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多重キッカーの座りどころ

多重キッカーの座りどころ

Mark Rosewater

2010年1月25日

 ワールドウェイクのプレビューも中盤に入った。前回の記事では土地テーマがどう変遷したかを説明させてもらったが、今週は他のものがどう変遷したかについて説明させてもらおう。その前に、まずは今日のプレビューカードをお見せしよう。話はそれからだ。


 まず最初に、多重キッカーというのがいったい何物なのかを理解してもらうところから始めよう。ほんの一言だ。キッカーの働きについて理解しているかね? それと同じことだ。ただし、何回でもキックできるということだけが違う(以前、「○○○なしの○○○」という形で記事に書いたことがあるが(未約)、実は「制限なしのキッカー」だったのさ)。多重キッカーは呪文を強化するが、それはすべてその1つの呪文なのだ(これが多重キッカーと複製の一番の違いかも知れないが、他にも違いはある)。《対抗呪文/Counterspell》[7ED]のようなものとの関係で、この差異には意味がある。

 わかりにくければ、「狼茨の精霊」を例にとって説明しよう。

{2}{G}{G} → 4/4のエレメンタル1体が登場

{2}{G}{G}{G} → 4/4のエレメンタル1体と2/2の狼1体が登場

{2}{G}{G}{G}{G} → 4/4のエレメンタル1体と2/2の狼2体が登場

{2}{G}{G}{G}{G}{G} → 4/4のエレメンタル1体と2/2の狼3体が登場

{2}{G}{G}{G}{G}{G}{G} → 4/4のエレメンタル1体と2/2の狼4体が登場

 ......といったような感じで。


 私たちは「多重キッカーはキッカーの目盛りを振り切らせる」なんて言っていた。今までのキッカー・コストは2種類の可能性しかなかった――つまり、「キッカーした」か「キッカーしなかったか」だ。多重キッカーには無限の可能性がある。

 それでは、多重キッカーの由来について、そしてなぜワールドウェイクでお披露目となったかについて語ろう。


膨らむって何だっけ

 多重キッカーはこんなカードから始まった。


〈膨らみ熊〉

{1}{G}

クリーチャー ― 熊

2/2

膨張 ― 2

あなたが追加の{2}を支払って[このカード]をプレイしたとき、[このカード]は+1/+1カウンターが1個乗った状態で場に出る。


 私がゼンディカーのデザイン中にこれを作ったのは、土地を大量にプレイする環境を作るためにはそれらを必要とする何かがあるべきだと思ったからである。このカード(と、これとコモンのサイクルを作っている他の4種。最初にこのカードを作って、メカニズムを解説しようと思ったんだね)の背景にあるのは、望む限りに大きくなることができるクリーチャー、というものだった。そのためにどれだけのマナを注ぎ込もうと、すべてを使い切ることができるのだ。


 他の応用も可能だと気づいてはいたが、私の発想の中では、膨張はクリーチャーの能力だった。最初のプレイテストの際には、〈膨らみ熊〉とその同類はすばらしく働いてくれた。実際、デザインの途中に、私はデザイン戦略としてできる限りのクリーチャーを入れようと思っていた(これは良い戦略なのだ)。そこで、このメカニズムに1つだけ問題があった。開発担当副社長のビル・ローズはデザイナーに、メカニズムの再利用についてもっと意識するように伝えてきたのだ。「マナを消費することができるものが必要だ」という問題が生じたとき、私は過去のメカニズムを総ざらえして正解を探すことになった。キッカーがその中で最善だったので、それをプレイテストにかけることにした。

 その際の、私と私のチームの議論はこのようなものだった。

私:膨張メカニズムはいい感じにマナを使ってくれる。

チーム:確かにそうですが、膨張というメカニズムである必要はありませんね。

私:え?

チーム:これは、キッカーです。

私:ああ、うん。メカニズムは何でもキッカーか分割カードになるよ。だから?

チーム:そうじゃなく、これは文字通りのキッカーですよ。

私:キッカーと完全に同じだって? まさか。

チーム:ええ、同じです。

私:キッカーにできないことをしてるじゃないか。

チーム:してませんよ。

私:いや、このメカニズムはキッカーと違い、何回でも使える。言ったら多重キッカーだよ。

チーム:それなら、キッカーの変種を作りましょう。

私:じゃあ、それを命名する必要があるな。

 私は、キッカーに似たメカニズムを作ることは問題ないと考えている。というのは、すでに言ったとおり多くのメカニズムは本質的にキッカーだからであるが、それにしても、キッカーをセットに入れるかどうかには線を引く必要がある。その検討を乗り越えて、膨張は多重キッカーとして昇華を遂げたのだ。

