイヤーが発見した最初の言葉によらない手掛かり、その大いなる「トリック」の1つだ。

(訳注2:コンバット・トリック/戦闘フェイズ中にクリーチャーを支援する呪文や能力)

 しかしさらに深い段階に至ると、これはカーステンに対して全く逆の効果を及ぼすと気づくだろう!

 そうなんだ。テリーが紙とペンを手に取ると、カーステンは《兜蛾/Kabuto Moth(CHK)》の能力を起動した。

 その基本テクニックがカーステンにとって、まったく逆の事実を浮かび上がらせるであろうことを、テリーが知っていたからに他ならない。

 これこそ裏の裏をかくプレイだ! ソーの行動の意味をカーステンは理解している。そしてカーステンが理解しているということをソーは理解している。そのためソーはダメージの解決に入りたいそぶりを見せたにもかかわらず、実際には逆の効果を生み出せたんだ!

 古典的な手は他にもある。

 あなたはアグレッシブ・デッキを使っていて、《神の怒り/Wrath of God(EMA)》を使うコントロール・デッキと対戦しているところだ。毎ターン、1マナ域、2マナ域、3マナ域と展開できた。いい感じだ!

 対戦相手は4枚目の土地を置けずに苛立っている。そのターンは何もせずにため息をつくだけだ。

 仕留めるチャンスだ――人間が持つ狩人としての本能が囁く――あなたは自分のターンにクリーチャーを出せるだけ出して、次のターンで決着をつけようとする。相手が土地を引かなければ勝ちだ!

 ......そして対戦相手は手札にもともとあった土地を出し、全体除去呪文を唱え、笑みを浮かべる。

 すべてはクリーチャーを釣り出すための計略だったんだ。

 ここには興味深い点がある。経験豊富なプレイヤーと対戦していて、相手がその不運を強調してきた場合、あなたは対戦相手が計略のためにわざとそうしていると考えることが多いのではないだろうか。したがって、クリーチャーを追加で出すこともない。

 しかし、相手はこちらがそう考えるとわかっているのかもしれない。あなたがその罠を知っていることをわかっていて、大げさに演じているのかもしれない。状況を計るのはあなた自身だ。相手について知っていることは? どんなプレイをするのか、知っていることはあるだろうか? 実際には何が起きているのか?

 これらはすべてゲームの一部だ。カードそのものについての物事ではないが、カード同様に勝ち負けを決定することがある。

記録装置

 人間の記憶は実に危うい。

 ちょっと試してみようか。すぐに答えてくれ。過去1週間に食べた食事を全て列挙してみよう。毎日の朝食、昼食、そして夕食は何だった?

 真剣に取り組んでみてほしい。2分で全部思い出せるかな?


《褒賞の呪い》 アート:Kieran Yanner

 すぐに解答できたなら、すごいことだ! 時間がかかったり、全部が思い出せなかったとしても心配しなくていい。ほとんどの人にとっては難しいことなんじゃないかな。

 誤った記憶へと導く方法はいくらでもある。人は起こっていない物事を「覚えている」こともあれば、極めて重要な物事を忘れてしまったりするものだ。

 そして何千もの異なる要素で構成されるゲーム展開を見せ、大量の新カードと出会うリミテッド・フォーマットも存在している......そんなマジックをプレイする時に、なぜわざわざ危険を冒さなければならないのか?

 幸いにも、それらの情報を保存する方法がある。メモ帳だ。


《むかつき/Ad Nauseam(ALA)》 アート:Jeremy Jarvis

 競技的なマジックのトーナメントに参加しているなら、おそらくライフを記録するために紙とペンを用いているだろう。そしてマッチ中はメモを取ってもよいし、そのマッチ中ならいつでもそのメモを確認できるんだ。

 では、例えば《強迫/Duress(XLN)》を唱えたときに、見ることができた相手の手札を全て記録してはどうだろうか? ああ、それらのカードの内容は自力で覚えられる程度のものかもしれない......しかし書かない理由は? 考えなければならないことが多いときに、その内容を思い出すことにわざわざ時間を浪費する必要があるのだろうか?

