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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ティムール・デルバー(レガシー)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ティムール・デルバー(レガシー)

by 岩SHOW

 16歳の少年が「青緑感染」でグランプリ・コロンバス2016を制したのは先日述べた通り。では同一スケジュールでチェコ共和国の首都にて開催されていたグランプリ・プラハ2016の優勝デッキは? 「むかつきストーム」だ。決勝戦では《師範の占い独楽》+《相殺》という軽量呪文シャットアウトなロックコンボに《意志の力》《狼狽の嵐》という打ち消し呪文に護られた「奇跡コントロール」を見事なプレイングで破って勝利している。ヨーロッパと言えば昔からコンボプレイヤーが強いイメージがある。割と納得。

 驚かされたのは、このグランプリのTOP8デッキリストをチェックしていた時のこと。英語版のカバレージでは大体、リストの一番左上のカードを見ればどのデッキかわかる。この一行目で不明だったとしたら二行目三行目と見ていくとよい。要するに何のクリーチャーが採用されているのかを確認すればデッキがわかるというもの。

 ここにぎっちりクリーチャー名が並んでいて一番上に《石鍛冶の神秘家》とか《ルーンの母》と書いてあれば「Death & Taxes」、1行だけ《引き裂かれし永劫、エムラクール》と書かれていれば「Sneak Show」のような《実物提示教育》デッキ、《グリセルブランド》《大修道士、エリシュ・ノーン》などのヘビー級が名を連ねていれば「リアニメイト」、「ゴブリン」とか「エルフ」「マーフォーク」は見たまんま、といった具合に。で、こうして見ていると高確率で最初に名にする名前が《秘密を掘り下げる者》。この日も「はいはい『4色デルバー』ですね〜」なんて思ったわけで、2行目には同デッキの定番クリーチャー《若き紅蓮術士》の名を見るものだと思って画面をスクロールしようとした。その時、よく見ると......「2 Hooting Mandrills」と書いてある。マンドリル?《わめき騒ぐマンドリル》か!

 珍しいじゃないかと喰らいついてみると、このデッキがまた面白い。帰ってきたぞ、「カナディアン・スレッショルド」...ではなく「ティムール・デルバー」!

Gianluca Gazzola - 「ティムール・デルバー」
グランプリ・プラハ2016 7位 / レガシー (2016年6月11〜12日)[MO] [ARENA]
3 《Tropical Island
3 《Volcanic Island
2 《霧深い雨林
2 《沸騰する小湖
2 《溢れかえる岸辺
2 《樹木茂る山麓
4 《不毛の大地

-土地(18)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《タルモゴイフ
1 《真の名の宿敵
1 《ヴェンディリオン三人衆
2 《わめき騒ぐマンドリル

-クリーチャー(12)-
4 《渦まく知識
4 《稲妻
4 《思案
4 《もみ消し
2 《呪文嵌め
1 《二股の稲妻
1 《呪文貫き
4 《目くらまし
1 《四肢切断
1 《火 // 氷
4 《意志の力

-呪文(30)-
1 《硫黄の精霊
1 《外科的摘出
2 《狼狽の嵐
1 《墓掘りの檻
1 《紅蓮破
1 《赤霊破
2 《発展の代価
1 《古えの遺恨
1 《クローサの掌握
2 《水没
2 《乱暴 // 転落

-サイドボード(15)-

 以前に当コラムでも紹介した青赤緑・ティムールカラーのクロックパーミッションである「青赤緑スレッショルド」。このデッキが時代を経て、《タルモゴイフ》を獲得したものが「カナディアン・スレッショルド」と呼ばれたデッキ。不安定な《熊人間》をタルモに置き換えたことで安定性が向上、《敏捷なマングース》とこれを早いターンに出して《不毛の大地》《目くらまし》などマナ否定戦略で相手が自由に動けない間に墓地を肥やして殴り切るテンポ重視のデッキだ。

 このカナディアンも、《秘密を掘り下げる者》を得たことでさらに進化。インスタント山盛りなこのデッキで《昆虫の逸脱者》へと変身するのは容易いことであり、1ターン目に出した掘り下げる者が2ターン目から3/2飛行のカマキリ男に変身して殴りかかるのをあとは軽量呪文で支えてやればOK、元デッキの線の細さが解消されてレガシーでも本命デッキとなった。スレッショルドよりも掘り下げる者の方が軸となり「RUGデルバー」という呼称が一般的になる。RUGは色の頭文字だ。『タルキール覇王譚』の登場によりこの3色にもティムールという呼称が与えられ「ティムール・デルバー」と呼ばれることも多くなる。

 しかし、このデッキはレガシー環境の変遷により、従来の形では他のデッキの進化に追いつけずに......平たく言うと勝てなくなった。《秘密を掘り下げる者》を使うのであれば、現在は青黒赤に緑をタッチした「4色デルバー」がベストな選択肢であるとされる。

 そんなわけで血筋を絶たれたカナディアンの系譜だが、ここに来て復活。デッキ名にスレッショルドが入る理由・《敏捷なマングース》は打撃力の低さによりスッパリ解雇!そうして冒頭で僕の目を引いた《わめき騒ぐマンドリル》を入れ替わりで採用。なるほど、確かに打撃力はこちらの方が高い。わざわざ墓地が7枚になるまで待たなくても4/4トランプル!探査でマナ・コストを3〜4ほど軽くしてやれば、《タルモゴイフ》を水増ししたように運用できるのではないだろうか。固定スロットである《秘密を掘り下げる者》《タルモゴイフ》それぞれ×4枚に加えて、あとは《ヴェンディリオン三人衆》に《真の名の宿敵》と採用してクリーチャーは12枚。

 これらの精鋭を支える呪文はいずれも2マナ以下で唱えられるもの。その中でも最注目の1枚は《もみ消し》。

 起動型および誘発型能力を打ち消すという変わった打ち消し呪文で、どう使うのかというと、一番の狙いは「フェッチランド狩り」。レガシーと言えば、《沸騰する小湖》などのライブラリーから土地をサーチする起動型能力を持った土地を多用し、多色化の安定やデッキ圧縮・ライブラリー操作を行っているデッキが大多数。それらのデッキが1ターン目に土地を持ってこようとこれらの土地を生け贄に捧げて能力を起動したところでシュッと《もみ消し》を差し込むと......なんと1マナで土地破壊をしたことになる。これに《不毛の大地》も絡めて対戦相手のマナ基盤を破壊し、《目くらまし》《呪文貫き》などマナの支払いを要求する呪文の賞味期限を延ばし、その隙に先述したクリーチャーで殴り切る、というのがこのデッキの目指すところ。

 この《もみ消し》、一見超強力にも見えるが、「フェッチを切ったら飛んでくる」としっかり意識していれば、不用意に動かない・手札に土地を多めにキープする、などの戦術でかわされてしまうカードでもある。カナディアン全盛期も、これを見越して《もみ消し》を減らす・あるいは採用せずに相手にケアだけさせるという逆手に取った戦略がとられたりしたものだ。このグランプリでは《もみ消し》で土地を狙うデッキがほぼいなくなったところで下がったガードに、1マナのマナ否定呪文がズバッと突き刺さってこの結果を残したのだろう。

 忘れたころにやってくるカード、デッキがある。カードが文字通りいつまでも使えるエターナルの醍醐味の1つがこれだ。今回解雇されたマングースにだって、また相性の良いカード・デッキが登場して日の目が当たるかもしれない。そんな未来を思い描きながら、いつまでも遊びたいフォーマットである。

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