 メモ:物書きとして、私はメカニズムの名前を非常に真剣に検討している。このメカニズムがキッカーの変種になったその瞬間から、私は「多重キッカー/multikicker」という名前を使った。これは間違いなく適切な名前であり、この名前でなければならないと私は強く推していた。幸いにして、(ダグ・ベイヤーと呼ばれる)権力はその名前を気に入り、そしてそのまま世に出したのだ。


 こうして多重キッカーはゼンディカーのデザイン中に生まれ出た。これがワールドウェイクに導入されたのはなぜか? このメカニズムはゼンディカーのファイルに入った状態でデザインからデベロップに渡されたのだが、このセットをプレイしたデベロップはやりすぎだと認識したのだった。デベロップ・チームもキッカーを復活させることに異論はなかったのだが、それではなぜ多重キッカーがワールドウェイク送りになったのか。それは、ワールドウェイクに新しいものをもたらしてくれるとともに、ゼンディカーに少しばかりの余白を作ってくれるからだ。また、ゼンディカーでは、キッカーの進化ではなく復活に注目してもらいたかったのだ。


多重キッカーへ

 初めてのプレイテストの時に存在した、このメカニズムを持っているあるカードは、ほぼそのままの形で印刷されることになった(熊がビーストになった程度の変更だ)。このメカニズムの苦難の時は、おそらく諸君の想像する以上に厳しいものだった。そう、このメカニズムには2つの大問題が待ち受けていたのだ。


第1の問題:ただの{X}呪文じゃね?


 マーク・ゴットリーブと私は、完全に対立する立場にある。私は、これまでやってきたことを違う方法でさせることによって、新鮮さを感じさせるということが職分である。一方のマークは、ルール・マネージャーとして、同じ方法で作用できるすべてのことを同じ方法で作用させることが職分である。結果として、マークは往々にして私が投げた突飛なアイデアを既存のメカニズムで処理できると答えてくることになる。

 私が最初にこの膨張について話したとき、彼は大して反応を見せなかった。彼は私のアイデアは{X}呪文を複雑にしただけの劣化版だと言った。たとえば、《猛火/Blaze》[10E]というカードがある。

 これとほぼ同じ機能を持つ多重キッカー持ちのカードがデザインできる。

〈多重キッカー猛火〉

{1}{R}

多重キッカー {1}(あなたはこの呪文を唱えるに際し、追加で{1}を望む回数支払ってもよい。)

クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。[このカード]はそれに1点のダメージを与える。[このカード]がキッカーされている1回につき、[このカード]はそれに追加で1点のダメージを与える。

 私は、マークの言っていることは正しいが、それはカードのほんの一片だと告げた。{X}呪文で書き表せるのは、キッカーの増分が1点で、多重キッカー・コストが{1}である場合だけだと。キッカーの増分が1点でなかったり、多重キッカー・コストが有色マナを含んでいたりしたら、{X}呪文で書き表すのは難しい。だからこそこのセットには「多重キッカー {1}」はほとんど存在しないし、存在する場合には効果の増分は1じゃないんだ、と。


第2の問題:ただの複製じゃね?


 4年前のカードを知らない諸君のために説明すると、ギルドパクトには複製と呼ばれるメカニズムが存在していた(青赤のイゼット・ギルドのキーワード・メカニズムだった)。その例を挙げよう。


 複製の前提になった考えは、複製コストを何度でも支払ってその呪文のコピーを作ることができるというものだ。ギルドパクトでは(今までの所、複製はギルドパクトにしか存在しないが)、複製コストは常にその呪文のマナ・コストと同じだった。

 ちらりと見たところだと、複製と多重キッカーは同類に見える。上で言ったような違い(呪文1つと呪文多数)を除けば、通常のキッカーとバイバックが似ているように、多重キッカーと複製は似ていると言える。つまり、複製は多重キッカーの一部なのだ。バイバックがキッカーの一部であるように、である。複製にはできないことが多重キッカーにはできるが、それはこのメカニズムがより広範囲を含むものだからである。

 ゴットリーブからのメールを受け取る前に、多重キッカーと複製がルール上どう違うのかを強調しておこう。複製はその呪文のコピーを作るが、多重キッカーはその呪文に、ほぼいつでもより強力になるような影響を与える。これは、《対抗呪文/Counterspell》[7ED]のようなものに対して意味を持つ。打ち消し呪文1つでは複製呪文のうちの1つしか止められないが、多重キッカー呪文ならそのすべてを止めることができるのだ。

 結局に、デザイン・チームは分離に協力することを決め、複製と同じような呪文はほんのわずかにすることにした。実際、本質的な意味で、ただ元の呪文をコピーするような多重キッカー呪文はほとんど含まれていない。


