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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

カードに物語あり

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カードに物語あり

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2018年2月26日

 

 『マスターズ25th』プレビュー特集へようこそ。今週は、この最新の『マスターズ』に収録された多くのカードを紹介していくことになる。『マスターズ』セットは再録カードからなっているが、今回は少し違う部分がある。その理由を説明するために、ここで少し話をさせてもらおう。

 このセットには興味深い歴史があるのだ。イーサン・フライシャー/Ethn Fleischerは、マジックの20周年記念に関連した商品があまり多くなかった(その年の『From the Vault』だけだった)ことに不満だった。彼は25周年に向けて改善させようと、『マスターズ25th』を作ることを目指して5年間のキャンペーンを始めた。開発部は2年に1度、別会場で会合を開いており、前回会合では開発部員なら誰でも製品を提案できる製品フェアを開催した。イーサンはそこで『マスターズ25th』を提案したのだ。

 それは全て再録カードからなるセットだったが、ひとひねり加わっていた。マジックが誕生してからの25年を記念して、その製品にはイベントで使えるすべてのマジックのセットからの再録カードを入れるという目標が立てられていたのだ。(銀枠セットには謝罪しておこう。)そして、それらのカードがどこから来たのかを強調するため、各カードにはそれぞれが初登場したセットのすかしが描かれている。最後に、ゲームプレイを可能な限り思い出に寄せたものにするため、ほとんどの『マスターズ』製品のようにメカニズムやアーキタイプに焦点を当てるのではなく、これまでのクールなコンボや象徴的なカードに焦点を当てていたのだ。

 イーサンは製品博覧会で成功を収め、『マスターズ25th』は現実のものとなった。イーサンはこのセットに関与しているが、『マスターズ25th』のリード・デザイナーはアダム・プロサック/Adam Prosakで、リード・デベロッパーはヨニ・スコルニク/Yoni Skolnikである。(『マスターズ25th』は開発部の旧システムで作られた最後の製品の1つである。)

 最初、この記事ではこのセットに収録されたカードについての裏話をいろいろとしようと思っていたが、1つ問題があることに気がついた。このセットのプレビューの一番最初の記事なので(今日公開される記事は他にもあるが(編訳注:英語版のみ))、まだどのカードも公開されておらず、それについて書くことには問題があるのだ。ただし、私のプレビュー・カードは2枚ある。それについて書くのはどうだろうか。カード個別の話を深く掘り下げる機会はめったにないので、今日はその2枚のカードについていろいろな話をしていく日にすることは可能だと思ったのだ。

 そこで、まずプレビュー・カードをお見せして、それからそのカードがどうやって出来上がったのかについて語っていくことにしよう。

 1枚目のプレビュー・カードは、これだ。

 我々がどのようにして《憤怒の天使アクローマ》[PLC]をデザインしたかを理解するためには、まずその元ネタになったカードについて話さなければならない。そのカードとは、これである。

 ここで、『オンスロート』ブロックの物語に詳しくない諸君のために簡単に説明しておこう。

 『オデッセイ』ブロックで、《ピット・ファイター、カマール》は《ミラーリ》(非常に強力な魔法のアイテムで、後にミラディンの次元を作ることになるが、それはまた別の話)から作られた魔法の剣を振るって悪を倒し、勝利をもたらした。その戦いの中で、ただの戦士だったカマールは思慮深いドルイドへと変化を遂げる。彼は彼自身が傷つけて行方不明になった妹のジェスカを探しに戻った。彼女は邪悪な陰謀団に囚われ、闇の治癒魔法を受けて、ただ触れるだけで死をもたらすフェイジへと変化していた。フェイジはピット・ファイティングで幻影術師のイクシドールと天使のニヴィアの2人と戦うことになった。2人は恋人同士で、その戦いはピット・ファイティングから自由になることを求めてのものだった。フェイジはニヴィアを殺し、イクシドールは彼の能力を悪用して囚われる。イクシドールは砂漠で生死をさまようが、彼の能力が彼自身が知っているよりも強いのだということに気がついた。彼の想像力から、彼はフェイジへの復讐を狙ってニヴィアに似せた天使のアクローマを作り出すのだった。

 デザインはアクローマにカードとしての生命を与えることになった。彼女は復讐の具現なので、私はそのトップダウン・フレイバーを再現する方法を探すのにかなりの時間を費やした。一方そのころ、ビル・ローズ/Bill Roseは違う方法を選ぶことを決めていた。それに持たせられると考えられられたあらゆるクリーチャー能力を積み重ねたのだ。(開発部はこれを「流し台」クリーチャーと呼ぶ。慣用句の「everything but the kitchen sink/考えられる全て」に由来している。)

