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影魔道士、大いに語る

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影魔道士、大いに語る

Jon Finkel / Tr. Yusuke Yoshikawa

2015年5月5日


 私がプレビュー記事を書いている、その意味するところは唯一つ......《影魔道士の浸透者》が『モダンマスターズ 2015年版』で再版されるということだろう。その通りだ。諸君は2年前、《闇の腹心》を目にした。そして今回は私というわけだ。

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 諸君の多くが尋ねる、明白な質問はわかっている。「なぜ《闇の腹心》が最初なんですか?」 私がトーナメントに行くといつも、人々がやってきて言う。「あなたのサインを《影魔道士の浸透者》にもらいたかったのですが、見つからなかったんです。代わりに、この《》にサインいただけませんか?」 モダンのトーナメントを見渡してみると、ボブはあらゆる場所に見受けられる。テーブルの上、ガラスケースの中、トレード・バインダーの中。誰もが少なくとも4枚を持っているようにさえ見える。その一方、影魔導士の需要は絶大で、ほとんど1枚も見かけられることはない。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストがこの問題についに気づき、圧倒的な需要に応えるべく大きな一歩を踏み出したことは幸いなことだ。

 私はマジックのキャリアで多くの、重大な間違いを犯してきた。最初のプロツアーで、私はネクロではなく白青コントロールをプレイした。プロツアー・ダラスでは、ネクロに対して青赤コントロールをプレイした。最初のプロツアー・パリでは、《死体の花》に対して白青コントロールをプレイした。ベルギーでは「彩色剥ぎ」をプレイしたばかりだ(その他デッキ選択の失敗は紙幅の都合で省く)。あのとき、私は狼・トークンをブロックしなかった。

 しかし、《影魔道士の浸透者》は私の愛する間違いだ。その可能性を思い返す。《闇の腹心》、《翻弄する魔道士》、《瞬唱の魔道士》、《サイカトグ》! 私は《サイカトグ》デッキの最盛期にそれをプレイしたことは一度もなかった。おそらく、コントロールをプレイすることが好きではなかったというだけだ。


アート:Tomasz Jedruszek

 話は、私がシドニーでのインビテーショナルで優勝した2000年に遡る。その時点で、デザインしたいカードはすでに頭にあった。《神の怒り》と《対抗呪文》を満載したデッキをプレイしていた誰もが思ったように、私が求めていたのは、対戦相手のクリーチャーを全滅させつつ、次の脅威を打ち消すことができる方法だった。さほど高い要求ではないだろう? これは『ウルザズ・サーガ』ブロックの後のことで、そこには《パリンクロン》、《大あわての捜索》、《時のらせん》に見られるような、素晴らしい「土地をアンタップする」メカニズムがあった。当時は、長きにわたり最高にバランスの取れたスタンダード環境だった。すなわち、史上最悪のバランスとも言えるがね。

 ならば、《神の怒り》を選び、マナ・コストを1つ増やし、もう1色(青)を加え、そして土地をアンタップするようにする、問題ないだろう? ウィザーズのデザイン・チームから、それが壊れているという判断を受けた後、私は彼らが「バランスが取れるように」1マナを差し引いて送り直した。かくして、〈レクニフの怒り/Wrath of Leknif〉が生まれた。ソーサリー、{1}{W}{W}{U}、「すべてのクリーチャーを埋葬する。土地を最大4つまでアンタップする。」

「埋葬する/bury」の意味がわからないなら、クリントン政権のことを覚えている人を見つけて聞くといい。

 残念なことに、生を受けてから5日の後、〈レクニフの怒り〉は眠りについた。そこには数々の誤った理由が与えられた。

第1の理由:私のカード命名がいささか高慢であると考える人がいた。「神」をFinkelの逆綴りにした名前と置き換えるとは何事かと。私はそうは思わないが。

第2の理由:親しみを込めて「コンボの冬」と呼ばれる時期に、ウィザーズは土地をアンタップするメカニズムについてほんの極僅かに問題を抱えていた。もちろん、《神の怒り》を唱えたときに土地がアンタップしても何のコンボも起きようもないが、彼らの完璧な世界においては、このメカニズムのあらゆる痕跡は歴史から削除されるべきものだった。彼らはそれを薪小屋の奥に隠し、苦痛から解放させ、世界中に残るその残滓をすべて埋葬して二度と日の目を見ることがないようにしたがっていた。

第3の理由:インビテーショナル・カードとしてクリーチャー以外のカードをリクエストしたのは私が初めてだった。これは私の「クリーチャー嫌い」という根本的理由に基づくものだ。ウィザーズはこれを想定していなかったことに気づき、すべてのインビテーショナル・カードはクリーチャーにするという方針を決定したのだった。

 こうした制約を受けて、私は全歴史上最も愛するクリーチャー、《知恵の蛇》に戻ることにした。(初めてこれをプレイしたデイヴィッド・ハンフリー/David Humpherysに敬意を。) 真実を語ると、私が「Forbiddian」(訳注:《知恵の蛇》と《禁止》を組み合わせたパーミッションデッキ)をプレイしたのは1998年の国別選手権の一度きりで、それもプレイするのが楽しく、国別選手権がそれほど重要なトーナメントではなかったことが理由だった。その後の夏、世界選手権にて、私は「デッドガイ・レッド」がより良いデッキであったことからそれをプレイした。しかし、より優秀な《知恵の蛇》ならばどうか? そこで、私はブロックされにくくするために「畏怖」を与え(「埋葬」と同様に古参に聞きたまえ)、加えて攻撃した際のダメージとドローを「両立」させることにした。バランスを保ちフレーバーを持たせるため、マナ・コストの無色1点を黒マナに置き換えた。

 何らかの要求をして、変更なく受け入れられたならば、それは良い仕事であったことを意味しない。十分な要求をしなかったということだ。それでもなお、《サイカトグ》が作られることのない世界であったなら、プレイされることを多く見られたかもしれない。古参を再び訪ね、かつてクリーチャーがどのようなものであったかを聞きたまえ。諸君が今慣れ親しんでいるものとはまったく違うからだ。一方、《影魔道士の浸透者》はプレイできなくもない非主流派のカードに落ち着いた。いくつかのデッキやサイドボードで見受けられたものの、真に日の目を見ることは決してなかった。歳を重ねてもそれは同じだった。

 これが、記事もほぼ終わりに差し掛かろうというのに私が戦略についてほとんど語っていない理由である。《影魔道士の浸透者》に戦略はない。もし君が真剣な構築デッキに彼を入れているなら、それは間違いである。キューブ・ドラフトで彼を高く評価しているなら、それは間違いである。キューブ・ドラフトで彼をプレイしているなら、絶対にとは言わないが、おそらく間違いである。私は『モダンマスターズ 2015年版』の他のカードを見ていないが、《影魔道士の浸透者》はプレイ可能ではあるが平凡と推測している。これは、彼が非常に長い時間の中で得た最高の水準である。

 概して、私は《影魔道士の浸透者》が再版されることを喜ばしく思う。数万となくこのカードにサインをしてきた。そして当然ながら、マジックで最も自分を重ね合わせられるカードだ。『時のらせん』に同じアートで再版され(オリジナルのアートは素晴らしいと思わないかね?)、原画を2年前にリック・ファレル/Rick Farrellから頂戴するという十分な幸運を私は得てきた。今回の再版はオリジナル版ほどには魅力的ではないだろうと私は思うが、彼をドラフトし、彼を唱え、そして最も重要なこととして、彼でカードを引くことを、楽しみにしている。

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