革新しよう

 前回の記事で書いたとおり、ブロックの2つめのセットには様々な責任がある。第1セットのしたことを踏まえてその続きでなければならないし、また一方で第2セットには第2セットの新しい部分がなければならない。両立させるための方法の一つとして、第1セットでも触れた部分のなかの面白いところをさらに掘り下げるという方法がある。ヴィジュアル・スポイラーのカードを元に、その革新について触れてみたい。


 ゼンディカーには呪文のような効果をもたらす上陸が存在した。ゼンディカーに一ひねりを加えると、効果を作るのではなく、複数できるようにするということが考えられる。ゼンディカーのデザインでもそのようなカードを作ったが、第1セットにはふさわしくない複雑な相互作用をもたらすと判断した。何度も使えるようにする効果を導入したカードには強い関連性があることに気づくだろう。


 もう一つ上陸について行われた革新が、パーマネント以外が上陸を持つことだ。これにはいくつかの理由が存在する。まず、上陸インスタントというのは新しいデザインの可能性を作ってくれた(上陸呪文はすべてインスタントである。これは、いつプレイするかを決められるようにするほうが面白いからである)。次に、これによって土地をプレイする順番を変更する必要ができた。ゼンディカーでは、上陸クリーチャーをプレイしてから土地をプレイするのが当然になっていたが、上陸呪文はその逆になる。


 ゼンディカーでは、同盟者の持つ呪文のような効果は「戦場に出たとき」の効果だった。ワールドウェイクでは{Tap}能力を同盟者に導入した。これはゼンディカーのデベロップ中に試されたことである(同盟者はデベロップ中に再編されている)。実際にプレイしてみると少しばかり複雑すぎたので、これも第2セットまで待つことになった。


 インスタント速度の同盟者だ。1枚のカードで、2体の同盟者を一気に戦場に出すことができる。ワールドウェイクでは、可能な限りの変革を同盟者に与えたかった。同盟者デッキ使いの諸君に、ワールドウェイクで同盟者デッキが激しく強化されることをお約束しよう。


 ゼンディカーでは、吸血鬼は「給餌」というテーマを抱えている。ワールドウェイクではほかのメカニズムから飢えを表現する方法を探した。


 ゼンディカーでは、罠のコストは固定されていた。コストが低い場合、それが何だったかだけを示されたわけだ。ワールドウェイクではそうではなく、その代替コストの変化はより変動的であり得るようになった。


 しばしば、変革はゼンディカーから始まったもの以外にも発生する。開発部はプレインズウォーカーに強く肩入れしており、そのメカニズムを拡張する方法を探していた。4つの能力を持つプレインズウォーカーというのは、その中でも一番簡単な進化の方法だ。

 このあともカードを見ていくと、今までに述べていないような革新に気がつくかも知れない。


新しいものと

 多くの時間とエネルギーを費やし、ゼンディカーを踏まえてのデザイン空間を探してきた。では、ゼンディカーに存在しなかった何かはどこにあるのだろうか? 新しい狂ったメカニズムは? ないのなら、なぜだ? 我々はすでにその答えを手にしている。第2セットの役割は、車輪の再発明ではない。以前にそのセットを築いた車輪のメンテナンスなのだ。

 常に発展し続けているゲームに関する目下の関心事の一つに、過剰ではなく充分なだけのものをセットに与えていくことがデザインの仕事だということがある。デザインは価値ある資源であり、開発部はデザインをそう扱うようになっている。ゼンディカーはありとあらゆる新しいアイデアを導入したが、そのどれも掘り尽くされてはいない。ワールドウェイクは他の小型セットと同様、限られたスペースの中で厳しい取捨選択を迫られた。


 もっとも最近の変革点は、プレイヤーが、第1セットで導入されたことのさらなる拡張としての第2セットを待ち望んでいるということだ。我々が、完全に新しい、無関係のものを導入するのは、次のブロックの開発にふさわしいときだ。新しいものは次の年に使うことができるが、メカニズムの革新は次にそのメカニズムが登場するまで数年待たなければならない。

 なんでもごちゃごちゃにするつもりはない。ワールドウェイクでも登場するもののほとんどについて、ワールドウェイクに投入したのは、それによってゲームの新しい一面を加えることができると感じたからだ。多重キッカーはキッカーではない。クリーチャー・土地は「呪文」土地ではない。上陸呪文は上陸パーマネントではない。新しいこういった変更点から、新しいゲームが楽しめることだろう。そして、それこそが第2セットの目的なのだ。


ワールドウェイクを見る

 ワールドウェイクのプレビューはいかがだっただろうか。あとは手にとって、プレイしてみて欲しい。

 次回はカードごとの物語を語らせてもらおう。

 その日まで、探検が始まりますように。

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