 私はそのカードがアクローマというキャラクターにふさわしくないと考え、触れたものすべてを殺す存在と死なない天使の戦いという物語の上で演じた役割である死なない天使に寄せるよう強く推した。また、白が持つものだとは考えられていない、速攻を持たせるのも気に入らなかった。もちろん、私はこの論争に負けた。アクローマはその後、(フェイジともども)大人気のカードになった。(この話の詳細版は、アクローマ特集のときの私の記事(英語)で読むことができる。なぜその記事を書いたのかの話はこの後すぐ。)

 そして数年後、我々が『時のらせん』を手がけていたときのこと。そのセットのクールなところの1つが、「タイムシフト・カード」として昔のカード枠(『ミラディン』以前の枠)を使って121枚のカードを再録していたことだった。タイムシフト枠にどの伝説のクリーチャーを入れるかを議論していた時に、あることを思いついた。

 かつて、公式サイトの立ち上げに際して、私は「Head-to-Head」という企画を考えていた。何かテーマを出して、読者が毎日投票して選ぶというものだ。(私のTwitterをフォローしている諸君は、Twitterに投票機能ができた時に私がこの企画を現実のものにしたことを思い出したことだろう。)公式サイトで、ファンのお気に入りの伝説のクリーチャーを決める「Head-to-Head」を行なったらどうだろうか。本当の目的を隠すため、我々はその勝者の特集を開催すると宣言した。

 その後、我々は64体の候補を選び、13週間かけて読者に投票してもらったのだ。最終的に勝ち残ったのは、アクローマだった。我々はアクローマを『時のらせん』のタイムシフト枠に入れ、公式サイトではアクローマ特集を開催したのだった。めでたしめでたし。本当に? 私は面白いことを思いついた。アクローマの話題を、ブロック全体に広げたらどうだろうか。『次元の混乱』は、もう1つの現実を扱っていた。アクローマを取り上げ、それを別の色に移すとしたらどうだろうか。

 もう1つの現実として、もっともふさわしい色は何色だろうか。緑は大型飛行クリーチャーの色ではないし、理念的にも動かす先としてはおかしなものであった。アクローマは無慈悲な性格なので、黒にすることはできた。本質的に幻影なので、青にすることもできた。しかし、それにもまして、彼女は本当に怒った姿をしているので、我々は彼女の色を赤にすることにした。感情の具現と言えるキャラクターがいるとしたら、それはアクローマなのだ。

 我々はまず、何をそのまま維持するかを決めることにした。「伝説のクリーチャー ― 天使」はそのままでなければならない。6/6であることは気に入っていたし、白マナを赤マナにしただけの同じマナ・コスト(不特定マナ5点と色マナ3点)にすることも決めた。天使なので、飛行もそのままにしたし、6/6なのでトランプルを持ったままにすることにした。また、敵対色2色に対するプロテクションを持っていることも気に入っていたので、色変更に伴ってプロテクション(黒)、プロテクション(赤)はプロテクション(白)、プロテクション(青)にして残した。そして、他はすべて変更することにした。

 ここから変更を見ていこう。飛行、トランプル、プロテクション2つを除くと、アクローマは3つの能力を持っていた。先制攻撃、警戒、速攻である。先制攻撃と速攻は赤でも使えるが、それらをそのまま残すことにすると充分変わったという印象を与えられないだろうと考えた。従って、我々は新しくアクローマに持たせる能力を3つ見つけなければならないということになる。

 これは簡単なことではない。白のアクローマで、非常に多くの赤のキーワードを使ってしまっていたからである。あらゆる選択肢を検討した上で、我々は最終的に「打ち消されない」と火吹き能力({R}:ターン終了時まで+1/+0)で行くことにした。しかし、もう1つ必要だった。そのとき、我々はこれが『時のらせん』ブロックの話であり、古いメカニズムを使う自由がいくらかあるということに気がついた。

 アクローマはイクシドールによって作られた。ストーリー上で他に彼が作ったものと言えば、何があるだろうか。変異クリーチャーだ。(『オンスロート』ブロックで奇妙な土の蜘蛛を見かけたことがあれば、それはイクシドールの手によるものなのだ。)アクローマが変異を持っているとしたらどうだろうか。そうすると全く異なるプレイスタイルが可能になるだけでなく、彼女の重いマナ・コストをなんとかできるようにもなる。カードの出来に私は大満足だった。

 次に行く前に、このカードについても触れておかなければなるまい。

 アクローマを『時のらせん』と『次元の混乱』に入れたので、当然、『未来予知』にも入れなければならなくなった。デザインには「1つだけ欠けていることはユーザーを不機嫌にする」という格言がある。つまり、何か関連したグループがある場合、そのうち1つだけ欠けていると、パターンを崩されたと感じてユーザーは不快に感じるというのだ。目標を達成するためにその不快感を作り出すこともあるが、ただそれを扱いたいからというだけの理由ではなく、強い理由のために行なうというのでなければすべきではないことなのだ。