 この考えを、もっと先へと推し進めることもできる。

 フランク・カーステンの革新的な(あるいは少なくとも彼が普及させた)技術に、リミテッドで2ゲーム目や3ゲーム目にその内容を確認するため、相手が出してきたカードを全て書き留める、というものがある。それにずっとかかりきりになってはいけない――メモは手早く行う必要がある――という点は実践する上で重要なことだが、この手法はあなたを大いに助けてくれることだろう。

 実際にはこんな感じだ。2ゲーム目の中盤で、対戦相手にコンバット・トリックがあるかどうかを判断する時、この手法を使っているかいないかで以下のような違いが生まれる。

  • 「さっきのゲームで使われたのは何だっけ? 《確実な一撃/Sure Strike(XLN)》だったかな? いや、赤を使っていた別の相手とのゲームでのことだっけ? 待てよ、このセットにあるのは《確実な一撃/Sure Strike(XLN)》だったか? 《雷の一撃/Thunder Strike(M14)》じゃないか? 昨日の昼ご飯は何を食べたんだったかな? 人生の選択肢とは? ああもう!」
  • 「さて、メモを見て使われたカードを確認していこう。よし、相手のデッキにはこいつがあるようだ――それに《塁壁壊し/Crash the Ramparts(XLN)》も考えられるな! ふう、記録しておいてよかった。」

 あなたがどちらを好むかは分からないが、私としては2番目の方がずっといいかな。

 これについて一言付け加えるなら、あるマッチでメモした内容は別のマッチでは参照できないため、メモを他のマッチで参照するような計画は立てないように気をつけてほしい。ともあれ、マッチ中のメモは、同一マッチ内であれば役に立つ。

 マジックは複雑なゲームだ。ほとんどの人にとっては、余分な脳内作業を外部へと切り離し、本当に重要な部分に意識を集中させるほうが楽だろう。

越えてゆけ

 あなたにとってこれらはどれも刺激的な内容で、ゲームに勝つためにどのように利用できるか、すでに考え始めているかもしれない。素晴らしい! しかし、一言注意しておきたい。

 結局のところ、マジックのメカニズムについての理解を深めるほうが、これらを理解するよりもはるかに勝利に関係してくる。ブラフは刺激的だ。対戦相手の手札を見極めるのは快感だ。それもまたマジックの一部であり、人々は驚嘆のストーリーを語り継ぐ。しかし、単に上手にプレイするだけで、もっと多くのゲームを勝ち取ることができるだろう。

 これらは、100回中5回あるかどうかといったような、そうしなければ勝てないようなゲームにおいて、劣勢から逆転するための方法に過ぎない。《タルモゴイフ/Tarmogoyf(MM2)》の流れで言えば、「サイズを訪ねる最適なタイミングはいつだろうか?」というような考えに時間を費やすのではなく、もっと基本的なことに取り組んだほうが、普通はずっと良い結果につながる。

 それを踏まえた上で、これら「ゲーム外」要素を機能させるための基礎を知り、それらを適用する方法をざっと理解するのがよいだろう。そして実際のところ、状況は千差万別なものだ。テリー・ソーが「こっちのライフは9だけどいいの?」と切り出す、というような筋書きは用意されていない。彼はその場でそれを思いついたんだ。新しいデッキを構築するときのように、創造性が求められる。

 殿堂プレイヤーであり、ブラフ攻撃の名手として知られ、そして現在はウィザーズ・オブ・ザ・コースト社員であるマイク・チュリアン/Mike Turianはかつて、マジックで完璧なプレイをしたゲームはあるか、と尋ねられた。彼は即座にこう答えた。「間違ったタイミングでまばたきするだけで、完璧なプレイができなくなる可能性がある」と。

 すべてはゲームの一部だ。覚えておこう。

 この記事を読んで思ったことがあればぜひとも聞かせてほしい。教えてくれ! TwitterTumblrでいつでも聞かせてもらうし、BeyondBasicsMagic@gmail.comに(すまないが英語で)メールしてくれてもいいよ。

 まずいタイミングでまばたきをしないよう、気をつけようね。

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

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