 問題は、アクローマを『未来予知』に入れるというのは一体どういうことか、である。『時のらせん』は、過去のカードを再録した。『次元の混乱』は、もう1つの現在を描いた。では、『未来予知』では、アクローマをどうするべきだろうか。(セット内の他のカードでしたように)子孫を登場させることも検討したが、アクローマの物語はその方向に向かうようなものではなかった。

 彼女が去った後、何か彼女を思い出すようなものがあるとしたらどうだろうか。そしてできたのが、《アクローマの記念碑》であった。実際は、カードのデザインをするよりも前にカード名が決まった。その後で、《アクローマの記念碑》というのは一体何をするものなのかという議論が始まったのだ。

 これが自軍のクリーチャーをすべてアクローマになろうという「刺激」を与えるとしたらどうだろうか。クールな話だ。我々はこれを伝説のパーマネントにして、レアにした。(神話レアはまだ存在していなかった。)こうして、アクローマが「Head-to-Head」の勝者から3枚のサイクルになったのだった。

 さて、それでは2枚目のプレビュー・カードをご紹介しよう。

 2枚目のプレビュー・カードは、これだ。

 この話の始まりは、『ミラージュ』のプレリリースにさかのぼる。

 マジックのプレリリースが初めて行われたのは、『アイスエイジ』のときである。トロントのコミック・コンベンションで、単独のイベントとして行われたのだ。(ちなみに、優勝者はデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysである。)2回目のプレリリースとなった『ホームランド』も単独のイベントで、ニューヨークシティのthe Gatheringというイベントで行われた。3回目のプレリリースは『アライアンス』で、これはロサンゼルスでクイーンメリー号の船上で開催されたプロツアーで開催されている。(私の記憶が正しければ、東海岸、確かニューヨークシティでもプレリリースが開催されていたはずだ。)

 『ミラージュ』で、プレリリースを1か所や2か所で行なうのではなく、多くの場所で行なうことにするという決定が下った。

 ウィザーズはアメリカとカナダ中のイベントを調整し、社員を各イベントに派遣したのだ。クールだったのは、我々にどこに行きたいか意見を聞いたことだった。私の第1候補は明確だった。アラスカだ。私は常々アラスカに行きたいと思っていたが、まだ行ったことがなかったのだ。最高のタイミングだと思った。そして、私に連絡があった日のことは覚えている。私の行き先は――トロントだった。

 トロントは素晴らしい街だが、私は何度も行ったことがあったのだ。私はクリーブランド育ちで、子供の時に何回か訪れたことがあった。それに、『アイスエイジ』のプレリリースのためにも行っていた。新しいイベント主催者がいて、イベント経験者を派遣してくれるように頼まれたのだということがわかった。イベント経験者として私が選ばれたのだ。(現時点でも、アラスカに行ったことはない。いつか行きたいものだ。)

 この話をしたのは、この旅行で私は《虚空の杯》のデザイナーと初めて出会ったからである。空港で出迎えを受けた私は、プレリリース会場に向かった。イベントは次の日だったので、私は彼らから翌日の予定について説明を受けた。それを聞いて、イベントはうまくいくだろうと思った。時間があったので、彼らは私に街一番のプレイヤーと『ミラージュ』をプレイすることを提案してきた。そのプレイヤーの名をゲイリー・ワイズ/Gary Wiseという。

 私と彼はそれぞれシールドのプールを渡された。そして、デッキを作り、対戦したのだ。私とゲイリーの初めてのマッチのことはあまり覚えていないが、2つだけ覚えていることがある。1つ目に、ゲイリーは多弁だった(もちろん私も多弁だ)。そして2つ目に、勝ったのは私だった。そして、ゲイリーと私は友人になった。

 ゲイリーのことを知らない諸君のために説明すると、彼はかつてのプロ・プレイヤーで、もちろんカナダ人で、プロツアー殿堂の第2回顕彰者だ。ゲイリーはプロツアーに44回参加し、日曜日進出は4回、うち1回は「Potato Nation」(マイク・チュリアン/Mike Turianとスコット・ジョンズ/Scott Johnsとのチーム)での優勝という成績を残している。

 しかし、ゲイリーの名前が一番知られているのはマジック関係のライターとしてだろう。彼はマジック関係最古のウェブサイトである「Magic Dojo」での最初の有償ライターであり、プロツアーを中心にしてウィザーズが発行していた組織化プレイ専門誌/ウェブサイトであった「Sideboard」でライターを長年務めていた。

 ニューヨークでチームで優勝したことで、ゲイリーは南アフリカのケープタウンで開催された2001年のマジック・インビテーショナルに招待された。インビテーショナルの参加者全員に、優勝した時にその記念として作られるカードのデザインを提出することが求められていた。いや、うん、その作られるカードの元となるデザインだ。開発部がそのカードに手を加えるのだ。そのイベントで、ゲイリーはこんなカードを作った。(これは彼が提出したままである。用語やテンプレートは2001年から現在までにいくらか変化している。)

〈破滅のアーティファクト/Artifact of Doom〉
{2}
アーティファクト
破滅のアーティファクトが場に出るに際し、数を1つ選ぶ。
その選ばれた数に等しい点数で見たマナ・コストを持つ呪文はプレイできない。

 ゲイリーはそのイベントで好成績を残したが(6位タイだった)、優勝はしなかった。そして、このインビテーショナルでカードを実際に作れるのは優勝者だけであった。それでは、このデザインはどのようにしてファイルに入ることになったのか。

 それから1年ほど経って、私が元祖『ミラディン』のデザインをしていたとき、目標の1つが、セットにヴィンテージ向けのカードを入れるということだった。スタンダードで使えるセットのほとんどでは、ヴィンテージで使い物になるカードを作るのは難しいものだが、『ミラディン』はアーティファクトのセットであり、ヴィンテージでは考慮されるけれどもスタンダードでは考慮されないようなところを見つけられるという希望があったのだ。このセットの無色性とフレイバーから、ほとんどのマジックのセットでは触れられないところに触れることができるのだ。

 私が探していたのは、各種モックス(『アルファ版』に存在する《Mox Pearl》、《Mox Sapphire》、《Mox Jet》、《Mox Ruby》、《Mox Emerald》)を持っていないプレイヤーが、それらを持っているプレイヤーと戦えるようにするカードだった。そして、ゲイリーのカードのことを思い出したのだ。

 2マナで、すべてのモックスを止めることができる。少し遅いようにも感じられるが、いくら重かろうが関係なく何でも止めることができるのだ。これは速すぎる(し、軽すぎる)。そこで私は《破滅のアーティファクト》のコストを{X}にして実験してみた。この結果、モックス対策としては第1ターンに出せて、対戦相手が巨大な怪物を唱えるのを防ぐのは難しくなった。確か、1回のプレイテストで、{X}では強すぎるということがわかった。

 その後、{X}{X}になるまでにはしばらくの時間がかかった。なぜか? 当時は、{X}{X}というのは存在したことがなかったからである。『Unglued』で冗談として{X}{Y}{Z}はやったことがあったが(《The Ultimate Nightmare of Wizards of the CoastR Customer Service》)、それはバカバカしさを出すためだった。

 通常、我々はプレイヤーが一見して理解できないようなマナ・コストをつけることは避けることにしている。(サポートの記録から、コストに{X}が入ると多くのプレイヤーが混乱することがわかっている。)しかし、他の方法はどれも上手く行かなかったので、我々は{X}{X}を試みた。そうすべきだという確信はなかったが、それが上手くいくかどうか興味はあったのだ。

 非常に上手くいったが、それでもまだ{X}{X}について私は懐疑的だった。私は他の解決策を探したが、しかし上手くいくものは見つからなかった。最終的に、我々はヴィンテージ向けにデザインされたレアのカードでは、いくらか複雑さが増してもいいという判断を下した。『ミラディン』ではヴィンテージ向けのものをいくつも試していて、その多くは上手く行かなかったが、《虚空の杯》は大成功を収めたのだ。我々は後に『Modern Masters』に再録し、さらに(『Masterpiece Series』の)『Kaladesh Invention』では新しい姿を与えたのだった。

 これが《虚空の杯》の成り立ちである。

 
虚空の杯》 アート:Mark Zug

おしまい

 今回のプレビューとその話を楽しんでもらえたなら幸いである。『マスターズ25th』は楽しく懐かしくマジックの過去を振り返るものなので、長い間マジックをプレイしてきた諸君なら思わず笑顔になることだろう。そうでない諸君にとっては、過去25年に渡るマジックの伝統に触れる素晴らしい機会になる。いずれにせよ、絶対に楽しめるに違いない。

 いつもの通り、今日の記事とプレビュー・カードについての諸君の感想を楽しみにしている。(こういった長い話についてどう思うかね?)メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、第3回グレート・デザイナー・サーチの第3課題、デザイン・テストの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、我々が『マスターズ25th』を作ることを楽しんだのと同じように、あなたが『マスターズ25th』をプレイすることを楽しめますように。

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